農林業問題研究
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個別報告論文
都市農業における露地野菜作経営の出荷作業と販路の関係
―千葉県の白ネギ作を事例に―
下藤 誉司草処 基千年 篤
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2025 年 61 巻 2 号 p. 103-110

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Abstract

This study aims to clarify how a farmer’s choice of shipping destination in urban agriculture is related to cultivation size and working hours during post-harvest operations. Our case study focused on Welsh onion cultivation in Chiba Prefecture. We conducted interview surveys to collect data on the management of Welsh onion cultivation and its marketing channels in urban and remote areas. In urban areas, farmers tend to choose different marketing channels based on cultivation size. This flexibility leads to differences in the work systems of post-harvest operations and work efficiency, as measured by shipping quantity per work hour. Conversely, in remote areas, cooperative shipping is dominant, resulting in fewer shipping destination options and smaller disparities in work efficiency among farmers. Urban agriculture enables diverse shipping destinations, allowing for the selection of shipping options based on production scale, which in turn enhances the work efficiency of large-scale farmers.

1. はじめに

都市農業は,2016年に閣議決定された都市農業振興基本計画のなかで,都市農業の多様な機能への評価の高まりを背景にして,世論の支持が得られるようになった一方で,その持続性については「担い手の確保」などの課題が指摘されている.なお,都市農業は,都市農業振興基本法において「市街地及びその周辺の地域において行われる農業」と定義されている.本稿は大消費地との近接性を重視し,首都圏特定市内1の市街化区域が設定されている地域で行われる農業について検討していく.

都市農業における経営持続性に関して,八木(2020)は規模要件の他に都市化への適応,特に直接販売などの事業展開の重要性を指摘している.木村(2010)は都市近郊園芸産地である千葉県東葛飾地域では,卸売市場への個人出荷,農協や出荷組合による共同販売,庭先販売,農産物直売所など多様な販売方法が行われ,それぞれが補完・住み分けしながら展開されてきたと報告している.

出荷先選択は経営面積や作業体系に影響を与える.高梨子他(2020)は農協出荷から直売所出荷に切り替えたことで労働力不足に直面し,収益向上と同時に作付面積縮小など出荷規模の調整が必要となった事例を示した.栗原(2013)は家族経営の規模拡大局面において,規格が比較的緩く,省力的な出荷形態であるコンテナが選択可能な産直組織を通じた出荷への切り替えが,更なる経営面積拡大の契機となった事例を示した.農産物直売所に関して,木村(2010)は,高齢・零細農や自給農家の参入,一度リタイアした農家の販売継続をもたらし,地域の農業活性化に貢献すると論じている.一方,藤島他(1995)では,直売所のような生産者による消費者対応型の個別マーケティングの生産面の非効率性を指摘している.

以上,個々の出荷先が作業体系や経営持続性にもたらす影響を論じた研究は存在する.しかし,個別の経営体が自ら出荷先を選択できる都市農業において,経営規模による出荷先の違いと,さらにその選択が作業体系に及ぼす影響を明らかにした研究は管見の限り存在しない.都市農地においても担い手確保が課題となっている現在,経営規模に応じて出荷先が選択され,規模に応じた作業体系が導入されているのかを問うことは都市における大規模層への農地の集積の可能性を探る意味で重要な問いであろう.

本研究は露地白ネギ作を分析対象とする.都市農地は露地野菜作経営の割合が比較的高く(吉田,2023),白ネギは出荷量上位3県が千葉,茨城,埼玉であり(農林水産省,2023),首都圏の県の主要産物である.露地白ネギ作の作業時間内訳を確認すると(表1),全体の6割超を収穫・調製と包装・荷造・搬出・出荷作業が占めており,この二段階の作業(以下本稿では出荷作業と総称)の縮減が営農継続上の重要な課題となる.これらの作業体系は機械導入の有無に加え,出荷先により要求される調製や出荷形態の違いにも依存することから,出荷先の影響を受け,各経営で異なった作業体系が組まれ,出荷作業能率に差が生じていると考えられる.

表1.

