2023 年 59 巻 3 号 p. 145-152
In community-based farming corporations, organizational continuity problems are becoming apparent owing to the aging phenomena of members and retirement of farmers. This study aims to clarify the present situation and strategic alliances of agricultural partner corporations through a case study of entrepreneurial farm businesses in an agriculturally disadvantaged area. The results of this study verify the following three points: First, it demonstrates that constructing a management strategy for a deep partnership with the rural community and aiming for the company’s development are important. Second, it clarifies that centralized management resources are crucial to realize business development and investment for regional revitalization. Third, it establishes that community-based initiatives are important for understanding and sympathizing with management philosophy.
集落営農法人はこれまで,農業集落を単位として個別農家が共同して,主として土地利用型の農作物の生産活動を行うことで経営の効率化を図り,所得向上や地域農業の維持・発展に寄与してきた.農林水産省の『集落営農実態調査』によると,集落営農法人数は,2005年の646法人から2022年には5,694法人,集落営農に占める法人の割合は,同6.4%から39.6%へと増加傾向にある.集落営農法人の組織形態別にみた推移では農事組合法人,株式会社の形態の順で多く,ともに増加傾向を示している.その一方で,中国地方の集落営農法人の多くは,非法人と同様に中山間地域に位置しており,地域の農業条件や社会的条件の悪化などにより,その存続が危惧されている.具体的には,高齢化や離農などによる組合員の減少のほか,農業機械や施設などの更新,新たな投資が必要な時期にあるなどの理由より,集落営農法人自体が消滅してしまうことや,他の集落と合併する事態が生じている.また,集落営農法人では水稲が中心のところが多いが,主食用米は需要が減少しており,需要に合わせた品目の転換を模索する必要性が生じてきている.その他,畦畔管理・水資源管理などの集落内資源の管理や,獣害対策など,組合員の負担も増大している.
そうした状況と相まって,集落営農組織が法人化した地域では,経営層とオペレーター層が固定化された結果,その他の組合員は当事者性を失い,土地持ち非農家化が進行し,人手不足の問題が家族経営から地域組織の段階へと深刻化していることを小林(2020)は指摘している.
農業経営における後継者への経営継承や第三者継承,継承後のサポートなどに関する研究は多くの蓄積がある.しかし,集落営農を対象とした研究の蓄積は多くない.特に,集落営農法人においては,構成員から後継者・次世代リーダーを確保し継承を図ることが重要であるにもかかわらず,資産継承等について独自のものがなく,困難である(柳村,2003)ため,研究蓄積がほとんど見られない.
そうしたなか,後藤(2016)は,企業が中山間地域へ農業参入した波及効果について検討している.また橋本他(2022)は,中山間地域において農業参入を行っている農外企業のビジネスに対するバリューチェーン分析を行い,農業参入の持続性に求められる経営戦略を検討している.先行研究で見られるように,企業が中山間地域において農業参入を図ることは,国産農産物の調達拠点や農村の地域振興など,利潤追求とは異なる行動原理が働いていることが考えられるものの,具体的な実践の取組みについて明らかにした研究の蓄積は少ない.
そこで本稿では,中山間地域に農外企業が新規に事業参入し,複数の集落営農法人との提携による新たな法人を設立した事例を取り上げ,提携のメリット・デメリットを明らかにしたうえで,持続的な提携に資する要因を検討することを目的とする.
(2) 広島県における集落営農法人の概要広島県では,1989年度に初めて集落営農法人が設立されてから280法人が設立したが,合併,解散などにより2022年現在で267法人となっている.また県内水田面積に占める集落営農法人の割合は17.8%となっている.現在の課題として,集落営農法人の約75%が設立後10 年を過ぎ,役員やオペレーターの世代交代が進んでいないことがあげられる(広島県農林水産局就農支援課,2022).
