農林業問題研究
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大会講演
農研機構における有機農業技術開発プロジェクトの現段階と課題
島 義史
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2025 年 61 巻 1 号 p. 8-15

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Abstract

This report provides an overview of the organic farming technologies that have been developed by National Agriculture and Food Research Organization (NARO) and current research projects in organic farming and discusses future challenges for expanding organic farming. NARO has developed technologies for labor-saving weeding in organic rice farming and disease and insect control in organic vegetable farming. Currently, NARO is conducting cross-organizational research projects related to organic agriculture, including systematization of organic rice cultivation techniques and establishment of organic strawberry cultivation. Future challenges for the expansion of organic agriculture include the need for meticulous technological development with clear technological targets. It is also necessary to develop technologies that help organic farming supporters and distributors solve problems. Furthermore, it is considered important to conduct multifaceted evaluations of the effects of the introduction of organic farming technologies, as well as participatory research projects involving not only organic farmers but also distributors and other related parties.

1. はじめに―有機農業の現状の概括

農研機構における有機農業に係る技術開発について詳述するのに先立ち,はじめにわが国有機農業の現状を概括したい.その際に関連する多くの先行調査や研究の蓄積があるが,ここでは本報告の視点に限って,有機農業経営の動向,有機食品市場の現状,有機農業の取組拡大の課題に関するものを取り上げる.

まず,有機農業経営の動向として,慣行経営でも数少ない規模に達した有機農業経営が出現しており,経営実態の分析を通じ,これらの大規模経営が高い技術力,経営力を備えていることが明らかにされている(胡,2022辻村・井村,2024).他方,靏(2021)は,少量多品目で産消提携に取り組むだけでなく,品目を絞って規模拡大を志向する個人・法人が増えてきているとし,このような状況を有機農業の多様化として捉えている.

また,農林業センサスや営農類型別経営統計を用いた解析による有機農業経営の実態解明も試みられている(楠戸,2023日田・楠戸,2024).比較的作付面積が大きくその一部で有機農業を行う経営や,一定以上の面積規模を確保しデータ等を利用しつつ省力化を図る若手層の存在が指摘されている.また,有機農業を行う水田作経営では大・小規模ともに同規模の慣行経営に比べて優れた経営成果を実現していることが明らかにされている.

そのような中で,有機農業者の今後の取組面積の意向を整理したのが図1である.これをみると,規模の大きい経営ほど取組面積を拡大する意向の割合が高い傾向にはあるが,多くの回答者は現状維持を志向していることがわかる.

図1.

今後の有機農業の取組面積

資料:農林水産省(2022)をもとに報告者が再集計.

1)回答者数は2056.

次に,有機食品市場の現状を確認する.図2酒井(2022)によるわが国における有機食品市場の概観図である.これによると,国内の有機食品は消費者への直接的な販路への供給が約2割あるほか,約5割が量販店等を通じて供給されている.有機食品流通の一般化が進んでいると指摘されている.

図2.

日本における有機食品市場の構造と規模

資料:酒井(2022)より引用,加筆.

以上のような状況下で,改めて有機農業者に対する意向調査から取組拡大の阻害要因や経営課題をみる.図3には農林水産省による調査結果を示したが,そのほか同様の調査結果もあわせて,有機農業の取組拡大の阻害要因や経営課題の上位にあげられるのが,人手不足や栽培管理の手間,栽培技術の確立,収量性の低さや資材コストの高さといった項目である(農林水産省,2022坂ノ途中の研究室,2022).

図3.

有機農業の取組面積を縮小したいまたは現状維持の理由

資料:農林水産省(2022)をもとに報告者が再集計.

1)回答者数は1694名で,複数回答の結果.

有機農業者が直面する課題に対して必要となる技術開発に関する検討も行われている.そのうち上西・南石(2024)は,稲作経営を対象にして有機農業を導入している法人経営と導入していない法人経営との比較を行い,有機農業の導入の規定要因を分析している.特に,有機農業を導入していない稲作法人経営のうち,自社利益の安定的な向上を経営目的とする法人に対しては,有機栽培マニュアルの作成等による技術確立,有機農産物の販路開拓やプレミアム価格の実現等の利益向上につながる方策を確立し,提示することが有効であると考察をしている.

