農林業問題研究
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個別報告論文
食肉の小分け段階における認証ラベルの消失問題に関する一考察
―持続可能性に配慮した鶏肉JAS認証を事例として―
中塚 華奈戴 容秦思
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2023 年 59 巻 2 号 p. 89-95

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Abstract

The JAS (Japanese Agricultural Standards) for “Chicken Eggs and Meat by Sustainable System” has been established. The requirements for certification are (1) selection of domestic chicken breeds, (2) feeding domestic feed rice, (3) recycling of chicken manure, and (4) compliance with animal welfare. One of the characteristics of meat distribution is that each part is shipped in larger lots (e.g., 2kg packs of thigh meat). Therefore, the JAS Label of “Sustainable Chicken Meat” will disappear if the retailer is not a certified subdivider. Regarding transaction and certification costs, expecting all backyards to be certified subdividers is unrealistic. Therefore, we propose (1) the introduction of a management certification system for subdividers, (2) integrated certification of meat production, meat processing, and final pack processing plants, and (3) the introduction of a management method that mimics an industrial waste electronic manifest.

1. はじめに

「特色JAS」の一つである「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」の日本農林規格(以下,JAS規格)が2020年3月17日に制定された.①国産鶏種,②国産飼料用米の利用,③鶏糞の利活用,④アニマルウェルフェアの遵守,⑤周辺環境への配慮,⑥従事者への適切な労働環境の提供などを認証要件とし,基準をクリアした鶏肉や鶏卵に特色JASマークを貼付するものである.本規格は人工種苗生産技術による水産養殖産品のJAS規格と障害者が生産行程に携わった食品のJAS規格に続く3番目のSDGsの関連規格である.

これまでの我が国における鶏肉・鶏卵の高付加価値化,差別化の表示には「地鶏肉」,「銘柄鶏」,「特殊卵」,「有機畜産物(鶏肉・鶏卵)」があげられる.このうちJAS規格が定められているものは,1999年制定の「地鶏肉」と2005年制定の「有機畜産物(鶏卵・鶏卵)」であり,「地鶏肉」には生産行程管理者と小分け業者の認証の技術的基準,「有機畜産物(鶏肉・鶏卵)」には生産行程管理者,小分け業者,輸入業者の認証の技術的基準が定められている.「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」には日本農林規格のほか,生産行程管理者と小分け業者の認証の技術的基準が定められている1

畜産物の食品表示に関する先行研究では,佐々木(2005)が生産情報公表JAS制度を事例として,消費者の信頼度を高め,安全・安心な牛肉の選択に大きく寄与するとしつつも,課題の一つとして,小分け業者が牛肉をカット,スライス,パック作業を行う場合の各工場あるいは小売店のバックヤードごとに認証を受けなければならず,認証のための膨大な作業と認証コストを理由に小分け業者の認証数が低迷しており,小売段階におけるJAS規格牛肉が稀少であることを指摘している.山内(2009)も,と場をはじめ複雑な流通過程を経る牛肉・豚肉の場合,認証未取得により市場のどこかでマークが貼付されなくなる可能性が高いことが,有機畜産認証を取得しようとする生産者のインセンティブにならないと指摘している.「有機畜産物(鶏肉・鶏卵)」の格付実績は,令和2年度で有機鶏肉が40.6トン,有機卵が280.5トンであると発表されているが,筆者が知る限り,末端消費者が購入する量販店や小売店で有機畜産物を見かけることは,ほぼないといっても過言ではない.「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」のJAS制度については,山本(2020)が本制度の概要説明に加えて,飼料米の配合割合が5%であることについて,将来的に大幅な生産拡大などの変化がある場合の配合割合再検討の必要性を課題としてあげている.しかし,当該JAS制度運用の実態については明らかにされていない.

そこで本研究では,「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」を事例として取り上げ,その運用実態を明らかにし,生産段階で当該JAS規格の認証を取得して特定JASマークを貼付した鶏肉が,小売段階において特色JASマークが貼付されなくなる要因を抽出し,その解決策について考察する.

2. 調査対象と研究方法

調査対象は,持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵JASの認証を取得したA社およびB農場,持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵JASの登録認証機関であるE社,純和鶏の出荷先のひとつであるT社である.各調査対象の担当者に対して,当該JASの認証を取得する際の成果や課題について実態調査を行った.

調査時期は2021年12月から2022年3月にかけて面談による聞き取り(合計5回)と,メールや電話などによる補足調査(合計10回)を実施した.

