2023 年 59 巻 3 号 p. 137-144
This study aims to clarify the ideal approach for governmental support in farm management development through a case study of the respective support in the developmental stage of farm management in agricultural extension services by the Hiroshima Prefectural Government. The study observes an actual farm management development which the Hiroshima Prefectural Government set as a benchmark of the agropolicy and focuses on the problems faced by farm managers and how they solved them; what organizations, such as local governments, provided support; and how farm managers increased their management abilities. According to this study, the Hiroshima Prefectural Government changed the method of establishing the policy goal of agriculture from promoting agricultural items to purposing an ideal image of farm management development. In addition, it set the index of farm management development according to the organizational system and human resource.
政府は2014年に,農業法人,認定農業者,新規就農者,および集落営農をわが国農業生産の担い手と位置づけ,公的支援の選択と集中を本格的に開始した.このような状況において,既存の農業経営が企業経営体に移行するための公的支援(例えば,認定農業者への育成施策,家族経営協定の推進,「人・農地プラン」策定による担い手への農地集積推進や法人化支援1など)も徐々にではあるが拡大しつつある.このようななか,広島県は2021年3月に,農業経営の発展段階を組織形態,人的資源などをその指標として設定し,これに基づき農業経営体の経営状態を経年的に観察しながら適宜支援するという施策を協同農業普及事業において導入した.
これまでの農業政策は,家族農業経営の下での生産性向上,農業所得向上などを企図したものであった.また,農業経営に対する公的支援は,協同農業普及事業に基づき実施されていたが,それが施される時点での農業経営の状態に基づいた「経営の量的拡大」に資するハード面での支援であることがほとんどであった.
例えば暉峻(2003)は,基本法農政で想定された「自立経営」(=近代的家族経営)は,勤労者世帯の勤務先収入と同等かそれ以上の農業収入を実現するため,機械や設備を装備してより高度な商品生産を行うことをめざしたと指摘した.すなわち,機械化・大規模化といったハードウェア支援が基本であったことを示している.また,横山(2018)は,基本法農政の柱であった「選択的拡大」は,日本農業の基軸を輸入品と競合しない品目に絞ろうとしたものであると指摘した.すなわち,品目ごとの生産振興が中心的課題であったことを示している.
このように,従来の農業経営の公的支援においては,後述する広島県の取組のような,経営者に次のステップとしてめざすべき将来像をイメージさせ,それに向けた経営の質的高度化(いわゆるソフト面としての経営管理などの支援)を図るために,時間軸の概念を取り入れ経年的に経営状態を観察しながら適宜支援するという施策はほとんどみられない.
農業経営の発展に関する近年の研究として,木南・木南(2012)は,農業経営が持続的な競争力を有するには,経営能力に優れた将来の農業経営者を育成・確保することが必要であると指摘した.また梅本(2018)は,家族経営の継承が成り立たなくなってきたなかで,雇用労働力を導入する経営,とりわけ常時雇用者を雇用する経営(雇用型経営)が広く展開していくことが不可欠となっていると指摘した.さらに長命・南石(2018)は,雇用労働導入を図るうえで重要な人的資源確保のために検討すべき課題について,先進事例をもとに整理した.しかしながら,農業経営発展段階ごとに経営課題を把握し,そのための課題解決方法を実践から明らかにした既往研究は管見の限り見当たらない.
(2) 目的と課題そこで本研究は,広島県で実施されている協同農業普及事業における農業経営発展段階別支援を取り上げ,わが国の農業部門における公的支援の新たな方法として,農業経営発展に向けた課題解決のための実践方策を明らかにする.その目的を達成するために,①広島県の協同農業普及事業における農業経営発展段階別支援の状況を把握し,②普及組織による発展段階別支援の実践状況について検討したのち,③以上を総括し,この取組の制度上および実践上の特徴と課題を考察する.
