農林業問題研究
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研究論文
京都産野菜の購買パターンに対する生産地居住者による意味づけ
―空間的近接性によるローカルフード購買の事例分析―
小林 千夏
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電子付録

2024 年 60 巻 4 号 p. 129-140

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Abstract

Local food movements encompass various criteria for defining “local food,” making it challenging to ascertain the exact meaning considered during actual purchases. This study aims to clarify how spatial proximity influences local food purchasing behavior, making it distinct from other interpretations of local food. To achieve this, we conducted qualitative research involving interviews with five residents of Kyoto about their local vegetable purchases. We analyzed the meanings and purchasing behaviors resulting from the inference that the product’s area matched their residence. Our findings identified two interpretations of product area information based on spatial proximity: one from their residential area and the other from the area around the retailer. Both interpretations led to positive purchasing patterns (consisting of meaning and object), although those based on local specificity often resulted in a luxury image and reluctance to purchase. These findings suggest that local food purchasing patterns are multi-layered and depend on the contextualized meaning of “local.” Spatial proximity exerts a more positive influence on local food purchases than local branded varieties, especially concerning daily grocery purchases for home cooking. This research contributes to a deeper understanding of consumer behavior toward local food and offers practical insights into the relationship between locality and proximity.

1. 問題意識と分析課題

(1) ローカルフードの購買行動に対する購入者自身による意味づけ

広域流通のフードシステムが環境に対して著しい負荷をかけており,その解決が模索されるなかで,ローカルフードの取り組みが含意する社会的・倫理的な意義に注目が集まっている(Birch et al., 2018Byrd et al., 2018Lang et al., 2014Wenzig and Gruchmann, 2018).そして,それらの意義に関する議論においては,ローカルフードの定義として種々の質や基準が用いられる.たとえば,ローカルフードはたんに生産者と消費者の地理的距離の短さや空間的近接性によって規定されることもあるが,その一方で,生産流通規模の小ささ,顔と顔の見える関係といった生産流通の要素のほか,郷土料理などの文化的な側面が追加される場合もある(Martinez et al., 2010坂根,2022).あるいは,流通地域が限定されずに,品種や食品の地域固有性から生じる付加価値を期待して広域流通するローカルフードもある(Fonte and Papadopoulos, 2010).こうしたローカルフードの多義性によって,ローカルフードを購買する動機の解明が難しくなっている.

さらに,倫理的消費に関する購買行動において指摘される態度-意図ギャップ1が,ローカルフードの購買行動においても指摘されている(Chambers et al., 2007Feldmann and Hamm, 2015Zepeda and Deal, 2009Zepeda and Leviten-Reid, 2004).この態度-意図ギャップは,文脈要因あるいは外部制約(商品品質-消費者態度の組み合わせ以外の要素)などによる介入として解釈される(Peral-Peral et al., 2022Sirieix et al., 2013Stern, 2000).

このような態度-意図ギャップを生じさせる文脈要因が膨大に存在することは想像に難くない.その文脈要因を組み込んで,調査者が事前に選択肢として網羅し準備し,そしてその網羅された選択肢のどれに自分が該当するのか,回答者が誠実さを維持して回答するという調査には限界がある.さらに,環境負荷が小さいなどの,社会通念上「よい」とされる性質の是非を問われると,人は自分の実際の行動と関連づけることなくそれ自体を肯定するといったバイアスも作用する.以上のように,アンケート調査における分析上の困難があるため,購入者自身のローカルフードの購買行動の振り返りとそれに対する意味づけを明らかにするには,質的分析が必要となる.さらに,生産地と消費者の居住地の近接性に注目して,ローカルフードの購買行動やその意味づけを分析したものは少ない.そこで,本稿では,ローカル・フードシステムや地産地消の取り組みにおいて購買の担い手として想定される,生産地に居住する消費者の購買行動の事例分析を行う.そして,地域固有性を持つローカルフードに対する購買の検討と,空間的近接性という意味づけによる購買検討が,それぞれ別個の購買パターン(行動と意味の組み合わせ)を生じている事例を示す.

