This study empirically evaluated the satisfaction levels of 58 registrants with geographical indication (GI) products in Japan. An interview survey was conducted on two GI cases, followed by an online questionnaire survey to examine the satisfaction levels and the factors affecting the overall satisfaction among GI product registrants. Satisfaction levels were estimated using the extended ordered probit model that accounted for the endogeneity of revenue satisfaction. The results showed that positive influences arose not only from economic factors such as revenue satisfaction, but also from contextual factors such as products in the Kanto area, year of registration, and utilization of mass media. Furthermore, findings from the interview survey revealed that participation in GI fairs, inter-industry collaboration, and direct marketing to consumers were effective in raising overall satisfaction.
本研究で扱う地理的表示制度(以下,GI制度)については,地域産品の付加価値向上や農山漁村の活性化に効果を上げることが期待されており,「食料・農業・農村基本計画」等においても,その積極的な活用の方向が示されている(内藤,2021).GI産品の登録は,生産者にとって産品の差別化戦略の手段を提供するのみではなく,ツーリズムの展開を通じて地域経済にも貢献が期待できるものではあるが,先行するEUと比較すると,登録産品数もまだ少なく,現状は,GI制度が十分に有効活用されているとはいいがたい.例えば,イタリアでは農産物・食品で316品目,ワインで526品目が登録されている(CREA, 2022: p. 89).
GI制度に関する既往の研究成果として,生越(2022,2023)では,欧州のGI制度の紹介を行うとともに,地域経済の振興にGI制度を活用することで,特に地域ブランドの強化に重要な役割を果たすと述べている.そして,将来的には,地域の特性を活かしつつ,グローバル市場での競争力を高めるための戦略が必要と指摘している.松本(2022)は,我が国農産物輸出振興の観点から,GI制度の可能性と意義を論じている.
また,木村(2017)は,GI産品の登録が産品の品質と原産地の結びつきを強化し,消費者の認識を高める効果があると述べている.高倉(2020)では,GI制度の運用にいくつかの課題が存在し,特に地域間での制度の適用面での不均一性や認知度が低いという課題を指摘している.荒木(2021,2023)では,我が国GI制度の特徴と内容について,海外の取り組み事例を紹介しつつ,解説している.
小野関(2023)は,種苗法や商標法による農産物ブランドよりも,GI制度を活用した方が登録コスト面でメリットがあると指摘している.関根(2024)は,地域経済循環の観点から愛知県の八丁味噌を事例に,伝統産品保護に関する基準があいまいであると,我が国GI制度の問題点を指摘している.
上記で述べた既往成果は,主にGI制度の仕組みや課題に関にする制度面からの研究といえる.これに対して,実際の運営者の満足度については,本制度の活用にとって重要な要因となるものの,これまで十分分析されていない.そこで本研究では,GI制度のより効果的な持続的活用に向けた課題を探るために,GI産品産地の運営者への聞き取り調査およびアンケート調査結果に基づいて,運営者のGI登録後の満足度やその規定要因を統計的に解明し,今後の課題を展望する.
まず,GI制度は,その地域ならではの自然的・人文的・社会的な要因や環境のなかで,長年育まれてきた品質,社会的評価等の特性を有する産品の名称を,地域の知的財産として登録・保護する制度である(農林水産省,2023).これにより,産地偽装や品質偽装などが排除され,消費者のGI産品に対する信頼が守られ,市場における差別化・プレミア価格を維持することが期待できる.運営者であるビジネス側にとっては,地域と結びついた産品の品質・製法・評判・歴史性などの潜在的な魅力や強みを見える化し,国による登録やGIマークと相まって,効果的・効率的なPR,取引における説明や証明,需要者の信頼の獲得を容易にする手段として有効である(農林水産省,2023).同制度は,100年以上前のフランスを起源とし,今日ではEU諸国の1992年制定EC法令(荒木,2021:p. 74)をはじめ,WTO関連協定の一つとしてGI制度も含む知的財産権に関する国際協定である1994年のTRIPS協定により(荒木,2021:p. 3),アジアを含む100ヵ国以上に広がっている.日本では2015年6月に制度が施行され,全国134産品がGI制度下で登録されている(2024年1月現在).