広島県農林水産局就農支援課(2022)が2020年度に実施した,設立後10年を経過した県内の全戸参加型法人へのアンケート調査結果では,法人経営や集落の維持が困難(5年維持できない)と回答する法人が10 年前の7.3%から27.3%へと大幅に増加していた.また,法人経営の主な課題としては,構成員の高齢化・労働力不足,次期リーダーの不在などがあげられていた.そうした人材に係る設問では,現状「足りている」と回答した法人は79.5%であったが10年後には62.5%の法人で「不足する」と回答しており,人材不足の問題が深刻化していく様相が明らかとなっている.さらに,「10年後の将来像」に関しては,「自らの法人で経営」と答えた法人は29.5%であった一方で,「法人同士で連携」が52.3%,「農業法人や新規就農者などの担い手に作業や事業を委託」が11.4%であった.これらの結果は,集落営農法人の維持・存続が困難となることを想定するものであり,その対応策として,経営外の組織との連携の重要性を示唆するものである.
(3) 分析の視角これまで農業分野では,農商工連携や6次産業化など,異業種との連携に関する研究蓄積は数多くあるが,法人経営間での連携に関する研究の蓄積はほとんどみられない.本稿ではこのような連携に関する取組みとして,戦略的提携(strategic alliance)に着目する.戦略的提携は,同盟,協力,協調,連携などを意味し,特に経営分野においては,主に提携を意味している.なお,戦略的提携は研究している時代や研究者によって使われる用語も異なっているが,アライアンスと同義として使用される場合が多い.本稿では戦略的提携の定義を「2つ以上の独立した企業が,製品やサービスの開発,製造,販売において協力する場合」(バーニー・ヘスタリー,2021)とし,提携,協働,連携,アライアンスといった複数の呼称を「戦略的提携」で統一する.
バーニー・ヘスタリー(2021)は,戦略的提携を行う動機として,(1)既存事業のパフォーマンスの向上,(2)活動する競争環境条件の改善,(3)市場や業界への参入やそこからの撤退の容易さ,を挙げている.また,戦略的提携の目的としては,時間の短縮,経営資源の節約,リスクの軽減,規模の便益獲得,費用の削減,新規事業への参入,新技術の獲得,経営規模の拡大,などが指摘されている(川島,2015).松行(2000)は戦略的提携を形成する基本的特性として,(1)補完性,(2)対等性・自立性・互恵性に基づく協調関係,(3)緩やかな連結,(4)複合連結性,(5)相互学習の発生,を挙げている.また,松崎(2006)は戦略的提携の効果として,(1)リスク分散,(2)規模の経済性,(3)資源へのアクセス,(4)ネットワーク競争への参加,(5)競争からの学習,を挙げている.ルイス(1993)は,戦略的提携を構築し,その目的を達成するために必要な事項として,「目的の共有」「相互のニーズ」,「リスクの共有」の3点を指摘している.
こうしたなか,戦略的提携を包括的に考察する視点として,Das and Teng(2002)および桑名(2012)は,提携パートナーの選定,調整および成立を行う「(1)形成段階」,提携相手との合意事項,信頼関係の構築,コンフリクトの解決を行う「(2)実行・ガバナンス段階」,提携の評価,再構成,安定化および中止を決定する「(3)評価・進化段階」の3段階に整理した「発展プロセス」を提示している.本稿では,これら3つの段階に着目した「発展プロセス」を援用することで,戦略的提携のメリット・デメリットおよび持続的な提携に資する要因の検討が可能になると考える.
本稿の調査対象である(株)賀茂プロジェクト(以下,本稿では,後述する3法人連携の賀茂プロジェクトを新賀茂プロジェクト,それまでの賀茂プロジェクトを旧賀茂プロジェクトと呼称する)の本社がある豊栄町は東広島市北部の中山間地域に位置しており,東広島市の中心部であるJR西条駅から約20kmの距離にある.2021年3月末の住民基本台帳人口は3,061人であり,うち65歳以上人口が48.9%となっている.農業生産は稲作が中心であり,農家の多くが第二種兼業農家あるいは自給的農家である.対象法人の立地条件は,中山間地域率が全国で最も高い広島県の中でも典型的な中山間水田地帯である.
