農林業問題研究
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個別報告論文
農福連携の取組が農業経営にもたらす影響
中本 英里豊田 正博山本 俊光
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2022 年 58 巻 2 号 p. 98-105

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Abstract

According to some case studies on good practices, the employment of people with disabilities in agriculture is expected to positively affect agricultural management. However, the results of analysis that clarified the achievements and success factors in detail have not yet been shown in surveys targeting various cases. This study aimed to clarify the relationship between the effects and practices of employment of people with disabilities in agriculture through a questionnaire-based survey of farmers. The main results are as follows: Many of the respondents have enhanced cultivation management, added value to their products, and shortened the cultivation time for owners after hiring people with disabilities. These effects were mainly related to practical experience in agriculture-welfare collaborations, the number of people with disabilities employed, and the degree of improvement in the working environment.

1. 目的と課題

障害者の農業分野での就労を促進させる農福連携の取組が広がっている.事例分析やアンケート調査により,農福連携の取組実態は多面的に把握されつつあるものの,個々の農福連携実践者にとって有益な取組手段が確立されるためには,より詳細な分析と,継続的な実態調査が必要である.

農福連携の農業経営への影響として,第一に労働力確保が挙げられる.吉田(2019)は,農福連携の取組実態をマッチング支援の成果とともに整理し,障害者の「施設外就労」1が農繁期の安定的な労働力確保となっていること,その波及的効果として農業経営規模の拡大や生産物の品質向上があることを明らかにしている.また,濱田(2014)は,農福連携の効果を取組形態別に整理し,「作業委託」では吉田(2019)と類似する効果を挙げ,「直接雇用」では常用労働力確保による生産や農地の維持,職場内の情報共有や雰囲気の改善,障害特性の理解と適切な業務分担による生産物の高付加価値化を挙げている.「直接雇用」の事例分析を行った片倉ら(2007)は,労働費削減の効果を挙げた上で,障害者の業務範囲拡大には作業工程の調整や指導方法の工夫が必要であることを指摘し,これを受け,中本・澤野(2020)では,GAP(農業生産工程管理)がその調整や工夫において有効であることを明らかにした.また,障害者の業務分担が拡大されることにより,農業経営者の栽培管理作業の時間が減少し,経営改善のための取組みが充実することを示唆した.しかし,これらは一部の先進事例でのみ見られるものであり,小柴ら(2016)によれば,取組の発展段階によって障害特性の理解や労働環境整備の程度は異なり,農業経営への影響も異なることが指摘されている.各実践状況に応じて効果的な取組方法を検討するためには,先進事例以外を含む複数の事例を対象とした実態調査が求められる.

そこで,本研究では,障害者を受入れている農業者を対象にアンケート調査を行い,農福連携の取組と農業経営への影響との関係性を明らかにする.

農福連携の効果を農業経営の要素に沿って整理した既往調査として,三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2020)では,「経営改善のためのチェックリスト」(農林水産省),「農業分野に係る経営力に関する指針」(中小企業庁)の分類や表現を参考に効果が整理されている.具体的には「経営マネジメントの改善」,「人材の育成・確保」,「商品の付加価値化」,「生産コスト削減,生産・製造管理の高度化」の視点から,事例分析の結果をもとに詳細な効果が分類されている.今後の課題として,複数の事例を対象としたアンケート調査等により全体状況を把握することが挙げられている.

農福連携に関するアンケート調査は,これまでに山下ら(2009)小谷ら(2016)呉ら(2020)により日本農業法人協会会員を対象としたものや,日本基金(2019)による農福連携実践者を対象としたものがあり,取組実態や効果,課題等が包括的に整理されている.しかし,農業経営要素に沿った分析や,調査項目間の関係を分析した詳細な結果は公表されていない.

2. 方法

調査票は,既往調査を参考に試作した後,内容の妥当性を検討するため,先進的な取組を行っている6名の農福連携実践者を対象に,2020年11月~2021年1月の期間,リモート形式でヒアリング調査を行い,設問と選択項目を精選,修正した.項目間の関係性は図1の通り想定された.農業経営への影響に関する項目は,主に三菱UFJリサーチ&コンサルティング(2020)を参考に設定し,特に重要な効果である「農業労働力の確保」と,経営改善に繋がる農業経営者の取組に関する項目(「経営者への影響」)を別途設定した.なお,本研究では営農現場における農業者の取組,障害者の取組と農業経営への影響との関連を明らかにすることとし2,マッチング支援による影響は分析の対象外とした.