前節で述べた現状を踏まえ,GI制度をより効果的に活用していくため,GI制度の満足度やその規定要因,また,効果を上げるために有効なプロモーション活動について分析するため,調査を行った.調査は,首都圏と地方の2件の聞き取り調査と運営者へ対するアンケート調査を実施した.アンケート調査だけではなく聞き取り調査も併せて実施したのは,運営者の生の声を聞くことで,GIの満足度や取得経緯,またGIを活用したPRについての認識を深めて,アンケート調査票の作成に反映するためである.これらの調査は,2023年11月から12月にかけて実施した.
(1) 市田柿聞き取り調査長野県飯田市,長野県下伊那郡ならびに長野県上伊那郡のうち飯島町および中川村を生産地とする「市田柿」の登録団体である「みなみ信州農業協同組合」では,中国の模倣品対策を目的としてGI制度に登録した(2016年7月第13号).市田柿は,GI産品紹介の具体例としても取り上げられている(地理的表示協議会HP,2025年2月23日参照).GI制度への評価としては,GI登録により,経済的な支援を受けやすい点は満足していた.他方で,GI制度の一般認知度が低く,産品を登録しただけでは,差別化やブランドを確立する手段としてあまり有効ではないと感じている.また,GIを活用した様々なPR活動(Instagram,レシピブックの作成,GIフェアへの出店,クッキングスタジオとの連携企画,GIマークを載せた梱包資材の使用など)を行っており,生産者だけではなく他業界とコラボレーションを実施することで,産品のPRを図っている.
(2) 東京しゃも聞き取り調査東京都を生産地とする「東京しゃも生産組合」は,地域限定の軍鶏として差別化することを目的に,GI制度に登録した(2019年5月第77号).GI登録後,あまり年数が経っていないこともあり,現状では効果を実感していない.このため,GIを活用した産品のPRとして,カタログギフトへの登録やGIフェアへの出店などを行っており,高齢化の影響で生産者数は減っているものの,生産量の維持を目指して励んでいる.
以上,2産品のヒアリング調査から,GIフェアへの出店や他業界との連携などで,消費者に直接PRを実施することがGI制度の満足度を高めることにつながっていると考察される.
(3) アンケート調査アンケート調査では,聞き取り調査で得た知見を基に電子メール,問い合わせフォームで連絡を取ることが可能な全国のGI産品産地運営者(108団体)を対象として,Google Forms上で作成した質問票(質問数20問および自由記述欄)により上記対象者へWebアンケートを実施した.質問項目は,GI産品登録後の売上およびGI制度の満足度,GI取得経緯,同産品の課題,GI制度の課題,および回答者属性(性別,年代,所属)に関する計20問を設定した.調査期間は2023年11月中旬~12月上旬に実施し,対象とした108団体中59件から回答を得た(回答率54.6%).そのうち分析可能な回答の58件を分析に用いた.以上のように,二つの満足度は,GI登録後の満足度を意味している.
まず,地域別の回答結果(表1)をみると,北海道・東北が約3割(29.3%),次いで中国が2割近く(19.0%),近畿17.2%の順になっている.登録農産物の区分では,野菜・穀物類が最も多く(41.4%),次いで果実が2割近く(19.0%)で,第三位は食肉と加工食品(共に12.1%)の順となっている.
地域別回答数と構成比
| 地域 | 北海道・東北 | 関東 | 中部 | 近畿 | 中国 | 九州 | 計 |
| 構成比(回答数) | 29.3(17) | 8.6(5) | 13.8(8) | 17.2(10) | 19.0(11) | 12.1(7) | 100.0(58) |
| GI産品の種類 | 野菜・穀物類 | 果実 | 食肉 | 魚介類 | 加工食品 | その他 | 計 |
| 構成比(回答数) | 41.4(24) | 19.0(11) | 12.1(7) | 5.2(3) | 12.1(7) | 10.3(6) | 100.0(58) |
資料:アンケート調査結果による.
