農林業問題研究
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個別報告論文
他出者が出身地の地域役員を担う動機の解明
―京都市右京区京北鳥居町を事例として―
小林 悠歩中塚 雅也
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2023 年 59 巻 3 号 p. 153-160

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Abstract

This study focuses on the motives of out-migrants for becoming board members in their home villages, specifically in the case of Torii, Keihoku, Ukyo Ward, Kyoto City. Based on interviews with three out-migrants, it was revealed that they had four types of motives: 1) their own positions or characteristics, 2) the conditions of their parents or parents’ houses, 3) their feelings for their home villages, and 4) the relationships with residents in their home village. Therefore, for out-migrants to become board members in their home villages, it is important that residents create an opportunity for local children, who may be out-migrants in the future, to learn how adults maintain their villages, inform out-migrants of current situations in their home villages, and maintain out-migrants’ relationships with their former schoolmates of the same age.

1. 研究背景と目的

農山村地域では人口減少,少子高齢化により,地域活動の担い手不足が深刻となっている.居住者だけでの地域活動の継続が困難になりつつある地域も散見され,地域外に居住する担い手と協働する動きが進んでいる地域もある.また,総務省をはじめ国や各自治体においても,地域外から地域と多様に関わる「関係人口」を創出する取り組みが行われており,政策的にも地域外の人材を地域づくりの担い手として取り込む動きが盛んになってきている.

地域外に居住する人は,大きく,地域に地縁・血縁のある者,ない者に分類することができるが,徳野(2008)は,集落単位での各世帯の構成と他出者の動向を探る「T型集落点検」を推奨すると同時に,赤の他人との交流よりも,家や集落の担い手となりえる可能性の高い他出者との交流の重要性を指摘している.さらに,大久保他(2011)は,居住者数・居住世帯数が減少する現状において,農山村に暮らす高齢者や独居世帯を支える存在としてだけでなく,農山村の地域社会や地域資源の維持を支える存在として,他出者を捉える視点は重要であると指摘する.実際に,他出子は,消防団,祭礼の担い手など,集落維持活動に重要な存在となっている地域もあることが明らかとなっている(小林・筒井,2018).

このように,住民の数が減少する中で,住民にとってより身近な存在である他出者を地域活動の担い手として取り込むことは重要と考える.

農山村出身者で都市部などへ他出している者は,主として,「他出子」,「他出子弟」,「地域外家族」,「他出者」などと呼ばれ,これらを扱った研究は一定の蓄積がある.先行研究を整理すると,主として,実家への支援に関するものと,出身地の地域社会に関わるものに分けることができる.前者としては,他出している者による実家にいる親への生活・農業支援の実態や特徴,意向,課題が明らかにされてきた(芦田,20062010石阪・緑川,2005久保・糸原,2013細田他,2003など).一方,後者としては,他出している者による地域活動・組織への関わりの実態や意向(甲斐他,2008小林・筒井,2018など),友人関係とふるさとへの関心・参画の関係性(菅原他,2006),地域の祭事への他出者の継続的な関与を可能にしてきた要因(大久保他,2011)を捉えたものがある.

実家への支援に留まらず,地域社会を支える担い手としても他出者が期待される現況において,他出者の地域社会への関わりに関する研究は,更なる蓄積が求められる.また,実際に他出者を地域活動の担い手として取り込むには,すでに地域活動に関わっている他出者を対象に,なぜ彼らが地域活動に関わっているのか,その動機を個々の他出者ごとに詳細に探る必要があるが,その点を明らかにした研究は見られない.

そこで,本研究では,地域社会を維持していく上でもとりわけ,地域の役員層の確保は重要であると考え,地域の何らかの役職を担ってきている他出者を取り上げ,他出者本人への調査から,なぜこれまで地域の役員を担ってきたのか,その動機を明らかにすることを目的とした.その上で,他出者を地域役員に取り込むために重要とされる方策を探り,提示することとした.なお,ここでは個々の役職に就く経緯を把握した上で,地域役員を担うという関わり方をなぜ行っているのか,対象者が抱く理由を動機として捉え,その解明を試みたい.