図1.

想定した項目間の関係性

1)関連がある項目間を矢印で結んでいる.

アンケート調査は郵送法とし,調査期間は2021年1月~2月とした.農業者への配布にあたって,まず,全国の農林水産部局農福連携担当課等に電話とメールで配布依頼の連絡を行い,期間内で対応が可能との回答があった17府県で配布することとした.依頼時点で各府県が把握できていた農業者のうち,郵送法による調査協力が可能な農業者は合計240件あり,全件へ配布後,農業者から151件直接回収した.有効回答は137件(57.1%)であった.得られたデータは全てノンパラメトリックデータとして扱い,分析は主に差の検定,独立性の検定で項目間の関係性を解明する.

3. 調査結果

(1) 回答者の属性

1は回答者の生産物と労働力である.生産物は,露地野菜が最も多く,ネギ(青ネギ,白ネギ),ブロッコリー,キャベツ,タマネギ,ジャガイモ,サツマイモを含む計42種類の作目が確認された.米,施設野菜,麦,大豆のほかに,果樹,花卉,畜産,キノコもあったが少数であった.労働力(障害者以外の従業員)は,常勤と臨時雇への該当があり,各人数の中央値は4.0人,5.0人であった.農業粗収益は800万円以下から1億円以上までの幅広い層で構成され,GAP認証取得は30件が該当した(表省略).GAPの内訳,はGLOBALG.A.P.が8件,ASIAGAPとJGAPが各9件,都道府県GAPが16件であった.

表1. 回答者の生産物と労働力(n=137)
生産物(複数回答可) n 生産面積:ha
露地野菜 68 49.6 2.5(0.8–7.0)
55 40.1 5.2(1.5–10.0)
施設野菜:土耕 39 28.5 0.8(0.2–1.7)
施設野菜:水耕 18 13.1 1.0(0.3–2.0)
13 9.5 9.5(1.3–11.0)
大豆 10 7.3 3.3(1.3–11.0)
従業員(複数回答可) n 労働力:実人数,時間/日,日数/年
常勤あり 117 85.4 4.0(2.0–10.0)
8.8(7.0–8.0)
260.0(242.3–280.0)
臨時雇あり 81 59.1 5.0(2.0–10.0)
6.0(4.4–8.0)
100.0(42.5–185.0)

1)生産面積,労働力の数値は中央値(四分位範囲).

2)全て複数回答可とした.

(2) 農福連携の取組概況

農福連携の取組形態は,直接雇用が22件(16.1%),作業委託が100件(73.0%),両方が15件(10.9%)であった.

2は直接雇用農家の取組概況である.表1の労働力との比較から,障害者は健常者と同程度の就労機会を得ていると言えるが,月給は常勤で10万円未満が4割を占め,全体では低い水準であった.回答者の直接雇用経験年数は5年を境に約半数ずつであり,10年以上が全体の3割を占めていた.「農福連携の知識や技術」は,障害者の作業性を向上させるための知識や技術で,作業を分解して個々の適性に応じて業務を割り当てることや,道具や説明を工夫することのほか,農福連携関連研修の受講等で身に付けた知識や技術を指す.その知識や技術の有無や,これを実践で活かされているかを4段階で自己評価した結果である.数値が大きいほど自己評価が高い.結果として,「知識や技術があり実践に活かされている(評価3–4)」に半数以上が該当し,雇用機会の提供に留まらず,障害特性を理解した支援を行っている農業者の存在が明らかとなったと言える.

