2022 年 58 巻 3 号 p. 165-172
Although Sri Lanka’s agricultural policy has become more market-oriented, traditional agriculture and its trade remain vital in rural economies. However, few studies have focused on the current state of agricultural trade in the mountainous areas of Sri Lanka, where most households engage in small-scale farming. The objective of this study is to examine whether trade patterns and underlying relationships between farmers and traders in mountainous areas are associated with the storage characteristics of agricultural products or village locations. Quantitative analysis using data obtained from the household survey in the Meegahakula DS division of the Badulla district revealed that village location significantly impacts farmers’ sales channels and relationships between farmers and traders, including retail and wholesale outlets. The analysis also found that farmers are likely to overcome geographical disadvantages and diversify their sales channels through joint shipments or specific terms offered by traders.
スリランカでは人口の65.8%が農村部に居住している.農村部の貧困率は4.1%であり,都市部(1.94%)の2倍超の水準にある(DCS, 2017).政府は,農村部の所得増大を目的に,商品作物の生産拡大及び農産物流通の近代化を打ち出した.しかし,仲買人が多く介在し非効率とされる流通の現状,伝統的な商慣行や取引制度等の十分な理解なくして実効性ある施策の立案・実施は難しい.
途上国農村部では一般的に市場の発展に遅れが見られ,村内の信頼関係や慣習などが,取引費用や取引相手の機会主義的行為を抑制し,市場を補完する役割を果たしている(大野,2020).Hayami and Kawagoe(2001)は,農産物の貯蔵性による流通の違いに着目し,インドネシアの農村における穀物の流通は商人間の競争が激しく独占価格にはならず,生鮮野菜は商人と村人の協力で首都の卸売市場に流通し,村の規範が商人の機会主義的行為を抑止している事例を示し,販売活動におけるコミュニティの重要性を論じた.中国内モンゴルの農産物流通を分析した趙・坂爪(2012)は,都市近郊では農家個人が卸売市場に直接販売をしている一方で,都市から遠くインフラや農地の整備が遅れている地域では,共同販売が多いことを明らかにした.
スリランカの農産物流通を対象とした先行研究には,公設取引所の開設を契機とした近隣農家の販路選択の変化を分析した耕野(2000)や,公刊統計を用いて腐敗し易い生鮮野菜ほど流通マージン率が高いことを明らかにし,低水準な農業収入は伝統的な流通制度に由来することを示した青・板垣(2015)などがある.これらの研究は平地部を対象としており,スリランカの零細農家の多くは山岳地に居住している現状に鑑みると(渡辺,2020),その分析結果が同国の一般状況を反映しているとはいえない.
そこで,本研究は,研究蓄積が少なく,貧困削減がより強く求められるスリランカ山岳地域における農産物取引の実態を明らかにすることを目的に据える.現地で実施した家計調査により収集したデータを用いて,スリランカ山岳地域での取引形態と,その背景にある農家と取引相手との関係性に着目して分析する.調査地の農業及び地理の特徴を踏まえ,分析において農産物の貯蔵性と立地特性の二つの観点に注目する.貯蔵性については,Hayami and Kawagoe(2001)に倣い,販売前の乾燥・加工の有無により,取引農産物を分類する.立地特性については,趙・坂爪(2012)の分析視角を参考にして,道路や交通手段等の整備状況に制約される地域中心地へのアクセス等の交通の利便性を重視する.
本研究では,スリランカ中央山脈東側の山岳地帯に位置するウバ州バドゥッラ県ミガハキウラ郡(Meegahakivula DS Division)を調査地に設定した.ミガハキウラ郡(図1)は,州都バドゥッラから北へ約23 km,バスで約40分を要する.郡内の中心地の名称もミガハキウラ(Meegahakivula GN Division)であり,混乱を避けるため本稿では「町」と訳す.また,ミガハキウラ郡内を「域内」,周辺地域を「域外」と表記する.

調査地地図
資料:筆者作成.
域内人口は24,241人(Meegahakiula DS Office, 2017)であり,農業が基幹産業である.貧困率は14.7%(DCS, 2015)で,安定した収入の不足,干ばつ,低い教育水準が貧困の主な原因と指摘されている(UNV, 2018: pp. 112).
