農林業問題研究
Online ISSN : 2185-9973
Print ISSN : 0388-8525
ISSN-L : 0388-8525
個別報告論文
農業参入業種と「農業,林業」の財務的特徴に関する考察
―法人企業統計調査を用いた分析―
上西 良廣南石 晃明
著者情報
ジャーナル フリー HTML

2024 年 60 巻 2 号 p. 83-90

詳細
Abstract

This study aims to clarify the financial characteristics of the major industries participating in agriculture in comparison with the “Agriculture and forestry” industry. We focus mainly on “Manufacture of food,” “Construction,” “Education, learning support,” and “Medical, health care and welfare” as major industries participating in agriculture. We found differences in the financial characteristics of the industries participating in agriculture. Specifically, “Manufacture of food” is in a better financial condition than “Agriculture and forestry,” suggesting that the entry into agriculture is increasing for the purpose of a stable supply of raw materials and other special raw materials. Meanwhile, “Construction” has been recovering since 2014, and its main business is in a better financial condition than “Agriculture and forestry.” Thus, its entry into agriculture might have slowed.

1. 問題意識と課題

わが国の農業は,農業従事者の高齢化および農業経営体の減少,耕作放棄地の増加等の問題に直面しており,地域農業の維持・存続が喫緊の課題となっている.このような状況下において,地域農業を維持・存続するための有効策の一つとして企業による農業参入がある.

1は,リース法人の農業参入の動向について業種別に見たものである.食品関連産業は2007年から20%前後で推移しており,上位のシェアを維持している一方で,建設業は2007年時点では最も多かったが,2011年にかけてシェアが減少し,以降は10%程度で推移している.教育・医療・福祉は2016年から2020年にかけて急速に農業参入が進展したが,2022年に後退している.このように,業種によって農業参入の動向には違いが見られる.建設業の変化に関しては,建設投資額が回復したため,農業参入した建設業の本業回帰などが見られたためであると考えられる(渋谷,2020a:p. 14)という指摘がある.そのため,参入状況の変化には,各業種の財務状況も関係があるのではないかと考えられる.

図1.

リース法人の農業参入の動向(業種別)

資料:各年(2009~2021年)の「食料・農業・農村白書」より数値を把握できたものを記載.2007年3月と2022年1月はそれぞれ農林水産省(2007,2023)から抜粋.

1)図中の横軸の表記は年月を示している.例えば「2007.03」は2007年3月を意味する.

企業の農業参入業種に着目した研究として,参入理由・目的に関する研究が蓄積されている(渋谷,20132020a等).その中でも渋谷(2020a)は,農業部門と参入企業の本業の収益性との関係を分析している.具体的に,食品製造業と清酒製造業は,農業と本業が食品のバリューチェーンで直結しており,差別化できる原料の調達や地域社会との共生,関係機関との連携など本業へのメリットが大きいため,農業が多少赤字でもカバーできる.食品小売業と中食・外食産業は,農業部門で生産する農産物は扱う農産物の一部であることに加え,ある程度の企業規模があるため,農業が多少赤字となっても本業で発生するPR効果などが大きく,カバーが可能である.建設業は,中小規模建設業の場合,本業への効用が不十分であるため,農業部門で黒字を確保し本業の負担を回避している.障害者就労支援施設では,本業での効用発現事例は少なく,大きなビジネスとはなりにくいため,利益や企業発展を追求するものではないが,独自の社会貢献型ビジネスとしての普及が見込まれる.さらに,各事例の農業部門に共通する傾向として,現状で赤字であっても黒字化に向けて経営努力を重ねている点を挙げている.

次に,農業の財務的特徴に関する研究としては,経営行動および経営戦略の成果の評価を目的として財務指標を分析した研究が見られる(山崎ら,2002岩瀬ら,2019等).また,営農類型ごとに比較した研究(四方,1996)や,農業の財務的特徴を他産業と比較した研究が蓄積されている(上西・南石,2022Uenishi and Nanseki, 2023南石,201220212023).これらの研究は農業に着眼点が置かれており,農業参入業種との比較という点は考慮されていない.しかし,渋谷(2020a)による建設業の参入状況と建設投資額との関係についての指摘を考慮すると,参入状況の変化を捉える視点の一つとして,各業種の財務状況が有効であると考えられる1

以上の問題意識に立脚して,本研究は農業参入業種を対象として,「農業,林業」と比較した財務的特徴を明らかにすることを目的とする.本研究では農業参入業種として,図1で参入状況の変化に特徴が見られた食品関連産業,建設業,教育・医療・福祉を対象とする.

2. データおよび方法

(1) データ

本研究では,財務省「法人企業統計調査」2における2009~2022年度の14年分のデータを利用する.2009年度から新業種分類が適用されたため,データの接続の観点から2009年度以降のデータを用いる.具体的に,2008年度までは「農業」と「林業」が別々に公開されていたが,2009年度以降は「農業,林業」としてデータが公開されている.