本稿では,新旧賀茂プロジェクトの現場責任者であるK氏へヒアリング調査を行った.調査は2022年2月から10月にかけて,計6回行った.
(2) サタケの農業参入旧賀茂プロジェクトは,(株)サタケ(以下,サタケ)の社内プロジェクトの一つとして始まった.サタケの従業員数は約1,000名(サタケグループの総従業員数は約3,000名),売上高は354億円(2021年2月期)であり,農業機械や精米機器,炊飯器機などの食品加工機器製造販売メーカーである.主な顧客は,農業生産者や農協などであるため,とりわけ農村における米生産は,自社の業務内容に直接的に関わるものである.サタケでは,2011年には自社の技術を用いた高機能米の加工および自社レストランでの販売を開始し,生産から加工・販売までの6次産業化の展開を図っている.
サタケの農業参入および旧賀茂プロジェクト設立のきっかけは,2014年に開催したサタケのグループ会社である佐竹鉄工(株)(本社,東広島市豊栄町清武地区,1964年創業,以下,佐竹鉄工)の創立50周年記念式典での出来事である(表1).式典の中で地域住民から,今後,地域の高齢化・後継者不足などが深刻化し,将来の地域農業や地域衰退に対する強い懸念・不安を抱いていることを知った.地域住民の将来への不安の声を聞いたことを契機し,本格的に農業参入することを決定した.具体的には,社内のプロジェクトとして進めていた「豊栄プロジェクト」を正式に立ち上げた.当プロジェクトの目的は,「豊栄に居住する人,関わる人すべてを幸せにする」ことであり,以下の5つの目標を掲げている.それらは,(1)人口の増加を図る,(2)中山間地域おける持続的な一次産業(農業,林業,畜産業など)を実現し,地域を発展させる,(3)地域経済を活性化させ,新たな仕事(雇用)を創出する,(4)若者のUターン,Iターンを促進し,生き生きとした魅力ある豊栄町を創る,(5)豊栄町民の健康寿命を日本一にする,であり,豊栄町においてこれらの取組みの実現を図っている.このなかで,旧賀茂プロジェクトは(2)の目標を実現するための取組みである.
| 主な取組み | |
|---|---|
| 2014年 | (株)サタケのグループ会社(豊栄町)50周年記念式典を契機に,豊栄町への地域貢献事業の立ち上げを決定 |
| 社内プロジェクトであった「豊栄プロジェクト」の立ち上げ | |
| 2015年 | 東広島市豊栄町清武地区の農家と共同で「旧賀茂プロジェクト」を設立 |
| 2019年 | 2階建て方式を採用して,3法人(旧賀茂プロジェクト・(株)あすか・農事組合法人グリーン8吉原西)が「新賀茂プロジェクト」に合併 |
| 2021年 | (有)トムミルクファームが株主となる(出資割合16.7%) |
資料:聞き取り調査より筆者作成.
旧賀茂プロジェクトは,2015年に「人・農地プラン」を活用し,豊栄町清武西地区に設立したが,申請手続きの開始時は,「人・農地プラン」の手順通りに進めていれば,法人設立が完了すると考えていた.しかし,東広島市農林水産課の担当者は農業外の株式会社が参入しての集落営農法人設立に関わる経験がなかったため,手続きに至る過程で様々な混乱が生じた.行政側としては「企業と地元農家とが共同し,農地を維持管理していくことが可能であるか」が重要な視点であった.ところが,サタケ側が説明に行く際には,サタケ社員のみで訪問し説明していたため,担当者は「地域の農家とともにやっていけるか」という懸念が拭いきれない状況が続いた.
法人化の申請が行き詰っていた時,元豊栄町役場の助役とその関係者が,東広島市役所豊栄支所と東広島市役所との橋渡しをし,サタケ側の取組み姿勢を理解してもらえたことで,申請手続きが進展するようになった.結果として,法人設立までに1年半近い歳月を要することとなったが2015年7月に旧賀茂プロジェクト設立が完了した.
