農林業問題研究
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書評
両角和夫著『合併からネットワークへ―「農協改革」の課題―』
〈農林統計出版・2022年12月9日〉
柴垣 裕司
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2024 年 60 巻 1 号 p. 63-64

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本書の目的は,三輪昌男氏が提唱された「ネットワーク型農協」の議論を踏まえ,新たに発生した農業問題に対処するために必要な農協の組織,事業体制の大幅見直し,およびネットワーク型農協の考え方について発展的に検討することである.「ネットワーク型農協」とは,従来型の農協合併である「法人合併」に代わって,「機能合併」という新たな視点に立った農協の新たな組織,事業体制のあり方である.

現在の農協の組織,事業体制は,旧態依然のまま農業所得増大を最大の課題としたものであり,新たな農業問題(①食料自給率低下,②農業,農村の担い手不足,③中山間農業地帯の衰退,④農業,農村の多面的機能低下)に対処するため,地域農業,農村社会の持続的発展に積極的に貢献することが課題であるが,今までの取り組みは不十分であり,中心となる部署の未確立や他事業体との連携も進んでいない.今日の「農協改革」でも,農業所得の増大が最優先課題と位置づけられており,新たな農業問題への対処法については必ずしも明確化されていないと指摘されている.

農協経営の改革をめぐる方針が変化するなかでも,農協合併は依然として経営安定化や健全化に果たす役割が大きいと期待されている.2000年頃からは1県1農協を志向する傾向も現れたが,現存する1県1農協の現状・推移をデータから把握し,信用事業依存が続いていること,収益も停滞傾向にあることを示した上で,1県1農協合併であっても現状打破は困難であると指摘し,「ネットワーク型農協」を検討すべきとされている.

ネットワーク型農協構想で参考にされたのが,「モンドラゴン協同組合」である.これは,独立して事業・活動を行う広域かつ多様な協同組合及び関連企業がネットワークで結ばれ,一つの企業体として活動しており,その経営理念は地域社会に雇用の創出を通じて,社会の富をつくりだすことである.モンドラゴン協同組合から「ネットワーク型農協」は,①地域運営機能を担う部署の設置,②事業間での資金の流れの透明化と使用ルールの決定,③信用事業は資金と同時にコンサルティングを行う,④地域農業・社会の持続的発展に寄与するための事業間連携・協力体制のあり方,についての課題を整理すべきとされている.

「ネットワーク型農協」の可能性を検討するため,販売事業に関する各農協間のネットワークが形成されている熊本県経済連の「青果物コントロールセンター」の事例分析が行われている.本事例は,本部の機能や役割についての示唆,各農協が分荷権を持つことによる事業実施の主体性保証と職員のモチベーション向上など,「機能合併」が事業の効率化に大きく貢献するものと評価されている.もう一つの事例として,オホーツク農協連合会を取り上げている.同農協連は,構成する各農協が必要とする大規模共同利用施設等の建設・管理や地域農業振興方策の策定といった農協を直接支える機能と,農協の自主性確保に貢献する間接的な機能を提供していることから,北海道では地区農協連という形態で「ネットワーク型農協」が実現する可能性を示しているという.

以上,本書の概要を見てきたが,筆者の主張には基本的に賛同する.それは,事業や活動により適正規模が異なる複雑な組織を農協は内包しており,合併後の組織,事業体制整備が株式会社等と比べても難しいと考えるからである.ただ,気になった点も指摘しておきたい.まず,前提となる新たな農業問題の根本には,農業所得の増大がなされてこなかったことも影響していよう.農業所得が増大してこなかったために,新規就農者が増えずに担い手が不足し,中山間地域からも人が流出して,農業生産力が上がらず,自給率低下や多面的機能の低下をもたらしたと.もちろん,農産物輸入自由化など政策の影響が非常に大きく,農業所得が増大すれば新たな農業問題も解決するほど単純ではないものの,組織,事業体制への見直しについては,農業所得の増大という課題への対応も重要であり,農協がそれを実現することで正組合員が増加すれば,現在懸念されている高齢正組合員の漸次大量脱退による組織弱体化・経営不安定化対策にも繋がるのではないだろうか.

次に,新たな農業問題に対応するためには組織,事業体制の見直しが必要であるが,現在の農協改革ではそれについて明確化されておらず,合併の過程で取り組まれることが期待されているとして,合併の限界と代案としての「ネットワーク型農協」構想に言及されている.そして,合併=規模拡大⇔ネットワーク化=ダウンサイジングの図式から,二者択一で「ネットワーク型農協」論が展開されているように感じた.しかし,本来,合併に伴って経営組織や事業方式が改善されなければ,規模拡大による機能不全を起こしかねないが,そうした経営組織等の改善についての直接的な検討はされておらず,結果としての単協収益の低迷から,手段としての合併に疑問を呈されていることに,評者は若干ではあるが,論点のズレを覚えた.なお,合併後の経営組織や事業方式改善の一方式として,単協内の組織(部署)や事業間の「ネットワーク」形成もあるように思う.

筆者は1県1農協に対して期待薄のようだが,株式会社の合併でもその効果が現れるまでは数年を要すると思われる.非現実的ではあるものの1県1農協により県連が整理されれば,系統組織全体で見た場合の経費削減がもたらされる可能性もありえよう.また,1県1農協や究極の日本1農協体制となった場合,組織が大きすぎるため,結局,適正規模の実働部隊がネットワークで結ばれる事業・活動組織になっていくのではないかと推察する.こう考えると,「合併」と「ネットワーク」は二者択一の問題ではなく,緊密な「ネットワーク」体制を基に,信用・共済のような同質商品を扱う規模の経済性が働きやすい事業・活動においては合併による規模拡大(規模拡大によりネットワークも複雑になると考えられるが…)を図っていくような体制作りも考えられるのではないだろうか.

本書では,「ネットワーク型農協」の可能性の検討にあたって,いずれも連合組織をネットワークの核とした事例を分析されている.筆者が指摘されているように,ネットワークには核が必要であり,連合組織が核となって単協を結ぶ方式が,現行ではスムーズにいくように思われる.ただそうなると,連合組織の機能の見直しについての検討とともに,現状の事業ごとの縦割り制がさらに強まる可能性も高く,縦割り制の弊害をどのように克服していくかの検討も必要となろう.それには,単協内だけでなく,系統内での事業・活動間ネットワーク形成のあり方についても議論すべきと考える.

最後に,賢人達が過去に提案された大胆な改革案が,系統農協では必ずしも実践されてこなかった様に評者は感じている.現在,系統農協内外に山積している課題への対応策について,本書が関係者間での議論のきっかけとなるよう,多くの方々が一読されることを期待したい.

 
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