本調査は,国内の営利法人等の企業活動の実態を把握するため,無作為抽出による標本調査として実施されている統計法に基づく基幹統計調査であり,全国の財務局及び財務事務所等を通じて調査票を郵送し,自計記入を依頼する方法により調査を行っている(財務省,2023a).本研究では,営利法人等を調査対象としたその年度における確定決算の計数を調査する年次別調査の結果を用いる.また,日本農業法人協会の「2021年度全国農業法人実態調査」によると,全国の法人の資本金の平均額は1,510万円であり,都道府県別の上位は神奈川県(8,419万円),宮崎県(6,565万円)となっており,農業は中小規模の法人が多い.本研究では,農業と同規模の企業間で比較分析を行うため,資本金1億円未満の法人を対象とする3.「法人企業統計調査」の2022年度の調査対象は3.8万社(母集団301万社,割合1.3%)である.このうち,資本金1,000万円未満は5,700社(母集団201万社,割合0.3%,回答法人3,000社),資本金1,000万円以上1億円未満は1.4万社(88.7万社,1.6%,1.0万社)が調査対象である.

「法人企業統計調査」における業種は,総務省「日本標準産業分類」に依拠しているが,公表データの業種は大分類,中分類,小分類が混同している.本研究では,重複を含まない全45業種を分析対象とする(財務省,2023b).農業については当該調査における最小の区分である「農業,林業」を対象とする.「2020年農林業センサス」で,農業法人は30,707社,林業法人は4,093社であり,農業法人が約88%を占める.そのため,「農業,林業」はおおむね農業の特徴を示していると考えられる4.農業参入業種である食品関連産業に関しては「食料品製造業」と「飲食サービス業」,教育・医療・福祉に関しては「医療,福祉業」と「教育,学習支援業」,建設業に関しては「建設業」を対象とする.

本研究で対象とする財務指標は,古塚・髙田(2021)を参考にして設定する.具体的に,経営分析には収益性分析,安全性分析,生産性分析,成長性分析(古塚・髙田,2021:p. 177)があり,本研究ではこのうち収益性分析,安全性分析,生産性分析を対象とする.収益性分析はさらに売上高利益率分析と資本回転率分析に分かれ,前者を収益性指標として売上高経常利益率と売上高営業利益率,後者を効率性指標として総資本回転率に着目する.安全性分析は流動性分析と健全性分析に分かれるので,安全性指標としてそれぞれ流動比率,自己資本比率に着目する.生産性分析に関しては生産性指標として労働生産性(従業員一人当付加価値)に着目する.

(2) 方法

まず,各財務指標について,14年間の推移および平均値と変動係数に着目し,「農業,林業」と全産業平均(金融保険業を除く)および農業参入業種を比較することで,「農業,林業」の財務的特徴を把握する.次に,全45業種の14年間のデータをプールして主成分分析を適用し,主成分得点の変化を把握することで「農業,林業」と農業参入業種の財務的特徴を比較分析する.

3. 分析結果

(1) 推移と平均値・変動係数

2は全産業平均と「農業,林業」の各指標の14年間の推移,図3は各業種の14年間の平均値と変動係数について示したものである.売上高経常利益率について,「農業,林業」が全産業平均を上回る年が見られるようになっており,「農業,林業」の平均値(3.32%)は全産業平均(2.74%)よりも高い.上西・南石(2022)は,「農業」と全産業平均を比較した結果,売上高経常利益率は同水準であることを明らかにしており,本研究と整合的である.

図2.

全産業平均と「農業,林業」の14年間の推移

資料:財務省(2023a)「法人企業統計調査」の各年データ.

図3.

各業種の14年間の平均値と変動係数

資料:財務省(2023a)「法人企業統計調査」の各年データ.

1)横軸は平均値,縦軸は変動係数を表している.

売上高営業利益率について,「農業,林業」は全産業平均との乖離が依然として大きい.「農業,林業」の平均値(−2.46%)は,全産業平均(2.03%)と比較して大幅に低く,マイナスの値となっている5

流動比率について,「農業,林業」は2017年と2018年に全産業平均を大きく上回ったが,それ以外の年はほぼ同じか全産業平均よりも低い水準である.「農業,林業」の平均値(151.6%)は全産業平均(155.3%)とほぼ同じであるが,2017年と2018年の影響が大きい.また,対象業種の中で変動係数が最も大きく,年次変動が大きい.

自己資本比率について,「農業,林業」は2017年と2018年に全産業平均を上回ったが,それ以外の年は全産業平均よりも低い水準である.「農業,林業」の平均値(19.1%)は全産業平均(32.7%)よりも低く,変動が大きい.上西・南石(2022)は,「農業」の自己資本比率(35.4%)は全産業平均(44.3%)よりも低いことを明らかにしており,本研究と同様の結果が得られている.