表2. 直接雇用の取組概況(n=37)
障害者(複数回答可) n 労働力:実人数,時間/日,日数/年
常勤あり 28 75.7 1.0(1.0–2.0)
7.6(5.8–8.0)
250.0(200.0–260.0)
臨時雇あり 12 32.4 2.0(1.0–3.5)
4.9(3.0–7.6)
130.0(13.8–235.0)
項目 n
月額給与 10万円未満 12 42.9
 (常勤)  〃 以上 16 57.1
 (臨時雇) 10万円未満 9 75.0
 〃 以上 3 25.0
直接雇用経験年数 5年未満 21 56.8
〃 以上 16 43.2
農福連携の知識・技術(障害特性への理解等) 1.ほとんどない 9 24.3
2.蓄積中 6 16.2
3.ある程度実践 14 37.8
4.十分に実践 8 21.6

1)労働力の数値は中央値(四分位範囲).

2)障害者(常勤あり,臨時雇あり)以外は単一回答.

3は作業委託農家の取組概況である.委託先は「B型事業所」が最も多く,「A型事業所」はその半数であった.「その他」には就労移行支援事業所や特例子会社が含まれる.委託頻度は農繁期のみ等の「単発」が多く,年間委託日数は「30日未満」が3割以上,委託経験年数は「5年未満」が7割を占めた.「農福連携の知識や技術」は,委託先の福祉事業所等職員が委託内容を理解し易いようにするための知識や技術とした3.8割以上が「実践に活かされている(評価3–4)」と回答していることから,概ね委託先との連携の成果が得られていると考える.

表3. 作業委託の取組概況(n=115)
委託先(複数回答可) n 箇所数
A型事業所 39 33.9 1.0(1.0–2.0)
B型事業所 80 69.6 1.0(1.0–2.0)
その他 15 13.0 1.0(1.0–2.0)
委託頻度(複数回答可) n 障害者人数/日
通 年 45 39.1 5.0(3.0–9.8)
単 発 72 62.6 4.0(3.0–6.8)
項目 n
年間委託日数 30日間未満 42 36.5
 〃 以上 73 63.5
年間委託料 30万円未満 51 44.3
 〃 以上 64 55.7
作業委託経験年数 5年未満 81 70.4
〃 以上 34 29.6
農福連携の知識・技術(障害特性への理解等) 1.ほとんどない 10 8.7
2.蓄積中 10 8.7
3.ある程度実践 61 53.0
4.十分に実践 34 29.6

1)委託箇所数,障害者人数は中央値(四分位範囲).

2)「通年」は定期的に毎週委託,「単発」は農繁期のみや必要な場合のみとした.

3)委託先,委託頻度以外は単一回答.

(3) 障害者の作業内容と作業環境

4は,障害者の主な作業内容と作業環境である.「補完的作業」は栽培・飼育作業以外の作業,「機械等」は耕耘機や刈払機などの危険を伴う農業機械作業,薬剤散布作業を含む作業である.特徴として,直接雇用では「栽培・飼育作業などのほぼ全部(3–4)」,作業委託では「1.補完的作業」や「2.栽培・飼育などの作業の一部」の割合が高い.

表4. 障害者の作業内容,作業環境
項目 直接雇用(n=37) 作業委託(n=115)
作業内容(複数回答可) n n
1.補完的作業 15 40.5 52 45.2
2.栽培・飼育作業の一部 14 37.8 56 48.7
3.〃ほぼ全部(機械等無) 11 29.7 9 7.8
4.〃ほぼ全部(機械等有) 7 18.9 4 3.5
作業環境 n n
屋外(1~4は単一回答) 16 43.2 76 66.1
1.作業者の大半に支障あり 1 6.3 6 7.9
2.作業者の一部に支障あり 4 25.0 15 19.7
3.支障なし,工夫なし 4 25.0 13 17.1
4.支障なし,工夫あり 7 43.8 42 55.3
屋内(1~4は単一回答) 37 100.0 82 71.3
1.作業者の大半に支障あり 6 16.2 6 7.3
2.作業者の一部に支障あり 3 8.1 13 15.9
3.支障なし,工夫なし 7 18.9 20 24.4
4.支障なし,工夫あり 21 56.8 43 52.4

1)作業内容,作業場所(屋外,屋内)以外は単一回答.

2)「屋外」は屋根の無い露地,「屋内」は屋根や壁のある場所(ビニールハウス,温室,畜舎,倉庫など).