露地ネギ作10a当たり作業時間内訳

作業 時間(h) 割合(%)
育苗 10.6 3.1
耕耘・施肥 16.5 4.8
播種・定植 33.4 9.8
除草・防除 36.8 10.8
灌排水・保湿換気・管理 25.4 7.4
収穫・調製 141.9 41.5
包装・荷造・搬出・出荷 75.3 22.0
経営管理・間接労働 2.1 0.6
341.9 100

資料:農林水産省大臣官房統計部(2015)「平成24年 営農類型別経営統計(個別経営,総合編)」.

そこで本研究では,先行研究で出荷先の多様性が報告されている都市農業地域の千葉県東葛飾地域において,出荷作業体系とその作業能率を時間当たり生産物重量から把握し,その結果をもとに作業能率と作付面積や出荷先間の関係性を整理する.さらに,郊外産地として同県内の匝瑳地域,長生地域を取り上げ,同様の調査を行い比較分析する.この分析により,出荷先が多様にあることが出荷作業体系にも多様性をもたらしていることを明らかにする.

2. 調査対象地域及び対象作目

(1) 調査対象地域区分

千葉県内のネギ産地は東葛飾地域及びその周辺,九十九里沿岸の地域,および茂原市旧市区町村地域に集中している.これらの地域をそれぞれ東葛飾地域,匝瑳地域,長生地域2として各地域の概況と東葛飾の位置づけを確認する.なお,東葛飾に含まれる市は全て首都圏の特定市に含まれ,匝瑳,長生に含まれる全ての市町村はこれに含まれない.

(2) 各地域概況

2に示される人口密度と人口の増減より,東葛飾は人口密度が高く,人口増加の続く都市化圧力の強い地域である.一方,匝瑳,長生は人口減少に転じている.総耕地面積は全ての地域で減少傾向にあるが,畑地の減少率は田の減少率より大きい.販売先を農産物販売金額1位の出荷先別経営体数から確認すると(表3),匝瑳,長生では農協出荷が1位である経営体比率が高いのに対し,卸売市場へのアクセスが容易で,消費者との距離も近い東葛飾では小売業者・消費者への直接販売,卸売市場が1位の割合が高く,出荷先が多様であることが読み取れる.

表2.

千葉県内白ネギ産地の概況(2020年)

人口密度
(人/km2
総耕地面積
(ha)

(ha)
畑地
(ha)
樹園地
(ha)
2000~2020間の増減(%)
人口 総耕地 畑地 樹園地
東葛飾 5,238 5,916 3,012 2,223 681 13.0 △25.7 △7.5 △39.7 △32.9
匝瑳 524 11,961 9,215 2,664 82 △15.1 △32.7 △5.6 △45.3 △97.4
長生 573 4,181 3,476 664 41 △8.2 △29.1 △14.7 △56.0 △87.1
千葉県 1,221 76,592 53,136 21,597 1,859 5.9 △23.4 △17.3 △31.5 △23.4

資料:人口密度,人口増加率は,総務省(2017–2022)「平成12~令和2年国勢調査」.総耕地面積,総耕地面積,作付面積は,農林水産省(2001–2021)「2000~2020年千葉県農林業センサス」.

1)△は減少を示す.

表3.

各地域の農産物販売金額1位の出荷先別経営体数(2020年)

販売のある
経営体
農協 農協以外の
集出荷団体
卸売市場 小売業者
直接販売
食品・外食 その他
東葛飾 3,255 611 225 937 1,240 18 224
匝瑳 4,097 2,027 829 281 667 26 267
長生 2,018 1,276 290 79 305 12 56
千葉県 32,952 16,460 4,776 3,147 6,678 239 1,652

資料:農林水産省(2021)「2020年千葉県農林業センサス」.

また白ネギ生産の概況を確認すると(表4),全ての地域で作付面積が減小しており,特に東葛飾,長生における減少が顕著である.また一戸当たり面積に着目すると長生を除く2地域では拡大傾向にあり,その程度は匝瑳の方が大きい.

表4.

千葉県内白ネギ産地のネギ生産概況(2020年)

白ネギ作付
経営体数
(経営体)
白ネギ
作付面積
(ha)
1経営体当たり
作付面積
(ha/経営体)
2000~2020間の増減(%)
作付経営体数 作付面積 1経営体当たり
作付面積
東葛飾 1009 241 0.24 △62.3 △57.3 13.2
匝瑳 693 427 0.62 △61.3 △37.5 61.5
長生 215 59 0.28 △50.1 △56.7 △13.2
千葉県 3259 1048 0.32 △61.2 △36.8 62.7

資料:農林水産省(2001–2021)「2000~2020年千葉県農林業センサス」.