(3) 研究対象の位置づけと調査方法研究対象の位置づけであるが,広島県の農業条件について確認すると,広島県は2020年の耕地面積に占める中山間地域の割合が89.8%と全国で最も高い.広島県における2020年の農業生産基盤の状況であるが,1経営体当たりの耕地面積が1.3haと全国の3.0haの4割水準となっている.このような農業条件の不利性によって,1経営体当たりの生産農業所得は179万円と全国平均の313万円の5割程度であり,基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合(高齢化率)は83.5%と全国の69.6%に比べて高い.広島県は農業生産基盤が脆弱化しており,地域農業の持続性を図るためには,担い手の育成が最重要課題となっている.
本研究の調査方法であるが,研究目的を達成するために,広島県農林水産局において経営発展段階別公的支援の政策立案を行った担当者(現・農水産振興担当部長),政策立案のベンチマーク対象となったL農園,経営発展段階別公的支援の対象となった個人経営体T,農事組合法人S,および株式会社Nに対するヒアリング調査を行った.調査期間は,2021年8月~2022年10月である.
協同農業普及業は,農業改良助長法(1948年)に基づき,都道府県の普及職員が農業者に直接,技術・経営支援を行い,生産現場での農政課題(新技術の普及,担い手の育成)を進める役割とともに,試験研究機関と農業者との双方向の橋渡しとしての機能を持つことを示している.この事業は,国民への食料の安定供給と地域農業の振興のため,国と都道府県が協同して実施するものである2.
高度経済成長期以降の協同農業普及事業における普及職員の活動内容について,「協同農業普及事業年次報告書」を農政上の大きな変化が起こった画期ごとに確認したところ,各画期における農政上の重要事項に従って次のような変遷を遂げていた.
農業基本法が施行された1961年度は,①自作農維持創設資金,農業近代化資金,農業改良資金等の活用方法に関する指導,②農業構造改善事業に関する普及指導,の3点が主な活動内容であった.
その後,1970年の総合農政期における水田転作推進,1992年の「新しい食料・農業・農村政策の方向」における認定農業者制度創設を経て,1999年に食料・農業・農村基本法が施行された.このうち,1999年度における主な活動内容は,①技術革新の進展等に対応した高度・先進技術等の普及,②生産性向上,地域活性化等のための地域農業振興ビジョンの作成に関する指導,③経営の分析診断等に基づく総合的な農業経営に関する指導,の3点であった.
このように,協同農業普及事業は,基本法農政導入期では「選択的拡大」と「農業の構造改善」を企図した基盤整備や新技術導入のための資金活用方法,総合農政導入期は水田転作が推進され,経済のグローバル化が進展すると農業経営の発展という概念が活動内容に導入されるなど,各画期の農政上の重要事項に従って活動内容が変化している.ただし,いずれの画期においても基盤整備や機械導入などハード面への支援が優先されていた.
(2) 広島県における発展段階別支援の導入とその制度設計広島県は,2021年3月に「2025広島県農林水産業アクションプログラム」(以下,「2025アクションプログラム」)を策定したが,そこでは農業経営の発展段階を組織形態,人的資源などをその指標として具体的に4つの層に区分してそれぞれの公的支援の概念を示した.それは,図1に示すように,「Ⅰ層=家族経営+一部パート雇用」,「Ⅲ層=常時雇用を導入」,「Ⅳ層=常時雇用者が生産管理者となり,経営者はマネジメントに特化」,「Ⅴ層=経営者はマネジメントに特化するが,農業経営を機能別に分化させそれぞれに常時雇用者が管理者となる」である.これらは,「Ⅰ層」→「Ⅲ層」→「Ⅳ層」→「Ⅴ層」と成長していくイメージである.なお,「Ⅱ層」は集落ぐるみでの農地維持を目的とした集落営農法人が位置づけられており,発展段階から除外されている3.

