農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
個別報告論文
農業法人による地域農業への貢献意識と取り組み
―全国アンケート調査の分析―
長命 洋佑南石 晃明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2022 年 58 巻 3 号 p. 149-156

詳細
Abstract

This study aimed to investigate the relationship between consciousness of contribution to regional agriculture and regional activity, using the results of an Internet survey focused on agricultural corporations. Three factors emerged from the analysis: consciousness of contribution to (1) regional agriculture, (2) regional economy, and (3) agricultural land problems in the region. The results of the classification and regression trees analysis showed that consciousness of contribution was influenced by three factors. First, event holding (e.g., farming experience) was an important factor in the consciousness of contribution to regional agriculture. Second, the acceptance of inspections and contract production with local farmers was an important factor in the consciousness of contribution to the regional economy. Finally, undertaking farmland for farmers without heirs was an important factor in the consciousness of contribution to land problems.

1. はじめに

わが国の農業は,農業従事者の高齢化,それに伴う生産人口の減少,耕作放棄地の拡大などの問題が顕在化し,地域農業の存続が危ぶまれる状況にある.農業は地域に基盤を置いた産業として,農地をはじめとした地域に賦存する経営資源を利用することで展開してきたため,経営資源の適切な保全管理と持続的な利用を実現するための地域的な体制を整えることが地域農業の発展にとって重要な課題となる(徳田,2017).また,地域における農業経営の行動は地域経済,地域環境や景観,食料の生産基盤,あるいは農村地域社会に大きな影響をもたらしている(八木,2011).近年では,従来型の家族農業経営体が企業的な経営体へと展開・発展することや,企業が相応の技術力と経営ノウハウを持って農業に参入し,それらの中から先進的農業経営体が地域農業の中核となる事例が出現してきており,地域農業において経済的な貢献のみならず,地域社会への多面的な貢献が期待されている(小田他,2018).

こうした先進的農業経営体における地域貢献に関して,以下のような研究が蓄積されている.

まず,地域への企業の農業参入に関連する研究として,例えば,大仲(2018)は,農業参入企業の農業経営は,地域農業の農地の担い手および農産物の新たな利用や付加価値化において重要な役割を果たしていることを指摘している.渋谷(2020)は,企業の参入パターンを類型化するとともに,効用に着目した経営分析のフレームワークを提示している.他方,西水(2016)は受入地域の自治体から期待について,伊庭(2021)は受入地域の住民評価について分析を行っている.

次いで,集落営農組織における地域貢献の研究として,今井(2013)は,農業生産活動による農地の維持を含め,地域の経済,生活,人材の維持に貢献する地域公益的な集落営農組織を「地域貢献型集落営農」と定義し,2008年より施策推進している島根県を対象に,新領域の事業展開の可能性について検討している.竹山・山本(2013)は,集落営農組織における経営発展度と地域貢献度の評価システムの開発を行っている.また,この評価システムを用いて,井上他(2016)は,中山間地域の集落営農組織を対象に5つの地域貢献活動と組織属性との関係について分析を行っており,集落営農組織における基礎的な活動の特徴を明らかにしている.

しかし,これらの先行研究は,中山間地域における集落営農組織や農業参入企業などを対象とした分析が主であり,全国的視点に立った農業法人における地域貢献活動の研究蓄積はまだまだ少ないといえる.徳田(2017)は,地域に存在する既存の農業経営とは異なる発展を遂げた先進的農業経営体といえども,地域に賦存する経営資源抜きに展開することは困難であると指摘しており,農業法人における地域での取り組み,地域に対する貢献意識を明らかにすることは,今後の地域農業のあり方を検討する際に重要な示唆を得ることができると考える.そこで本稿では,農業法人における地域農業への貢献意識と地域社会での取り組みとの関係を明らかにすることを目的とする.なお,本稿における「地域貢献」とは,先行研究の整理を基に,「地域の経済や社会が抱える問題解決に向けた活動」を示す意味において用いることとする.

