2025 年 61 巻 1 号 p. 28-34
While efforts to achieve the SDGs are underway in Japan and overseas, The Ministry of Agriculture, Forestry and Fisheries of Japan has set a target of increasing the ratio of organic farming to 25% of arable land area by 2050. By expanding the area of organic farming, it is expected to reduce the environmental burden by reducing the use of chemical pesticides and fertilizers. In order to expand the area of organic farming, it is important to increase the area of organic farming per farm, and for this purpose, it is important to clarify the actual conditions of large-scale organic farming, and to consider effective technology development and support measures. So, we clarified some factors related to the establishment of large-scale organic cultivation by analyzing the technical and managerial efforts of a farm that conducts large-scale organic onion cultivation in Hokkaido. As a result, the following were mainly found. 1) The farm strives to carry out labor-saving cultivation and employs temporary workers for weeding, 2) owns facilities for product sorting and quality control, 3) builds the cultivation techniques considering the balance between yield, quality, and labor-saving. Based on these results, we suggested challenges such as the development of labor-saving weeding technology, and support for the sale of organic agricultural products.
SDGsの達成に向けた取組みが国内外で進められている中で,我が国の農林水産業の分野において,食料・農林水産業の生産力向上と持続性の両立をイノベーションで実現する「みどりの食料システム戦略」(農林水産省,2021a)が策定された.その中で,2040年までに次世代有機農業に関する技術を確立し,2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(100万ha)に拡大するという目標が示されている.有機農業の取組面積の拡大によって,化学農薬や化学肥料の使用量の削減などを通じた環境負荷の低減が期待できる.
有機農業の取組面積を拡大するためには,有機農業に取り組む経営体数の増加及び一経営体当たりの取組面積の増加が必要であり,有機農業が経営的に成り立つことが重要である.農林水産省(2022a)によると,有機農業に取り組む農業者のうち今後の有機農業の取組面積を縮小または現状維持したいと考えている者について,その理由の上位は「栽培管理が手間がかかる」,「人手が足りない」,「収量が上がらない」,「資材コストが高い」,「消費者に意義が伝わらない」などであり,大別すると,有機農業には主に労働力,収益性,販売に関する問題が存在する.これらの経営上の問題を解決し,有機農業の取組面積を拡大するための取組みが求められる.
本稿では,有機農業に取り組む経営体数の増加と一経営体当たりの取組面積の増加という二つの課題のうち,一経営体当たりの取組面積の増加に焦点を当てる.関係する研究として,楠戸(2023)が農林業センサス個票の組替集計によって,有機農業の実施経営体数が最も多いのは水稲作で水稲作付面積50 a~2 ha層,野菜作で野菜作付面積30 a未満層であることや,水稲作,野菜作ともに作付面積の大きな層ほど作付面積の一部で有機農業を実施する経営体の割合が高まる傾向があることなどを示している.また,作付面積が10 haを超えるような大規模層では有機農業に取り組む経営体は相対的に少ないことも確認できる.このように,経営体数で見た場合の有機農業の中心的な実施主体は比較的小規模な経営体であると考えられる.一経営体当たりの有機農業の取組面積の拡大に向けては,少数ながら存在する大規模な有機農業の実態と課題をより具体的に把握し,効果的な技術開発や支援策を検討することが重要である.
その際,有機農業の取組面積の拡大という観点からは,土地利用型作物を対象とする研究が特に重要であると考えられる.具体的には,米,麦,大豆,露地野菜などである.令和3年度の国内の有機農産物の格付数量(農林水産省,2023a)を見ると,土地利用型作物のうち米,麦,大豆が上位であり有機農業が相対的に普及している一方で,いずれも総生産量に占める有機の割合は1%未満であることから生産拡大の余地がある.また格付数量の首位は野菜であることから,露地野菜も有機農業の取組面積拡大において重要な作物である.
以上を踏まえ,関連する研究として,辻村・井村(2024)が,約150 haの規模で大豆,麦,米などの有機栽培を実施する石川県の金沢大地グループを事例として,経営行動や取組みの成果を分析している.その結果,耕作放棄地対策という経営理念のもと耕作放棄地を開墾することで面積を拡大したこと,技術的には大豆と麦の二毛作の場合大豆は無肥料,稲では稲刈り後に堆肥を施用し田植から収穫まで無肥料で栽培することや,抑草・防除が不全であり収量の減少が頻繁に生じていることなどの実態を明らかにしている.また,収量の減少のリスクに対応するために,大規模な面積において多めの量を生産していることや,垂直的多角化によって売上を高めていることも示されている.