この時期における広島県農政の展開は次の通りである.「2025アクションプログラム」が策定される以前,2018年3月に策定した「2020広島県農林水産業アクションプログラム(第Ⅱ期)」(以下,「2020アクションプログラム」)では,「県産農産物のシェア拡大」といった文言で,品目別の産出額を成果指標として掲げており,その深層に「品目の生産振興を行えば担い手は育つ」という考え方があったという.この考え方は,横山(2018)が指摘する基本法農政の概念である「品目ごとの生産振興」と合致しており,「選択的拡大」と「農業の構造改善」(=ハードウェア装備中心の支援)のいわば「名残」であると捉えることもできる.このことは,農業生産基盤が脆弱化した現状において,とりわけ担い手確保が厳しい広島県で「過去の方法論をそのまま踏襲することで地域農業の持続性向上が期待できるのか」と広島県農林水産局内部で議論になったという.
そこで,「2025アクションプログラム」では,「地域の核となる企業経営体の育成」を基本戦略の第1に掲げ,成果指標についても,例えば,同項目において「売上高1,000万円以上の経営体を2021年の605から2025年には655に」といったように,広島県が想定するような経営発展を遂げた経営体の稼働数を目標値に据えた.このように,「2025アクションプログラム」には,「どのような担い手が育てば地域農業が持続的になるか」といった視点から,「地域農業をけん引するような担い手はどのような能力をどのように身に着けていけばよいか」というような発想の転換を行ったという.
(3) 経営発展段階別支援の方法と実施状況広島県では,「2025アクションプログラム」を受けて,協同農業普及事業における普及活動を次のような方針のもとで実施している.すなわち,普及対象経営体を,産地育成課題,経営体育成課題,一般活動,の3つに分類し4,産地育成課題および経営体育成課題については広島県が設置した3つの農業技術指導所が「2025アクションプログラム」の基本戦略に基づいて対象経営体を選定し,それぞれの普及指導年度計画を作成して,それに基づき活動を行っている.指導計画の作成・実行手順であるが,①産地育成課題は産地,経営体育成課題は経営体ごとに課題名を設定,②対象経営体の現状と以降5年間の売上高目標と5年後までにめざす経営発展段階を普及対象経営体とともに設定・確認,③当該年度における活動方針をそれぞれの課題ごとに策定,④当該課題の関係機関と事業を確認,⑤普及活動項目の立案および項目ごとの活動内容,成果指標,到達目標の策定と実行,⑥活動に対する自己評価を年度ごとに実施,である.このようにPDCAサイクルを回しつつ,対象経営体を5年間は観察しながら,発展段階に合わせた支援の方法を検討・実施している.
表1は,広島県における2022年度の普及対象経営体の経営発展段階別状況を示している.普及対象179経営体のうち,産地育成課題が119経営体,経営体育成課題が60経営体である.経営発展段階別にみると,経営発展段階に分類されない層(以下「0層」)が24経営体,「Ⅰ層」が86経営体,「Ⅲ層」が42経営体,「Ⅳ層」が6経営体,「Ⅴ層」が10経営体である5.なお,5年後までにめざす経営発展段階が現状より上位に設定されている経営体は,産地育成課題に位置づけられた119経営体の25%にあたる35経営体,および経営体育成課題に位置づけられた60経営体の40%にあたる24経営体の合計59経営体(全体の33%)である.

資料:広島県農業技術課提供資料に基づき筆者作成.
1)2022年度の普及対象経営体(179経営体)について,2021年度現在の経営発展段階ごとに2025年度(5年後)までにめざす発展段階ごとの経営体数を示した.「網掛け」は,現状と5年後が同じ発展段階にある経営体である.
2)「0層」は,経営発展段階に区分されていない経営体である.
このように広島県では,農業普及活動において経営発展段階別支援を導入しているが,この原点は「2025アクションプログラム」の前段階である2018年3月に策定された「2020アクションプログラム」(第2期)で広島県が示した「農業経営の成長ステージ」に基づいている.