作業環境は,障害者が従事する農作業の場所と,障害者にとって作業の支障になることがあるかどうかを4段階で自己評価する設問を設け,回答に応じて「支障」と「工夫」の具体的内容の記述を求めた.特徴として,直接雇用では「屋内」が多く,両形態とも「支障がない(評価3–4)」の割合が高い.「工夫」の記述として,直接雇用では「作業の細分化と単純化」,「空調設備の導入」,「共同作業」,作業委託では「雨天時や高温時の作業中止」,「作業台の設置や道具の改良」が多く挙げられた.作業委託では,障害者の作業適性への対応として「簡単な作業に限定する」といった記述が多く見られた.「支障がある(評価1–2)」場合の具体的内容では,直接雇用では「機械や道具の使い辛さや危険性」に関する記述,作業委託では「トイレがない」,「冷暖房設備がない」,「休憩施設(場所がない)」といった回答が多かった.

(4) 農福連携の取組と農業経営概況との関連

農福連携の取組形態別の特徴として,概して,直接雇用実施者の方が作業委託実施者より経営規模が大きいことが言え,米の生産面積,従業員(常勤)の人数において有意差があった(表省略).また,露地野菜を生産している農業者の方が,臨時雇,単発委託で受入れている障害者の人数が顕著に多く(表5),農繁期において,より多くの障害者が活躍の場を得ていることが推察された.

表5. 農業経営概況と農福連携の取組との関連
農福連携の取組 受入れている障害者人数/日 差の検定
項目 露地野菜あり 露地野菜なし
雇用 常勤 1.0(1.0–1.0) 1.0(1.0–3.0) n.s.
臨時雇 3.0(1.8–11.3) 1.0(1.0–1.8) *
委託 通年 5.0(3.0–10.0) 5.5(3.0–9.3) n.s.
単発 6.0(3.0–10.0) 3.3(3.0–5.3) *

1)*p<0.05,**p<0.01,n.s.はp>0.05.

2)マン・ホイットニーのU検定.

3)数値は中央値(四分位範囲).

(5) 農業労働力の効果

6は,直接雇用,作業委託それぞれの取組が農業労働力確保に繋がっているかを尋ねた結果である.回答は4段階評価とし数値が大きいほど評価は高い.直接雇用では23件(62.1%),作業委託では84件(73.1%)が評価3–4の高い評価であった.

表6. 農業労働力確保の効果
取組形態 評価1 評価2 評価3 評価4 不明
直接雇用n=37(%) 2(5.4) 11(29.7) 9(24.3) 14(37.8) 1(2.4)
作業委託n=115(%) 3(2.6) 21(18.3) 41(35.7) 43(37.4) 7(6.1)

1)評価1「農業労働力確保に繋がっていない」,評価2「繋がっている場合とそうでない場合が混在する」,評価3「繋がっている場合が多い」,評価4「安定的な農業労働力確保に繋がっている」.

農業経営概況,農福連携取組状況との関連では(表7),直接雇用では労働力効果の評価が低い(評価1–2)回答者全てにおいて,障害者の作業内容が「補完的作業」や「栽培・飼育などの作業の一部」に該当し,評価が高い(評価3–4)回答者の方が「栽培・飼育作業などのほぼ全部」への該当割合が高い.作業委託では,評価が高い(評価3–4)回答者の方が,受入れている障害者の人数が多く,作業環境(屋内)で「支障がない」と回答している割合が高い.また,露地野菜の生産面積が小さい.

表7. 農業労働力確保の効果と取組の関係
農福連携の取組項目 農業労働力効果の評価 差の検定
低い(評価1–2) 高い(評価3–4)
直接雇用 n=13 n=23
 障害者の作業内容(該当%)
 補完的,一部 100.0 60.9 **
 ほぼ全部 30.8 56.5 n.s.
作業委託 n=24 n=84
 受入れている障害者人数(人/日)
 通年 3.5(1.8–5.0) 6.5(3.0–10.0) *
 単発 3.3(3.0–7.5) 5.0(3.0–7.5) n.s.
 作業環境(該当%)
 屋外 支障あり 36.4 21.2 n.s.
    支障なし 63.6 78.8 n.s.
 屋内 支障あり 61.1 12.7 **
    支障なし 38.9 87.3 **
 生産物の面積(ha)
 米 7.0(2.8–12.0) 3.0(1.3–7.0) n.s.
 露地野菜 4.4(1.2–13.5) 1.8(0.6–5.5) *
 施設野菜:土耕 0.3(0.1–1.0) 0.9(0.2–2.0) n.s.
 施設野菜:水耕 0.5(0.2–1.1) 1.0(0.4–2.4) n.s.