本研究では,「他出者」を「対象集落出身者で,現在は対象集落以外の地域に主な生活の拠点がある者」とした.

2. 研究方法

対象地域は,事前調査により,これまでに他出者が何らかの地域の役職を担ってきていることが確認できた,京都府京都市右京区京北鳥居町とした.対象者は,鳥居町の2021年度町会長,2022年度町会長への聞き取り調査から,地域外に居住していると地域側に認知されており,かつ2007~2022年度までの16年間のうち,地域の何らかの役職(「鳥居町役員名簿」に記載されている役職)を担ってきた経験のあることが確認できた他出者を全て選定した1.選定された対象者3人2にそれぞれ2~2.5時間程度の聞き取り調査を行い,これまでの地域への関わりとなぜこれまで地域役員を担ってきたのかを尋ねた.また,2021年度町会長,2022年度町会長に鳥居町の概要や役職についての聞き取り調査も行い,合わせて「鳥居町民だより」,「鳥居町会規約」,「令和4年度鳥居町役員名簿」といった資料収集も行った.調査は全て2022年5月に行った.

分析では,聞き取った内容をテキスト化した上で,なぜこれまで地域役員を担ってきたのかという筆者の問いかけに対して,「〇〇だから/〇〇なので/〇〇が理由です/〇〇がきっかけとなっている」と対象者が回答した事象の抽出を行った.そして,対象者全員の動機を一覧にし,内容の類似性から分類した上で,他出者が地域役員を担う動機はどのようなものなのかを特定し,動機以外に対象者が地域役員を担う上で重要であると考えられる要素も踏まえ,他出者を地域役員に取り込む上で重要な方策を考察した3

なお,事例対象地域である鳥居町は,鳥居町を含む10集落からなる山国地区に属し,農山村に位置する集落である4.2022年4月1日現在,鳥居町の人口は114人,世帯数は48世帯である(京都市住民基本台帳).

3. 地域の役職と役員活動

(1) 対象者の概要と地域の役職

調査対象者は,表1に示す通りで,A氏は70歳代前半,本家の長男,B氏は70歳代前半,分家の次男,C氏は60歳代後半,分家の長男であり,それぞれ車で約1〜2時間の場所に居住する.

表1. 調査対象者の概要
性別 年齢 現居住地 続柄 歴任した役職(期間:年度)
A氏 男性 70歳代前半 大阪府箕面市 長男 山国神社委員(2011~2016)・副町会長(2021)・隣組長(2022)
B氏 男性 70歳代前半 京都府京都市 次男 山国神社委員(2017~2018,2020~2022)・隣組長(2022)
C氏 男性 60歳代後半 京都府向日市 長男 山国神社委員(2014~2017,2021~2022)・農家組合会計(2019~2022)・隣組長(2021)

資料:筆者作成.

「令和4年度鳥居町役員名簿」を見ると,鳥居町には,役員会(町会長,副町会長,会計,委員,監査委員),隣組長,市政協力委員,山国神社委員,八幡神社役員,農家組合(組合長,副組合長,会計,委員),農業共済組合,鳥居公民館,山国自治会,鳥居町自主防災部,体育委員,保健委員,京北六ヶ土地改良区の役職が存在する5

これまで,対象者3人が担ってきた役職は,副町会長(町会長補佐),隣組長,山国神社委員,農家組合会計である.いずれの役職も役員報酬は発生する.副町会長は,任期1年で,町会長の補佐をする他,役員会への出席,総会での議長を務めること,行政などからの配布物を仕分け,各組長へ届けることなどが主な役目である.2021年度までは総会での指名選挙で選ばれていたが,2022年度からは前年度の役員会での選任によって選ばれることとなっている.隣組長は,任期1年で,月2回程度,配布物を各家に配ること,組ごとで回る八幡神社(鳥居町の氏神)の宮当番にその組が当たっている年は祭事の際に舵取りをすることが主な役目である.家ごとに輪番で回ってくる.山国神社委員は,任期2年で,主に山国神社(山国地区の氏神)の掃除,祭事の準備や当日の出役,年末のしめ縄づくりなどを行う.予め年間の主な出役スケジュールが決まっており,地域外に居住している者でも比較的やりやすい役であると言われている.総会での指名選挙で選ばれる.農家組合会計は,任期2年で,年に2~4回ほど開催される役員会議への出席や,農業に必要な機械・道具に関わる出納業務を行うことが主な役目である.総会での指名選挙で選ばれる.なお,選挙で選ばれた者の拒否権は存在する.