(2) 消費者からみた空間的近接性

空間的近接性は,ローカルの意味に関する最大の共通項である.ローカルフードの定義を整理するために,Eriksen(2013)は,先行研究における定義を近接性に関わる3領域で特徴づけた.それは,空間的近接性,関係的な近接性,そして近接性の価値である.このうち空間的近接性はそのほかの要素に対して基礎を提供しているといえる.本稿ではこの空間的近接性が購買行動に与える影響に注目する.

生産地と居住地が一定の圏内にある空間的近接性は,地産地消などの小規模なローカル・フードシステムに代表される.この種の空間的近接性の選好は,ある対象の購買/非購買を被説明変数とするモデルでの把握がむずかしい.それは,この空間的近接性自体が文脈要因だからである.ある特定のローカルフードに対する選好の有無が,購入者の居住地という文脈に依存して変化するからだ.

この地産地消への選好を,地域内外の購買行動の差異にアプローチした量的調査のモデルと比較してみよう.そこでは,地域内外でのローカルフードの購買行動の差異を,商品や消費者の分布の偏りとして説明するために,選好の対象となる商品(の属性)が変化することはない.たとえば,地域外において購買意図が下がる理由に「流通到達度」を挙げれば(森高他,2014),地域内外の購買の差は商品分布の偏りの帰結となって,商品属性や消費者選好そのものは変化しない.また,地域ブランドの生産地に居住する消費者がそれを再購買する意思について,高級感や食味よりも愛着のほうが強く作用するという報告もある(大橋他,2018).この場合も,地域内外で,愛着の対象は変化していない.これらの選好は,空間的近接性によって対象が変化する選好とは異なる.

(3) 量的調査によって空間的近接性によるローカルフード購買を分析することの困難

本稿では以上のような,地産地消的な,空間的近接性から生じるローカルフードへの購買行動にアプローチする.ただし,ローカルであることは生産者と消費者の空間的近接性からだけでなく,上述した既往研究のように,食品の性質としても設定できる.たとえば地理的表示制度においては,ある食品がある地域に埋め込まれたローカルフードであることが,食品に帰属する性質として記述される.このようにある食品がローカルであることを示す根拠は,内容の多義性だけではなく,水準の面においても多様である.

本稿の関心に従って空間的近接性によるローカルフードへの購買行動を検討するには,「ローカルであること」をローカルフードの性質としても文脈としても位置づけることになる.そして,それぞれが水準の異なる購買行動に帰結する可能性がある.もしローカルであることがある特定の製品の属性なら,品目ごとにその性質が購買(非購買)に与える影響を計測できる.しかし空間的近接性は文脈要因であり,品目横断的な性質である.そのため,空間的近接性に対する選好は,ある特定の品目の購買/非購買ではなく,品目横断的な購買行動の変化(たとえば,購買先を変更するなど)として生じる可能性がある.このような帰結の整わない複雑な事象を量的調査で分析することは困難である.

(4) 質的調査の意義と本稿の分析課題

その一方で,質的調査では,オープンクエスチョンを採用できるため,調査側でローカルフードの定義をする必要がない.そのため,インタビューから,消費者自身がローカルであることと購買の対象や購買行動をどのように意味づけるのかを,一貫したプロセスとして把握できる(Hammarberg et al., 2016).その結果から,消費者一人ひとりが,ローカルであることからどのような推論を経てどのような購買行動を想起するのかを示すことができる.

本稿では,生産地域内でのローカルフードの購買行動に対する意味づけを明らかにするために以下の分析課題を設定する.それは,ある食品が居住地産であるという文脈で生産地居住者が実際にとる購買行動を特定し,そこで展開される推論や意味づけに空間的近接性による影響を確認することである.そのために,特定のローカルフードを対象とした購買/非購買のみを帰結とせずに,購買の仕方と意味づけの組み合わせ(購買パターン)として購買行動を記述する.そしてその結果をケーススタディとして,空間的近接性がローカルフードの購買行動に与える影響について考察する.

2. 対象と方法

上記で設定した事例分析を行うため,ローカルフード生産地の居住者にインタビューを実施した.生産地域と居住地が同じであることからの購買検討を元にして,それぞれの居住者が言及した,購買検討の内容とその帰結としての購買行動についての論証図を作成した.