(2) 調査方法及び調査村概要農業局の協力のもと,2017年9月から11月の間に現地調査を実施した.道路の整備状況,バスの運行状況など町へのアクセスの違いを考慮し,A,B,Cの3村を調査地に選定した(図1及び表1).農業局から紹介された村の代表者と訪問し,調査の合意を得られた世帯に聞き取り調査を行った.各村で30世帯,計90世帯の情報を収集した.調査項目は,1)世帯主の属性,2)家族構成・就業状況,3)農業生産と販売である.
| A | B | C | |
|---|---|---|---|
| 世帯数 | 305 | 193 | 510 |
| 町までのバスの本数と時間1) | 4本/日 30分 | 4本/日 30分2) | 1本/時間 30分 |
| 町への距離 | 5.3 km | 10 km | 12 km |
| 標高 | 300~600 m | 600 m | 150 m |
ミガハキウラ郡の町の標高は300 mであり,町と郡内の各村とを結ぶバスが運行されている.C村は,3村の中で町から最も遠いものの,ウバ州と東部州を繋ぐ公道に面しており,バスの本数も多く町へのアクセスが最も良い(表1).B村は,最寄りのバス停まで未舗装の山道を1時間程度歩く必要があり,交通アクセスが限定されている.A村は町への交通アクセスにおいて他2村の中間的である.
世帯調査の結果によると(紙幅制約により集計表は割愛),家長の教育年数は,A村で平均9.3年と他村と比べ有意に高いが,年齢や性別比率に有意差はなかった.世帯人数はA村が平均4.5人と最も多く,一番少ないのはB村(3.6人)である.世帯員の非農業部門への就業率は,A村で66.7%,C村では43.3%であるが,B村は3.3%に留まっている.主な就業先は,運転手,日雇い労働,軍隊である.交通手段の所有率は,A村36%,C村30%に対し,B村は10%と低位である.主な交通手段はバイクや三輪車であり,乗用車を所有する世帯は存在しない.
所有する畑面積は3村の平均で1.07 ac,所有率は93%であった.所有する水田面積は0.50 acで,その所有率は48%に留まっているが,分益小作や流動的な土地の貸借が村内で行われ,水田を所有していない世帯でもコメやトウモロコシを生産していた.
村別の作物生産をみると(表2),A村では畑の所有面積が大きく,C村では水田の所有面積が大きい傾向にあるが,いずれも3村間での有意差は認められない.ただし,水田の所有率はB村で高く,3村間で有意差があった.
| A | B | C | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| N | 平均 | SD | N | 平均 | SD | N | 平均 | SD | ||
| 栽培2) | 30 | 0.86 | 0.34 | 30 | 1.00 | 0.00 | 30 | 0.93 | 0.25 | |
| 乾燥品栽培2) | 30 | 0.83 | 0.37 | 30 | 0.83 | 0.35 | 30 | 0.70 | 0.46 | |
| 生鮮品栽培2) | 30 | 0.83 | 0.38 | 30 | 1.00 | 0.00 | 30 | 0.86 | 0.34 | ** |
| 畑面積(ac)1) | 30 | 1.38 | 1.43 | 30 | 1.03 | 0.59 | 30 | 0.81 | 1.62 | |
| 畑所有2) | 30 | 0.93 | 0.25 | 30 | 1.00 | 0.00 | 30 | 0.86 | 0.34 | |
| 水田面積(ac)1) | 30 | 0.53 | 0.74 | 30 | 0.39 | 0.35 | 30 | 0.60 | 1.29 | |
| 水田所有2) | 30 | 0.43 | 0.50 | 30 | 0.70 | 0.46 | 30 | 0.33 | 0.47 | *** |
| 家畜所有2) | 30 | 0.10 | 0.30 | 30 | 0.43 | 0.50 | 30 | 0.00 | 0.00 | *** |
* p<0.10 ** p<0.05 *** p<0.01
カテゴリー変数にはフィッシャー正確確率検定,連続変数には分散分析を用いた.
資料:聞取調査(2018年).
1)単位はスリランカで一般的なエーカー(ac)で計算した.1 ac=0.4 ha.
2)ダミー変数.