この結果から考えられることは,従来の周密な有機農業と比較して粗放的な栽培によって,単収の低下や変動を伴いながらも作付面積の拡大が可能になり,作付面積の拡大による総収量の増加と多角化による売上の向上とを合わせて単収の低下や変動に対応することができれば,大規模な有機農業が成立し得るということである.ただし,このうち作付面積の拡大については,大豆や麦と比較して労働集約的な露地野菜などでは,面積拡大が容易でない可能性がある.また,有機栽培を経営耕地の全体あるいは大部分で実施する場合と一部で実施する場合とでは,経営上の有機栽培の位置づけや取組面積の拡大に向けた課題は異なると考えられる.そのため,他の作物や営農類型を対象とする分析も行い,大規模な有機農業の実態解明を進めることが課題となる.
(2) 本稿の目的と分析方法そこで本稿では,経営耕地の一部で有機栽培を実施する露地野菜作経営を対象とする.具体的には,北海道石狩郡新篠津村でたまねぎの有機栽培と特別栽培を実施する新篠津つちから農場株式会社(以下,T農場とする)である.T農場の経営耕地面積は約20 haであり,大規模な事例に位置づく.また,道内のたまねぎの有機農業取組面積は野菜の中でかぼちゃ,ばれいしょに次いで大きく(北海道,2022),たまねぎは重要な品目である.
T農場の農作業記録と会計記録,販売記録及び2024年6月,9月,10月に実施した役員への面接調査の結果などをもとに,有機たまねぎ作における①販売,②労働力,③収益性の問題に対する技術的・経営的な取組み内容を分析し,大規模有機栽培の成立要因と課題を明らかにする.また,特別栽培との比較を行い,経営における有機栽培の位置づけを明らかにする.
新篠津村は札幌市から車で約1時間の場所に所在する.石狩川沿いにあり,農業産出額は米一位,野菜二位となっている(農林水産省,2024).たまねぎの特別栽培は普及しているが,有機栽培を実施しているのはT農場のみである.
T農場の前身の農業法人は1969年に設立され,2013年に中村好伸が経営権を継承した.有機農業に興味を持っていた中村は2002年,38歳の時に有機栽培を行っていた前身の農業法人を選び,農外から就農した.就農時に約10ha(うち有機栽培約1.2ha)であった法人の経営耕地面積は,2023年時点で約20 haまで拡大している.経営の安定化及び取引先の需要への対応を目的として,規模拡大を志向してきた.主要作物の作付面積は,有機栽培たまねぎ429 a(有機JAS認証),特別栽培たまねぎ1,572 a,スイートコーン(たまねぎ育苗後のハウス)35 aである.中村は,最も良い食味を実現できるのが有機栽培だと考えており,特別栽培も有機栽培の品質に近づけるように栽培している.
経営耕地は田1,597 a,畑577 aである.圃場は基盤整備済みで平均面積154 a,泥炭土が主で一部粘土の圃場も存在する.労働力は役員2名,常時雇用10名,臨時雇用15名であり,必要に応じて人材派遣1~2名も利用している.
中村は経営継承後,「たまねぎ本来の力や土壌の地力を活かす」という自身の考え方に基づいて,先代から引き継いだ有機栽培技術の簡略化に取組んだ.例えば,腐食酸肥料や液肥の廃止,不織布ベタがけによる初期成育促進の廃止などである.このような簡略化と同時に上記の考え方に基づく技術の改良を続けた結果,先代の時と比較して収量はほぼ低下しておらず,貯蔵中の腐敗の減少により歩留まりは向上した.このように,単なる粗放化ではなく,収量の維持を図りつつ省力化を進めてきたと言える.
表1はT農場における現在の有機栽培の内容である.まず,施肥については,土中微生物の増加を目的として自家製堆肥と自家製ボカシ肥を使用している.堆肥は近隣農家の稲わらや鶏糞などを約一年間発酵させたものであり,ボカシ肥は魚かす,米ぬか,籾殻などを撹拌し約一年間嫌気発酵させたものである.このような土づくりの取組みの結果,T農場の圃場の土1 g中の土壌細菌数は他の生産者の慣行栽培の圃場と比較して高い値であることが土壌分析から明らかになっている.