1)△は減少を示す.

(3) 白ネギ出荷作業の現段階

今回の調査では,すべての経営が次の作業フローに従っていた.まず出荷1~2回分の掘取りを含む収穫作業を行い,収穫物の根葉切り・皮むき・等級選別等の調製作業,出荷形態に合わせた梱包作業を行い,出荷する.本研究ではこのように,出荷作業を収穫・調製・梱包と3工程に分割した上で,これらの作業体系・投入時間に着目して分析する.

各作業の機械化状況を小規模経営で広く行われる体系を慣行,他方,大規模経営で利用されるものを機械化体系として整理する.収穫段階では,管理機堀り手取りを慣行体系,1人または2人で作業する収穫機の利用を機械化体系とする.調製においては,根葉切り機,皮むき機による作業を慣行体系,2人同時に作業する半自動調製機と呼ばれる根葉切り・皮むき一体機による作業を機械化体系とする.

このように,機械化体系に複数人での作業が必要な機械が含まれるため,作付面積規模とともに,労働力規模が機械化体系の採用に影響を与え得る.

梱包形態には段ボール箱,コンテナ,袋個包装などがある.段ボール箱は,卸売市場向け出荷で用いられ,買い手が中身を確認するための窓と呼ばれる部分がある場合が多い.このため,出荷前に生産物をきれいに並べる必要があり,労力や技術を要する.一部で,窓無での流通もあるが,取引業者の許可が必要であり,価格が低下することもある.一方,コンテナは生産物を入れるだけであり,封函の手間もないため省力的な形態である.しかし櫻井(2013)では,出荷コンテナの小売店からの回収率が低く,使用料の上昇や敬遠につながっていることを指摘しており,多段階の流通を行う卸売市場では,現在,コンテナは段ボール箱を代替するには至っていない.袋個包装の形態は直売所や小売店向け出荷に多いが,1包装毎に作業するため,必要労力は大きくなる.

このように,生産規模,労働力規模や出荷先によって作業体系,出荷形態が異なり,その組み合わせにより作業能率に差が生じていると推察される.この点に注目し,以下,多様な出荷先選択肢をもつ都市地域と選択肢の少ない郊外地域で比較分析を行う.

3. 東葛飾地域の白ネギ生産

(1) データと方法

東葛飾農業事務所の協力のもと,栽培作目のうち白ネギの収入順位が2位以上である,作付面積の異なる8経営体を選出し,聞き取り調査を行った.調査は,A~Cは2022年11月,D~Hは2023年8~10月に行った.

(2) 調査対象経営体経営概況

調査対象経営体の経営概況は表5に整理される.主な販売先から確認すると,Aが企業との個別契約,B~Fが持ち寄り共撰または個人での卸売市場(市場)出荷,G,Hが直売所や小売店の地域直売コーナーへ出荷を行う直売となっている.ただし,市場出荷を主とする経営も,給食向けや飲食店へ個別に対応しているケースが多い.作付面積はA,Bが大きく,労働力規模も大きい.他方,直売出荷を行うG,Hでは作付面積,労働力規模が共に小さい.

表5.

東葛飾における調査対象経営体の経営概況

販売先分類 ネギ作付面積 総畑地面積 調査者年齢 農業専従者 臨時雇用 他作物(作付面積(ha))
A 個別 2.5 ha 4.1 ha 30代 5 0 キャベツ(1.6 ha),水稲(3.8 ha)
B 市場 4.5 ha 5.0 ha 50代 6 1 コカブ(2.0 ha),水稲(10 ha)
C 市場 0.8 ha 1.8 ha 50代 2 1 ダイコン(0.2 ha)
D 市場 0.5 ha 0.7 ha 40代 3 0 水稲(0.8 ha),他
E 市場 0.8 ha 1.8 ha 50代 3 0 キャベツ(1.3 ha),他
F 市場 0.1 ha 0.5 ha 50代 3 0 ダイコン(0.1 ha),他
G 直売 0.3 ha 1.5 ha 40代 2 0 ニンジン(0.8 ha),他
H 直売 0.3 ha 1.2 ha 50代 2 0 エダマメ(0.4 ha),他

資料:聞き取り調査(A~Cは2022,D~Hは2023)より作成.