(1) 京都居住者による京都産の野菜に対する購買行動の振り返り

まず,対象とするローカルフードの生産地を京都にして,京都居住者に協力を募り,インタビューを実施した2.京都のローカルフードのなかでもとくに野菜を対象とした.京都産の野菜には,「京のブランド産品」としてブランド化し首都圏へも出荷している,いわゆる京野菜などと,そこには該当しない一般的な野菜のいずれもが含まれている.そのため,地域性を持つローカルフードから文脈によって判断されるローカルまで,京都居住者は「京都」という産地に対して様々な「ローカル」を意味づけることができる.本稿の課題は,生産地居住者の購買行動においてローカルであることがどのような意味づけに用いられるのかを明らかにすることであり,その事例分析に適切な対象である.また,野菜の加工度が低い点も本稿の分析には適している.加工度が高いと,メーカーにより戦略的に差別化された知覚品質など,製品に帰属する要素が増して,それらが購買検討で参照される.そのため,文脈要因である空間的近接性が購買検討でどのように用いられるかを把握するという本稿の目的を阻害する可能性が高い.

以上の検討を経て京都産野菜を対象とし,インタビューを実施した.機縁法によって協力を得た5名の京都居住者に,食品購買行動の全体から京都産の食品購買の実際までを尋ねた.協力者は全員,調査当時,内食の食材調達を目的とした購買行動を日常的に行っていた.調査協力者のプロファイルを表1に示す.インタビュー実施期間は2017年5月から2018年1月で,研究利用に関する合意を得て実施した.質問の内容は,食品の購買行動全般から徐々に内容を絞り込み,購買行動における産地情報の重要性,他産地を含むローカルフードに対する購買行動の振り返り,京都産と地元産という2種類の表記方法に関する購買行動の振り返りであった.先述した検討の通り,京都はブランド化の進む京野菜とそうではない一般の野菜が混在するため,「地元産」という表記についても尋ねることで,本稿の課題に沿った空間的近接性の認識に基づく購買の検討をより焦点化できると考えた3.また,態度-意図ギャップを避けるために,まず産地情報を提示して購買可能性の振り返りを求め,そこからその判断に帰結する意味づけをさかのぼってもらった.

表1.

調査協力者のプロファイル

A氏 京都市 50歳台 女性
B氏 京都市 30歳台 女性
C氏 京都市 30歳台 女性
D氏 京都市 40歳台 男性
E氏 八幡市 30歳台 男性

資料:著者作成.

以上の手続きと内容でインタビューを行ったあと,録音データの書き起こしを行い,そのすべての内容について協力者に確認した.この一連の手続きによって,京都居住者による,とくに京都産と地元産という2種類の産地情報の形式と関連づけた,野菜に対する購買行動に関する振り返りを得た.本稿の分析ではこの振り返り部分を主に用いた.

(2) インタビューからの「主観的理論」の抽出と論証図の作成

まず,インタビュー協力者それぞれの購買行動の振り返りから,そこにみられる「主観的理論」4を抽出した.その際に,質的データ分析手法のひとつであるSCATを用いた.SCATとは,質的調査で分析者が行う再解釈のプロセスを明示的に行い,かつ語りのなかで展開された「主観的理論」を記述するための一連の手続きである(大谷,2019).SCATではまず以下の4ステップのコーディングを行う;① テクスト中の注目すべき語句,② テクスト中の語句の言いかえ,③ ②を説明するようなテクスト外の概念,④テーマ・構成概念.そして,それらの構成概念すべてを使ってストーリー・ラインを書き出し,そこから理論記述5を述べる.

SCATを用いたのは,この方法によって少人数の調査協力者の個別の質的データを分析可能であることと,調査協力者の発言の順序や理論展開を考慮したシークエンス分析を行えることが理由である.このSCATの特長は,産地情報から購買行動に至るまでの,購入者自身の意味づけや推論のプロセスを分析するという本稿の課題に適している.さらに,SCATは上述の分析プロセスを分析対象のデータすべてに課すため,質的分析の問題点としてしばしば指摘される,分析者が恣意的な解釈に陥るという問題を回避できる.本稿ではこのSCATの分析手続きに従い,調査協力者の「主観的理論」を得た.