たまねぎの有機栽培の方法
| 時期 | 作業名 | 使用資材 | 使用機械 |
|---|---|---|---|
| 前年 9月 | 施肥 | 自家製堆肥 | マニュアスプレッダー |
| 当年 4月 | 施肥 | 自家製ボカシ肥 | マニュアスプレッダー |
| 定植 | なし | 移植機 | |
| 5月 | 除草 | なし | 乗用管理機(カルチ) |
| 6月 | 除草 | なし | 手押しカルチ |
| 除草 | なし | なし(手取り) | |
| 7月 | 除草 | なし | なし(手取り) |
| 防除 | 銅殺菌剤 | スプレーヤー | |
| 防除 | 微生物殺虫剤 | スプレーヤー |
資料:T農場の農作業記録をもとに著者作成.
病害防除は,有機栽培で使用可能な二種類の薬剤(銅殺菌剤と微生物殺虫剤)をスプレーヤーを用いて散布する省力的な方法である.ただし,害虫は窒素を好むため施肥による投入量を減らすことや,たまねぎは水太りすると病気に弱いことからスプリンクラー灌水しないことなどの工夫をしている.
除草は,はじめに乗用管理機に取り付けるカルチと手押しのカルチを用いて行う.たまねぎの生育が進むとこれらの除草機が圃場に入れなくなるため,その後は手取りによる除草を実施する.手取り除草では,圃場毎に時間を決めて80%の除草を目標にしている.除草が不十分な状態が続くと品質の良い作物を生産できない圃場になってしまうため,手間はかかるが現在の除草の水準を維持する必要があると考えている.省力的な有機栽培体系を志向しつつも,このように工程毎に必要と考える管理水準を維持する方針がとられている.
なお,特別栽培では,肥料に自家製堆肥と化成肥料,病害防除に有機栽培と同じ薬剤に加え化学合成農薬を使用する.除草は,カルチによる除草に加えて化学合成農薬を使用する.農薬で除草しきれなかった草を手取りするが,有機栽培と比較すると手取り除草に要する時間は短くなる.
図1はたまねぎの販売方法である.T農場が生産したたまねぎのうち特別栽培の約130 tをJAなどを通して販売し,残りは販売部門である「新篠津つちから販売株式会社」を通して販売している.つちから販売株式会社では他の生産者のたまねぎも買い取り,T農場の生産分と合わせて約3,750 tの有機栽培たまねぎと特別栽培たまねぎを小売業者や卸売業者などへ販売している.その際,高値での販売のために実需者との直接取引が必要であり,そのためには自社で商品の品質管理と出荷ができる体制が必要と考え,選果・貯蔵施設を所有している.

T農場のたまねぎの販売方法
資料:T農場とつちから販売株式会社の販売記録及び面接調査結果をもとに著者作成.
また,特別栽培のうちT農場の泥炭土圃場で栽培したものを自社ブランドとして販売し,残りは他の生産者のものと合わせて販売している.T農場ブランドの特別栽培たまねぎは,その他の特別栽培たまねぎより高値で販売できるが,他の生産者にも生産を拡大すると品質管理が難しくなり,また供給量の増加により希少価値を損なう恐れがあるため今後の販売拡大は容易でない.大規模な特別栽培を実施するT農場が直面する課題である.
有機栽培たまねぎの主な販売先は,有機農産物などを専門に扱う札幌市内の小売業者である.有機栽培たまねぎの生産量が多いため消費者への直接販売は非効率であると判断し,小売業者へ販売している.取引先の要望に対して全量供給できていない状況であり,需要面では販売拡大の余地がある.一方で,特別栽培たまねぎの主な販売先は札幌市のスーパーや東京の卸売業者などであり,有機栽培たまねぎの販路とは異なる.
有機栽培たまねぎの販路については,先代の取引先を継承し各取引先への販売量を増やしてきた他,特別栽培たまねぎの取引先に有機栽培たまねぎも販売するなどして拡大してきた.販売価格は,前年の価格を基準に生産費の変動などを踏まえて取引先と協議の上決定する.再生産可能な価格での販売を重視している.
(2) 労働力T農場のたまねぎ作の10 a当たり投下労働時間(育苗作業,選果・出荷作業を除く)は,有機栽培96.1時間,特別栽培46.5時間である.作業別に見ると,有機栽培の施肥・病害防除作業の10 a当たり投下労働時間は0.78時間であり,特別栽培の0.80時間を下回る.一方で,有機栽培の除草作業の10 a当たり投下労働時間は82.2時間であり,特別栽培の33.4時間の約2.5倍となっている.「作物と土壌の力を活かす」各種技術により施肥・防除は省力化されているが,除草は手取りによる作業に長時間を要する.なお,有機栽培において除草作業に次いで投下労働時間が多いのは,定植4.70時間,収穫・運搬2.97時間である.定植や収穫・運搬は慣行栽培と変わらない方法で行われている.このように,有機に関係する作業以外にも労働集約的な工程が存在する.