2. 農研機構におけるこれまでの有機農業研究

(1) 農研機構における有機農業研究の推進方向

2006年の「有機農業の推進に関する法律」,2007年の「有機農業の推進に関する基本的な方針」を受け,農研機構ではワーキンググループを組織し「農研機構における有機農業研究の推進方向」を策定した.この中で,有機農業者が取り組んでいる実践技術のメカニズムを科学的に解明し,地域ごと経営形態ごとに合理的な有機農業技術体系モデルを提示すること,その技術体系の高度化に向けて要素技術を開発し体系の中に組み込むこと,組み立てた技術体系を実証・評価することが研究課題として整理されている.農研機構ではこの推進方向に沿って2008年度から有機農業研究を本格的に実施している.

(2) 横断的なプロジェクト研究による技術開発の取組

ここでは,農研機構における有機農業研究のうち横断的なプロジェクト研究による技術開発の取組を紹介する.主なプロジェクト研究の推移を整理したものが表1である.

表1.

農研機構における有機農業関係の主なプロジェクト研究

年度 2008 2009 2010 2011 2012 2013 2014 2015 2016 2017 2018 2019 2020 2021 2022 2023 2024 2025
農研機構プロ 有機農業の生産技術体系の構築と持続性評価法の開発 有機農業の成立条件の科学的解明と栽培技術の体系化 新たな作物保護管理技術を活用した有機栽培体系の確立 有機農業の大幅な拡大に資する環境保全と生産性の両立
農林水産省プロ 有機農業の生産体系技術の確立 有機農業を特徴づける客観的指標の開発と安定生産技術の開発 戦略的スマート農業技術等の開発・改良

資料:三浦(2020)より引用,加筆.

プロジェクトは組織横断的,分野横断的,地域横断的な体制で推進されてきた.農研機構だけでなく,大学,公設試が参加して様々な分野での研究を実施している.要素技術の開発に加え,有機農業者等と連携した技術体系の現地実証を広域的に行い,経済性の評価を実施している.

以下,これまでの技術開発の例をあげる.一般的に有機稲作では慣行栽培に比べ作業時間が長くなる傾向にあり,中でも除草作業に時間を要する.雑草防除は収量性にも影響を及ぼすことから,農研機構ではこれを研究の重点として機械除草と代かき,深水管理といった耕種的防除を組み合わせた除草法を開発してきた.あわせて,育苗や病害虫防除についても,実践技術のメカニズムを解明し,管理技術を体系化してきた.

有機稲作の技術開発に際しては,それに先立って栃木県や秋田県で実践技術を調査し,現場ニーズの高い技術の開発に取り組んでいる.除草機については,農機メーカーと連携してミッドマウント方式の乗用型除草機を開発して,現場の課題であった作業能率や除草率の向上を現地実証している.また,育苗ほかの技術も組み合わせ,図4に示すように栽培体系を確立して提示している.

図4.

高能率水田用除草機を活用した水稲有機栽培体系

資料:農研機構(2020)より引用,加筆.

野菜作において,露地栽培では高冷地の有機レタスの育苗や病害虫管理技術を開発している.そのうち,害虫管理については,有機農業者の取組をもとに技術を構築して効果を検証し,不織布を使った対策技術として取りまとめている(農研機構,2019).

また,施設栽培ではミニトマトの総合的病害虫管理体系を構築している.有機農業に取り組む農業法人の圃場において害虫発生の調査と防除対策の実証を10年間にわたり積み上げて,表2のような害虫管理プログラムを組み立てている.対象害虫とその時期を明らかにし,現地で実証された対応策をまとめて示している.

表2.