そして,上記の手続きで導出した構成概念や理論記述の関連から,京都産・地元産という産地情報を付与された野菜に対して展開される解釈や推論と,そこから帰結する購買行動(ある意味づけを付与した対象の購買/非購買)を対応させた論証図を得た.このような解釈や推論のプロセスを経て行動にいたるという枠組みは,いわゆる行動主義的心理学に含まれるCBT(Cognitive Behavioral Therapy)の考え方をもとにしている.CBTは臨床心理学分野で発展してきた理論の一つで,観察可能な行動を対象とし,観察可能な刺激と,その刺激に対する観察不可能な行動主体の解釈に基づく反応としてそれを分析する6McManus, 2022).本稿では,産地情報を「刺激」,購買行動を「解釈に基づく刺激への反応」として位置づけた.そのため,本稿の論証図は購買行動に帰結する.本稿の分析プロセスを示すため,SCATのストーリー・ライン構成までの例を電子付録の付録A,実際に導出した各協力者の理論記述(主観的理論)を付録Bとして,それぞれ記載した.

以上の一連の手続きによって,京都居住者が自身の京都産の野菜に対する購買を振り返った際に,どのような点を考量して購買行動を形成しているのかを示す論証図(図15)を得た.本稿においては,それぞれの論証図を統合することは行わず,事例ごとに「主観的理論」の展開を検討し,空間的近接性に基づいた購買行動についてより多くの示唆を得ることを優先した(今福,2021).次節では,SCATによる分析結果から得た論証図に基づいて,それぞれの調査協力者による,「京都産」「地元産」の情報と購買行動との意味づけの論理展開を確認する.

図1.

京都産の野菜に対するA氏の購買行動

資料:インタビュー結果より著者作成.

凡例:実線四角および破線四角はいずれもSCATによって導出された構成概念である.描画の都合により導出された構成概念のすべてを網羅しているわけではない.そのうち実線四角は京都産・地元産の産地情報と関連づけられた購買行動のパターンで,CBTに基づけば,観察可能な「解釈に基づく刺激への反応」である.破線四角は京都産・地元産の産地情報に基づく購買行動を説明するために協力者によって言及された推論であり,産地からの連想や購入者自身の状況や価値規範,文脈要因,心理変数および,品質選好などとして扱われうるものである.これらはCBTでは観察不可能な行為主体の認知活動として位置づけられる.SCATで得られた理論記述をこの図ではあらためて分離し,論理関係(根拠-結論)について各四角をつなぐ矢印で示している.

図2.

京都産の野菜に対するB氏の購買行動

資料および凡例:図1に同じ.

図3.

京都産の野菜に対するC氏の購買行動

資料および凡例:図1に同じ.

図4.

京都産の野菜に対するD氏の購買行動

資料および凡例:図1に同じ.

図5.

京都産の野菜に対するE氏の購買行動

資料および凡例:図1に同じ.

3. 分析結果

上述の手順を経て得られた5名分の論証図からは,各協力者の日常的な食品購買のなかで,どのような「ローカルであること」が,どのような購買行動へと関連づけられるのかを知ることができる.以下で述べるとおり多様な推論と購買行動を抽出できた.

(1) A氏:生産地と購入先との空間的近接性からの推論で直売所での購買にいたる事例

ローカルフードへのA氏の関心は,特定の産地や産地表示へのこだわりではない.A氏は,おもに鮮度に対する関心を京都産や地元産に関連づけて,自身の購買を振り返った.

まず,A氏は生産地と購入先の近接性から鮮度を重視し,そのうえで生産者自身が販売していることへの強い関心がある.それにより,販売される食品の品質への期待と購買意欲が上がる.そのような生鮮品を購買するために,「定期的で継続的な直売所での青果物の購入」「代理購買を通じた振り売りでの購買経験」へと言及している.直売所では,購入先と生産地との近接性から,高い鮮度を期待して利用している.直売所までは自家用車で移動することもあり,居住地近郊とはかぎらない.また振り売りは,仕事との兼ね合いで代理購買を依頼する必要があり,それを継続的に利用するにはいたらない.