総資本回転率について,「農業,林業」は基本的に全産業平均よりも低い状態で推移している.「農業,林業」の平均値(0.89回)は全産業平均(1.05回)よりも低く,他産業と比較しても低い水準である.

労働生産性(従業員一人当付加価値)について,「農業,林業」は全産業平均よりも低い状態で推移している.「農業,林業」の平均値(366万円)は全産業平均(537万円)よりも大幅に低い.

(2) 主成分分析

1は主成分分析の結果を示している.主成分分析の結果,第1主成分は安全性指標を除く4指標の絶対値が大きいため「総合指標」と解釈した.主成分得点が高いほど,収益性と生産性が高く,効率性が低い.効率性の符号がマイナスとなっているのは,売上高が総資本回転率では分子に位置するが,売上高経常利益率と売上高営業利益率では分母に位置することが関係していると考えられる.第2主成分は安全性指標の正の値が大きいので「安全性」と解釈した.解釈可能性の観点から主成分数は2が妥当であると判断した.

表1.

主成分分析の結果

指標 主成分負荷量
第1主成分 第2主成分 第3主成分
安全性 流動比率 0.912 0.127
自己資本比率 0.490 0.755
収益性 売上高営業利益率 0.965 −0.156
売上高経常利益率 0.962 −0.141
効率性 総資本回転率 0.555 0.137 0.818
生産性 労働生産性 0.910 −0.255 −0.152
固有値 3.239 1.498 0.760
寄与率 54.0 25.0 12.7
累積寄与率 54.0 79.0 91.6

資料:筆者作成.

1)主成分負荷量の絶対値が0.5以上を下線で示した.

2)絶対値が0.1以下の場合は表示していない.

4は全業種の主成分得点のプロット図である.第1象限は総合指標と安全性がともに高い業種,第2象限は総合指標は低いが安全性は高い業種,第3象限は総合指標と安全性がともに低い業種,第4象限は総合指標は高いが安全性は低い業種である6

図4.

主成分得点のプロット図

(全45業種,14年分)

資料:筆者作成.

1)横軸は第一主成分得点,縦軸は第二主成分得点.

2は,農業参入業種と「農業,林業」について各象限に位置した年の割合を示したものである.第2象限の割合が高いのは「食料品製造業」,「建設業」,「教育,学習支援業」であり,第3象限の割合が高いのは「農業,林業」,「医療,福祉業」,「飲食サービス業」である.「飲食サービス業」は直近14年間を通じて第3象限に位置している.

表2.

各業種が各象限に位置した年の割合(%)

総合指標/安全性
第1象限高/高 第2象限低/高 第3象限低/低 第4象限高/低
農業,林業 28.6 71.4
食料品製造業 57.1 42.9
飲食サービス業 100.0
建設業 71.4 28.6
教育,学習支援業 14.3 57.1 28.6
医療,福祉業 21.4 78.6

資料:筆者作成.

5は農業参入業種と「農業,林業」の主成分得点をプロットした結果である.「飲食サービス業」は「農業,林業」よりも左下に位置しており,総合指標と安全性がともに低い傾向にある.「食料品製造業」,「建設業」,「教育,学習支援業」は「農業,林業」よりも右上に位置しており,総合指標と安全性がともに高い傾向にある.「医療,福祉業」は「農業,林業」とほぼ同じ場所に位置しており,財務状況が似ている.

図5.

農業参入業種と「農業,林業」の主成分得点

資料:筆者作成.

1)横軸は第一主成分得点,縦軸は第二主成分得点.

6は各業種の年次変化を詳細に把握するため,図5から各業種の結果を抽出したものである.「農業,林業」は,2017,2018年を除いて,大きな変化は見られない.なお,2017,2018年の結果は,安全性指標の数値が大きかったことが影響している.「食料品製造業」は2014年以前と2015年以降のグループに分けると,右上の方向(横軸,縦軸ともに正の方向)に変化しており,総合指標と安全性がともに高くなっている.「飲食サービス業」は2018年以前と2019年以降のグループに分けると,縦軸の正の方向に変化しており,安全性が若干高くなっている.「建設業」は2014年以降,継続的に右上に変化しており,総合指標と安全性が年々ともに高くなっている.「教育,学習支援業」は2013年以前と2014年以降のグループに分けると右上の方向に変化しており総合指標と安全性がともに高くなっている.「医療,福祉業」は2012年以前と2013年以降のグループに分けると,縦軸の正の方向に変化しており安全性が高くなっている.

図6.

各業種の主成分得点の変化

資料:筆者作成.