設立時の資本金は350.9万円,経営面積は23haであった.資本金に関しては,豊栄町清武集落の農地所有者33名が共同出資したものである.出資割合は,地権者51%,サタケが49%であった.旧賀茂プロジェクトの設立に際しては,「設立区域の農地所有者とともに集落を守っていきたい」との想いから,集落営農法人の経営形態を採用した.
また,社員はサタケから2人の従業員が出向してきており,給与はサタケが全額負担していた.主な事業内容は,ヒノヒカリ(GABAライスの原料)の生産・乾燥調製であった.なお,収穫した米は,グループ会社の佐竹鉄工に全量,生籾として出荷するとともにサタケのGABA生成装置による「GABAライス」の加工委託も行っていた1.製造された「GABAライス」は,旧賀茂プロジェクトが直接消費者に販売しており,グループ全体として6次産業化による付加価値向上の取組みを図っていた.
2018年には豊栄町地区内の集落で活動していた「(株)あすか(以下,あすか)」と「農事組合法人グリーン8吉原西(以下,吉原西)」が参画した.その理由は清武地区の住民たちと同様に,将来の地域農業や地域社会の衰退に対する懸念・不安である.その後,2019年に「2階建て方式」を採用し,3法人は新たな共同経営体制となった(図1).

新賀茂プロジェクトの組織図
資料:聞き取り調査より筆者作成.
1)一般社団法人の立ち上げにおいて,「(株)あすか」および「農事組合法人グリーン8吉原西」の社名はそのままで,「旧賀茂プロジェクト」のみ「清武倶楽部」と社名を変更した.なお,各法人経営は集落内の大宗の世帯構成員(8~9割)が出資し参画した「ぐるみ参加型」である.
新賀茂プロジェクトの役員構成はサタケ取締役技術本部長が当社代表取締役として就任したほか,3地区の従来の代表者が新賀茂プロジェクトの理事として選出され,その後取締役となり,組織が構成された.新賀茂プロジェクトでは,3地区の地権者132人が構成員となり,管理する経営耕地面積は81haとなった.なお,2023年5月現在,地権者は,土地の合併などにより減少し,吉原西55人,あすか29人,清武38人となっている.2021年度の売上高は約8,500万円であり,そのうち米の販売が約85%を占めている.従業員は2021年12月1日時点で,社員1人,準社員5人,パート約30人である.資本金は1,526.3万円に増資され,出資割合は3法人の合計が51%,サタケが49%となった.なお,各法人の代表者が賀茂プロジェクトへ出資する形となっており,出資割合はそれぞれ17%である.また,地権者は,それらの出資割合の金額に対して,各法人で定められた金額の出資を行っている.
その後,2021年には,近隣の酪農経営1社が出資し,新たな株主となった.出資割合は,3法人と酪農経営で66.7%,サタケが33.3%である.サタケの出資割合は旧賀茂プロジェクトの49%から拒否権が発動できるギリギリの水準まで低下した.以前はサタケから資金援助などの支援を受けていたが,現在は何も享受していない.元々,当プロジェクトはサタケ社内のプロジェクトの一つであったことから,現在はサタケの先行技術本部長が代表取締役社長,経営本部グローバル・イノベーション推進室室長が副社長となっている.しかし,将来的には,サタケから独立した組織となることを考えているとともに,地域住民からは「サタケの会社」ではなく「賀茂プロジェクト」として認知される会社を目指している.