1)*p<0.05,**p<0.01,n.s.はp>0.05.

2)「障害者の作業内容」及び「作業環境」は4段階の評価を2分類に集約した母比率の差の検定,それ以外はマン・ホイットニーのU検定.

3)人数,面積の数値は中央値(四分位範囲).

4)障害者の作業内容は複数回答可,作業環境(支障あり,支障なし)は単一回答.

5)全項目で検定を行い関連のあったもののみ示す.

(6) 農業経営の要素に沿った効果と課題

農業経営の要素に沿った効果は(図2),全体では「業務分担による作業の効率化」への該当が最も多かった.直接雇用実施者では「生産物の品質向上」,「GAPの徹底」,「特にない」,作業委託実施者では【生産管理の高度化】に繋がる効果への該当が多い.

図2.

農業経営への影響

1)【生】は生産管理の高度化,【付】は商品の付加価値向上,【経】は経営マネジメントの改善,【人】は人材の確保・育成,【他】はその他に分類される効果.

障害者を受入れたことによる課題は(図3),【生産管理】や【人材確保・育成】に関わる項目への該当が数件あったが,全体では「特にない」が63件で最も多く,次いで,【その他】に分類される「障害者の健康管理の負担等」で27件が該当した.

図3.

障害者を受入れたことによる課題

1)【 】の分類は,図2を参照.

農福連携の取組との関連では(表8),「業務分担による作業の効率化」,「経営耕地面積の拡大」と受入れている障害者の人数とに関連があり,いずれも「効果あり」の回答者で障害者の人数が多い.農業経営概況との関連では,「業務分担による作業の効率化」は野菜(水耕,露地)生産とGAP認証取得の有無,「GAPの徹底」と「労働費削減」では障害者以外の労働力,「生産物の品質向上」では米の生産の有無間で有意差があった.

表8. 農業経営への影響・課題と取組の関係
取組形態 項 目 検定
「業務分担による作業の効率化」効果がある回答者
雇用 常勤の障害者人数 2.0(1.0–7.0)人 *
委託 施設野菜(水耕)あり 75.0% *
委託 露地野菜なし 66.0% **
全体 GAP認証取得あり 53.3% **
「経営耕地面積の拡大」効果がある回答者
委託 障害者(単発)人数 6.0(3.9–10.0)人 **
「GAPの徹底」効果がある回答者
雇用 従業員(常勤)人数 29.5(4.0–53.5)人 *
「労働費削減」効果がある回答者
委託 従業員(常勤)時間/日 7.3(6.0–8.0)時間 **
「生産物の品質向上」効果がある回答者
雇用 米なし 55.0% *
【農業経営要素に沿った課題】 検定
「特にない」の回答者
雇用 農業労働力(評価3–4) 60.9% *
委託 農業労働力(評価3–4) 50.0% *

1)*p<0.05,**p<0.01,n.s.はp>0.05.

2)生産物,GAPの有無,農業労働力評価は母比率の差の検定,それ以外はマン・ホイットニーのU検定.

3)人数,面積の数値は中央値(四分位範囲).

4)全項目で検定を行い有意だったもののみ示す.

障害者を受入れたことによる課題と農福連携の取組,農業経営概況との間に 関連はなかったが,課題が「特にない」は「農業労働力確保の効果」の評価が高い(評価3–4)回答者において該当数が多かった.

(7) 農業経営者への影響

9は障害者を受入れたことによって経営者が行う栽培・飼育などの管理作業の時間に変化があったかを尋ねた結果である.全体では57件(41.6%)が「減少あり(評価3–4)」と回答し,取組形態別では作業委託実施者の方がその割合が高かった.減った分の時間の使い方(図4)として最も多かったのは「高度な判断が必要な管理作業」で33件が該当した.その他に,【生産面】,【経営管理面】,【販売面】の項目が上位を占めた.