(2) 3名の役員活動

A氏は,これまで,2011~2016年度まで山国神社委員を担った.その経緯としては,2011年度の神社委員であった人が,任期途中に体調不良で役を担えないこととなり,代役が必要という話になった.その際,たまたまA氏の家が隣組長に当たっており,他の組長とも話し合いつつ,誰かに頼みに行くのも大変であることから,自ら担うことにした.本来なら,代役として,2年の任期で終わるはずだったが,次の神社委員がなかなか決まらず,総会での指名選挙で選ばれ,自身が承諾した上で,合計3期引き受けた.また,2021年度には総会での指名選挙で選ばれ,副町会長を引き受けた.行政などからの配り物を仕分け,各組長へ届ける役目はA氏が地域外に住んでいることを配慮した地域側の判断で,他の委員が行っていた.さらに,2022年度は隣組長も担っている.その他,2016年から山国神社の神職を担っている.A氏は現在大阪府内の会社で勤めを続けながら,土曜日,日曜日や神社などの用事があるときに鳥居町に帰っている.その際は,神社や地域の仕事の他に,母親のお世話や田畑の草刈りなどを行っている.現在の居住地から鳥居町までは車で2時間弱の距離である.

B氏は,これまで,2017~2018年度,2020~2022年度と山国神社委員を担ってきている.その経緯としては,役員の人材不足の状況の中,B氏が地域外に生活の拠点を置いていることを配慮した地域側の判断があり,地域の中核的な役ではなく,サブ的な役からどうかと声をかけられ,最終的には総会の指名選挙で選ばれ,自身が承諾した上で,引き受けている.また,2022年度は隣組長も担っている.その他,5年ほど前から鳥居町の老人クラブに加入し,集落内の草刈りや清掃活動,正月にはしめ縄づくりなども行っている.B氏は現在京都市の市街地にある会社で勤めを続けながら,主に土曜日と日曜日に帰ってきている.その際は,実家やその周辺の管理をする他,庭の管理のアルバイトなどをしている.現在の居住地から鳥居町までは車で40分弱の距離である.

C氏は,これまで,2014~2017年度,2021~2022年度と山国神社委員を担ってきている.また,2019~2022年度の現在まで農家組合会計も担ってきている.これらの役は,最初,事前に依頼の声かけがあり,最終的には総会の指名選挙で選ばれ,自身が承諾した上で,引き受けている.地域外に住んでいることを配慮した地域側の判断があり,地域の中核的な役については言われていない.2021年度は隣組長も担っていた.C氏は2022年3月まで京都府向日市内で役所勤めをしていたが,現在は退職しており,週に3,4回は帰ってきている.その際は,実家の維持管理,母親の身の回りの手伝い,田畑での農作業などを行っている.現在の居住地から鳥居町までは車で約1時間の距離である.

4. 地域役員を担う動機

(1) A氏

A氏は,小学校卒業時まで,鳥居町におり,その後は父親の転勤や自身の進学,就職のため,他出している.父親の転勤の際は,家族で転居したため,10~15年間は実家を空けて,親も鳥居町にいない時期があった.鳥居町に住んでいたのは,幼少期の12年間だけだったが,「(地域に)同級生がたくさんいることはやっぱり(理由として)ある」(A-1)と発言する.また,幼少期から山の掃除や伐採作業,溝掃除といった,むら総出で行われる日役などに行っている親の姿を見てきており,地域のみんなでむらを守っていくものだと思ってきている(A-2)のもあるという.加えて,小さいころから,むらのことや親戚の法事などに,親が行けなかった場合は,長男であることを理由に,代わりに行かされてきた.これまで長男であることを理由に親に言われてきたことが多くあり,長男というのはそういうものであると思ってきた(A-3).