(3) 出荷作業概要

各経営の出荷作業概要を表6に示した.収穫機をA~Dが,半自動調製機をA,Bで導入しており,それにより投入時間が少なくなっている.また出荷形態は個別契約のAでコンテナ,市場出荷経営(B~F)で段ボール箱,直売を行う経営(G,H)で袋個包装などというように販売先と出荷形態には特定の関係がみられる.ただし作付面積が大きく,かつ市場出荷を行うBは窓無の段ボール箱を用いている.これはBが独自に卸売市場側と交渉を行った末に用いるようになったもので,現在は価格への影響もない.

表6.

東葛飾における調査対象経営体の出荷作業概要

出荷1回当たり生産物重量(kg) 総作業人数1) 収穫 調製 梱包
作業体系 作業人数
(人)
投入時間
(h)
作業体系 作業人数
(人)
投入時間
(h)
出荷形態 作業人数
(人)
投入時間
(h)
A 800 3 機械 2 4 機械 3 18.0 コンテナ 2 6.0
B 975 6 機械 1 3 機械 4 24.0 段ボール2) 2 12.0
C 423 2~3 機械 1 2 慣行 1~3 14.0 段ボール 1~2 5.5
D 570 2~3 機械 2 8 慣行 2 12.0 段ボール 1 6.0
E 3303) 3 慣行 3 9 慣行 2~3 18.5 段ボール 1 5.5
F 195 3 慣行 3 3 慣行 2 11.2 段ボール 1 5.6
G 50 2 慣行 1 1 慣行 1~2 3.0 袋個包装 1~2 3.0
H 70 2 慣行 2 3 慣行 2 6.0 結束 2 6.0

資料:聞き取り調査(A~Cは2022,D~Hは2023)より作成.

1)日により多少の変動はあるが平時の出荷日に作業に携わる人数を記した.

2)窓無を使用.

3)調製2日に対して出荷1回を行う.

このように,作付面積に応じた出荷量を達成できるように出荷作業体系が構築され,出荷先及び出荷形態が選択されていた.

(4) 近年の作付面積の変化と今後の意向

調査では,各経営の規模拡大への志向を確認するため,各経営の近年の作付面積の変化と今後の方針を聞き取った.第一に,白ネギの作付面積を拡大してきたのはA,D,変化がないのがB,C,E,F,縮小したのはG,Hである.G,Hはともに10年ほど前に市場出荷から直売出荷へ切り替え,それに伴って多品目化を行い他作物に割り当てたため,どちらの経営も総経営面積は減少していない.ただし,Gは作付を減らしても収入が変わらなかったことから,今後借入地の返還を検討している.

第二に,今後の意向は現状維持とした経営が多く,理由としてA,Bから管理の労力が示された.拡大意向を持つのはC,Dであったが,Cは労働力確保の問題や借入農地の不安定性等の土地確保の問題,Dは地域の開発計画によって農地を確保できないことから,拡大できていない.縮小意向としたのがE,Fで,理由は自身の年齢と後継者の不在であった.

4. 匝瑳・長生地域の白ネギ生産

(1) データと方法

長生農業独立支援センター,JAちばみどりの協力のもと,東葛飾と同様の調査を,長生地域では2024年3月,匝瑳地域では同年6~7月に行った.

(2) 調査対象経営体経営概況

調査対象経営体の経営概況は表7のとおりである.主な販売先は農協である.K,Lは直売出荷も行っているが,付き合いで仕方なくという程度のものであり,Iも含めて直売には消極的な姿勢であった.作付面積についてみると,東葛飾に比べて,総畑地面積に対して白ネギ作付面積が小さい経営が多い.匝瑳・長生では輪作作物の導入が少なく,連作障害対策に緑肥を植えつけ,休閑させていることによる.

表7.