この概念は,農業経営者の経営能力向上を想定したものとなっている.つまり,農業経営者が経営発展段階を1つ上位に進む際に経営課題が発生し,これが障害となって経営発展を困難にしているとの仮説の下で設計されており,この上位へ進む際に起こる経営課題を具体的に想定してそれに対して公的支援を行うというシステムが構築されている.これは,広島県農林水産局の政策立案担当者がこの概念を形成するにあたって,後述するような広島県内の農業経営者(L農園)における実際の経営発展状況の経年的なベンチマークによって設計したものであり,その際にベンチマーク対象経営体が経営発展段階を上位に移行させる際に経営課題に直面し,経営発展がいったん停滞したことを目の当たりにした点に起因している.
ベンチマーク対象となったL農園の概況であるが,圃場の所在地は広島市安佐南区である.2022年10月現在,農業用ハウス50棟(120a)で農業生産を行っており,生産品目はコマツナ,スイートコーンなどである.従業員数は,正社員が5人(女性2人,男性3人),パート社員が15人(全員女性)である.2021年度の売上高は8,173万円となっている.
図2は,L農園の経営発展段階とそれぞれにおける経営課題および広島県による支援の状況を示している.L農園の代表I氏は,広島市が実施する「ひろしま活力農業経営者育成事業」を活用して2005年から就農研修を開始し,2007年にハウス面積28aで就農した.この図は,例えば家族経営(一部パート)から企業経営(正社員雇用)に段階が1つ上位に進む際,L農園において「農作業,栽培技術,経営基礎力の習得」という経営課題が生じ,それに対して広島県においては,「普及組織による農業技術向上支援」を行ったということが示されている.

L農園の農業経営発展段階および経営課題と広島県の支援内容
資料:広島県(2018:p. 12)の図1–6を参考に,L農園への聞き取り調査に基づき筆者作成.
1)L農園「従業員数」の表記について,「正」は正社員,「P」はパート社員の雇用者数を示している.
I氏は就農当初,自身の経営を大規模に発展していく予定ではなかったが,地域農業が衰退していく状況をみて,自身の経営を発展させて雇用を生み出すことで地域農業の維持に貢献したいと考えた.広島県の政策立案担当者は,地域農業のリーダー的存在であるL農園を継続的に支援していくなかで,これまで述べたような経営発展に段階があり,それぞれの段階で経営課題が異なることをベンチマークによって認識した.また,L農園が経営発展段階を上位に移行させる際に,以前よりさらに高度な経営課題に直面し,その際に経営発展がいったん停滞したことを確認した.その際,政策立案担当者は,自身の普及職員時代の経験から,段階を上がる直前の停滞状況において発生した高度な経営課題を克服できなかった経営体が,発展段階を上位に移行させることなく滞留したケースが少なくないことを認識していた.このことが,広島県の政策立案担当者が農業経営における発展段階に沿った支援の必要性を認識した要因であったという.前述の広島県が示した「農業経営の成長ステージ」の概念は,このようなL農園に対するベンチマークによって形成された.
(2) 経営発展段階別支援の実践事例表2は,広島県において経営発展段階別支援が本格的に導入された2021年度の支援対象経営体において,発展段階ごとに実際に実施された支援の実践事例を示している.