他出してからは,何かがあり,どうしても出ないといけなくなった集落の日役や農作業をしに帰って来ることはあったが,地域のことはしなくても,自分の親を含め,住民の方がやってくれていた.しかし,次第にそれまで地域のことをやってくれていた住民の方たちが引退していき,いよいよ地域の役をする人数が少なくなり,そういった人たちに負担がかかり始めてきた状況を見ていたため,よそに住んではいるものの,自分ができる役はやらないといけないと思い(A-4),やってきた.

2010年に父親が亡くなり,その後から地域の役をするようになった.「お父さんの代わりをしないといけなくなったから」(A-5),「(それが)地域に入り込むきっかけになります」と発言する.さらに,鳥居町に実家があること(A-6),母親がいること(A-7)も理由になっているという.「母親が鳥居町のみなさんにお世話になっているので,鳥居町と関係なしの生活にしようとは思わない」と発言する.

A氏は小学校卒業時に他出したため,現在地域のことをする上で,知らない人も多く,その点は心苦しい部分であると感じている.

(2) B氏

B氏は,高校卒業時まで鳥居町におり,その後,就職で京都市の市街地へ他出した.しかし,その年に父親が亡くなり,母親が鳥居町で一人暮らしになるため,B氏は鳥居町に戻ることにし,職場は変えずに鳥居町から通っていた.27歳で結婚し,再び京都市の市街地へと他出するが,それまでの10年ほどの間には父親の代わりというのもあり,日役に出役する他,鳥居町の公民館の役を担ったり,消防団,青年団の活動を行ったりもしていた.他出後は,地域でやっていた役は全て退いたものの,週に1回ほど,母親に顔を見せに帰ったり,日役に度々出役したりしていた.そのような生活が30年ほど続いたが,母親がケガをしたことをきっかけに母親の体が次第に弱りはじめ,それからは実家に帰る回数も週1回から週2回へと増えていき,母親と一緒にご飯を食べたり,身の回りのことを手伝ったりするようになった.

その後母親が介護施設に入所することとなった時から,B氏が実家の管理をするようになった.同時にその頃から,地域の役も担うようになった.2020年に母親は亡くなったが,実家の管理や地域の役は引き続き行っている.自分に責任のある建物(実家)が地域にある以上は,役をすることは務めや義務である(B-1)のかなと思っている.また,地域の活動をしないと,周りの方にご迷惑をかけるという思い(B-2),週に数回でも田舎におりながら,なぜ役をしないのか,という気持ちを抱いている周りの方もおられる可能性もあるかなという思い(B-3)があり,役を引き受けている.加えて,田舎の人口がどんどん少なくなってきており,役をする人は短期間で次々と役を背負っていかないといけない状況であるため,何かお返しをしないと(B-4)とも思っている.また,現在(2022年度)の鳥居町の町会長が同級生であり,自分の世代が中核的な役をやっている状況であるため,大きな顔をできない(B-5)というのもあるという.

そして,美化作業など,「地域全体の集まりに行くとき,そういう役の活動をしていないと,どうしても引いてしまうので,人との関わりが円滑にできるように(B-6),自分のできる範囲で役の活動をしていきたいなという思いがある」とも発言する.また,奉仕活動が好きである(B-7)ことも理由となっているという.京都市の市街地においても,ゴミ拾いなどのボランティア活動に参加している.更なる理由として,役をやると山国地区の同級生やその息子とのつながりができる(B-8)ことがあるという.また,母親の田舎での立場を守ってやりたいという思い(B-9)も理由として働いてきた.例えば,「あそこの息子は地域の活動に対して一切無視だ」など母親が周囲から後ろ指をさされないようにということである.

B氏は他出する前にも地域の役をやっていたり,他出してからも日役など地域の活動に度々顔を出してきたりしており,地域とのつながりを保持していたため,現在も地域には溶け込みやすいと感じている.一方で,B氏が地域の活動に参加している姿に対して,「地元に戻って来るのか」,「中途半端な関わりをしている」などの住民の声が耳に入ってくることもあるという.