T農場では,このような各種農作業に必要な労働力を次のような方法で確保している.まず,役員と常雇の従業員は,道内だけでなく本州や九州からも採用している.年齢は20代~50代で,前職は全員農業以外である.たまねぎを自社販売しているため冬期にも選果,配達,営業などの業務があり,通年雇用に有利に働いている.また,除草や定植,選果などの作業には臨時雇用を導入している.年齢は50代~70代であり,村内及び近隣市内の元農業従事者の女性が主である.ただし,高齢によりリタイアする人が出た際に後任を確保できるかは不透明である.今後有機栽培の面積を拡大する場合には,除草作業の労働力の不足が制約となる.
(3) 収益性T農場のたまねぎの10 a当たり収量の推移を図2に示す.特別栽培の収量は4.7~5.6t/10 aである.平年の有機栽培の収量は特別栽培の2~3割程度低い水準であるが,2020年の収量は降雨の影響を受けて大きく低下した.特別栽培の収量はその年も安定していた.

また,2023年のたまねぎの販売価格は有機栽培155円/kg,特別栽培(T農場ブランド)125円/kg,T農場ブランドでない特別栽培105円/kgであった.2022年は有機栽培150円/kg,特別栽培(T農場ブランド)120円/kg,T農場ブランドでない特別栽培95円/kgであった.有機栽培のものは特別栽培(T農場ブランド)の25%程度,T農場ブランドでない特別栽培の5~6割程度高値である.
次に,会計記録などをもとにたまねぎの10 a当たり生産関連費用,及び選果出荷・貯蔵関連費用のうち労働費と建物機械償却費を推計した.また,10 a当たり収量と税込の販売価格から10 a当たり販売収入を計算し,販売収入から上記の費用を差し引いたものを本稿では利益と定義し,10 a当たり利益を推計した.表2は2023年の有機栽培たまねぎと特別栽培たまねぎ(T農場ブランド)の10 a当たり利益の推計結果である.生産関連費用を比較すると,有機栽培の農業薬剤費は特別栽培を下回る一方で,労働費は除草時間の差が要因となり特別栽培を大きく上回り,費用合計で有機栽培が特別栽培を上回った.また,10 a当たり販売収入で特別栽培(T農場ブランド)が有機栽培を上回り,特別栽培(T農場ブランド)の10 a当たり利益は有機栽培より高い水準となった.同様にT農場ブランドでない特別栽培の10 a当たり利益を推計したところ176,141円となり,有機栽培を下回る水準であった.さらに,2022年の10 a当たり利益は特別栽培(T農場ブランド)366,741円,有機栽培278,610円,T農場ブランドでない特別栽培210,793円の順となった.
有機栽培たまねぎと特別栽培たまねぎの10 a当たり利益(単位:円)
| 有機栽培 | 特別栽培(T農場ブランド) | ||
|---|---|---|---|
| 生産関連費用 | 種苗費 | 25,719 | 25,719 |
| 肥料費 | 43,105 | 21,472 | |
| 農業薬剤費 | 3,089 | 13,809 | |
| 光熱動力費 | 27,409 | 27,621 | |
| その他の諸材料費 | 14,380 | 14,380 | |
| 土地改良及び水利費 | 8,623 | 8,623 | |
| 賃借料及び料金 | 9,967 | 9,967 | |
| 物件税及び公課諸負担 | 2,203 | 2,203 | |
| 建物費 | 32,598 | 32,598 | |
| 自動車費 | 27,532 | 27,532 | |
| 農機具費 | 82,948 | 82,948 | |
| 生産管理費 | 5,959 | 5,959 | |
| 労働費 | 105,990 | 53,828 | |
| 費用合計 ① | 389,521 | 326,659 | |
| 選果出荷・貯蔵 関連費用 |
労働費 ② | 17,684 | 22,547 |
| 建物機械償却費 ③ | 7,221 | 7,221 | |
| 販売収入 ④ | 622,728 | 640,305 | |
| 利益(④-③-②-①) | 208,302 | 283,878 | |
資料:T農場とつちから販売株式会社の会計記録,販売記録,作業記録及び面接調査の結果などをもとに著者作成.
なお,有機栽培の単収が大きく低下した2020年については,販売価格のデータを得ることができなかったため2022年の販売価格を用いて有機栽培たまねぎの10 a当たり利益を推計した結果,22,488円となり,T農場ブランドでない特別栽培を下回る水準となった.