施設ミニトマト有機栽培での害虫対策例

対象害虫 時期 対応
コナジラミ 6月以降 発生確認後,天敵オンシツツヤコバチまたはサバクツヤコバチを6~9回放飼(1~2週間間隔)
ワタアブラムシ・モモアカアブラムシ 定植前 本圃でのバンカー法準備(3月上旬:ムギの播種,3月中旬:代替餌の接種)
定植時 天敵コレマンアブラバチ放飼
5–6月 ソルゴー播種,代替餌ヒエノアブラムシ接種
8月以降 ワタアブラムシ発生確認後,天敵コレマンアブラバチ放飼
チューリップヒゲナガアブラムシ 5月以降 発生確認後,まず捕殺,その後天敵チャバラアブラコバチを2~3回放飼
コナジラミアブラムシ類共通 梅雨時期 糸状菌剤の散布
トマトサビダニ 7–8月 被害確認後,ミルベメクチン乳剤散布(2回まで)
アザミウマ 7–8月 果実被害が目立つ場合にはスピノサド顆粒水和剤散布(2回まで,ツヤコバチ類に悪影響あり)

資料:長坂ら(2020)より引用,筆者が再整理.

このほかに,野菜作ではダイコン―サツマイモの省力的な輪作体系等の構築を行っている.これらの技術はいずれも有機農業者の協力を得て現地で実証し,経済性の評価も行っている.開発成果は研究論文だけでなく,普及拡大に向けて技術マニュアルとして,また最近では標準作業手順書として公表している(表3).

表3.

農研機構が公表している有機農業に関する栽培マニュアル・手引き・標準作業手順書

資料名 公表・更新年
農業に有用な生物多様性の指標生物調査・評価マニュアル 2012
有機農業実践の手引き 2013
ダイコンーサツマイモ 畦連続使用栽培システム(Ver. 2.0) 2016
寒冷地水稲有機栽培の手引き 2016
有機農業の栽培マニュアル~実践現場における事例と研究成果~(第3版) 2019
高能率水田用除草機を活用した有機栽培の手引き 2020
機械除草技術を中心とした水稲有機栽培技術マニュアル(更新版) 2021
高能率水田用除草機を活用した有機栽培の標準作業手順書 2021
有機ミニトマトの病害虫管理体系標準作業手順書(夏秋どり施設栽培向け)(更新版) 2023
関東地域における大豆有機栽培技術体系標準作業手順 2024

3. 農研機構における現在の有機農業研究の取組内容

続いて,農研機構で現在進行中の有機農業に関係するプロジェクト研究をみていく.農林水産省の「みどりの食料システム戦略」を受けて立ち上げられ,2021年から開始している.本プロジェクトの開発項目は表4に示すとおりである.

表4.

プロジェクト研究における主な項目

要素技術の開発・高度化 有機質肥料の活用による化学肥料完全代替技術と高精度局所施肥技術
両正条植水稲圃場における高能率除草技術
水田の難防除雑草対策技術
圃場健康診断による栽培・土壌管理意思決定支援システム
緑肥作物・リビングマルチの活用技術(土壌,生物多様性)
茶における環境負荷低減型病害虫管理技術と有機栽培対応IPM体系
体系化・実証 水稲―大豆の輪作における有機栽培技術の体系化と現地実証
中山間地域における有機水稲機械除草技術の体系化と現地実証
暖地における有機水稲栽培技術の体系化と現地実証
茶の有機栽培技術の体系化と現地実証
イチゴの有機栽培技術の体系化と現地実証
品目に応じた「儲かる経営モデル」の策定

このプロジェクトは,農研機構のこれまでの開発技術の横展開,成果の社会実装に重点を置いて取り組んでいくこととしている.従来同様に技術開発を進めて現地で実証し,開発技術の導入効果を検証するとともに,先進事例のケーススタディ等を通じて有機農産物の販売モデルも検討している.目標達成に向け,必要に応じて研究体制を見直しながらプロジェクトを推進している.

以下,現在のプロジェクト研究の中での取組をいくつか紹介する.有機稲作では,引き続き除草の省力化を進めている.先述のように農研機構では乗用型の水田用除草機を開発し除草効率を高めてきた.しかし,除草機を稲の列に沿って走行させた場合に株間の草に取り残しが生じる点が課題であった.

