農林業問題研究
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書評
八木洋憲・吉田真悟編著『都市農業の持続可能性』
〈日本経済評論社・2023年7月31日〉
中塚 華奈
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2024 年 60 巻 2 号 p. 93-94

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本書は,科研基盤B特設分野「次世代の農資源利用」で「人口減少下の大都市近郊における農的資源の評価」をテーマに採択された研究成果を公刊したものである.研究代表者の八木洋憲氏,分担者の竹内重吉氏,山田崇裕氏,寺田徹氏,新保奈穂美氏,吉田真悟氏のほか,筧田斎氏が執筆陣に加わっている.

第1章「都市農業の持続可能性に係わる論点」では,多数のステークホルダー(SH)との関わりや事業多角化,貸借の活発化が,都市農業の持続可能性を高めること,立地条件や農地制度による日本の都市農業の特徴,高齢化・デジタル化社会にむけた都市農地の有効利用と保全策を提示することの必要性を述べている.

第2章「日本の都市農業および分析対象地域の概要」では,農業地域類型と人口集中地区(DID)からの距離およびDID内部の人口密度で都市農家を区分し,日本の都市農業の立地的特徴と分析対象地域の農業概要を示し,生産緑地の借地の実態調査からは貸し手に有利な使用貸借が農地利用へのインセンティブを弱めることを明らかにした.

第3章「都市農業の多様な取り組みと立地条件」では,DIDからの距離別にみた農業生産関連事業,事業収入,有機農業実施の有無と農産物販売金額,出荷先などを分析している.筆ポリゴンを用いてスプロール化度を算出し,自治体による営農条件に差があること,都市化が農業に与える影響が非常に複雑で,計画的な都市開発が都市農業のポテンシャルを活かすために必要だとする.

第4章「継続可能な都市農業経営の特徴と今後の展望」では,東京都多摩地区の6市への調査をもとに,各農家の継続可能性を3段階に分類し,事業・販路,経営目標の重視項目,サステナビリティ活動への積極性,農地貸借の意向,今後重視すべき施策などを比較している.

第5章「市街化に伴う都市農地の転用とその計画的保全」では,東京都町田市の市街化区域のバブル経済期から近年までの農地保全と転用の傾向を解析し,空間計画・緑地計画の点から保全優先度が高い農地の抽出や関係主体の連携とプラットフォームの必要性を論じている.

第6章「生産緑地の相続と持続的保全」では,東京都町田市内の生産緑地の登記データから相続の実態を分析し,生産緑地の指定面積が大きく農家数も多い地区ほど減少幅が大きいことを示唆し,今後は,各地区や個別農家の詳細な事情と都市農業継続のための対策に係る分析が重要だとした.

第7章「民間開設型農園の経営的特徴とコロナ禍の対応」では,首都圏で民間主体3社が開設する市民農園を対象に,GISデータとアンケート調査から立地特性に応じた農園の分布や収益性,コロナ禍が新規利用者獲得にプラスの影響をもたらしたことを示した.

第8章「都市農地活用型コミュニティガーデンの持続可能性」では,東京都日野市内の生産緑地で運営されている「せせらぎ農園」を対象とし,SHの広がり,コロナ禍における運営と参画の動向を明らかにした.創設者の「地域の生ごみを活用してごみを減量したい」という強いイニシアティブがあったこと,さまざまな関係機関と連携を図ったことなどが活動継続に有効であったという.

第9章「持続可能な都市農業の展望」では,実証分析の結果を総括し,近年の動向をふまえて持続可能な都市農業の達成に向けた展望を述べている.

日本全体で高齢化・人口減少がすすみ,農業就業者数も減少の一途を辿る今日,「宅地化すべきもの」から「都市に農地はあるべきもの」へと位置付けを180度転換させた都市農業の現状を俯瞰し,持続可能性について考察した本書の意義は大きい.目的に掲げた「都市農業に特有の立地条件による影響の解明」と「コロナ禍の影響をふまえたレジリエントな都市農業」を意識した都市農業の持続可能性を向上させるための方策の展望の提示は十分に成し得ており,都市農業振興に携わる一人でも多くの人に手に取っていただきたい一読の書である.

しかしながら,本書の研究成果を踏まえて,引き続き研究をすすめるうえで,分析軸と文脈表現について気になった点について述べておきたい.

1つめは,DIDからの距離や人口密度を分析軸においている点である.たとえば「表2-5 農産物販売金額1位の部門別の農業経営体の割合(p 26)」では,「DIDからの距離」別と「DID内部の人口密度」別の生産品目は把握できる.しかし,それ以上の分析を深めることができない.1 haに満たない小規模な経営耕地面積の農家が62%いるにも関わらず,都市農業が全体の17%に及ぶ販売金額を産出し得ることについて,DIDからの距離や人口密度の違いによって,有利な栽培品目や栽培体系,販売方法があるのか否か,あるとすればそれを解明し普遍化する必要があろう.執筆者自身も「都市農業の特徴は(中略)都市との距離だけで判断することはできないと指摘している(Boussougou et al., 2021)(p 64)」,「同程度の人口密度であってもスプロール化度も異なり,自治体間で営農条件が大きく差がある(p 65)」と言及している.

2つめは,都市農業の「経営の継続性」(第4章)を考察する際も,継続性を高める要因が追求できていない点である.10年先の経営展望や共通価値創造(CSV)に関する意識など「経営の継続性」に寄与する5項目のうち,全項目を満たせば「高」,1項目でも満たさない場合は「中」,全く満たさない場合を「低」とする指標を設定したのは執筆者自身であり,その枠組みに括られた農家の現状把握をするにとどまる.都市農家の経営の継続性については「取り組みや経験それ自体が経営の継続可能性を直接的に高めるというよりも,そこから学び蓄積した経営資源が結果的に継続可能性を維持し,経営の安定性が次なる取り組みへの原動力となる好循環が経営の継続可能性の規定要因の一つ」であるとし,最も明らかにしていただきたい「好循環を得るための方法」については「本章の分析の範疇を超える(p 88)」と言及されている.都市農家の経験や学びから蓄積した経営資源や経営の安定性を保持するものが何なのか,好循環を得るための具体的な方策を追求する研究の余地が残されている.

3つめは,「都市農業における多様な取り組みは,都市農業の実施主体の継続可能性の向上を通じて,都市農業全体の持続可能性に貢献すると考えられる(p 44)」,「都市農業の発展に継続可能な経営が果たす役割は大きい(p 69)」といったトートロジー的な文脈が散見されるところである.都市農業持続のために実施主体が継続可能となる具体的な方策提示が求められる.

日本の都市部では,空き家や空き店舗の増加,コミュニティのさらなる喪失や高齢者の孤立などが見込まれ,都市農業の持続,時には拡大が求められる.すでに検討課題としてあげられてきた後継者確保や税負担の軽減策に加え,生産緑地の指定要件の面積基準に満たない都市農地も含め,本書で紹介されたコミュニティガーデンの活用,宅地の農地への復旧,スマート農業やDXなどについて,より一層研究がすすむことを期待したい.

 
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