表9. 経営者の栽培・飼育等の管理作業時間
取組形態 評価1 評価2 評価3 評価4 不明
全体n=137(%) 18(13.1) 51(37.2) 48(35.0) 9(6.6) 11(8.0)
直接雇用n=22(%) 3(13.6) 12(54.5) 5(22.7) 0(0.0) 2(9.1)
両方n=15(%) 0(0.0) 9(60.0) 5(33.3) 1(6.7) 0(0.0)
作業委託n=100(%) 15(15.0) 30(30.0) 38(38.0) 8(8.0) 9(9.0)

1)評価1「増えた」,評価2「変わらない」,評価3「減った:5割未満の減少」,評価4「減った:5割以上の減少」.

図4.

減った分の時間の使い方

1)【生】は生産面,【経】は経営管理面,【販】は販売・加工面,【財】は財務面,【労】は労務面,【地】は地域活動,【他】はその他に分類される取組.

農福連携の取組等との関連(表10)では,作業委託実施者で「減少あり(評価3–4)」の回答者に,通年委託の障害者数が多い,農福連携の「知識や技術が実践に活かされている(評価3–4)」の回答割合が高い,露地野菜の生産面積が小さいことが示され,直接雇用ではこれらに有意差はなかった.

表10. 農業経営者への影響と取組の関係
農福連携の取組項目 経営者の栽培・飼育の時間 差の検定
減少なし(評価1–2) 減少あり(評価3–4)
作業委託 n=45 n=46
 受入れている障害者人数(人/日)
  通年 3.5(3.0–6.5) 7.0(4.0–15.0) *
  単発 4.0(3.0–8.0) 4.0(3.0–6.0) n.s.
 農福連携の知識・技術(該当%)
  実践なし 22.2 9.6 n.s.
  実践あり 70.4 86.5 *
 生産物の面積(ha)
  米 5.7(1.8–10.5) 2.3(1.3–6.9) n.s.
  露地野菜 4.4(1.4–10.3) 1.0(0.7–4.4) *
  施設野菜:土耕 1.0(0.3–3.0) 0.7(0.2–1.5) n.s.
  施設野菜:水耕 0.5(0.3–1.0) 1.3(0.7–2.4) n.s.

1)*p<0.05,**p<0.01,n.s.はp>0.05.

2)「農福連携の知識・技術」は4段階の評価を2分類に集約して用い,母比率の差の検定を行った.それ以外はマン・ホイットニーのU検定.

3)人数,面積の数値は中央値(四分位範囲).

4)農福連携の取組に関する全ての項目で検定を行い関連のあったもののみ示す.

4. 考察

本研究では,障害者を営農に受入れている農業者を対象に,農福連携の取組実態と,農業経営への影響との関係性を分析した.対象者の特徴として,生産物は露地野菜,米で多く,作業工程の細分化や業務分担の明確化が期待される施設野菜(水耕)の生産は1割程度であった.取組形態の割合は,作業委託が8割を占め,先行研究(日本基金,2019)と比較して作業委託実施者がやや多い4

分析の結果,第一に,直接雇用は,経営規模が大きい農業者で実施されており,障害者の作業場所は屋内が多く,作業内容は作業委託より多様であった.また障害者の作業内容が多様である方が農業労働力確保の効果に対する評価も高かった.これらのことから,直接雇用では,天候に左右されない屋内作業の確保や,その環境整備に必要な経営規模の大きさが必要であり,障害者の業務範囲を拡大させることにより労働力確保の効果も高まることが期待される.また,障害者の月給は10万円以上20万円未満が半数を占めている一方で,10万円未満が4割存在しており,個々の状況に応じた労働時間の設定や最低賃金減額特例5適用の必要性も再確認されたと言える.

作業委託では,直接雇用と比較して障害者の作業内容は限定的であるが,通年委託でより多くの障害者を受入れることや,トイレや休憩場所を確保するなど,障害者にとって支障の少ない作業環境を整備することは,農業労働力確保の効果獲得に繋がることが推察された.特に,露地野菜の生産面積が小さい農業者でその効果が認識され易いと言える.