匝瑳・長生における調査経営体の経営概況

販売先分類 ネギ作付面積 総畑地面積 調査者年齢 農業専従者 臨時雇用 他作物(作付面積(ha))
I 農協 2.5 ha 4.0 ha 40代 3 6 水稲(2.5 ha)
J 農協 1.2 ha 4.0 ha 40代 3 12) なし
K 農協 1.0 ha 2.0 ha 50代 3 2 水稲(17 ha)
L 農協 0.6 ha 1.5 ha 70代 3 0 水稲(2.2 ha),トマト(0.15 ha)
M 農協 0.08 ha 0.5 ha 60代 2 0 なし

資料:聞き取り調査(2024)より作成.

1)Jは長生,I,K,L,Mは匝瑳の経営.

2)長生農業独立支援センターの研修生の受け入れを行っており,平日は1~2人程度が手伝う.

(3) 出荷作業概要

各経営の出荷作業概要を表8にまとめた.収穫機をI,Kが,半自動調製機をIが導入している.Iは収穫機を導入しているが,投入時間が長い.これは掘取り後,乾燥させる工程を挟むためである.

表8.

匝瑳・長生における調査経営体の出荷作業概要

出荷1回当たり生産物重量(kg) 総作業人数1) 収穫 調製 梱包
作業体系 作業人数
(人)
投入時間
(h)
作業体系 作業人数
(人)
投入時間
(h)
出荷形態 作業人数
(人)
投入時間
(h)
I 585 6 機械 5~6 5.5 機械 5~6 26.4 段ボール3) 1 6.0
J 240 2 慣行 2 3.8 慣行 2 13.3 段ボール2) 2 6.0
K 270 3 機械 1 1.5 慣行 3 27.0 段ボール3) 2 12.0
L 195 3 慣行 3 3.0 慣行 3 18.0 段ボール3) 1~2 5.5
M 1304) 1.55) 慣行 1 1.5 慣行 2 14.1 段ボール3) 1 5.5

資料:聞き取り調査(2024)より作成.

1)日により多少の変動はあるが平時の出荷日に作業に携わる人数を記した.

2)窓無,10 kg箱を使用.

3)結束規格のある等級では結束を行う.

4)調製2日に対して出荷1回を行う.

5)1名が兼業をしており半日のみ作業するため0.5人換算とした.

梱包形態に関してはJのみ管轄農協が異なり,重量や窓の有無に違いはあるが,どちらも段ボール箱を用いて,さらに複数本を,結束をしている.結束品は同等級の非結束品に比べ1割程度の価格が高い.

匝瑳地域は“ひかりねぎ”ブランドで高い評価を受けている.農協では太さ,葉・軟白の長さや曲がり幅・曲がり方に至るまで数値基準を設定するなど厳しい出荷規格を設け,周知を徹底し,集荷場に検査員を配置している.各経営はこの基準に対応するために丁寧な調製を行っている.このような品質維持の取り組みにより,市場での高単価が実現されており,Iは個別取引の誘いはあるが価格面を理由に受けていない.農協共販での高価格は,この地域の経営における直売への消極的な姿勢に影響している.

以上の理由から,調製段階への投入時間が比較的大きくなっているため,東葛飾と比較して,1回当たり出荷重量が作付面積に対して小さい傾向にある.

(4) 近年の作付変化と今後の意向

主に労働力確保の影響が大きく,従業員を確保できたI,Kが作付面積を拡大しており,労働力の変わらないL,Mは変化していない.今後,Iは拡大意向を持っているが,従業員の確保ができず実現できていない.J,K,Lは現状維持意向であった.

5. 地域間比較

以上の3地域の調査結果から,1回当たり出荷重量を各作業(収穫,梱包,調製)および出荷作業全体への投入時間で除したものを作業能率とし,これを用いて各経営の作業能率を図14にまとめた.