2. データおよび方法

本稿では,九州大学農業経営学研究室が全国の農業法人に対し実施したアンケート調査の結果を用いた.調査に際しては,郵送調査法により2,885法人に調査票を配布し,505法人の有効回答を得た(回収期間2019年7月~12月有効回答率17.5%,結果概要は南石2021参照).本稿では地域農業への貢献意識および地域社会での取り組みの両設問に回答した398法人のデータを用いて分析を行った.

分析に関しては,まず,地域農業への貢献意識に関する18の質問項目における潜在的な意識構造を明らかにすることを目的に探索的因子分析を行った.なお,アンケート調査では,地域社会での取り組みについて質問(表1)した後,地域農業へもたらす影響(貢献度合い)についての質問を行った.また,設問における「地域」とは概ね市町村程度の範囲を想定する旨を質問文に記載している.地域農業への貢献意識に関しては「貢献している」の5から「貢献していない」の1までの5段階リッカート尺度を設け,各質問項目に対する意識を数値化した.因子分析に関する抽出は最尤法を,回転にはプロマックス法を用いた.なお,因子の抽出基準は,固有値1.0以上とした(永田・棟近,2013).

表1. 回答法人の属性と地域社会での取り組み
所在地域 人数 (%) 従事者数(役員+正規従業員数)1) 人数 (%)
北海道 9 (2.3) 4人以下 57 (14.2)[40.7]
東北 81 (20.4) 5~9人以下 163 (41.0)[29.9]
北陸 41 (10.3) 10~19人以下 123 (30.9)[14.6]
関東・東山 48 (12.1) 20人以上 55 (13.8)[11.6]
東海 18 (4.5) 売上高
近畿 31 (7.8) 5,000万円未満 78 (19.6)
中国・四国 56 (14.1) 5,000万~1億円未満 97 (24.4)
九州・沖縄 108 (27.1) 1~3億円未満 141 (35.4)
法人種別 3億円以上 80 (20.1)
有限会社 158 (39.7) 事業多角化の主な取り組み2)
株式会社 176 (44.2) 契約による農畜産物生産 124 (31.2)
農事組合 54 (13.6) 農作業受託 118 (29.6)
その他 8 (2.0) 農畜産物加工 89 (22.4)
設立経緯 直接販売 148 (36.7)
一戸一法人 173 (43.5) 飲食(レストラン・カフェなど) 45 (11.3)
複数戸共同(組織経営体) 107 (26.9) 地域社会での取り組み2)
新規参入(個人) 22 (5.5) 地域からの雇用 361 (90.7)
新規参入(新規事業) 33 (8.3) 女性労働者の雇用 318 (79.9)
新規参入(新法人設立) 28 (7.0) 視察の受入 312 (78.4)
その他 30 (7.6) 地域主力品目の生産 280 (70.4)
法人設立年 研修生・インターンシップ生の受入 249 (62.6)
1990年以前 70 (17.6) 後継者のいない経営の農地の引受け 249 (62.6)
1990~1999年 94 (23.6) 堆肥など,家畜由来の排泄物利用 247 (62.1)
2000~2009年 112 (28.1) 祭り等の地域行事への参加 224 (56.3)
2010年以降 101 (25.4) 条件の悪い農地の引受け 199 (50.0)
主要部門(売上高6割以上を占める部門)3) 地域の食品加工製造業・商業と取引 186 (46.7)
水稲 82 (20.6) Web・SNS等で情報発信 185 (46.5)
露地野菜 42 (10.6) 地域の農家との契約生産 168 (42.2)
施設野菜 49 (12.3) 農業体験等のイベントの開催 148 (37.1)
畜産 52 (13.1) 障がい者の雇用 131 (32.9)
(酪農・肉用牛・養豚・養鶏) 研究機関・大学との連携 120 (30.2)
複合 41 (10.3) 学校給食等への農産物・食材の提供 117 (29.4)
その他 65 (16.3) 食品製造副産物等の食品残さの利用 91 (22.9)

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)[ ]内の数値は,参考として正規従業員数のみの場合の割合を示している.

2)複数回答の設問である.

3)6割を超える売上高の部門がない場合,「複合」としている.

次いで,抽出した地域農業への貢献意識に関する因子得点を目的変数とし,地域社会での取り組みを説明変数とした決定木分析(Classification and Regression Trees: CART)を行い,貢献意識に影響している取り組みとの関係について分析を行った.なお,分析にはSPSS26.0を用いた.