また,地域固有性を持つ京都の野菜について品質が高いと認識しており,「京都産」であることは重要で,他産地であれば「それはニセモンやろ」という.しかしそうした評価にも関わらず,産地にこだわりはない.日常の購買では価格と品質のバランスを重視しており,「京都固有の食品に対する比較的頻度の低い繰り返し購買」「高級京野菜専門小売店の未利用」という購買行動にいたると振り返っている.

以上のように,A氏はとくに鮮度を理由として購入先の近郊地域で生産された生鮮品を購買する.

(2) B氏:空間的近接性による支持や地域固有性への関心が高価格帯のイメージで相殺される事例

B氏は京都に居住していることから,「京都ならでは」の地域固有種に関心がある.しかし,京都の地域固有種はブランド化が進み高価であるため,あまり購買の可能性を高く見積もらない.

B氏には「地元の食品」への購買意欲がある.「地元産」と関連した購買行動を振り返って,B氏は,居住地である京都産に対する購買行動のほかに,出身地域産への購買行動にも言及した.B氏が京都産の野菜に関して言及した購買行動は,「地域固有性のある比較的高価な京都産食品の(試し)購買の経験」のみである.現在の居住地であることから購買意欲があるのだが,それは「京都ならでは」の地域固有性を持つ野菜に限定されている.地域固有性のある京都産の野菜はブランド化されていること,そしてその認識から,品質の高さと食味の良さを推測する.それと同時に京都のブランド野菜が高価であることも把握しており,そこが,地元のものが安価であるというB氏が持っている期待と反する.そのため購買行動としては,地域固有性のある比較的高価な京都産野菜を試しに買ってみるという,低頻回の購買となる.

なお,「地元産」からの購買行動の振り返りで,ほかに明らかになったのは,B氏には「出身地域産の一般野菜に対する高頻度の応援消費の経験」があったことである.出身地域に知り合いの生産者がいることや,当該地域に甚大な農業生産被害があったことなどの経験的なエピソードと,安価であることなどから,積極的な購買が動機づけられる.

このようにB氏は居住地産野菜には地域固有性を求め,一般野菜に関しては出身地域産以外にこだわりを持っていない.

(3) C氏:居住地産野菜の積極的な購買と調理への関心および「高級路線」の忌避

C氏は調理加工を生活のためだけでなく趣味として楽しんでもいて,地域で少量生産される希少品種の調理に強い関心を持っている.そして地元の人が産物を持ち寄り,規格外品も取り扱うような「道の駅路線」の売り場に対して,C氏は小売業態を問わず積極的に立ち寄り購買している.

C氏には,「直売所における定期的で確実な,(京野菜を含む)近郊地域産野菜の購買」がある.C氏にとって直売所はスーパーと比較して「圧倒的に好ましい」.それは,上記の「道の駅路線」に加えて,鮮度が高く,価格が値頃で,品種の希少性があるという点に魅力を感じているからである.また,通常は高価格帯で販売される京野菜も,直売所では比較的安価で入手可能である.ただし,直売所はアクセスの不便さから,その利用だけで野菜の購買のすべてを満たすことができないので,スーパーでも「道の駅路線の居住地産コーナーの積極的な利用」をしている.近郊地域産への強い選好は,日常生活での購買の動線から,居住地産と重なる範囲での購買機会が多い.しかし,C氏は直売所での購買を「スーパーよりも圧倒的に好ましい」とし,本質的には生産地と購入先の近接性を評価している.

C氏は,スーパーでは上記の「道の駅路線」への購買行動の他方で,「高級路線の居住地産コーナーの回避」という行動もとる.C氏によるとスーパーには有機栽培との相乗効果などもねらいながら高級感を打ち出すような地元産野菜のコーナーがあるという.そのような「高級路線」の売り場が高所得者層をターゲットとし,自身や平均的な世帯に対する拒否を感じるため,C氏は売り場そのものを回避する.C氏の場合には,高級感は,地域固有種であることからの推論とはならず,売り場の構成として推論される.

