2025 年 61 巻 1 号 p. 4-7
The unifying theme of the 73rd and 74th conference symposiums was “Strategy MIDORI”; The Capabilities and Competence of Organic Agriculture in Japan. In particular, the 73rd conference symposium set the theme of The Challenges in Diffusion of Organic Agricultural Production Technologies in Japan with “Strategy MIDORI”: Focusing on the Experiences in European Countries with “Farm to Fork”. Here, in the form of lectures, the possibility of expanding organic agriculture production technology in Japan was discussed from an international perspective. Furthermore, the contemporary issues in agricultural and forestry research, related to the “Strategy MIDORI”, were positioned as a common understanding.
At this conference symposium, we will discuss the possibility of expanding organic agriculture production technology in Japan under “Strategy MIDORI”. To this end, we will share the specific trends in research development and the direction of future policies. Especially we will share the issues that are needed to be resolved in the development of new technologies and policy support, based on examples of management development that make efforts to expand farm scale. We will discuss the possibility of expanding organic production agriculture in Japan in terms of technology and management.
第73・74回大会シンポジウムの統一テーマは,『みどりの食料システム戦略と有機農業の可能性』であった.
前大会(第73回)では,『みどりの食料システムと有機農業技術普及の課題:欧州の経験と示唆』というテーマのもと,講演会形式のシンポジウムが行われた.
このシンポジウムでは,まず,秋津元輝会長により「方法論的遺言から研究課題の遺言へ」と題して,近代農業の反省の上に立った持続可能な未来に貢献する農業とは何か,より具体的には,「みどりの食料システム戦略」で発信された有機農業の推進を支えるような科学的根拠を積み上げていくことが課題であり,この際,今後の技術開発に過剰に期待することなく,現在実践されている有機・自然栽培の科学的解明や過去に遡った農法の再評価も求められるといった報告が行われた.
続いて,基調講演では中島紀一氏により,「「みどりの食料システム戦略」と有機農業の農業論―農の原点にも立ち戻って―」と題して,「みどりの食料システム戦略」は,近代化政策への反省という地点にしっかりと身を置き直し,人工的なイノベーションに依存した「特殊な農業の形成」などという空疎なものではなく,日本農業の風土的特質と草の根での取り組み成果を活かした,多くの国民が参加していく「みどりの農業」つくりへと舵を切り直すべきではないかといった報告が行われた.
さらに,若手講演として,第1報告浅井真康氏「有機農業の普及・拡大に向けたデンマークの政策的アプローチ」,第2報告石倉研氏「オーストリアにおける有機農業普及と農業環境政策」,第3報告Zollet Simona “Organic Farming Systems and Rural Revitalization in Italy-Current Situation and Way Forward”をテーマに報告が行われた.これら3報告を通して,これまでの欧州諸国における有機農業の推進に係る政策動向や有機食品市場の展開について,認識の共有が可能となった.
一方で,わが国に目を向けると,有機農業の拡大が限定的であるようにみえる.なぜ,わが国において,有機農業は「期待」よりも拡大していないのか.このことについて,有機農業は大変だといって形成された概念・先入観,到達点が不明なこと並びに学会の無関心等が指摘されている(胡柏,2024).
有機農業の拡大方策として考えられることは,有機農業に取り組む農業経営体を増やす,1経営体当たりの作付(栽培)面積を拡大する,市場・販売対応のもと消費を拡大する等である.
農林業センサス(2020年)により,全国農業地域別にみた有機農業の農業経営体数及び作付(栽培)面積をみると,有機農業に取り組んでいる農業経営体数は,2020年に全国で69,309経営体(農業経営体数に占める割合は6.4%),作付(栽培)面積は115,269ha(作付(栽培)面積に占める割合は4.5%)となっている.1経営体当たりでみると1.7 haに達している.また,作物別にみた有機農業の農業経営体数及び作付(栽培)面積と有機農業に取り組んでいる経営体及び作付(栽培)面積をみると,水稲,野菜作に係る農業経営体数が多く,作付(栽培)面積が大きいことがわかる.今後も経営規模の拡大が不可避であるなかで,大規模経営における持続可能な有機農業経営の探求(辻村・井村,2024)や稲作法人経営における有機農業導入と経営管理等(上西・南石,2024)について成果が蓄積され始めている.こうした状況も鑑みると,大規模経営における有機農業は,どこまで「慣行化」する可能性があるのか理解を共有する必要があろう.