| 発展段階 | Ⅰ層→Ⅲ層 | Ⅲ層→Ⅳ層 | Ⅳ層→Ⅴ層 |
|---|---|---|---|
| 経営体名 | 個人経営体T | 農事組合法人S | 株式会社N |
| 主な生産品目 | ・コマツナ,ホウレンソウ,ズッキーニ,カブほか | ・水稲,カボチャ,青ネギ他 | ・青ネギ |
| ・農作業受託 | |||
| 組織規模 | ・家族労働3人・パート5人 | ・正規4人・パート9人 | ・正規11人 |
| ・面積1.37ha(うち施設37a) | ・面積40ha | ・面積5ha(うち施設30a) | |
| 主な経営課題 | ・母親が体調不良で農作業ができなくなったことがきっかけで,正規雇用を検討. | ・近隣の5集落営農法人などが共同設立した農作業受託組織の実質的な作業者が当法人の従業員であり,業務が複雑に.業務の整理が必要. | ・生産規模が拡大するにつれて,次の点が問題に→①生産・調製・出荷作業が複雑化し,作業効率が悪化.②社内の体制を業務内容ごとのユニットに分けて行う必要性が拡大. |
| ・経営主が農園を不在となっても業務が滞らないようにしたい. | ・当法人の将来像が「見える化」されておらず,従業員が将来を不安視. | ||
| 経営課題に基づく支援内容 | ・農業経営者サポート事業を活用:中小企業診断士I氏→①自身の経営状況を数値で把握.②広島県が実施する農業雇用のマッチング制度を活用.③給与を確保するため,ハウスの保温性向上による増収をめざす. | ・農業経営者サポート事業を活用:中小企業診断士Y氏→①従業員全員で当法人と農産業受託組織の3年後の将来像を図式化.②従業員それぞれが,3年後にどうなりたいかをワークショップで表明.③それらをマッチさせた3年後の生産計画(人,品目,生産規模)を策定. | ・農業経営者サポート事業を活用:生産工程管理の専門家N氏→①N氏の監修のもと,生産・調製・出荷作業の「見える化」と効率的な作業方法の確定と共有. |
| ・普及指導員→法人が契約している公認会計士等から経営組織体制のアドバイスを得ることを提案. |
資料:ヒアリング調査に基づき筆者作成.
1)2021年度に実施された農業経営体に対する広島県による支援の内容について,発展段階ごとに1事例ずつ示している.
個人経営体Tは,Ⅰ層からⅢ層への発展において,家族労働力の減少に伴う正規雇用の採用という経営課題に直面した.その際,広島県の提案で農業経営者サポート事業6を活用して中小企業診断士I氏からのアドバイスを受けることになり,①自身の経営状態の数値での把握,②広島県が実施する農業雇用マッチング制度の活用,③正規雇用者給与分の収入を確保するため,増収を企図したハウスの保温性向上,の大きく3点についてアドバイスを受けた.個人経営体Tの経営主K氏は,このアドバイスに基づき普及指導員,および市町村や地元JAなどのサポートを受けつつ改善計画を立てた.K氏はこれまで,農業技術の向上は先輩農家のアドバイスなどを受けて実践していたが,このようなプロセスによって初めて経営面での技術向上の必要性を感じたという.
農事組合法人Sは,Ⅲ層からⅣ層への発展において,業務内容の複雑化と将来像が「見える化」されていなかったという経営課題に直面した.その際,広島県の提案で農業経営者サポート事業を活用して中小企業診断士Y氏のアドバイスを受けることになり,Y氏指導の下で普及指導員および市町村,地元JAなどの協力によって,ワークショップによる業務の「見える化」を行った.農事組合法人Sは,このようなプロセスによって代表者の頭の中にしかなかった将来像が全従業員に可視化・共有化されただけでなく,ワークショップの過程で従業員それぞれの考えが将来像に反映されたことで,法人全体の結束力が高まったという.
株式会社Nは,Ⅳ層からⅤ層への発展において,生産工程の複雑化に伴う作業効率の悪化という経営課題に直面した.その際,広島県の提案で経営者サポート事業を活用して生産工程管理専門家N氏のアドバイスを受けることになり,N氏監修の下で普及指導員および市町村や地元JAなどの協力によって作業工程の改善を行った.株式会社Nは,この支援を受けて生産・出荷工程における導線の見直しとそれに見合ったハードウェア(収穫機や選別施設など)の整備を行った.また,作業工程それぞれにおいて効率的な作業を行っていた従業員の作業手順を分析し,この結果に基づき作業手順の標準化を実施した.このことで労働生産性が向上し,現状の労働力構成でも規模拡大が行える余力が生まれたという.
これらの事例は,経営発展段階が上位に進むごとに経営課題が高度化し,課題解決にはそれぞれの段階に見合った方法の実践が必要であることを示している.また,普及対象経営体を経年的に観察・支援することによって,各経営体の経営発展段階に応じた能力獲得が可能であることも示している.さらに,市町村や地元JAなどの関係機関,農業経営者サポート事業を活用した中小企業診断士や生産工程管理専門家など外部協力者との協働体制の下で多角的な視点からの支援が実施されていることが確認できた.