以上のようにC氏は京都産の野菜に対して,高級感や高価格帯での販売コーナーに忌避感を持ち,小規模な近郊地域の生産で規格外品もあるような「道の駅路線」の売り場を積極的に訪れる.そしてそのような「道の駅路線」の売り場では,地域固有種か否かにかかわらず,流通量の小さい珍しい品種を中心に積極的に購買している.

(4) D氏:地産地消の実践としての居住地産野菜の購入と高級品としての購買可能性の低さ

D氏は地産地消の取り組みを評価し支持している.したがって,居住地産の野菜を多少高価な場合でも積極的に購買する.地産地消はD氏にとって,生産から消費までの距離が小さい点や流通段階が簡素だという点で好ましいものである.そのようなシンプルさには,生産過程を自身の目で確認できるほど身近であることも含まれる.以上の点から,D氏は「同一品種における少し割高な京都産野菜の購買」を行う.しかしそのように京都産野菜に一定の価格上昇を受容する一方で,流通の簡素さから,京都産が安価であることを期待する側面もある.そのような需要のあらわれとして「最も頻繁に利用する小売店舗で旬に販売される大量ロットの京都産野菜の購入」も同時にみられる.

これらのいずれの京都産野菜購買も,D氏は一般野菜としての需要を満たすものとして捉えている.そして地域固有種や高級品に対しての関心は薄く,細かな地区名表記をともなうような「高級感をともなう地域固有種の京都産野菜に対する購買可能性の低下」があるとした.地産地消の文脈では割高な京都産野菜への購買可能性にも言及している点と対照的である.

以上のようにD氏は居住地産の野菜を地産地消の取り組みに位置づけて,または倹約のために購買するが,高級感のある地域固有種については購買の可能性は低下する.

(5) E氏:身近な関係性や小規模流通による居住地産野菜の購入と,広域流通される京都産地域固有種の非購買

E氏は直接流通などの小規模流通そのものを強く支持する.それは身近な関係性の構築を重視しているためである.そして,それらの要素は,地元産に対する肯定的な評価や,スーパーでの居住地産の優先的な購買検討に帰結する.

その一方で,遠隔地から輸送された食材購買での金銭的なつながりに対する関与は低くなる.京都産表示については,自分が京都府下(八幡市)で農業をしていることもあり,全国への流通拡大にともなって京都ブランドとされる生産地域が拡大したことへの疑問を持っている.そのために,京都ブランドが京都の地域固有種の全国的認知獲得に貢献したことは認めつつも,京都産に対する評価が高くない.京都産であることを購買で参照することもない.

E氏は,上述のとおり,小規模での流通販売への強い支持を居住地産の積極的な購買検討に,そして,地域固有種の生産範囲についての慎重な態度へとつなげている.さらにその慎重さが,ブランド化した京都産野菜の非購買に帰結している.

以上,それぞれのインタビュー協力者によるローカルフードに対する購買行動に対して,ローカルの意味づけの種別化による分析を試みた.とくに特定の商品の購買/非購買としてではなく,ある意味を持つ対象への購買行動を,検討のプロセスとあわせて図示できた点に意義があると考える.

4. 結論と考察

(1) 結論―空間的近接性による購買行動への影響

本稿の5件の事例分析すべての結果で,産地情報からの推論のうちに,ローカルフードにおける地域固有性と空間的近接性という2種類の性質への言及がみられた.そして,そのうち3件の事例(C氏,D氏,E氏)では,それぞれの性質に対応して,購買検討の経路と帰結(特定の対象の(非)購買)が,別個で示された.空間的近接性と関連づけられた購買パターンは,他と比べると,より積極的な購買の可能性を示すものだった.

また,空間的近接性は,「居住地産」(生産地名=居住地名)と「近郊地域産」(生産地域≒購入先)とに区別でき,その購買パターンへの関連づけが異なっていた.「居住地産」からの推論が購買行動へ反映される場合には,D氏が言及しているように,地産地消の影響として捉えることができる.E氏も身近な関係性の構築を重視しているなか,地元産表示について肯定的発言をしており,これは居住地産の野菜に対する購買行動であると考えられる7

その一方でC氏は直売所での「近郊地域産」の購買がもっとも好ましいと評価し,その評価と同様の扱いとして,スーパーでの「道の駅路線」の販促を評価していた.居住地近くのスーパーを利用するのは,直売所だけで日常生活の野菜を確保できないという制約があるからである.したがって,C氏の購買行動に関わる空間的近接性は,生産地と購入先の近接性としての「近郊地域産」が生活動線によって「居住地産」と重なっているものである.必ずしも地産地消を志向する事例ではない.