(3) C氏

C氏は高校卒業時まで,鳥居町におり,その後は大学進学のため,他出した.大学卒業後に就職で京都府向日市に居住してから,現在に至るまで同市に居住している.他出してからは,実家にいる両親や近所の親類とのつながりは強かったが,地域とのつながりはほとんどなかった.しかし,父親が病気になり,10年ほど前からC氏がその代役をやるようになってきた.最低限,鳥居町の溝掃除には参加するようにしてきた.また,鳥居町の総会も時々参加するようになった.2017年には父親が亡くなった.地域の役も含めて,地域活動については,父親が健在な時は任せておけばいいという気持ちだったが,「父親の体調が悪くなったり,亡くなったりすること(C-1)がきっかけとなって,長男なので(C-2),やらないと仕方ないなということもあって,やってきている」と発言する.

地域との関わりにはブランクがあるため,役員の集まりに行った際には同級生以外はほとんどわからない状態で,少し様子を見ながらの関わりになっているという.幼少期から親の姿や地域の状況を見聞きしてきて,役はみんなでやるもので,その中でみんな生きていっている,そういう地域なのだと理解してきた(C-3).また,地域のことに限らず,例えば,中学校や高校の生徒会,職場の労働組合など,自分が構成員となっている集団において,役を頼まれたらやるのは当たり前だという感覚を元々持っている(C-4).更なる理由としては,この地域に家,田畑,山があって,それらを管理している者として,地域に対して責任がある(C-5)と思っていることもあるという.都会と違って田舎は自分のものであっても,地域との関係が出てくる,共同でやらなければいけないことも出てくるということである.そして,母親が地域にいること(C-6)や,自分が生まれ育った土地は守っていかないといけないという気持ち(C-7)があり,地域のできる役ぐらいはやらないと,ということもある.

(4) 動機の分類

2は,対象者3人の動機を一覧にし,内容の類似性から分類したものである.まず,自身が「長男であること」,元々持っている「奉仕活動への関心」や「構成員として役をやるのは当たり前であるという感覚」が動機として確認できた.これらは,その人が置かれている立場やその人が元々持っている特性であり,「立場・特性」に関する動機としてまとめた.

表2. 動機の分類
主な発言内容(4節1~3項文中での番号) 小項目 大項目
これまで長男であることを理由に親に言われてきたことが多くあり,長男というのはそういうものであると思ってきた(A-3) 長男であること 立場・特性
長男であること(C-2)
奉仕活動が好きである(B-7) 奉仕活動への関心
自分が構成員となっている集団において,役を頼まれたらやるのは当たり前だという感覚を元々持っている(C-4) 構成員として役をやるのは当たり前であるという感覚
父親の逝去により,その代わりをしないといけなくなった(A-5) 父親の体調不良・逝去 親・実家の状況
父親の体調が悪くなったり,亡くなったりすること(C-1)
地域に実家があること(A-6) 実家の存在
自分に責任のある建物(実家)が地域にある以上は,役をすることは務めや義務である(B-1)
家,田畑,山があり,それらを管理している者として,地域に対して責任がある(C-5)
地域に母親がいること(A-7) 母親の存在・母親の地域での立場を守ること
母親の田舎での立場を守ってやりたいという思い(B-9)
母親が地域にいること(C-6)
幼少期からむら総出で行われる日役などに行っている親の姿を見てきており,地域のみんなでむらを守っていくものだと思ってきている(A-2) 幼少期から醸成された地域での共助意識 地域への思い
幼少期から親の姿や地域の状況を見聞きしてきて,役はみんなでやるもので,その中でみんな生きていっている,そういう地域なのだと理解してきた(C-3)
地域の役をする人数が少なくなってきた状況を見ていたため,自分ができる役はやらないといけないと思ってきた(A-4) 役員の人材不足の状況への貢献意識
田舎の人口がどんどん少なくなってきており,役をする人は短期間で次々と役を背負っていかないといけない状況なので,何かお返しをしないと,という思い(B-4)
自分が生まれ育った土地は守っていかないといけないという気持ち(C-7) 地域への愛着
地域に同級生がたくさんいる(A-1) 同級生の存在・同級生とのつながりができること 住民との関係
同級生やその息子とのつながりができる(B-8)
地域の活動をしないと,周りの方にご迷惑をかけるという思い(B-2) 地域の人との人間関係を良好に保つこと
週に数回でも田舎におりながら,なぜ役をしないのか,という気持ちを抱いている周りの方もおられる可能性もあるかなという思い(B-3)
自分の世代が中核的な役をやっている状況なので,大きな顔をできない(B-5)
地域全体の集まりに行くとき,そういった役の活動をしていないと,どうしても引いてしまうので,人との関わりが円滑にできるように(B-6)

資料:筆者作成.