調査世帯において,計64種の作物が栽培され,そのうち31種が販売されていた.コメは半数以上の世帯で生産しているが,自給的性格が強く,2世帯のみが販売していた.販売世帯数が最も多い作物は,加工用トウモロコシであった.トウモロコシ栽培は肥料や種子の購入など作付け前に一定額が必要になるため,栽培農家は行政の肥料や種子の半額配布事業を利用するとともに,必要に応じ金融機関から融資を受けている.近年では食品会社との契約栽培も行われている.調査では8世帯の農家(A村7世帯,C村1世帯)が契約栽培を行っていた.同様に,B村では13世帯がタバコを契約栽培している.ただし,本研究は伝統的な農産物流通に関する分析に主眼をおくため,契約栽培についてこれ以降の分析では取り扱わない.
本稿はHayami and Kawagoe(2001)を参考に,トウモロコシなど乾燥加工後に販売される作物を乾燥品,ナスやチリなど乾燥を経ずに販売される作物を生鮮品に分類し,次節以降で販売取引の分析を行う.販売時の加工の有無を明らかにできなかった作物や流通ルートが特異な作物を除外し,計26種(乾燥品5種,生鮮品21種)を分析対象とした1.
(2) 販路農産物の販路として,定期市,域外の卸売市場(以下,域外市場),村小売店,町卸売店,集荷業者,村人が観察された.これらを,1)不特定多数と交渉を行う「市場」,2)特定の店主と取引を行う「店」,3)商人が農家の庭先や圃場に来る「買付」の3つに分類し,表3に示した.
| 大分類 | 1)市場 | 2)店 | 3)買付 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 小分類 | 定期市 | 域外市場 | 村小売店 | 町卸売店 | 集荷業者 | 村人 |
| 取引相手 | 消費者 域外仲買人 | 域外仲買人 | 穀物店 日用品店主 | 店主 | 村外仲買人 | 村内世帯 |
資料:筆者作成.
1)については,域内に卸売市場がなく,町で毎週開催される定期市と域外市場で構成される.交通状況が不便な中,村人の輸送費を抑える取り組みが観察された.B村の農家は協力して,週に一回乗合トラックを手配し,定期市で販売していた.
2)については,村の小売店や町の卸売店である.C村には穀物店や日用品などの小売店があり,トウモロコシやバナナ等が取引されていた.穀物店の店主は農家への信用供与や投入物の貸与を行い,優先的にトウモロコシ等を集荷し,ある程度量がまとまったら,店主が域外の卸売市場へ販売している.町の卸売店は,取引の際に首都にいる卸売店オーナーに,価格や買取量を確認し,定期的に出荷していた.町の卸売店に持ち込む際,A村では隣人の農家が共同でトラックを借り,トウモロコシを輸送していた.
調査農家への聞き取りによれば,トウモロコシ取引において,契約販売と小/卸売店への持込販売を比較した場合,小/卸売店への販売は単価が低いものの,少量でも買取られ,品質基準も厳密でなく,決済はその場で現金で支払われるため,農家にとって取引上,利点があることが確認された.
3)買付による販売では,集荷業者の多くはバドゥッラ県内から来ているが,A村では,県外のキャンディなどの都市近郊の仲買人による買付が行われている.県外の集荷業者へトウモロコシを販売している世帯によると,「収穫期に2~3人の集荷業者が訪れ,町の卸売店と比較して条件の良い業者に販売している」ということであった.取引価格も卸売店と差がなかった.
(3) 取引相手との関係大野(2020)は農産物の性質によって取引形態が異なると指摘している.本分析では,農家と取引相手との関係性の検証にあたり,相手からの栽培・加工に関する提案・規格の有無(提案),信用・融資・ツケ払いの有無(信用),1回の取引が成立するまでの取引相手や定期市の客との交渉の数(交渉回数)の3点に着目する.その理由は以下のとおりである.
耕野(2000)は,スリランカの農村における農産物流通実態として,村外から商人が訪れるようになると農家の情報収集力や交渉力が高まり,商人と農家の長期固定取引は見られないこと,また信用取引も観察されることを示した.本稿もこの視点に倣い分析する.提案は,入手した情報には取引相手の商人の農産物買付けに関する条件(提案等)が含まれていると考えられる.他方,信用・交渉回数は,取引相手からの信用供与や商人間の競争的な状態が農家の販路選択に影響する(Hayami and Kawagoe, 2001)という知見に依拠する.商人間の競争的な状態は,農家と複数の商人との交渉の機会を増加させ,それに伴い交渉回数も増加すると推測される.