有機農産物の消費を拡大することによって,有機農業の取り組みを拡大させることが可能になるということに関しては共通認識であるなかで,規模拡大を志向する経営,特に,水稲や野菜作経営における有機農業の導入の普及の可能性について議論を進める必要があるといえる.
そこで,本大会(第74回)シンポジウムでは,これまでの指摘や現在に至る有機農業の状況を踏まえ,これからのわが国における有機農業の拡大の可能性について議論することとした.特に,最新の施策や技術開発動向,さらに,実践の生産現場から学べないか.「みどりの食料システム戦略」のもと,有機農業の拡大に向けて,特に,規模拡大を志向する経営展開において,技術・経営面,政策面でどうアプローチすべきか,議論することとした.
本大会(第74回)シンポジウムでは,4報告と2コメントをいただいた上で,総合討論を実施した.報告及びコメントには,本大会シンポジウムのテーマに精通した研究者,行政担当者のみならず,第一線で生産現場の実態に詳しい生産者にも登壇いただくこととした.報告に先立ち,秋津元輝会長より「オーガニック研究にむけたパラダイム転換」と題して,会長公演をいただいた.会長公演及びシンポジウム公演の内容は,本学会誌の別報を参照いただきたい.
1) 大会シンポジウム報告第1報告では,島義史氏(国立研究開発法人 農研機構 NARO開発戦略センター)に「農研機構における有機農業技術開発プロジェクトの現段階と課題」というテーマで報告をお願いした.特に,全国横断的な視点で取り組まれている農研機構のプロジェクトから,有機農業に関する全国的かつ最新の技術開発動向を示すとともに,地域農林経済分野で議論すべき内容についてご提示いただくこととした.第2報告では,松本賢英氏(農林水産省 農産局 農業環境対策課)に「みどりの食料システム戦略の実現と有機農業の推進について」というテーマで報告をお願いした.特に,「みどり戦略」の実施主体である国(行政)の立場から,有機農業の現状,拡大を目指す背景並びに拡大を推進する施策についてご提示いただくこととした.第3報告では,大嶋康司氏(株式会社大嶋農場代表取締役)・大學寛和氏(農研機構企画戦略本部)に「大規模稲作における有機栽培の生産技術と市場対応の実践課題」というテーマで報告をお願いした.特に,大規模稲作経営が有機農業を導入・定着させる上での技術的課題について,経営内での有機農業の位置づけの変遷を踏まえて示すとともに,求められる技術開発,販売面での市場対応並びに施策的に必要となるサポートについてご提示いただくこととした.第4報告では,房安功太郎氏(農研機構北海道農業研究センター)・中村好伸氏(新篠津つちから農場株式会社代表取締役)に「大規模露地野菜作経営における有機野菜の栽培技術と販売戦略―新篠津つちから農場株式会社の有機たまねぎを事例に―」というテーマで報告をお願いした.特に,大規模露地野菜経営が有機農業を導入・定着させる上での技術的課題から拡大に向けた阻害要因を示すとともに,販売戦略等についてご提示いただくこととした.
2) 大会シンポジウム報告へのコメントこれらの報告に対するコメンテーターの皆様には,有機農業の技術的・経営的な普及の可能性について,ご専門の研究分野の視点から,総合討論における議論の論点を提示いただくことをお願いした.
第1コメントでは,新井祥穂氏(東京農工大学)に,農業構造論の視点から,今後避けられない経営規模の拡大に当たり,経営内での有機農業や多様な担い手(特に,規模拡大を志向する経営)の位置づけをどう考えるか等といった議論の論点を提示いただくことをお願いした.第2コメントでは,柴崎浩平氏(兵庫県立大学)に,農村計画(地域資源管理・地域政策)の視点から,有機農業の点的な取組みから面的な拡大・定着に向けた議論の論点を提示いただくことをお願いした.
総合討論では,規模拡大を志向する経営において,有機農業を導入・拡大するとともに,安定生産に向けて,現状の技術的な課題と必要となる新技術の開発,現状の経営面での課題と必要となる政策的サポート,有機農業の取組みを「点」から「面」にどう展開させるのか,そのために何が必要かといった点に着目した議論を展開することとした.