3. 分析結果

(1) 回答法人の属性・地域社会での取り組み

1は,回答法人の属性・地域社会での取り組みの実態を示したものである.法人の所在地域については,北海道が少なく,九州がやや多くなっていたが,全国的にばらついていたといえる.法人種別は,株式会社が44.2%,有限会社が39.7%,農事組合が13.6%であり,設立年では2000~2009年が28.1%,2010年以降が25.4%と,相対的に設立が新しい法人が多かった.また,設立経緯では,農家が一戸で法人を設立が43.5%,農家が複数戸共同で法人設立が26.9%であり,新規参入は20.8%であった.売上高の6割以上を占める主位部門では,水稲(20.6%),畜産(13.1%)の順で高かった.従事者数に関しては,5~9人が最も多く(41.0%),次いで10~19人が多かった(30.9%).売上高に関しては,1~3億円が35.4%と最も多かった.

なお,農業法人協会(2020)が実施した「2019年農業法人実態調査」では,法人所在地は,北海道・東北が23.3%,九州・沖縄が20.6%,法人種別に関しては,有限会社46.3%,株式会社36.2%であった.売上高に関しては,1~3億円未満(29.9%)が最も多く,正規従業員数は1~4人(47.4%)が最も多かった.本稿の回答法人と農業法人協会の結果を比較した場合,九州・沖縄の回答が若干多いほか,正規従業員数の1~4人規模において本調査の回答割合が若干少なかったが,概ね同様の分布を示している(政府統計との比較は南石(2021)を参照).

また,事業多角化の取り組みでは,直接販売,契約生産等が,地域社会での取り組みでは「地域からの雇用」が約9割の法人で実施されていた.次いで「女性労働者の雇用」(79.9%),「視察の受入」(78.4%)の項目が多かった.その一方で,「研究機関・大学との連携」,「学校給食等への農産物・食材の提供」,「食品製造副産物等の食品残さの利用」の回答は少なかった.

(2) 地域農業への貢献意識

2は,地域農業への貢献意識についての結果を示したものである.最も高い値を示していたのは「地域雇用の創出」であり,次いで,「地域の認知度・評価の向上」,「地域ブランドの創出」の順で高い値を示していた.その一方で,貢献意識が低かったのは,「地域農家の販路開拓」,「地域への来訪客の増加(直売所・グリーンツーリズム等)」,「地域バイオマス資源の利用(食品残さや堆肥等)」であった.これらは,自社の直接的な取り組みではなく間接的な取り組みであり,目に見える形で効果を把握することが困難であったことが,貢献意識に影響したと考える.

表2. 地域農業への貢献意識
平均値1) 標準偏差
地域雇用の創出 3.84 0.88
地域の認知度・評価の向上 3.66 0.94
地域ブランドの創出 3.64 1.08
地域農家の刺激となる 3.63 0.94
地域の農地集積 3.59 1.14
地域経済活性化(自社売上拡大による) 3.57 0.96
高付加価値化等,地域の新たな農業事業創出 3.47 0.99
地域の耕作放棄地の解消 3.46 1.21
地域内でのネットワークの形成 3.36 1.00
地産地消の推進 3.29 1.03
地域活動(イベント等)の活性化 3.27 1.00
地域の生産技術等ノウハウの集積と向上 3.27 0.93
地域の農業資材・食品業等,農業関連産業の売上向上 3.24 0.93
地域農畜産物の消費・利用拡大 3.19 1.00
地域経済活性化(自社以外の売上拡大の波及効果による) 3.18 0.94
地域農家の販路開拓 3.12 1.07
地域への来訪客の増加(直売所・グリーンツーリズム等) 2.94 1.11
地域バイオマス資源の利用(食品残さや堆肥等) 2.75 1.19

資料:アンケート調査より筆者作成.

1)「貢献している」の5点から「貢献していない」の1点までを割り当てた.

(3) 因子分析の結果

地域農業への貢献意識に関しては,潜在的な貢献意識構造を明らかにするために,探索的因子分析を行った.因子分析に際しては,因子負荷量が0.4に満たない項目を削除し分析を繰り返した.この過程において,「地域の生産技術などノウハウの集積と向上」および「地域バイオマス資源の利用(食品残さや堆肥等)」が除外され,最終的に16項目に対して因子分析を行った.