このように,日常的な購買において,消費者の居住地と購入先がごく近い範囲にある場合,居住地産と近郊地域産という異なる意味づけに対する購買パターンが一致することがある.しかしこの2種類の空間的近接性からの影響は完全に同じものとはならない.この点は,A氏の事例をみれば理解がしやすい.A氏は生産地域-購入先の空間的近接性(近郊地域産という意味)によって,居住地ではない地域の直売所にも自家用車で訪れる.したがって,A氏の場合には,居住地産の意味づけは購買行動に反映されていない.またこの事例から明らかなように,空間的近接性は,ある品目に対する選好を超えて,購入先の選好に影響する場合もある.

京都産野菜への購買パターンが細分化する3件の事例すべてにおいて,高級であるという意味づけによる京都産野菜に対する非購買がみられた.その高級感とともに,地域固有種であること,売り場の棚構成,細かな地区まで表示される産地名への言及がみられた.また,B氏も,高級であるという意味づけによる京都産野菜に対する非購買に言及した.しかし,B氏の京都産野菜に対する購買パターンは空間的近接性による購買の影響と総合されたうえで,最終的な非購買の傾向にいたる.

本稿で示した,これらの事例における非購買という帰結は,京都の地域固有種の野菜で進められてきたブランド化政策が対象とした市場と,本稿の調査設計で想定した家庭内食向けの日常的な購買が行われる小売市場とのミスマッチである可能性を排除できない.しかも,一般的に,家計節約のために,自身でコントロール可能な食費支出が抑制される傾向にあると考えるのが妥当である.実際に,A氏,B氏,D氏の購買判断では値頃感への期待に言及がみられた.以上のことから,今回の事例分析の結果も,単純な非選好というよりも,予算制約があるなかでの日常生活の内食向け購買という文脈からも規定された,高級な京都産野菜の非購買(および空間的近接性による購買)であることに留意が必要である.

以上のように,生産地居住者はとくに日常の食生活では,ローカルフードのなかの複数の性質を使い分け,空間的近接性から推測される性質や意義に対する選好からローカルフードの購買可能性が上がると判断した.一方で,食文化の中心を担う地域固有性を持つ食材は,高級感へと関連づけられやすく,そこから非購買という判断にいたっていた.

(2) 考察と今後の課題

これまでに,地域ブランドに対する消費者行動の研究でなされてきた,居住地と関連づけた議論を確認すると,まず,生産地近郊の居住者のほうが地域銘柄緑茶のブランド・ロイヤルティを形成しやすいという結果があった(杉田・木南,2012).その後,消費者自身の経験の差として,居住の経験がブランド評価の要素に組み込まれるようになった(八木・菊島,2017).そして,生産地域内外で,地域ブランドの食肉を再購買する意思にいたる経路が異なり,生産地では愛着の感情評価から再購買の意思がより高まることが分かっている(大橋他,2018).しかし,これらの結果は,ある食品に対する「評価」として消費者の購買/非購買を代理変数としたり,購買の「意思」との関連を確認したり,購買行動分析とするには,分析対象とされる購買行動を具体的に記述できていなかった.本稿では,生産地居住者が自分の実際の購買行動のなかで空間的近接性をどのように組み込んで考量しているのかを,質的分析によって詳細に記述できたと考える.

また,本稿の結論と,地域資源活用に関連した一連の議論には不一致がある.先行の議論では,地域ブランドやローカルフードの維持および確立には,地域内での継続的な利用が必要とされる.たとえば,地域産品の全国的なブランド展開では,生産地域における「常用買い」を基礎とした認知度の向上が必要だと指摘されている(田村,2011).また,生産地域で生産流通のネットワークが存在することは,認証制度を活用した市場取引における真正性とは異なる形式の真正性であり,それがときに生産地域内において生産地域外よりも付加価値を上げるとされる(須田,2014).つまり,地域資源が地域外や全国で流通するには,生産地域での利活用が前提として必要とされてきた.