3. 持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵JASの特徴

(1) 国産鶏種の利用

持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵JAS制度では,国産鶏種の素ビナを利用することが条件として求められる.日本の鶏肉生産は,海外の巨大育種資本から供給される親鶏から生まれた素ビナに,輸入のトウモロコシや大豆などを原料とした配合飼料を給与する極めて海外依存度の高い脆弱な構造下にある.

山本(2017)によると,日本においては,毎年,2~3社程度の海外の巨大育種会社で開発された種鶏を交配利用して生産される外国鶏種が大部分を占めており,日本国内で育種改良された国産鶏種のシェアは肉用鶏でわずか2%しかない.また,近年では主なトウモロコシ輸出国であるアメリカで干ばつなどの気候変動による穀物の価格高騰や,高病原性鳥インフルエンザの発生による原種鶏等の生産資材ないしは鶏肉製品の輸入停止などといった不測の事態が頻発し,日本国内における養鶏産業の存続が大きく左右されるほど影響を受けている.鶏肉の自給率は65%と決して低くないが,その生産の元となる原種鶏を海外に完全依存しているのが現状である.

生産資材を含めた国内資源利用の向上,持続可能性の観点からも,不測の事態に弱い外国鶏種からの脱却が求められる今日,国産鶏種の利用を促進する本制度の意義は大きい.

(2) 持続可能性に配慮した公的認証制度

本制度は,国産鶏種の活用,国産飼料用米の給与,アニマルウエルフェアの考慮等を通じて,SDGs(Sustainable Development Goals,持続可能な開発目標)の実現に向けた取り組みの一環として制定された公的認証制度である2

これまでの日本における鶏肉の高付加価値化,差別化は,民間レベルでの在来種や有色鶏の利用,長期間飼育,こだわりの飼料成分,健康や美味しさに着目したものが主流であった.公的認証制度としては「地鶏肉の日本農林規格」(JAS)が制定されているが,在来種由来血液百分率50%以上の素ビナ,75日以上飼育,28日齢以降平飼いなどが要件であり,その要件のなかには持続可能性に関する事項は包含されていなかった.

4. 「純和鶏」生産の取り組み

(1) 純国産鶏種「たつの種」の利用

A社が「持続可能性に配慮した鶏肉の特色JAS」で認証を取得した「純和鶏」は,独立行政法人家畜改良センター兵庫牧場が基礎鶏から育種改良した純国産鶏種「小雪」のメスと,同じく純国産鶏種「紅桜」のオスを交配した純国産鶏種「純国産鶏種たつの」(以下「たつの種」)である.たつの種は2006年より生産開始され,鶏肉は「純国産鶏種たつの」という共通のブランド名及びA社の個別ブランド名「純和鶏」で販売されている.

(2) 自社系列農場からと体処理の完全直営

「純和鶏」の養鶏生産は,すべて岩手県北東部の九戸郡洋野町にあるB農場で行われており,生産量は年間147万羽である.B農場は「純和鶏」の養鶏生産に特化しており,17名の従業員(うち社員15名)によって運営されている.鶏舎が33棟あり,すべてウインドウレスタイプ3である.

飼育日数,年間生産回転数,育成率,飼料要求率については,同社の一般ブロイラー用の海外鶏種を用いた養鶏生産に比べて,やや効率が低めであるが,特別な飼料配合で時間をかけて飼育している.また,「純和鶏」は一般ブロイラー用種と体型が異なり,歩留まりを確保するためにもより緻密な解体処理が必要である.

と体処理は,A社の関係会社であり,1979年からと体処理,1982年より解体処理を行なってきた岩手県内でも歴史のある食鳥処理施設であるC社(岩手県九戸郡軽米町)で行っている.「純和鶏」の処理は,2008年から開始され,従業員の手作業による解体を主としており,機械で行えない緻密な解体処理を可能にしている.

図1.

「純和鶏」生産の取り組みと流通フロー

資料:インタビュー調査により作成

(3) 循環型農畜産業の実態と外部評価

「純和鶏」用の配合飼料は,国産飼料用米を28日齢から出荷までの間に平均5%の割合で給与している.現在の飼料用米給与割合は養鶏成績面・経営面ともに安定しているため,飼料用米5%の給与割合を維持する方針である.