共同経営体制への移行に関しては,当初は3法人での単純合併を検討していた.しかし,各法人の社名や集落の誇りのほか,資産やこれまで培ってきた組織・文化などが消失することを危惧し,単純合併に難色を示した.こうした問題に対処するため,旧賀茂プロジェクトでは,農業法人の設立・合併問題に詳しい税理士との相談を繰り返し,新たに「2階建て方式」による組織運営への変革を行った.具体的には,地域の名前を残したいと願う各法人の構成員に対し,地域名を残す形として一般社団法人に組織変更した後,新賀茂プロジェクトと3法人(清武倶楽部・あすか・吉原西)との戦略的提携により,組織構造の変更を行うという方法を採用したのである.旧賀茂プロジェクトを(一社)清武倶楽部と変更したのも地域名を残すためである.このように,一般社団法人としたのは,地域名を残すことが主な理由であったが,各法人の経営資源を2階部分の新賀茂プロジェクトに集中させることも理由の一つであった.
組織実態としては,「2階建て方式」における2階部分は,各一般社団法人(以下,法人)およびサタケ,農業系ファンド(アグリシードファンド)が出資して設立された組織として,新賀茂プロジェクトが農業生産・加工に係る生産資材の仕入れや販売などの経営管理,中長期の事業計画,資金運用などを担っている.また,1階部分の農地・水路・農道維持管理,畦畔除草や水管理などの地域資源管理は,基本的に集落の地主が担う形となっている.こうした組織体制により,2階部分に経営資源を集中させることで,将来の事業計画や資金運用の実施が可能となっている.
また,1階部分の農地の管理業務に関しては,新賀茂プロジェクトと地権者は,農地中間管理機構を介して利用権の設定を行っている.具体的には,地権者が農地中間管理機構に農地を貸出し,農地中間管理機構は新賀茂プロジェクトと利用権設定を結んでいる.水稲の作付や収穫などの計画は新賀茂プロジェクトが立案する.その後,各法人の代表者に作業スケジュールを提示し,各法人では播種や収穫などの作業のアルバイトを募る.新賀茂プロジェクトは,作付けや収穫などの作業に従事してくれる個人とアルバイト契約を結んでいる.以上のように,新賀茂プロジェクトと各法人との間には直接的な業務関係はないため,各法人への収益配分はなく,各法人内で赤字が発生することもない.なお,農作業における農業機械(トラクターやコンバインなど)は,従来,法人が利用していた農業機械を新賀茂プロジェクトが買い上げ,所有とした後,作業者に無料で貸し出している.また,機械の故障や新規に機械を購入する際には,新賀茂プロジェクトが費用負担をしている.ただし,各法人の管理区域内で生じた問題に関しては,当該法人内で解決してもらっている.
現在,新賀茂プロジェクトは「持続的農業経営の体制づくり」を中長期ビジョンとして掲げ,以下の4点を重要な取組みとしている.それらは,(1)循環型農業(耕畜連携)の推進,(2)栽培,加工,販売による6次産業化の推進,(3)米(古代米など)の高い機能性を活用し健康増進への寄与,(4)米・果樹・野菜・地鶏養鶏などによる多角化経営である.中心事業は,稲作部門での付加価値米(古代米やGABAライスなど)の栽培・販売である.米生産に関しては,地域の中でも比較的生産条件が良好な水田地帯である,あすか地区では機械化・省力化技術を用いた多収米や飼料用米などの栽培を行っている.また,棚田が広がる清武倶楽部地区および吉原西地区では,減農薬米(コシヒカリ),古代米(黒米・赤米・緑米など),巨大胚芽米(金のいぶき)など高付加価値米の栽培を行っている.このような条件下において,様々な品種の作付けによる作期分散を図り,作業ピークの分散や機械の効率的な稼働による生産性向上に努めている2.
今後は稲作だけでなく,3法人が立地している地域資源を有効活用し,より創意工夫の余地が大きい果樹作や養鶏などへの事業展開を試みている.そのために,当該地域や周辺地域の農家や若者への当該プロジェクト参加を呼び掛け,持続的な農業生産に向けた取組みを行っている.
以下では,これらの実態を踏まえ,戦略的提携における1)形成段階,2)実行・ガバナンス段階でのメリット・デメリットを考察したうえで,持続的な提携要因について,3)評価・進化段階で検討する.