本稿では,北海道石狩郡新篠津村でたまねぎの有機栽培と特別栽培を実施するT農場を対象として,有機たまねぎ作における販売,労働力,収益性に関する技術的・経営的な取組み内容を分析した.分析結果をもとに,T農場における大規模有機栽培の成立要因と国内における大規模有機農業の普及に向けた課題を考察する.
(1) T農場における大規模有機栽培の成立要因まず,販売に関して,自社で施設を所有することにより大量の生産物を選果・貯蔵可能にするとともに,自社での品質管理と出荷を可能にすることで実需者との直接取引と高価格販売を実現している.また,消費者への直接販売ではなく小売業者へ販売することで大量販売を効率化している.
労働力の問題に対しては,利用可能な機械や資材の導入に加えて,作物の特性と土壌の地力を活用することにより,栽培の省力化を図っている.労働集約的な工程の残る除草作業に必要な労働力は常時雇用(自社販売の利点を活かした通年雇用)に加えて近隣住民の臨時雇用により確保している.
収益性に関しては,有機栽培の平年の単収を特別栽培の2~3割程度減に止めるとともに,特別栽培の5~6割程度高い価格で販売している.規模拡大を志向しながらも,収量,品質,省力化のバランスを考えた栽培技術を構築していることが,これを可能にしている一因である.また,単収の安定した特別栽培と組み合わせることによって,有機栽培の単収変動に伴う経営全体の利益の変動を緩和している.同様に,他の生産者のたまねぎを買い取り販売する取組みも,自社の有機栽培の収量変動による影響の緩和に有効であると考えられる.
また,有機栽培の平年の10 a当たり利益は特別栽培(T農場ブランド)に劣るが,T農場ブランドでない特別栽培を上回る.大規模な特別栽培によりその生産量がT農場ブランドとして高価格販売可能な量の上限に近づく中で,有機栽培に取り組む経営的な利点がある.
(2) 国内の大規模有機農業の普及に向けた課題最後に,T農場における大規模有機栽培の成立要因を踏まえて,国内における大規模有機農業の普及に向けた課題を提案する.
第一に,作物や土壌の力を活用した省力的栽培技術の普及である.既存の機械や資材の導入に加えて作物の特性や土壌の地力を合理的に利用することで,省力化を図りながら従来の周密な有機栽培に劣らない収量性を維持できる可能性が示された.生産現場で実践されているこのような技術の改良と普及が重要と考えられる.
第二に,除草技術の開発である.作物の生育後半に使用可能な除草機械の開発は,多くの作物に共通の課題であると考えられる.特に高品質な生食用野菜の生産を目的とする場合などには,品質を低下させない除草精度の高い技術の開発が求められる.T農場では雇用により必要な労働力を確保しているが,経営体の立地条件などによってはこれが困難な場合がある.また,T農場においても今後継続的に労働力を確保可能であるかは不透明である.
第三に,販売の支援である.有機農産物の大量販売や高価格販売のためには自社で選果・貯蔵施設を所有することが有利であるが,一経営体で取り組む場合関連経費の増加により収益が悪化する可能性がある.複数の経営体による共同販売の取組みなどへの支援が重要である.
第四に,有機作物を含む複合的経営の普及である.有機作物の収量変動による影響の緩和のためには,他の作物や栽培方法と組み合わせた経営が有効な方策の一つである.特に同じ作物の特別栽培は使用資材や栽培技術,販売戦略などに共通点が多く,自社販売する場合には選果・貯蔵施設の共通利用による稼働率の向上も可能である.T農場のように経営耕地面積の大きな経営体であれば,経営耕地の一部で有機栽培を実施するとしても,その面積は大規模なものとなる.
第五に,作物別や地域別の大規模有機農業の普及戦略の検討である.取組面積拡大のためには省力的な有機栽培技術の普及が重要であるが,省力化水準,収量,品質の最適なバランスは作物や地域条件などによって異なる.例えば,省力的有機栽培が実現した場合でも,定植・収穫など有機に関係しない労働集約的工程が存在する作物では面積の拡大が相対的に難しい.そのため,そのような作物では単収の維持がより重要になる.また,基盤整備にコストをかけた農地では大きな単収の低下を許容できないというように,地域の農地の条件が影響する可能性もある.さらに,食味を重視した生食用作物と量を重視した加工原料用作物とでは,求められる品質,収量のバランスは異なると考えられる.