B農場では,環境負荷を抑えた持続可能な農場経営のために,養鶏場から日常的に排出される鶏糞を加工した肥料を活用し,関係2町,JA,および飼料会社と共同で循環型農畜産業を目指した飼料用米プロジェクトを2009年より開始した.B農場の敷地内で,「純和鶏」の鶏糞を,通常肥料化するのに60~70日程度かかるところ,高速鶏糞処理プラントで1日以内での処理を可能とした.その鶏糞肥料をJA経由で飼料用米農家各戸に販売し,飼料用米の生産時に使用する.秋に収穫した飼料用米は,JAライスセンターにて乾燥・脱穀処理を行った後,飼料会社にて穀物飼料にブレンドし,その配合飼料をA社の関係会社であるD社が購入し,B農場で「純和鶏」に給餌している.循環リサイクルを維持するに当たり,JAライスセンターで乾燥・脱穀後の籾を保管するスペース確保が困難であったが,関係町とJAのバックアップにより,現在では,同町の廃校小学校の体育館を保管庫として使用できるようになった.

この「純和鶏」による地域循環型プロジェクトの取り組みは,農林水産省主催の「フード・アクション・ニッポンアワード2010」で評価され,「プロダクト部門優秀賞」を受賞した.

2020年10月に,国内第一号の「持続可能性に配慮した鶏肉の特色JAS」の認証を取得した後は,2020年12月に,「純和鶏」のモモ肉が,適度な弾力と噛むほどにコクを感じるうまみの濃さが評価され,ジャパン・フード・セレクションでグランプリ(最高位)を受賞した.続いて,2021年1月に,「純和鶏」のムネ肉が,その繊維の細やかさ,柔らさ,ジューシーな食感が評価され,国際味覚審査機構(International Taste Institute)の最高位である三ツ星(極めて優秀)を受賞,モモも二ツ星(特記に値する)を受賞した.

(4) 販売チャネルと価格帯

A社が取扱う鶏肉トータルの販売先構成は,地域別でみると東日本エリアが60%,西日本エリアが40%である.業種別でみると,量販店60%,中食(惣菜)事業者20%,生協10%,その他10%である.販売形態は,生肉としての販売を主として,精肉向け65%,加工・業務向け35%の構成である.パーツ販売がほとんどであり,一般鶏肉と「純和鶏」の差はそれほどなく,ともにチルド商品75%,フローズン商品25%の構成である.各パーツは一袋2 kg単位で出荷されている.

委託工場にて一部「純和鶏」を原料肉とした未加熱・加熱品(つみれ,たれづけ商品,ローストレッグ,唐揚げ等)も生産・販売しているが,精肉向けの生肉パーツ販売が主体である.商品形態は,モモ,ムネ,ササミ,手羽先,手羽元,肝,砂肝のパーツ以外に,丸鶏商品も販売している.

販売価格は,一般の鶏肉より約1.5倍程度高い.鶏肉は,その高い生産性と効率的な加工・流通システムが確立していることから,単価が牛肉・豚肉に比べて低く,低脂肪でヘルシーなイメージがあること,比較的,宗教的タブーが少ないことからも消費者層が広い(戴,2022).中食・外食事業者においてもコストパフォーマンスの観点から鶏肉を使用することが多い.しかし,「純和鶏」では,地域内循環やアニマルウエルフェア,環境配慮などで生じるコストが転嫁された価格となっている.

(5) 食品表示にかかるコンプライアンス

「純和鶏」は,A社から特色JASマークを貼付した2kg入り袋で出荷された後,小売業者がそれを仕入れ,店内バックヤードにて袋を開封して小分けし,新たな少量パックに入れて末端消費者向けに店頭販売される.その際,「名称」と「原産地」は,仕入れた2kg袋と同様にすることが,各小売店のコンプライアンスに任されている4

現地調査時,出荷先の一つである店頭に並んでいた純和鶏には,「岩手県産 純和鶏モモ肉」と加工日,消費期限,内容量,販売業者の氏名又は名称及び住所」が記載されていた.しかし,T社は「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」の小分け業者の認証を取得していないため,店頭に並んだモモ肉の小分けパックには,特色JASマークが貼付されていなかった.

「名称」,「原産地」と同様,各店舗のコンプライアンスに任せて,純和鶏が「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」の認証を取得した鶏肉であることを,小分けパックや店頭POPで表示できればよいが,現行の制度下では,小売業者の各店舗が小分けの認証事業者の資格を取得しなければ,新たに特色JASマークを貼付できず,持続可能性に配慮した鶏肉であることを消費者に伝えられないのが現状である.

5. 考察

(1) 小売段階での特色JASマーク消失要因

実態調査を通して明らかになったことは,現行JAS法の規定では,養鶏生産・と体処理の段階で特色JASの認証を取得しても,量販店へ納入する精肉アウトパック工場や,小分けを行う店舗のバックヤードなどの各作業場が特色JAS認証を取得しておらず,量販店で陳列される最終商品等に特色JASマークの貼付やPOPでのPRができないことである.食肉加工業者や中食事業者を経由する場合も同様である.