(1) 形成段階旧賀茂プロジェクトでは,サタケが清武地区稲作農家と協議を重ね,「人・農地プラン」を活用し設立に至ったが,法人設立までに1年半近い歳月を要した.その主な要因は,行政担当者の実務経験がなかったこともあるが,サタケと地元農家との関係性が理解されなかったことである.法人設立に向けて,サタケと地元農家は何度も協議を重ね,お互いに信頼関係を築いてきた.しかし,サタケの担当者のみで交渉に行ったため,行政側に信頼・協力関係を構築していることが理解されなかった.農外企業の参入に際しては,新開・原田(2016)が指摘しているように,受入れ側の地域としては参入企業が安易に撤退しないか,地域の慣習などを乱さないかといった懸念を取り除くことが重要であるといえる.本稿の事例は,農外企業が「よそ者」として農村地域に参入する際には,利潤追求という経済的側面だけでなく,地元地域の農家や人々との信頼・協力関係の構築や地域の問題解決への理解といった社会的側面が重要であることを示唆する結果であるといえる.
また,新旧賀茂プロジェクト設立では,各法人の地域において,高齢化・後継者不足などが深刻化し,将来の地域農業や地域衰退に対する懸念・不安を抱いていることが提携の理由であった.提携に際しては,サタケが豊栄町にグループ会社の佐竹鉄工を設立したことや精米機や炊飯器などを販売しており,米の生産との親和性が高かったことも背景にあろう.しかし,より重要な要素は,地元住民に対する協議を数多く重ねたことで,サタケが掲げる「豊栄町に居住する人,関わる人すべてを幸せにする」という目的が地元の人々に理解・共有され,受け入れられたことであると考える.この点は,川島(2015)が指摘するように,戦略的提携では,協力関係が極めて重要であり,提携を成功に導くためには提携者同士でどの程度理解し合い,信頼関係が構築されているか,についての重要性を示す結果であるといえる.
(2) 実行・ガバナンス段階新賀茂プロジェクトでは,先に述べたように,各法人の社名や集落の誇りのほか,資産やこれまで培ってきた組織・文化などが消失することを危惧し単純合併に難色を示したため,「2階建て方式」による組織運営への変革を行った.新賀茂プロジェクトでは,いわゆるM&Aのような形での単純合併ではなく,戦略的提携による組織の再編を選択した.新賀茂プロジェクトでは,農地の集積・拡大による規模の経済性や経営資源の節約・獲得のための時間短縮などがメリットと考えられ,地域の農地を含む地域資源の維持・保全の側面とともに,経営成長を促進させるための提携であったといえる.特に,新賀茂プロジェクトの経営資源を一元化させることで,利益を生み出し,新事業への投資・展開を可能としていた.そのなかで,地域社会の現状を踏まえ,将来リスクへの対応が図られていたことは重要な点と考えられた.他方,あすかや吉原西にとっては,将来の地域農業や地域衰退に対する強い懸念・不安を抱いており,地域農業の担い手を求めての提携であった.加えて,提携することにより,高橋(2016)が指摘する「リーダーや農作業労働力の確保の必要性(人的結合単位の広域化)のほか,集落を超えた規模拡大やコスト削減の必要性(土地結合単位の広域化),機械・施設利用の作業単位の確保の必要性(機械結合単位の広域化)」の獲得はメリットであるといえ,この点は,新賀茂プロジェクトも同様である.