そこで,進行中のプロジェクトでは,スマート技術を活用した田植機を取り入れ,碁盤の目のように条間と株間を等間隔に植える両正条植えを行い,除草機を縦横に走らせる直交除草という除草方法の確立に取り組んでいる(農研機構,2023a2023b2025b).そのほかに,緑肥の利用技術や病害抵抗性品種,また有機質肥料の最適配合を支援するアプリや圃場管理システムを組み合わせて,省力・安定的な有機水稲栽培体系の確立を目指している.これについては,東北や九州で現地実証を行い,経済性の評価にも取り組んでいるところである.

加えて,有機稲作の雑草対策における深水管理に焦点を絞った技術開発も行っている(農林水産省,2025).深水管理は雑草対策として有効であるが,現状で水田畦畔の多くは深水管理に適したものではなく,また畦畔の除草法も確立しているとはいえない.さらに,深水管理での除草が難しい種類の雑草への対策法を確立する必要がある.

そこで,①深水管理に適し,機械除草が可能な畦畔について強度や形状の面からも検討するとともに,②水田用除草機を使った除草のタイミングの適正化に向けたドローンセンシングによる雑草検知システムの開発,③これらを組み合わせ,ICT水管理も活用して,圃場区画面積や気象といった地域の栽培条件に合わせた有機水稲の栽培管理法の確立を目指している.これについては,東北や中国地域で現地実証を進めている.

次は,有機イチゴ作での技術開発である(須賀,2023).有機イチゴについては消費者や実需者のニーズが高いものの栽培が難しく,現状では生産者数はごくわずかとされている.有機イチゴ作に関連する要素技術はこれまでに開発されてきてはいるが,必ずしもそれが体系化されているとはいえない.

そこで,農研機構ではこれまでに開発されてきた要素技術を活用した有機イチゴ栽培の確立を目指している.具体的には,紫外線照射,天敵活用,太陽熱消毒,健苗育苗,適性の高い品種といった技術を組み合わせ,栽培体系の構築を図っている.これについては,関東地域での現地実証を皮切りに,実証先を拡大しつつ,あわせて経済性評価に係わるデータの取得を進めているところである.

農研機構における現在進行中のプロジェクト研究のさいごに,作物共通的な取組として,有機質資材の肥効の見える化技術を紹介する(古賀,2023).堆肥をはじめとする有機質資材は土壌中で分解されて肥料成分が作物に利用される.土壌中での分解には気象条件,土壌条件,さらに有機質資材の質といった多くの要因が影響する.これらの要因に左右される有機質資材の肥効は化学肥料に比べると不安定であり,これが有機栽培での施肥管理の難しさをもたらしていると考えられる.

そこで,農研機構では,有機質資材の分解を予測するモデルを開発し,それを使って肥効がどのように生じるかの見える化に取り組んでいる.対象とする圃場の場所を選定し,使う資材の種類や施用量,施用日,そして作物の収穫日を入力すれば,収穫可能日までに利用される窒素成分量が示されるアプリを開発している.有機質資材の肥効の見える化は畑地での野菜作を対象として先行的に取り組まれてきたが,水稲,茶に対象作物を拡大しているところであり,東北,中国,九州地域で現地実証を進めている.

4. 今後の有機農業技術開発の方向性と課題

以上,農研機構でのこれまでの有機農業技術の開発状況を紹介してきたが,ここで,1.はじめににおいて示した有機農業の現状を踏まえつつ,今後の技術開発の方向性と課題について検討する.

まず,技術開発の方向性について,「農研機構における有機農業研究の推進方向」にある,有機農業の実践技術の成立メカニズムを解明し,地域ごと経営形態ごとに合理的な有機農業技術体系モデルを構築するとともに,技術体系を高度化する要素技術を開発し組み込みを図るという方向性は,今後も維持していくことになる.また,有機農業者の意向調査の結果でも確認したように,人手不足や栽培管理の手間に対応した省力化や収量性向上,コスト低減に向けた技術開発が引き続き重要となる.