次に,「父親の体調不良・逝去」や,「実家の存在」,「母親の存在・母親の地域での立場を守ること」といった,地域にいる親の状況変化や地域に実家があることへの責任感・義務感などを伴う動機がみられた.これらは,いずれも親や実家の状況に関わることであり,「親・実家の状況」に関する動機としてまとめた.

続いて,地域活動に関わる親の姿や地域の状況を見聞きしてきたことによる,「幼少期から醸成された地域での共助意識」,地域の人口減少に伴う「役員の人材不足の状況への貢献意識」,自分が生まれ育った土地を守っていかないといけないといった「地域への愛着」が動機として確認できた.このような共助意識,貢献意識,愛着はいずれも地域に対する思いの表れであり,「地域への思い」に関する動機としてまとめた.

最後に,地域にいる「同級生の存在・同級生とのつながりができること」や,地域にいる人に迷惑をかけないように,不信感を抱かれないように,地域にいる人との関わりが円滑にできるようにするためといった,「地域の人との人間関係を良好に保つこと」が動機としてみられた.これらはいずれも地域にいる住民との関係に関わることであり,「住民との関係」に関する動機としてまとめた.

ところで,これらの内面的な動機の他に,地域の環境や自身の状況として,次のような外的要因があったことも確認された.まず,「地域のこともあるので,会社に行く回数を減らしている」(A氏),「定年を過ぎて少し楽になった」(B氏),「定年を迎えて時間的,精神的に余力ができた」(C氏)と仕事の都合がつけやすい,または時間的・精神的な余裕ができていた状態であったことが確認された.また,「体が軽いので,役をしていて重宝されていると思う」(B氏),「地域のことをやる上で,今の健康状態をいつまで維持できるか不安はある」(C氏)というように,自身が健康であったことにも言及している.そして,「出身地の地域活動に関わることについて家族と話し合う時があった」,「行くのに2,3時間かかる所なら,話は別である」(B氏)といった発言も聞かれ,他出先の同居家族の理解があったことや現居住地と出身地域の距離が近いことも確認された.

加えて,「常に地域にいないといけないような役だとできていない」(A,B,C氏)との発言があるとともに,町会長(2021年度)も,他出者が地域に帰ってきている時は,住民らは積極的に会話をし,他出者の状況の理解と配慮した役員依頼をするようにしていると言及するように,現状の役員の役割が,他出者にとって無理なく担えると思えるものとなっていることも確認できた.

5. 考察

本研究では,出身地の地域役員を担ってきた経験のある他出者3人への聞き取り調査から,なぜ彼らがこれまで地域役員を担ってきたのか,その動機についてみてきた.

その結果,①長男であること,奉仕活動への関心,構成員として役をやるのは当たり前であるという感覚といった,自身の立場・特性に関する動機,②父親の体調不良・逝去,実家の存在,母親の存在・母親の地域での立場を守ることといった,親・実家の状況に関する動機,③幼少期から醸成された地域での共助意識,役員の人材不足の状況への貢献意識,地域への愛着といった,地域への思いに関する動機,④同級生の存在・同級生とのつながりができること,地域の人との人間関係を良好に保つことといった,住民との関係に関する動機があることが明らかとなった.

また,これらの動機に裏付けられる本人の役員を担おうとする気持ちに加え,自身の仕事と両立できること,自身が健康であること,他出先の同居家族の理解があること,現居住地と出身地域の距離が近いこと,他出者の状況に応じた地域側の配慮・そのための日頃からの住民と他出者間のコミュニケーションがあることも他出者が地域役員を担う上で重要であることが示唆された.