1)横軸は第一主成分得点,縦軸は第二主成分得点.

2)図中の凡例は西暦の下2桁を表している.例えば「09」は2009年を意味する.

4. 考察

以上の分析結果から,農業参入業種の財務的特徴の変化に違いが見られることが明らかとなった.具体的に,「食料品製造業」から見ると,「農業,林業」の方が財務状況が劣っているにも関わらず,継続的に参入が進展している(図1).この背景には,農業と本業がバリューチェーンで直結しており,自社原料やこだわり原料の安定調達など本業へのメリットが大きいためであると考えられる(渋谷,2020a).

「飲食サービス業」は,「農業,林業」よりも財務状況が劣っており,「食料品製造業」と同様に自社原料の安定調達やこだわり原料の調達を目的として参入が進んでいると考えられる.また,渋谷(2020a)が指摘するように,農業部門が多少赤字であったとしても本業で発生するPR効果などの方が大きいことも関係していると考えられる.つまり,「食料品製造業」と「飲食サービス業」は農業参入による本業へのメリットが大きいため,各業種の財務状況の変化に左右されずに,継続的に農業参入が進展していると考えられる.

「建設業」は農業参入が緩やかになっているが(図1),この背景には他産業と比較して本業が回復基調にあることと(図67,農業が本業のバリューチェーンに乗っておらず,本業におよぼす好影響は限定的であり,農業部門で黒字を確保する必要があることが関係していると考えられる(渋谷,2020a).

「教育,学習支援業」と「医療,福祉業」が,2016年から2020年にかけて農業参入が進展している背景には(図1),「教育,学習支援業」は2014年以降,「医療,福祉業」は2013年以降財務状況が改善していることも影響を及ぼしたのではないかと考えられる.また,「医療,福祉業」に関しては,国による農福連携の推進という社会的背景も後押しして参入が進展したのではないかと推察される.

なお,実際に農業参入している企業を対象とし,本体企業における農業参入前後の財務的特徴の変化を把握する必要がある.また,農業参入企業が,参入時に財務状況をどの程度考慮しているのかに関する分析が必要である.これらについては今後の課題としたい.

謝辞

本研究は,JSPS科研費JP21H02299の助成を受けたものである.

1  農業参入の要因には,財務的要因,自社の成長機会の創出,リスク分散,シナジー効果,未利用資源活用など多様なものがあるが,本研究では財務的要因に着目している.上記の他の要因に関する分析は,今後の課題として残されている.

2  同調査を用いた財務分析に関する既存研究として,田村・魏(2018)などがある.

3  企業の農業参入では全国規模で事業を行う大規模企業から,地域に密着して事業を展開する中小企業にいたるまで,多様な規模の企業による参入が進展している.大仲(2020)は中食・外食産業,渋谷(2020b)は建設業による農業参入の事例を分析しており,いずれも中小規模とされている事例は資本金が1億円以下である.本研究では,このような中小企業を分析対象としており,大規模企業は分析対象外である点に留意が必要である.また,本研究では,対象企業が農業参入しているか否かについて把握することはできない.

4  「農業」と「林業」の財務的特徴の違いに関して,2004~2008年度の5か年の平均値を算出すると,いずれも「林業」の財務状況の方が優れている(売上高経常利益率1.26%/1.98%,売上高営業利益率-2.84%/0.70%,流動比率108.8%/127.3%,自己資本比率9.1%/28.8%,総資本回転率0.91回/1.07回,従業員一人当付加価値375万円/417万円).そのため,「農業,林業」は「農業」のみと比較すると,いずれの指標についても多少高い数値になっていると考えられる.

5  「農業,林業」の売上高営業利益率はマイナスであるが,売上高経常利益率が全産業平均よりも高い要因として,上西・南石(2022)が指摘するように,補助金・助成金等の営業外収益が加算されることによる影響が大きいと考えられる.

6  各象限の代表的な業種を把握するため,原点からの距離(ユークリッド距離)を計算した結果,第1象限は「鉱業,採石業,砂利採取業」(上位10位を独占),第2象限は「職業紹介・労働者派遣業」(上位10位のうち6つ),第3象限は「宿泊業」(上位10位のうち6つ),第4象限は「純粋持株会社」(上位10位を独占)が代表的であった.なお,「農業,林業」は第2象限と第3象限の上位にそれぞれ2回位置していた.

7  実際に建設業の市場規模は拡大している.矢野経済研究所(2022)によると,公共工事の発注量の減少・民間設備投資の減少等を背景に,2010年度には市場規模が最大時(1992年度)から半減したが,2011年度以降は,東日本大震災の復旧・復興,東京オリンピックによる建設需要の増加,EC市場の拡大による倉庫投資等の影響から回復基調にある.

引用文献
 
© 2024 地域農林経済学会
feedback
Top