はじめに,コメントへの回答が行われた.有機農業における担い手としての大規模経営の位置づけに関する新井氏コメントに対して,大嶋氏から,まずは,有機農業に対する理解の共有が図りやすい家族経営から導入を始めた方が長期的に継続可能であることが回答された.中村氏からも同様の回答がなされ,有機農業は経営主の取り組みたいとする意向や消費者のニーズに基づいて採用しており,理解者が増えることで拡大していけば良いと考えていると回答があった.また,有機農業を拡大するために,複合経営(新篠津つちから農場でのたまねぎ作での特別栽培や大嶋農場での種子用米の生産の併用)や大規模経営等といった経営基盤を充実させたうえで,取り組むといった視点が重要であり,安定的な定着が図りやすいとの回答がなされた.さらに,新井氏から,経営内において有機農業の全面積での採用の可能性について質問があり,両経営ともその可能性はないとの回答があった.こうした認識が共有されたうえで,続いて,経営内に有機農業を導入する際の規模を規定するポイントは何かとの議論につながった.島氏は,担い手,地域並びに採用する作目でその規模は多様であること,さらに,こうした経営における有機農業の導入を後押しする技術開発が重要となることを強調し,松本氏からも同様の回答があった.関連したフロアからの質問として,胡氏(東北農林専門職大学),平氏(京都大学大学院)から,有機JASの拡大やオーガニックビレッジの拡大についての方策内容について確認があり,松本氏により,国としても各種支援の拡大を検討しているとの回答があった.
続いて,柴崎氏コメントについて,大嶋氏から,有機農業の点から面への拡大方策について,最も大切なことは消費を増やす出口対策であると回答があった.特に,出口対策があって,若い担い手が活躍できる環境が必要であると強調した.中村氏も同様の回答をするものの,現状では,取り組んでいる有機農業は地域全体でみた農業生産に対して,ポジティブな影響を与えるほどパイが大きくないとも回答した.柴崎氏はさらに,こうした状況下で,有機農業を採用し続ける理由は何かを問い,中村氏は,消費者のニーズに対応するなかで,経営の旗印になっていて,生産した農産物を待っている消費者がいることが継続に向けたインセンティブになっていることを強調した.大嶋氏も,有機米の販売単価を考慮して,経営の底上げと安定化につながっていることを強調した.
さらに,フロアから上西氏(九州大学),池上氏(近畿大学)が,有機栽培を導入する際の経営内での複合化の位置づけに関して質問を寄せ,座長からシンポジウムにおける両事例を鑑みても,先述のとおり,複合化は,有機農業を導入・安定化させる上での基盤であり,かつ,経営のリスク分散につながることを回答した.池上氏からは,前大会シンポジウムにおいて中島氏が強調したように自然循環を重視し,近代農業の反省に立った展開の再認識が重要だと指摘があった.また,関根氏(愛知学院大学)から,「みどりの食料システム戦略」の導入について,小規模農家の撤退等の負の側面の懸念について質問があり,大學氏は有機農業の定義をあいまいな理解としないことが重要であること,房安氏は大規模経営における定着のみならず,専門農業である有機農協による集荷効果等を鑑みて小規模農家の共存も可能になるといった回答があった.
加えて,フロアにおける辻村氏(京都大学)からは,本大会シンポジウムの報告において多数引用された論文(辻村・井村,2024)に関連して,大規模経営における有機農業導入のポイントについてコメントいただいた.他に,島田氏(岩手県立大学)からは,景気と有機農産物の売上の関係等について質問があった.
本大会シンポジウムでは,参加者全員で,わが国における有機農業の技術的・経営的な普及の可能性について情報を共有し,その展望に関して実態認識を深めることが可能となった.また,本大会シンポジウムは,「みどりの食料システム戦略」の策定を踏まえた有機農業の拡大の可能性について,研究者のみならず行政担当者,第一線で生産現場の実態に詳しい生産者が大々的に集い議論する場として,大変貴重かつ有益なものとなった.冒頭で指摘した内容にも言及するものであるが,本学会として「無関心」ではないことを十分に示すことになり,今後の議論場を展開させる上で,その突破口となった.
「みどりの食料システム戦略」の掲げる目標を達成するために,今後,全国の地域学会で本シンポジウムと同様のテーマを取り上げるべきであると考える.その際に,本大会シンポジウムが好事例となろう.