収穫について(図1),収穫機導入経営体の中でもA,B,C,Kで作業能率が高い.調製について(図2),匝瑳の経営は先述の丁寧な調製と結束を行っており,東葛飾の経営に比べて作業能率が低い.梱包について(図3)の東葛飾の市場出荷と匝瑳・長生の農協出荷でどちらも段ボール箱が用いられていることから大きな差はなかった.出荷作業全体を通して(図4),東葛飾では経営間の作業能率の差が大きいのに対し,匝瑳・長生では差が小さい.東葛飾の経営では個別契約の経営で能率が高く,直売出荷の経営で能率が低いことから,出荷先選択によって地域内に多様な作業体系が成立していると言える.中でも大規模経営(A,B)が達成している作業能率は匝瑳・長生の経営に比べても高い.Aは個別契約,Bは卸売市場の出荷先との個別の交渉と継続的な取引により省力的な窓無の段ボール箱での出荷を選択できたことで,高い作業能率を達成している.このように出荷先選択肢から効率化が達成可能な出荷先を選択したことが作業能率向上につながっており,都市農業の出荷先の多様性が大規模経営の作業能率の高さを生んでいることが示唆される.

図1.

年間作付面積と収穫作業能率の関係

資料:聞き取り調査(2022~24)より著者作成.

図2.

年間作付面積と調製作業能率の関係

資料:図1に同じ.

図3.

年間作付面積と梱包作業能率の関係

資料:図1に同じ.

図4.

年間作付面積と出荷作業能率の関係

資料:図1に同じ.

1)近似直線は匝瑳・長生の経営のデータより作成.

また図4に匝瑳・長生のデータから近似直線を引くと,東葛飾の経営の多くも近似線上近くの値を取ることが確認できる.出荷作業能率は作付面積の拡大に伴い,比例的に高くなることを示唆しているが,近似直線から上方に離れて位置している東葛飾のA,C,Dは,匝瑳・長生の同規模の経営と比べて高い出荷作業能率を達成している.特にC,Dは作付面積を拡大する意向があるものの,労働力及び農地面の制約から実現できていない.高い出荷作業能率が,拡大志向につながっていることが示唆され,両経営の経営拡大志向の合理性が裏付けられたともいえる.

6. まとめ

東葛飾は,近接した膨大な消費市場を背景に農協系統外の出荷先選択肢が多くあるため,農地や労働力などの資源賦存量によってそれを最大限活用できる出荷先および出荷作業体系に違いがある.これにより地域全体として多様な作業体系が生まれ,多様な経営の存続につながっている.特に大規模経営では機械化体系の導入に加え,省力的な出荷形態およびそれが可能な出荷先の選択によって大規模化に伴う労力の増加を抑えている状況が示唆された.これにより達成される作業能率は匝瑳・長生地域と比べても高い.都市農業の出荷先の多様性が大規模経営の作業能率の高さを生んでいることが示唆された.

また,東葛飾において,販路の工夫により作業能率向上に取り組み,規模拡大を志向する経営も確認された.今後担い手が減少していく中で,農地の引き受け手として期待できる.一方で高齢等の理由から面積を漸減させていく経営が同地域にあるにも関わらず,農地の調達がうまくいかない経営も確認された.都市農業の土地流動性の課題は既に指摘されているが(吉田,2023),出荷作業に労力のかかる露地野菜作では,出荷先が多様な中で,個別経営の販路選択により規模拡大が可能になることを踏まえた議論が必要になるだろう.

ただし,出荷作業の省力化は販売価格を低下させる可能性がある.本研究を対象とした東葛飾の大規模経営は交渉や信頼の獲得により価格の低下を抑えていた.大規模化に適した販路を選択するためには,価格低下を抑える交渉能力や経験が必要になるかもしれない.本研究では価格面の検討が不足しており,都市農業における露地野菜作大規模経営の存立要件を明らかにするためには,販路,出荷作業,価格の三者間の関係性の解明が求められる.

謝辞

調査に快くご協力いただきました東葛飾農業事務所,長生農業独立支援センター,JAちばみどりの皆様,および各経営の皆様に厚くお礼申し上げます.

1  首都圏における特定市とは,首都圏整備法の既成市街地及び近郊整備地帯内にある政令指定都市およびその区域を含む市をいう.

2  東葛飾地域には市川市,船橋市,松戸市,野田市,柏市,流山市,鎌ヶ谷市,我孫子市,浦安市を含む.匝瑳地域には山武市,横芝光町,匝瑳市,九十九里町,東金市を含む.長生地域には茂原市,一宮町,長生村,白子町,長柄町を含む.

引用文献
 
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