その一方で,本稿の京都居住者の分析では,地域固有性のある京都産野菜について購買の可能性を低く見積もるケースが多かった.さらにそれは,全国流通によるブランド化(高級化)の帰結として示された.つまり,全国流通する地域ブランドの土台としての生産地域での常用買いについて,少なくとも生産地居住者の内食向け食材調達では確認できなかった.この結果からは,地域資源の利活用における地域の内外の関係性に関して,より慎重な実態の把握が必要だといえる.

ただし,本稿の報告で明らかとなった京都産野菜に対する生産地内居住者の購買行動については,さらに検証が必要である.とくに,空間的近接性の条件を持たない,生産地域外の消費者による購買行動の分析結果との比較を行うことで,生産地居住者であるという文脈要因によってローカルフードに対する購買行動の論理がどのように変化するか,より正確に記述できるだろう.この課題については稿を改めて論じることとしたい.

なお,空間的近接性の概念について,本稿では「居住地産」以外に「近郊地域産」の意味で解釈され,そこから直売所での購買に帰結する事例が確認された.このような「近郊地域産」と,地産地消に関連する「居住地産」とで,帰結するローカルフードに対する購買パターンが質的に異なってくる点についても,さらなる検証が必要である.

ローカルであることと近接性の概念との関係規定は,まだ議論が不十分である.ローカルフードの定義に対する近接性による整理は,前述のとおり,Eriksen(2013)が試みた.しかしその後,ローカルの多義性を整理したはずが,そのまま近接性を詳細に分類する議論に移行した(Chicoine et al., 2022).そうしたなかで,本稿における,購買者が実際に購買の判断で用いている近接性を確認する質的分析は,実際的な側面に議論を向ける貢献ができたと考える.しかし,必ずしも購買行動だけがローカル性について有効な視座を持つわけでもない.近接性と「ローカルであること」との重複と相違を十分に考慮したうえで,ローカルフードの多義性を整理する必要がある.

謝辞

本研究の公開に際し,農業食料組織経営研究(代表・京都大学・辻村英之)に対する寄附金より助成を受けた.

1  態度とは,ある商品に対する購買行動を心理的要因との関連づけで説明するモデルにおいて,製品に対する評価を統合する位置づけにある変数である.多くの購買行動モデルでは,この態度と購買行動との関連を実証する.

2  「京都居住者」「京都産」における「市」や「府」を省略したのは,行政区による境界ではなく,自身の空間的近接性の認識によって境界を判断してもらうためである.

3  ただし,これらの産地情報の形式から認識される空間的近接性には,異なる部分がある.京都産は,生産地域や購入先と自身の居住地が一致する「居住地産」を認識させうる一方,地元産は,それを表記する小売店舗からみた「地元」で,購入者には購入先の「近郊地域産」であることを認識させる.

4  ここでいう「主観的理論」とは,消費者一人ひとりが購買の際にたどる論理展開のことである.本稿の分析で用いるSCATの用語法でも個々人の有する論理を「理論」としていることに鑑み,「主観的」とつけることで一般的な用語である「理論」と区別した.

5  SCATでは「主観的理論」を「理論」と表し,ストーリー・ラインにある論理展開を抜き出すプロセスを「理論記述」と位置づけている.

6  CBTは行動と結びつけられる解釈のプロセスを明らかにし,その解釈に対する治療的介入を試み,行動変容を促すことが目的である.本稿は,行動変容を目的としてはいないが,購買行動を最終的な帰結として位置づけるという着想をCBTから借りた.

7  ただし,E氏の分析結果では,購買検討において,京都のブランド力の強さに対して実感を持っているほかにも,流通の規模や形態などに対する知識に基づく判断があるなど,他の調査協力者による購買検討とは異なるように考えられる判断が作用していた.これはE氏が生産地居住者でもあり生産者でもあることによるものか,また,それがひいては空間的近接性とは質的に異なる近接性に由来するのかといった点は残された課題である.

引用文献
 
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