本研究で得られた知見の総括とそれに基づく考察を行いたい.
総括であるが,広島県農業における経営発展段階別支援の特徴を整理する.まず制度上の特徴であるが,第1に,広島県は「2025アクションプログラム」を策定する際,「基本法農政の名残」からの脱却を企図して,その成果指標を品目ごとの生産目標から理想的な経営体の育成目標に転換した点である.このことは,普及活動において生産基盤の強化を基礎としてハード面だけでなくソフト面も含めた総合的な経営支援を展開することを可能にしている.
第2に,経営発展段階の指標が経営組織の発展および人的資源の獲得状況である点である.また,年度ごとのスポット的な支援から,時間軸の概念を取り入れた支援に転換した点も重要である.このことは,農業経営者に対して自身の経営の将来像を具体的に意識させ,その実現に対して具体的にどのような課題が存在し,どのように克服すればよいかを認識しながら事業を展開させることを可能にしている.
第3に,この概念が,実際に農業経営の発展段階を経た経営体に対する経年的な観察に基づき形成されたという点である.具体的にどのように経営発展段階を上位に進めていき,その際にどのような経営課題に直面し,どのように克服すれば次のステージに進めるか,という点を政策立案者が十分に把握したうえで概念形成を行った点は注目すべきである.
つぎに実践上の特徴であるが,第1に,経営発展段階が上位に進むごとに高度化する経営課題に対して,普及職員が外部協力者も含めた協働体制の下でそれに見合った支援を行っていた点である.農業経営者は,関係者の支援の下で段階を踏んで経営能力を高めることができており,結果的に能力に見合った経営発展が期待できる.また,中小企業診断士など外部協力者との協働体制の確立によって,多角的な視点からの支援が実現されていた点も重要である.
第2に,時間軸の概念を取り入れた支援に転換したことで,ハード面の支援を実施する際も経営発展状況を考慮して実施されていた点である.株式会社Nの事例でも示されたように,普及職員が普及対象経営体のハード面での整備を提案する際,対象者を経年的に観察したなかでの経営発展段階に沿った支援が実現されていた.この点は,補助事業にありがちな過剰投資問題の解消も期待できるものである.
つぎに,これらの総括を踏まえ,農業経営の高度化に向けた支援の展開方向と課題について考察を行いたい.第1に,農業振興目標の指標を品目ごとの生産量・額ベースから担い手ベースに転換することは,脆弱化した農業生産基盤を強化すること自体が目標となり,地域農業の持続性向上が期待できる.一方で,普及指導に対する概念の大転換であることから,普及職員が十分な理解の下で活動できているかという課題も残る.この点を克服するためには,普及職員が発展段階別支援の概念と重要性を十分に理解するための内部的な取組が必要である.
第2に,農業経営体への支援に時間軸の概念を導入することは,担い手を経年的に観察することで発展段階に見合った支援が可能になる.一方で,普及職員数が限定されているなかで,支援対象が制限される可能性は否めない.この点を克服するためには,普及組織の強化に加え,経営体への支援とともに産地形成支援も引き続き行い,農協組織など関係機関とのさらなる連携強化も視野に入れるべきである.
最後に,本研究で残された課題であるが,広島県が実施する農業経営に対する発展段階別支援はまだ緒に就いたばかりであり,その効果を計測することは現状では難しい.本研究においては,いくつかの事例分析を行い,その実相の一端を把握することができたが,今後はさらに事例研究を積み上げてこの方法論の効果を計測する必要がある.また,本研究は生産基盤が脆弱な広島県において導入された方法論を検討したが,他の都道府県ではそれぞれ地域農業の性格が異なることもあり,横展開の可能性を検討するためには,分析要素にどのような条件を付加すればよいかも含めて,今後,検討する必要がある.
本研究は,JSPS科研費JP20K06258の助成を受けたものである.