分析の結果,3つの因子が抽出され,累積因子負荷量は51.5%であった(表3).第1因子に寄与していた項目は,「地産地消の推進」,「地域農畜産物の消費・利用拡大」,「地域活動(イベント等)の活性化」など9つであった.これらは,地域農業への貢献に関する項目が寄与していたことから,「地域農業貢献」因子といえる.第2因子は,「地域経済活性化(自社売上拡大による)」,「地域経済活性化(自社以外の売上拡大の波及効果による)」,「地域農家の刺激となる」など,5つの項目で構成されていた.これらは,地域経済の活性化への貢献と考えられる項目で構成されていたため,「地域経済の活性化への貢献」因子と呼ぶこととする(以下,「地域経済貢献」).最後,第3因子は,「地域の農地集積」および「地域の耕作放棄地の解消」の2項目が寄与していたため,「農地問題への貢献」因子と呼ぶこととする(以下,「農地問題貢献」).

表3. 地域農業への貢献意識に関する因子分析1)
地域農業貢献 地域経済貢献 農地問題貢献
地産地消の推進 0.961 −0.228 0.023
地域農畜産物の消費・利用拡大 0.847 −0.081 −0.024
地域活動(イベント等)の活性化 0.755 −0.079 0.080
高付加価値化等,地域の新たな農業事業創出 0.561 0.267 −0.079
地域農家の販路開拓 0.547 0.171 −0.010
地域ブランドの創出 0.547 0.224 −0.059
地域への来訪客の増加(直売所・グリーンツーリズム等) 0.493 0.188 −0.080
地域内でのネットワークの形成 0.448 0.241 0.068
地域の認知度・評価の向上 0.438 0.286 0.091
地域経済活性化(自社売上拡大による) −0.065 0.910 −0.067
地域経済活性化(自社以外の売上拡大の波及効果による) 0.036 0.776 −0.086
地域農家の刺激となる −0.090 0.635 0.191
地域の農業資材・食品業等,農業関連産業の売上向上 0.111 0.600 0.013
地域雇用の創出 0.060 0.563 0.093
地域の農地集積 −0.014 0.006 0.862
地域の耕作放棄地の解消 0.017 0.032 0.837
α係数 0.895 0.837 0.848
累積因子負荷量(%) 23.68 41.83 51.45

資料:アンケート調査より筆者作成.

(4) 決定木分析の結果

決定木分析は,説明変数の値に応じてサンプルを逐次分割し,同質性の高いサンプルを生成しようとするものであり,分類,判別や予測に生かすことができる利点がある(栗原他,2010).本稿における分析の場合,地域貢献意識に寄与する取り組みおよび組み合わせを探索することで,地域農業における重要な取り組みが明らかになるといえる.

以下,因子分析で抽出された地域貢献に関する3つの因子の因子得点を用いて,如何なる取り組みが寄与していたのかを明らかにする.なお,ここでは取り組んでいるものに焦点を絞り述べていく.図1は,地域農業への貢献意識と地域社会での取り組みとの関係の結果を示したものである.分析の結果,「農業体験等のイベント開催」が最も影響していることが明らかとなった.さらに「Web・SNS等での情報発信」も行っている法人(0.577)において貢献意識が高いことが明らかとなった.

図1.

地域農業貢献意識に対する分析結果

資料:アンケート調査より筆者作成.

次いで,地域経済への貢献意識との関係結果を示したのが図2である.最も影響していたのは「視察の受入」を行っている法人(0.156)であった.また,「視察の受入」に加えて「地域の農家との契約生産」を行っている法人(0.355),さらには「Web・SNS等での情報発信」を行っている法人(0.580)ほど,貢献意識が高まる関係にあることが明らかとなった.

図2.

地域経済貢献意識に対する分析結果

資料:アンケート調査より筆者作成.