販売先の量販店等が委託加工している精肉工場や小分け作業場,食肉加工業者や中食事業者の工場の全てが小分けのJAS認証を取得すれば,消費者に販売される最終形態に「持続可能性に配慮した鶏肉・鶏卵」の特色JASマークを貼付できる.しかし,小分け業者の認証に係るコストは,登録認証機関E社の場合,認証申請料67,000円,判定料73,000円,審査料52,000円のほか検査員の交通費実費が加算され,およそ20万円前後となる.しかも小分け認証は,小分け場所ごとに取得する必要があるため,例えばT社の場合,34店舗すべてのバックヤードで小分けのパック詰めを実施するとすれば,小分けに係る認証費用は34倍の680万円にものぼる.認証料金に加えて記録書類の作成・保存をはじめ,小分け規程や格付規程の見直し等,小分け業務遂行に係る人的コストもかかることが,純和鶏に小分け段階で特色JASマークをつけたくても小分け認証を取得できない要因であった.

純和鶏に「持続可能性配慮」をしたことを示す特定JASマークが貼付されなければ,①国産鶏種,②飼料米給餌,③鶏糞の循環活用とその認証費用に起因する他の鶏肉の約1.5倍にもなる価格の根拠やその意義を消費者に伝える情報源が消滅することになる.また,購入することでSDGsに寄与し得るエシカル商品としても消費者に認識されなくなるデメリットが生じる.

食肉流通が青果物流通と根本的に異なる点は,加工工程が常に流通に伴うことである.と畜解体が必要であること,部分肉加工・精肉加工といった異なる加工工程による多段階性を有していること,川上から川下まで商品形態が絶えず変わるという特徴がある.畜産生産・と畜処理の段階で特色JASを取得していても,次の工程を行う業者が小分け行者の認証を取得しなければ表示不可能となる現行のルールは,食肉の流通システムの実情には相容れない.

持続可能性に配慮した鶏卵の場合は,生産者から出荷する段階で6個入りの卵のパックに「持続可能鶏卵」,「平飼い」,「日本の種鶏の赤卵」,「国産飼料米を5%エサに配合」などの情報が記載されており,エシカル商品を扱いたい小売業者にとっても,エシカル商品を選びたい消費者にとっても,貼付された特定JASマークとともに「見える化」ができているため,有効なシグナリングとなっている.

(2) 問題解決のための提案

そこで,特定JAS認証未取得の食肉加工場にJAS認証の取得を促すための措置や,食肉加工場が現行の制度のもとで新たに特定JAS認証の取得をせずに,食肉の小分け行為のコンプライアンスを保証し得る既存の仕組みを活用した以下の3案を提案したい.

1つめは,有機JAS制度において令和4年に改正された「一定の基準を満たすことによる複数の小分け施設を1認証として扱う小分け業者の負担軽減措置」の適用である.①小分け責任者が,認証の対象となる全ての小分け施設の小分けについて,小分け工程に関する計画の立案及び推進並びに工程に生じた異常等に関する処置又は指導を行うこと,②認証の対象となる全ての複数の小分け施設が,共通の小分け規程及び格付表示規程により一元的に管理されていること,③小分け責任者が,前項の管理の確実性を確認することの三点が満たされ,全ての小分け施設が一元的に管理されマネジメントできることを前提として,支店が複数ある店舗の場合,本部が小分け業者の認証を取得すれば,すべての支店において小分け行為を行うことができるシステムが持続可能な鶏肉JAS制度においても適用できれば,取扱店舗数の増加に従って小分け認証に係る費用の増加を防ぐことができ,小売業者への小分け認証取得のハードルを下げることができる.

2つめは認証輸入業者の認証に際し,輸入業者と倉庫業者が別法人であっても,グループ化して認証を行う有機JAS制度の仕組みの適用である.持続可能性に配慮した鶏肉のJAS制度における,食肉生産・と畜・最終パック加工場の一体的認証システムを構築することである.川下までの一体的認証を適用することで,ロットごとに最終形態を想定した認証シールを用意すれば,最終小分けパック商品に持続可能な鶏肉であることを示す特色JASマークを貼付することが可能となる.

3つめは産業廃棄物マニフェストを参考にした管理方法の導入である.マニフェストとは紙や電子の形態をとる出荷毎に交付する管理伝票である.そのうち,持続可能性に配慮した鶏肉JASに電子マニフェストをつけることで,流通のどの段階においても,その鶏肉に特定JASマークを貼付できる担保とするシステムを構築することである.