他方,先行研究が指摘するように,有機農業において大規模経営やデータ活用を進めている経営が出現している.さらに,有機食品流通の一般化も進み,現状において,有機農業経営の経営規模や販売経路が多様化している.そこで,今後の課題として,第一に技術の受け手を明確にした技術開発が必要となる.有機農業が多様化する中で,経営目的の違い等も考慮しつつ,従来以上にきめ細やかな技術開発が求められるだろう.

また,有機農産物の生産から流通までをみれば,開発技術の受け手として考えるべきは有機農業経営だけに限らない.そのため,第二として有機農業の普及指導員や流通事業者等を対象とした技術開発も今後の課題として考えられる.有機農業者の支援や有機農産物の流通安定化に資する技術開発が有機農業の取組拡大を後押しするだろう.

その際に,これまでにも取組がなされてきてはいるが,第三としてスマート農業技術の有機農業への活用とその評価も課題となってくる.有機農業技術の評価という点では,関根(2021a2021b)が指摘するような多面的な検討が必要と考えられる.有機農業におけるスマート農業技術がもたらす変化について,生産の省力化や収量性の向上に止まらない幅広な効果検証の実施が求められる.そのためには,新たな技術を取り入れた有機農業経営や産地の長期的な追跡調査も必要となってくると思われる.

さらに,開発技術の普及までを見越すと,技術の実装先や受益者に開発段階から参画してもらうことで普及プロセスの円滑化を図るといった方向性が考えられる.そこで第四の課題として,農研機構で従来取り組んできた有機農業者による研究プロジェクトへの参画に加えて,流通事業者や有機農業支援を推進する行政担当者といった関係者も加わった参加型プロジェクトでの研究推進があげられる.これに関連して,石井(2022)Zollet(2024)は,有機農業の取組拡大で先行する欧州の事例を分析し,有機農業の技術普及における農業者間のネットワークの重要性を指摘している.諸外国での取組を参考にしつつ,わが国の状況に応じた参加型の研究プロジェクト形成のあり方を検討していく必要があるだろう.

5. おわりに―地域農林経済分野からの係わり

ここまでの検討を踏まえ,有機農業の技術開発への地域農林経済分野からの係わりについて私見を述べたい.

一つは,多様化している有機農業経営や有機農業が展開している地域の実態把握を丁寧に行い,今後の展望に関する議論を深めていくことが必要だと考える.先に今後の課題として技術の受け手,すなわち対象を明確にした技術開発の必要性をあげた.その技術開発の対象をどこに定めるのかを明らかにするためにも,地域農林経済分野において経済的,社会的な面から有機農業の実践技術の成立条件を解明し,技術開発のターゲット示すことは有用だろう.これに関連して中川(2010)高橋(2013)万木・安島・小林(2018)といった研究があるが,技術系分野の研究者とも協働しつつ,技術開発を先導する地域農林経済分野からの提起が期待される.

二つは,開発技術によって実現可能な水準を技術・経営指標として提示することである.これは先に指摘した有機農業技術の評価に係わる点である.既に,有機農業参入促進協議会(2025)北海道農政部(2020)等による一定の蓄積はあるものの,有機農業者やそれを支援する行政,普及等の要望に十分に応えられているとはいえない.開発技術が経営に実装された際の効果を検証し,品目選択や経営計画の立案等の参考となるようわかりやく発信していくことが重要となる.

さらに三つとして,有機農業技術の普及プロセス,普及方策について,更なる研究蓄積が求められる.これは先ほど触れた有機農業技術の普及に向けた研究プロジェクトの形成に関係する.浅井(2024)石倉(2024)によって欧州での有機農業技術の普及拡大の経過が詳細に報告されており,わが国にとって示唆に富む指摘がなされている.また,上西(2019)が生物多様性に配慮した栽培技術の普及プロセスに影響を与える要因を明らかにしている.これらに加えて,有機農業経営の多様化,販売経路の一般化といった変化を踏まえた地域内,また地域を超えた有機農業技術の普及,取組拡大の要点を解明していくことが求められる.

引用文献
 
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