最後に,農地問題への貢献意識との関係を示したのが図3である.農地問題貢献に関しては「後継者のいない経営の農地引受け」が最も貢献意識に影響していた(0.353).加えて,「条件の悪い農地の引き受け」を行っている法人(0.483),さらには「研修生・インターンシップ生の受入」を行っている法人(0.575)において,貢献意識が高くなっていることが明らかとなった.

図3.

農地問題貢献意識に対する分析結果

資料:アンケート調査より筆者作成.

以上,決定木分析の結果より,貢献意識に関しては,単独で取り組みを行っている法人よりも複数の取り組みを行っている法人ほど,貢献意識が高くなっていることが明らかとなった.なお,表1に示した複合およびその他を除く主位部門との関係をみると1,「研修生・インターンシップ生の受入」は稲作経営で,「視察の受入」は,畜産経営で取り組みが高かった.また,「後継者のいない経営の農地引受け」,「条件の悪い農地の引受」に関しては,稲作経営で取り組みが高く,施設野菜経営,畜産経営においては取り組みが少なかった.その他の取り組みと主位部門との関係では差は認められなかった.

4. 考察

まず,因子分析の結果では,表3に示すように3つの因子が抽出された.「地域農業貢献」に関しては,地域内での取り組みが重要な変数として因子構造に寄与していた.「地域経済貢献」に関しては,経済活動に関連する変数が因子に寄与していた.「農地問題貢献」に関しては,農地集積および耕作放棄地の解消が寄与しており,農地問題に関連する変数で構成されていた.これらの結果より,地域農業への貢献意識に関しては,「地域農業貢献」,「地域経済貢献」,「農地問題貢献」の3つがそれぞれ別の次元の潜在的意識構造として抽出された.

多田他(2006)は,企業が農業参入するメリットとして,地域農業および地域経済の発展を挙げており,前者は耕作放棄地の解消や農地の維持,地域農業の後継者確保,既存農家の意識改革と高付加価値化等,新事業創出への期待,後者は地域の雇用維持・創出,農業関連事業の需要創出への期待があると述べている.徳田(2017)は,先進的農業経営は,地域農業システム2の再編強化を図ることで,自らの経営発展のみでなく,地域に賦存する経営資源の保全管理と持続的利用を実現し,地域農業総体の維持発展につながる取り組みが重要であると指摘している.

また,井上他(2016)は,集落営農の組織(母体組織)成立からの経過年数と地域貢献活動との間には複数の正の相関関係があることを指摘している.紙幅の関係で分析結果表は割愛するが,法人設立年数と貢献意識との関係を分析したところ,「地域経済貢献」および「農地問題貢献」において,1990年以前に設立した法人に比べ,2010年以降に設立した法人において有意に貢献意識が高い結果となっていた.また,1990~2009年での設立との間には有意な関係は認められなかったことより,集落組織の設立と地域貢献との間に正の相関関係がみられた井上他(2016)の結果とは,異なる傾向を示す可能性があることが示唆された.

本稿では,分析対象は農業法人全般を対象にしていたが,法人種別では,有限会社・株式会社合わせて約84%,農事組合は約14%,また,農家が主導で設立した法人は約74%,新規参入した企業が約21%であった.農事組合がおよそ14%,新規参入がおよそ20%である点は留意すべきであるが,地域農業や地域経済への貢献意識とともに農地問題への意識が異なる次元の意識構造として抽出されたことは,重要な結果であると考える.ただし,本稿では詳細な関係性まで明らかにできていないため,法人設立経緯や設立以降の取り組み,生産作目等も含め,今後さらなる分析が必要であるといえる.

次いで,決定木分析の結果より,貢献意識に関しては,単独で取り組みを行っている法人よりも複数の取り組みを行っている法人ほど,それぞれの貢献意識が高くなっていることが明らかとなった.その中でも特に,地域内外からの集客に対する交流の取り組みが地域貢献意識に影響していた.

地域農業への貢献に関しては「農業体験等のイベント開催」のみならず,「Web・SNS等での情報発信」を行っている法人ほど貢献意識が高かった.取り組んでいる法人においては,広く一般の人々にWeb・SNS等で農業体験やイベント開催などの告知を行っていることが想定され,その効果が参加者数やフォローワー数として認識できていることが貢献意識に結びついたと考える.