6. まとめ

以上,持続可能な鶏肉JAS認証の実態と課題および解決策を考察した.持続可能な仕組みの形成,国産飼料米の利用促進,SDGs達成に寄与し,海外への輸出品としての見込みがある持続可能性に配慮した鶏肉であるが,青果物と異なる食肉流通ならではの課題に直面していることが明らかとなった.

消費者向けの最終販売形態である小分けパックの段階で特色JAS認証が取得されないと,特色JASマークが貼付できない.とはいえ,出荷先の量販店等が委託加工している精肉工場や小分け作業場,食肉加工業者や中食事業者の工場の全てが,JAS認証を取得することは,取引費用的にも認証コスト的にも現実的ではない.

本論では,加工前の精肉に付随する原産地や銘柄などを最終加工品まで保持する「日本農林規格等に関する法律」,異物混入のリスクを排除する「食品衛生法」,「食品等事業者が実施すべき管理運営基準に関する指針(ガイドライン)」などの法令遵守が行われていることを前提として,特定JASマークが貼付された食肉の小分け段階における認証ラベルの消失問題について考察を行った.そして,有機JAS制度での複数施設1認証というマネジメント認証システムをとりいれた小分け業者の負担軽減措置や,輸入業者と倉庫業者の一体的認証と同様に,食肉生産・と畜・最終パック加工場を一体的と見なして認証適用すること,その他,産業廃棄物マニフェストを参考にした管理方法の導入を提案した.

今日の食品流通は,大規模小売業が主導している.マーケットパワーの弱い立場にある川上の生産者や川中の加工卸業者が,絶大なるパワーを持つ量販店などの大規模小売業に向かって,ましてや1商品の小分け認証を取得してもらうように働きかけることは,ビジネスにおいては現実的ではない.

今回,事例としてとりあげた持続可能な鶏肉・鶏卵JASをはじめ,地鶏肉や有機畜産なども含めたJAS認証にビジネスツールとしての効果を発揮させるためには,川上で取得したJAS認証を川下まで各取扱店舗のコンプライアンスに基づいて引き継げるような,大規模小売業に向けた制度的な働きかけやある種のインセンティブが必要であると考えられる.また,青果物とは異なる食肉の特殊性を鑑みて,新たなJAS規格の創設に伴い,品目の特性や流通の事情に応じた柔軟なシステムを取り入れる必要がある.加えて,認証ラベルを消失させず,なおかつ品質が担保される(責任の所在を明確にする)仕組みの構築が今後の課題として残される.

付記

本論文は(公財)日本食肉消費総合センターの「国産食肉新需要創出へのチャレンジ優良事例調査報告2022」における調査結果を用いて作成したものである.

1  小分けとは,一般的に「一度区分したものを更に小さく区分すること」であり,物資の形態を裁断,仕分けすることによって,より小さい単位に変化させることをいう.また,小さな単位で流通していたものを,まとめて箱詰め,袋詰めする等によって,より大きな単位に変化させることも小分け行為とみなされる.JAS法上の認証小分け業者とは,小分けした物資にJASマークを新たに貼付する者をいう.

2  特色JAS「持続可能性に配慮した鶏卵・鶏肉」規格の制定経緯,考え方や内容詳細について山本(2020)を参照されたい.

3  ウインドウレス鶏舎とは,天井,壁,床を断熱材等で覆った鶏舎であり,①熱環境や照明等の舎内環境を安定的に維持することが可能である,②機械等の管理に不備があった場合,鶏の健康に多大な影響を与える可能性がある,③有害動物の侵入等による病気が発生するリスクが低い,の特徴を有している.なお,セミウインドウレス鶏舎は,開放型鶏舎にカーテンなどを設置し,ウインドウレス鶏舎に準じた強制換気等による環境コントロールを行いやすくした鶏舎である.

4  一般的に食品関連事業者がパック詰めや包装されていない生鮮畜産物を販売する際には,食品表示法(平成二十五年法律第七十号)第四条第一項の規定に基づき,「名称(その内容を表す一般的な名称)」と「原産地(国産品の場合は主たる飼養地の都道府県名,市町村名その他一般に知られている地名でもよい)」の表示が義務付けられている.パック詰めや包装された生鮮畜産物を販売する際は,それに加えて「内容量」,「消費期限」,「販売業者の氏名又は名称及び住所」を記載しなければならない.

引用文献
 
© 2023 地域農林経済学会
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