1)( )内は回答数.地域別計,GI産品の種類計は共に58.
GI登録理由(表2)では,「産品のブランド確立・強化のため」が40.8%,次いで「生産地域の認知度向上のため」が29.6%を占めた.この2つで7割を占めていることから,多くの産地で地域や産品の差別化を目的としてGI登録したことが分かる.また,他の回答として「模倣品対策のため」が14.4%,「生産販売量を増やすため」が約1割(9.6%)あった.
GI制度登録理由および満足度
| 項 目 | 構成比(%) |
|---|---|
| GI制度の登録理由(複数選択) | |
| 商品のブランド確立・強化のため | 40.8(51) |
| 地域の認知度向上のため | 29.6(37) |
| 模倣品対策のため | 14.4(18) |
| 生産販売量を増やすため | 9.6(12) |
| 地域とのつながりを強化するため | 5.6(7) |
| 計 | 100.0(125) |
| GI制度の満足度 | |
| 大変満足 | 12.1(7) |
| やや満足 | 34.5(20) |
| どちらでもない | 37.9(22) |
| やや不満 | 15.5(9) |
| 大変不満 | 0.0(0) |
| 計 | 100.0(58) |
| GI取得後の売上に関する満足度 | |
| 大変満足 | 5.2(3) |
| やや満足 | 32.8(19) |
| どちらでもない | 39.7(23) |
| やや不満 | 17.2(10) |
| 大変不満 | 5.2(3) |
| 計 | 100.0(58) |
資料:アンケート調査結果による.
1)( )は,回答数を示す.
全般的なGI制度の満足度については,満足との回答が5割近く(「大変満足」12.1%,「やや満足」34.5%),不満は少数派となっている(「やや不満」15.5%,「大変不満」ゼロ).しかし,「どちらでもない」と「やや不満」が合わせて50%を超えている(「どちらでもない」37.9%,「やや不満」15.5%)(表2).つまり,半数を超える回答者が,GI登録前に期待した効果は十分得られてはいないという認識を持っている.したがって,前節で述べたとおりGI制度に登録するだけでは,登録産品の差別化や認知度向上などを図ることは困難であるといえる.
また,GI制度の取得による産品売上への寄与に関しては,満足(「大変満足している」5.2%,「やや満足している」32.8%)と「どちらとも言えない」(39.7%)がともに4割近く,不満は2割程度(「やや不満」17.2%,「大変不満」5.2%)であった.
以上から,約4割の産品が,GIを取得したことで産品の差別化が図られたことなどで,売上の増加に寄与したと実感する一方で,半数以上の産品ではGIの取得は,売上に寄与しているとは実感していないことが分かる.この点から,登録後の継続的な取り組みの重要性を指摘できる.
図1は,前段の考察を踏まえてGI制度満足度の要因解析モデルの概念図を示している.GI登録は,経済的目的で行われるため,その経済的指標として売上満足度を想定し,売上満足度がGI制度の満足度を規定する要因となると想定している.これが検証すべき作業仮説である.したがって,同モデルは,売上満足度,GI制度の満足度の二つのモデルから成立し,売上満足度がGI制度満足度を規定するという2段階のモデルである.第一段階のモデル1は売上満足度を,第二段階のモデル2はGI制度の満足を規定するモデルで,二つの満足度の内生性を考慮して,その売上満足度がGI制度の満足度を規定すると想定するモデルである.この内生性を考慮して,内生変数を含むモデルの計測が同時推計可能な拡張順序プロビットモデルを用いて分析を行うことにした.

GI制度への満足度規定要因解析モデル概念図
モデル1では,売上に関する満足度(経済的な要因)に対して,産品に関する要因,回答者属性や認知度に関する満足度なども影響を及ぼしているのではないか,という実証仮説を立てた.