提案では,貯蔵性によって取引時の品質の基準が異なっており,乾燥品では乾燥度合い,生鮮品では栽培方法が重視されている.信用では,C村では小売店による信用供与の他にツケ払いが行われている.
家計調査を村別・貯蔵性別で記述統計分析を行った(表4,表5).聞き取り調査で得た定性的な情報と合わせて,立地特性や貯蔵性による取引形態の違いとその要因について考察する.前節で示した各販路及び農家と取引相手との関係性を変数に含めた.
| A | B | C | ||||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| N | 平均 | SD | N | 平均 | SD | N | 平均 | SD | ||
| 販売状況 | ||||||||||
| 作物販売1) | 30 | 0.86 | 0.37 | 30 | 0.90 | 0.18 | 30 | 0.70 | 0.47 | *** |
| 乾燥品1) | 30 | 0.63 | 0.49 | 30 | 0.10 | 0.30 | 30 | 0.56 | 0.50 | *** |
| 生鮮品1) | 30 | 0.46 | 0.50 | 30 | 0.86 | 0.34 | 30 | 0.33 | 0.47 | *** |
| 販路 | ||||||||||
| 定期市1) | 24 | 0.29 | 0.46 | 27 | 0.96 | 0.46 | 21 | 0 | 0 | *** |
| 域外市場1) | 24 | 0.08 | 0.28 | 27 | 0.07 | 0.26 | 21 | 0.14 | 0.35 | |
| 村小売店1) | 24 | 0 | 0 | 27 | 0 | 0 | 21 | 0.66 | 0.48 | *** |
| 町卸売店1) | 24 | 0.29 | 0.46 | 27 | 0 | 0 | 21 | 0.04 | 0.21 | *** |
| 集荷業者1) | 24 | 0.37 | 0.49 | 27 | 0 | 0 | 21 | 0.23 | 0.43 | *** |
| 村人1) | 24 | 0.16 | 0.38 | 27 | 0.03 | 0.19 | 21 | 0.14 | 0.35 | |
| 取引相手との関係 | ||||||||||
| 提案1) | 25 | 0.04 | 0.20 | 26 | 0.07 | 0.27 | 21 | 0.61 | 0.49 | *** |
| 信用1) | 25 | 0 | 0 | 26 | 0.03 | 0.19 | 21 | 0.28 | 0.46 | *** |
| 交渉回数 | 22 | 2.01 | 1.37 | 10 | 3.70 | 1.49 | 20 | 3.47 | 2.00 | *** |
* p<0.10 ** p<0.05 *** p<0.01
カテゴリー変数にはフィッシャー正確確率検定,連続変数には分散分析を用いた.
資料:聞取調査(2018年).
1)ダミー変数.
2)変数ごとの観測数の差は,村ごとの販売世帯数と無回答などの有効回答数の差による.
| 乾燥品 | 生鮮品 | ||||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| N | 平均 | SD | N | 平均 | SD | ||
| 販路 | |||||||
| 定期市1) | 37 | 0.16 | 0.37 | 50 | 0.62 | 0.49 | *** |
| 域外市場1) | 37 | 0.08 | 0.27 | 50 | 0.08 | 0.27 | |
| 村小売店1) | 37 | 0.29 | 0.46 | 50 | 0.14 | 0.35 | * |
| 町卸売店1) | 37 | 0.21 | 0.41 | 50 | 0.02 | 0.14 | *** |
| 集荷業者1) | 37 | 0.18 | 0.39 | 50 | 0.16 | 0.37 | |
| 村人1) | 37 | 0.13 | 0.34 | 50 | 0.10 | 0.30 | |
| 取引相手との関係 | |||||||
| 提案1) | 37 | 0.29 | 0.28 | 49 | 0.13 | 0.03 | * |
| 信用1) | 37 | 0.13 | 0.34 | 49 | 0.04 | 0.20 | |
| 交渉の回数 | 33 | 3.01 | 1.96 | 29 | 3.03 | 2.00 | |
* p<0.10 ** p<0.05 *** p<0.01
カテゴリー変数にはフィッシャー正確確率検定,連続変数にはT検定を用いた.
資料:聞取調査(2018年).
1)ダミー変数.
2)変数ごとの観測数の差は,無回答などの有効回答数の差による.
作物の販売状況は村によって差がみられる(表4).販売世帯の割合はB村が最も高く90%であった.乾燥品の販売世帯が高いのはA村の63%で,B村は10%である.一方,生鮮品はB村の86%の世帯が販売しており,C村では33%に留まっている.