また,地域経済貢献では「視察の受入」が最も重要な取り組みであった.紙幅の関係で分析結果表は割愛するが,多角化の取組事業において,契約生産および食品製造などの加工を行っている法人で視察の受入が多い傾向がみられた.そのため,ビジネスベースでの取引を想定した受入を行っていることが考えられた.その際,例えば,食品メーカーとの契約生産や農産物加工業者への原料農産物の生産,中食・外食業者への業務用製品としての販売,などの取引が考えられる.また,原料農産物の生産に関しては,地域内で生産者グループを形成し契約による生産に取り組むことも考えられる.こうした取り組みは地域の農家の生産活動にも影響を及ぼすこととなり,経済の活性化にもつながることが考えられ,そうした取り組みが貢献意識に結びついたと考える.

また,「Web・SNS等での情報発信」が貢献意識に寄与していたことは重要な取り組みであることを意味しているといえる.この結果は,農業生産以外の場面においてもICT活用の重要性を示唆するものといえる.自社および地域農業を上手にアピールしている法人は,取り組み実態の成果を認識しており,そのため,自社の取り組みが地域貢献を果たしていると意識していたのではないかと考える.ただし,長命・南石(2019)が指摘しているように,ICT活用や情報マネジメントは「弱み」と認識している法人が多く,今後,ICTへの対応が地域貢献において重要な課題であるといえる.

最後,農地問題貢献に関しては「後継者のいない経営の農地引受け」,「条件の悪い農地の引受」に加え,「研修生・インターンシップ生の受入」が重要な取り組みであった.特に,後継者のいない農地だけでなく,条件の悪い農地も引き受けている法人において貢献意識が高くなっていた.紙幅の関係で分析結果表は割愛するが,前者に関しては,1990年以前設立と2010年以降設立の法人とで差が,後者では,1990年以前に設立した法人とそれ以降に設立した法人との間で差みられ,ともに1990年以前に設立した法人の方が農地の引受けは少なかった.また,これらの関する項目では,契約生産および農作業受託への取り組みが多かった.法人設立との関係を見ると,1990年以前に設立した法人では,これらの事業への取り組みが少なかった.これらのことより,近年設立した法人では,契約生産における農地の拡大および作業受託による農作業を行っていることが,貢献意識に結びついていると考えられた.

また,「研修生やインターンシップ生の受入」に関しては,有限会社および株式会社で受入が多く,農事組合では少なかった.さらに,従事者数が10名を超える法人,売上高が1億円を超える法人において多かった.これらのことより,一定程度以上の経営規模を有する法人において受入が行われており,経営外から人材を受入れることで,農地問題の解決が図られると意識していることが結果に影響したと考えられた.農地問題の解決に関しては,研修生やインターンシップ生を受入れるだけでなく,彼らが独立就農するときにその農地で就農が可能となるシステムを構築することが重要と考える.その際,小田他(2020)が指摘しているように,新規就農者・参入者においては,農地取得が最重要事項であるが,多くの場合,条件の悪い農地が多いため,新規参入者への支援が農業生産諸資源の保全・再生にとっての最重要課題であるといえる.

5. おわりに

以上,本稿では,先行研究で事例的・定性的に指摘されていた地域貢献への取り組みとの関係について全国アンケート調査の分析より一般化・定量化した.ただし,本稿での地域農業への貢献意識についての分析は探索的な分析に留まっている.農業法人における地域農業への貢献意識は,作目(事業部門)や企業形態などによる違いも考慮する必要がある.また,地域農業への貢献意識に影響を及ぼしている取り組みに対する経済的・経営的効果の計測に着目した分析を行うことが必要であると考える.これらの点に関しては今後の課題とする.

謝辞

本稿は,科研基盤研究(C)(18K05870,研究代表 長命洋佑)および科研基盤研究(A)(JP19H00960,研究代表 南石晃明)による研究成果に基づく.ここに感謝の意を記す.

1  Fisherの直接法により,有意水準5%で有意性が認められた.

2  徳田(2017)では,地域に賦存する経営資源の保全管理と,その機能向上,持続的利用を基礎として,個々の経営の展開を支える体制を地域農業システムととらえている.

引用文献
 
© 2022 地域農林経済学会
feedback
Top