以上の結果から,他出者を地域役員として取り込むための地域側の方策を考えてみたい.まず,①,②について目を向けると,住民は他出者が地域に帰ってきている時に声をかけ,雑談を通して交流をはかり,他出者の人柄や親・実家の状況などを知っておくことは大切であるといえる.日頃からのコミュニケーションにより,住民と他出者間の信頼関係も生まれ,他出者の状況に配慮しながら,役員の話を持ち出すことができる.その上で,役員をしてもらえるなら,常に地域にいなくてもできるような役を話に出し,その他配慮が必要な事柄についても他出者に聞いておくことは大切である.

次に,③について考えると,現在農山村地域に居住している子どもたちや若年層(将来他出者となる可能性がある)に地域を維持していくために大人がやっていることを知らせる機会をつくることが必要である.旧来よりも,地域との関わりが希薄化していることから,水路掃除や山林管理作業などは単に作業として行うのではなく,子どもたちも参加できるイベントとして行うことも考えるべきであろう.さらに,他出者が地域に帰ってきている時に声をかけ,雑談をする中で,他出者に,現在の地域の状況(役員の人材不足など)を伝え,出身地への貢献意識を喚起することも重要であるといえる.

続いて,④については,他出者,住民を合わせた同級生同士のつながりを保持,再生する工夫が大切である.菅原他(2006)が,離村者のふるさとへの関心を高める要件として,同郷会・同窓会などを活用し,学校縁,地縁といった幼少時代の友人と再び交わりをつくり,ふるさとの生活を想起させることが重要と指摘するように,祭事をはじめとする既存の地域行事への積極的な参加の呼びかけ,SNSの開設など,他出者と地域を繋ぎ直す機会を創出することも求められる.また,そうした場においては,在住の同級生など,その他出者を知る者が,積極的に仲介役を担い,他出者と住民の顔をつなぐことも必要であるといえる.さらに,他出者と住民が良好な人間関係を保つという点では,住民も他出者側の引け目からくる動機を思いはばかり,地域外から通って地域活動に関わる他出者に対して,「中途半端な関わり」という認識を持つのではなく,地域全体として,多様な関わりを肯定する機運を高めることも重要である.

以上が本研究で明らかにした内面的な動機をもとにした提言であるが,実際に,他出者が地域役員を担うことを促進するには,地域側の体制整備や他出者へのサポートをはじめとする外的働きかけも重要である.それらの解明は今後の研究課題として残されている.また,本研究では,対象者が60歳代,70歳代の男性3人であり,属性や人数が限定的であるため,他の属性の他出者や他地域での検討が必要である.これらは今後の課題としたい.

謝辞

本研究の調査を行うにあたり,京都市右京区京北鳥居町のみなさまに多大なるご協力を頂いた.記して感謝の意を表したい.なお,本研究は,JST次世代研究者挑戦的研究プログラムJPMJSP2148の支援を受けたものである.

1  鳥居町の地域役員を担うことに意欲的でありながらも,時間的事情などにより,担うことができない他出者も存在する可能性があり,本研究ではそういった人たちが研究対象外となっていることは断っておきたい.

2  2021年度町会長,2022年度町会長への聞き取り調査によれば,これまで,この対象者3人以外で他出者が地域役員を担うことはなかった.それまでは,住民だけで役を回すことができていたが,次第に人口が減り,役員の確保が難しくなってきたため,地域外に居住する人にも担ってもらうという動きが生まれた.

3  本論では「動機」を,人が意志を決めたり行動を起こしたりする直接の原因,という一般用語として用い,その重要カテゴリーの抽出を目指した.心理学における動機づけ理論や社会心理学における援助の意思決定理論など諸理論への位置付け,援用による分析などは今後の研究課題としたい.

4  山国地区がある京北エリアは,2005年に北桑田郡京北町から京都市右京区へと編入合併された.

5  人口・世帯数の減少や高齢化により,役員の確保が難しくなっている昨今の状況を鑑み,2022年度には町の行政業務を担う「行政委員会」,町の財産管理業務を担う「財産管理委員会」は「役員会」へと統合され,役職の削減が行われている.また,町会長は市政協力委員や鳥居町自主防災部部長などを兼任することとなっている.各役職の任期を延長する話も現在地域でなされており,これらの動きと並行して他出者の活用がなされている.

引用文献
 
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