販路においても差がみられた.A村では,定期市,町卸売店,集荷業者に販売している世帯が多く,B村では,96%の世帯が定期市で販売し,集荷業者との取引は観察されなかった.C村では,村の小売店への販売が66%と多く,続いて集荷業者に23%の世帯が販売していた.域外市場への持ち込みや村人の買付には3村間での有意差はない.
取引相手との関係については,C村では,提案が61%,信用28%と他2村に比べ割合が多かった.また交渉回数については,販路が分散しているA村で2.01回,定期市販売を主とするB村で3.7回,村小売店が大半を占めるC村では3.47回であった.
(3) 貯蔵性別取引実態乾燥品は37世帯,生鮮品は50世帯で販売されていた(表5).乾燥品の販売世帯の29%が村小売店に販売し,21%が町卸売店に販売しており,両者とも生鮮品と比較して有意な差があった.生鮮品が最も多く取引されていたのは定期市で62%である.
取引相手との関係では,提案で有意差があった.信用を得ている乾燥品の販売世帯は13%であり,有意差はないが生鮮品より高い傾向がみられた.交渉回数は,ともに約3回であり,顕著な差はなかった.
(4) 考察村別・貯蔵性別の分析から,販路及び取引相手との関係性に差があることが明らかになった.
まず,立地特性の観点から整理した村別の集計結果の背景にある実態は,以下のように要約される.A村は,畑面積が広く,土地集約的なトウモロコシが栽培されている.交通は不便だが,収穫期には集荷業者の買付もみられる.しかし村内には積極的に村人から買付をする小売店が存在しないため,農家は近隣住民と共同運搬し,町の卸売業者へ販売している.B村は町へのアクセスが限られているため,集荷業者は訪れない.B村の農家は協力して乗合トラックを利用し,生鮮品を定期市で販売していた.一方,2村に比べ交通条件が良いC村は,村外の商人も多く,交渉回数も多い.穀物店は,取引農家を確保するため,信用供与や生産要素の貸付け,トウモロコシの栽培・加工技術に関する助言を行っている.農家からみれば,複雑な手続きなしに必要資金を借入できる店主からの信用供与は好都合である.
次に,貯蔵性別の観点から注目すべき点は以下に要約される.乾燥品は,村や町の店主が域外の卸売市場や首都へ販売することで広域に流通されていた.少量でも買取り,品質基準を厳格に設けない店は,生産や販売に制約のある農家にとって重要な販路となっている.一方,生鮮品は定期市で直接,消費者に販売されている傾向にある.店から積極的に生鮮品を買取ってもらえないため,農家は定期市で売り捌くことで現金収入を得ている.取引相手との関係性については,生鮮品に比較して,乾燥品の取引において提案や信用がより多く行われている傾向にある.この差の背景には,取引時に乾燥の度合い等の規格の要求があること,トウモコロシ等の穀物の栽培では作付け前の資金調達が重要であることが示唆される.もっとも,生鮮品・乾燥品の差は統計的に有意ではない(5%水準).
本節では,立地特性別,貯蔵性別でみられた販路や取引相手との関係性の差が,ほかの諸条件を制御しても統計的に支持されるのかを検証する.前節で用いた作物単位データセットに世帯情報を追加した.村によって販路の偏りがあるため,各販路は表3で示した大分類を使用した.B村は定期市での生鮮品の販売に偏っているため対象から除外した.C村のみで確認された信用の変数,他変数と多重共線性のある水田の変数も除外した.各変数の定義を表6に示す.なお,交渉回数が被説明変数である回帰式はOLSで推定したが,それ以外の被説明変数はダミー変数であることから,プロビット・モデルにより推定した.推定結果は表7に整理される.