第二に,農業経営要素に沿った効果として,「業務分担による作業の効率化」は,作業委託実施者,GAP認証取得者,水耕栽培実施者,常勤で多くの障害者を雇用している回答者で該当割合が高かった.これら回答者の特徴は,中本・澤野(2020)で把握された先進事例の特徴と共通する点が多い.先進事例では,GAP等の活用により継続して障害者を受入れる体制を整備した結果として,業務分担による作業の効率化が実現している.取組初期では十分な効果が得られずとも,GAPの実践や受入れ障害者の増員,これに伴う環境整備を継続的に実践することにより,同様の効果が得られるものと考えられる.また,この効果は,露地野菜を生産していない回答者で該当割合が高かった.露地野菜栽培では業務分担が困難であることや,現状では効果を実感していない事例が多数存在することが考えられ,今後も引き続き,こうした事例への有効な情報発信が求められる.

その他に,「経営耕地面積の拡大」は,単発委託で受入れている障害者の人数が多い回答者で該当していた.農繁期で多くの障害者を受入れ,労働力が確保されたことにより波及的に得られた効果であると考えられ,先行研究(濱田,2014;吉田,2019)の見解を支持するものである.

「GAPの徹底」は,常勤従業員の人数が多い回答者で該当していた.労働集約的な経営あるいは規模が大きい経営では多様な作業者が存在することから,ルールの明確化や労働安全に配慮した環境整備が課題となる.その解決を図る上で,障害者の受入れが好影響をもたらしていることが推察される.

「労働費削減」は,従業員の労働時間が短い回答者で該当していた.「業務分担による作業効率向上」の波及的効果として期待されるが,労賃の低い障害者の労働機会が増えたことによる影響とも考えられる.今後,個々の経営において障害者の労働がどのように評価されているか,詳細を明らかにした上で検証する必要があると言える.

「生産物の品質向上」は米を生産していない直接雇用実施者で該当数が多かった.先行研究(吉田,2019)では適期収穫等における労働力確保の波及的効果であることが示されているが,本調査では障害者の作業の詳細は調査対象外としたため十分な分析には至っていない.今後,具体的な作目や作業工程との関連を明らかにする必要がある.

取組課題については「特にない」が最も多く,農業労働力確保の効果の評価が高い回答者において該当数が多かった.労働力確保の効果があるかどうかの認識は,農業者自身の取組課題への認識にも影響を与え得る特性があることが考えられる.

最後に,経営者への影響として,特に,作業委託実施者において栽培・飼育等の管理作業の時間が減少していることを明らかにした.該当者の特徴として,通年委託でより多くの障害者を受入れていることや,「農福連携の知識・技術の実践がある」回答者で多かったことから,福祉サイドとの積極的な連携が要件になると考えられる.また,露地野菜の生産面積が小さい農業者で該当が多かったことから,生産物の面積にも影響を受けると言える.減った分の時間は,「高度な判断が必要な管理作業」に充てられている場合が多かったことから,生産面の取組の充実化を通して経営改善が図られることが期待される.

以上の結果の要約を図5に示す.本研究では農福連携の取組による農業経営への影響を,先行研究を補完する形で明らかにした.今後はサンプル数を増やし,新たな事例分析と並行してより広範な知見を得る必要がある.その際,農業者や福祉事業所を対象とした実態調査に留まらず,個々の障害者の就労実績や心身の変化を明らかにすることにより,win-winを前提とする農福連携の取組効果が解明され,より効果的な取組方法の検討が可能になると考える.

図5.

分析結果で関連のあった項目間の関係

1)本研究の結果及び先行研究の見解をもとに整理.

謝辞

本研究は,農林水産政策研究所令和2 年度連携研究スキームによる研究の助成を受けて実施した.

1  障害者が農業者の圃場等へ出向いて就労することであり,農業者の立場からは後述の「作業委託」を指す.

2  障害者の障害の種類,程度との関連については,今回は十分な回答が得られなかったため,分析の対象外とした.

3  施設外就労(作業委託)では,障害者は職業指導員を介して指示を受けることが報酬算定の要件となっている.

4  直接雇用が36%,作業委託が64%と示されている.

5  都道府県労働局長の許可を受けることを条件として,個別に最低賃金の減額の特例が認められている.

引用文献
 
© 2022 地域農林経済学会
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