その一方で,戦略的提携において避けて通れないのが,提携相手との情報の非対称性,裏切り行為への対応である.提携相手は,一面で価値創造のパートナーであり,他面で創造された価値(利益)の配分を競う交渉相手という二面性があり,獲得した利益をどう配分するかが問題となる(武石,2021).この点は,戦略的提携におけるデメリットといえる.そのため,提携者へのインセンティブを設けるなど対応策が必要となる.現在,新賀茂プロジェクトから地主へは地代支払のほか,畦畔管理や水管理への対価としての管理料を支払っている.また,中山間地域等直接支払,多面的機能支払などの直接支払交付金が各法人に支払われている.これらは,各法人の裁量で使用できるものである.今後は,現在の地代は1万円/10aであるが2023年度より地代を3割に削減し,実際の管理作業の賃金を向上させ,作業者の取り分を多くするような仕組みへと変更する予定である.実際に地域の現場に出て,作業を行う者への賃金(インセンティブ)を高く設定することで,作業者のモチベーションと作業効率の向上を図ることも狙いとして考えられる.こうした対応は,裏切り行為を抑止する効果が期待できるものといえる.
(3) 評価・進化段階新賀茂プロジェクトの設立以降,管理する経営耕地面積は23haから81haへと拡大し,2021年度の売上高は約8,500万円となっており,2022年度は約1億円を超える見込みである.旧賀茂プロジェクトの売上は,約2,000万円ほどであったことから,経営資源の集中が図られ,規模の経済性が働いた結果であると示唆された.現在,米の販売が売上の約85%を占めているが,今後は,果樹作や養鶏などへの事業展開を図り,稲作への依存度を50%以下にすることを目標としている.この点は,渡部他(2018)が指摘しているように,低米価期において大規模水田を抱え続けることのリスクや転作補助金の継続が不透明であることが背景にあると考えられる.
豊栄地域では500~550ha近くの水田がある.今後,高齢化や後継者不足などにより,耕作が困難な農地が発生することが予想されているが,可能な限り積極的に農地の引受けを行っていく予定である.新賀茂プロジェクトの経営理念には,「豊栄地域内に住む人々の食料を地域内で生産していくことこそが,将来的な地域の持続性を担保することになる」との考えが基盤にあり,その理念に賛同した近隣の酪農経営が2021年に株主となり,地域資源の活用を図るために耕畜連携に取り組んでいる.新賀茂プロジェクトでは地域内の資源活用や地域に根差した事業活動に賛同してくれる協力者を地域内外で募っている.サタケでは本稿での取組みを農村活性化のビジネスモデルと考えており,将来的には,国内外の農村地域に移植し,農村地域の活性化に寄与することを目指している.こうした展開を描けるのは,出自のサタケが精米機メーカーであり,当該地域にグループ会社を設立したなど,農業生産と親和性の高い事業展開を実践してきたからであるといえる.
本稿では中山間地域に農外企業が新規に事業参入し,複数の集落営農法人との提携による新たな法人を設立した事例を取り上げ,提携のメリット・デメリットを明らかにしたうえで,持続的な提携に資する要因について検討してきた.分析の結果,以下の3点が明らかとなった.
第一に,企業と地元住民との合意形成である.新旧賀茂プロジェクト設立では,出自であるサタケの社内プロジェクトが掲げる「豊栄町に居住する人,関わる人すべてを幸せにする」という目的を地元住民に理解してもらうために,設立の準備段階から幾度となく話し合いの場を設けることに努めてきた.結果,両者が納得する形での法人設立となった.
第二に,地元法人に寄り添った提携である.新賀茂プロジェクト設立にあたり,各法人は,自身の社名や集落の誇りのほか,資産やこれまで培ってきた組織・文化などが消失することを危惧し,単純合併に難色を示した.そのため,各法人に寄り添う形で「2階建て方式」による組織運営への転換を図った.
第三に,作業者へのインセンティブ向上に資する戦略である.実際に農作業や管理作業を行う作業者と直接契約を結び,賃金設定を設けることで,作業者のモチベーションと作業効率の向上を図る戦略を実施していた.こうした対応は,裏切り行為を抑止する効果が期待できるものといえる.
以上,持続的な提携に資する要因について検討してきた.ただし,本稿の結果は経営組織の一側面からのものである.今後は,提携法人の取組みやステークホルダーとの関係に関する分析が必要である.この点に関しては,今後の課題とする.
本稿は,JSPS科研費JP20K06258の助成を受けたものである.ここに感謝の意を記す.