| 変数 | 定義 |
|---|---|
| 市場 | 定期/域外市場へ販売=1,なし=0 |
| 店 | 小/卸売店へ販売=1,なし=0 |
| 買付 | 村人/集荷業者へ販売=1,なし=0 |
| 提案 | 相手から提案=1,なし=0 |
| 交渉回数 | 交渉する人数 |
| 乾燥品 | 乾燥品=1,生鮮品=0 |
| C村 | C村=1,A村=0 |
| 年齢 | 世帯主の年齢 |
| 農外収入 | 農外収入あり=1,なし=0 |
| 世帯人数 | 世帯の人数 |
| 畑面積 | 所有する畑の面積(ac) |
| 交通手段 | 交通手段あり=1,なし=0 |
| 市場 | 店 | 買付 | 提案 | 交渉回数 | |||||
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| (定数) | −0.93 | 2.45 | 0.99 | −2.80 | −0.38 | ||||
| 乾燥品 | −0.52 | 0.76 | * | −0.27 | 0.74 | −0.07 | |||
| C村 | 0.30 | 1.08 | −1.81 | ** | 2.45 | ** | 2.74 | *** | |
| 年齢 | −0.01 | −0.06 | ** | 0.01 | 0.001 | 0.02 | |||
| 農外収入 | 0.54 | 0.57 | −0.31 | 0.17 | 0.73 | ||||
| 世帯人数 | 0.19 | −0.14 | −0.26 | −0.69 | 0.22 | ||||
| 畑面積 | 0.16 | −0.46 | 0.01 | −0.03 | −0.006 | ||||
| 交通手段 | −0.11 | −0.54 | 0.02 | −1.29 | −0.47 | ||||
| Psuedo R2 | 0.17 | 0.34 | 0.10 | 0.37 | |||||
| 調整済みR2 | 0.09 | ||||||||
| 観測数 | 58 | 58 | 58 | 58 | 52 |
***:p<0.01,**:p<0.05,*:p<0.1
資料:聞取調査(2018年).
1)紙幅の都合上,標準誤差を省略している.
2)交渉回数の観測数の違いは不明などの有効回答数の差による.
まず,貯蔵性の影響に注目すると,乾燥品が小/卸売店への販売のみに10%水準で正の影響を及ぼしている.先行研究では,乾燥品は売り手も買い手も多いため競争的な市場に近く,その取引関係も流動的である一方,生鮮品は農家と商人間の継続的な取引関係が結ばれていると論じられてきた(大野,2020;Hayami and Kawagoe, 2001).しかし,調査地では,乾燥品の取引において,一部の農家は販売先の小売店等から提案や信用供与を受けるなど,商人との継続的な取引関係を保持している.これは,調査地では,乾燥品が村の小売店で取引されることが多く,他方,生鮮品は,多数の住民が自給しているため販売量自体が限られていることに加え,主な販路が商人を介さない定期市であることに由来する.ただし回帰式の推定から,貯蔵性の差による取引相手との関係性における有意な差は確認されなかった.
次に,立地特性の影響については,販路,取引相手との関係性のいずれにも村ダミー変数が有意な影響を及ぼしていることが確認された.A村に比較してC村では,販路については買付けの機会が有意に少なく,関係性については提案及び交渉回数とも有意に多いことが示された.市場へのアクセスが良いC村では,交渉可能な相手が多く,交渉中に販売作物に関する情報をより収集できることが示唆される.
本研究は,スリランカ山岳地域農村部を対象に農産物取引の実態を明らかにするため,取引形態及び農家と取引相手との関係性について,立地特性及び農産物の貯蔵性に着目し分析した.交通条件の良い地域(C村)では村内外の商人との取引が活発で,農家が小売店から信用供与などの有利な条件を受けやすい一方で,交通条件が不利な地域では隣人との共同運搬が行われている.この結果は,耕野(2000)や趙・坂爪(2012)の知見と整合的である.山岳地域(A村)では農家が村に買付けに来る集荷業者に乾燥品を販売していた点が注目される.1戸当たり畑面積が比較的大きく,村全体で一定の取引量が確保できる特性は業者にとって集荷面で好都合であることが示唆される.交通の不利性を上回る条件があれば,商人が産地まで買付けに来る点は,大野(2020)やHayami and Kawagoe(2001)が指摘した乾燥品の取引関係の流動性に依拠するといえる.貯蔵性では,統計的に有意性はないが,乾燥品において小売店との継続的な取引が確認された.これは,大野(2020)やHayami and Kawagoe(2001)の知見と整合的でない.乾燥品が村内の小売店で取引されている調査地の特性に由来すると考えられる.
スリランカ山岳地域では複数の販路が存在しており,市場や卸売店への共同運搬など農家自らが地理的制約を緩和させ販路を確保していることも明らかになった.研究課題として農産物取引の考察には,域内流通全体の効率性の観点が必要となろう.
注