以下,変数について説明する.モデル1で,「売上に関する満足度(2段階)」(大変満足,やや満足=1,どちらとも言えない・やや不満・大変不満=0)を被説明変数とした.2段階にカテゴリー統合した理由は,各段階での回答数に偏りがありカテゴリーごとの回答数をできる限り均等化するためである.カテゴリー統合した変数での計測例は多数あり,一例として髙橋・大江(2021)がある.本モデルは,経済的な成果の評価であるため,説明変数には,その規定要因として,4つの経済的な促進要因を考慮した.一つは地域の知名度向上への評価で,知名度が上がれば売上も増加すると想定される.マーケティング・PRの方法については複数の方法が考えられるので,経営外部のマスメディアによるPRと消費者への直接GI産品のPRを考慮して変数とした.いずれも売上にプラスに作用する要因と想定できる.なお,ソーシャルメディアについても,複数の変数として用いたが,いずれも有意ではなかったので,上記の2変数のみとした.ソーシャルメディアでのPRが有効とはならかった理由は,その使用の一般化が進んでいるため,有意差をもたらすほどの効果がないことが理由と考えられる.
4つ目の要因は,海外市場への進出に関するもので,この点については,GI農産物に関する意欲的な取り組みを評価する意図からであるものの,海外進出を図っているGI産品は,現状では限定的にとどまっているため,その結果の正負は計測結果から判断したい.
以上から,モデル1の具体的な変数設定の詳細は,以下のとおりである.
「地域の認知度に関する満足度(3段階)」(大変満足=3,やや満足=2,どちらとも言えない・やや不満・大変不満=1),「マスメディアを活用したPRの有無」(yes=1, no=0),「消費者に直接PRする機会の有無」(yes=1, no=0),「輸出の有無」(yes=1, no=0)を変数とした.
続いてモデル2については,GI産品の売上満足度,GI産地の立地地域,GI登録の時期,GI登録後の生産面への影響,および回答者属性とした.
売上満足度は,収入に関する経済的な要因で,モデル1から得られる結果を用いている.当然ながら,売上満足度が高ければ,GI制度への満足度も高くなると想定できるので,両者に正の関係が期待される.
GI産地の立地地域は,GI産地が大消費地へ近ければ,立地上の有利性は高まるので,GI制度への満足度に対して正の効果が期待される.GI登録時期は,登録が早いほど経験効果も大きくなると,想定されるので,同満足度に対して正の効果が期待される.
GI登録後の生産面の影響は,地域内のGI産品生産者の意欲を高めることが予想されるので,生産拡大への効果を評価するものであるとともに,GI産地の持続性に関わる点でもあり,正の効果が期待される.
回答者の属性は,属性による違いで生じる影響をコントロールするためのものである.
2段階目のモデル2の具体的変数は,以下のとおりである.被説明変数は,「GI制度の満足度(4段階)」(大変満足=4,やや満足=3,どちらとも言えない=2,不満=1)とした.本変数は,質問項目で設けた「やや不満」は回答ないため,4段階となっている.
説明変数には,売上満足度,立地要因,GI産品の登録時期,GI登録後の生産者数の変化,回答者属性を考慮した.具体的には,モデル1から内生的に得られた売上満足度(2段階)がここで用いられている.
立地要因は,大きな立地上の優位性として,最大の消費人口を有する関東地域(yes=1, no=0)を設定した.GI登録時期は,経験効果が確実に表れると考えられる「7~8前の登録」(yes=1, no=0)を設定した.生産面への影響に関して,生産量の増加に関する評価を以下のように用いた.具体的には,「GI登録後の生産者数の変化」(増加=3,変わらない=2,減少=1)として,3段階での評価を変数化して用いた.いずれも正の効果を期待する.
回答者の属性は,属性によるバイアスをコントロールのため「公務員・社団法人」(yes=1, no=0)を変数とした.なお,使用変数の記述統計量は表3に示すとおりである.特に,異常値と考えられるデータはみられない.
変数の記述統計
| 変数 | 平均値 | 最大値 | 最小値 | 標準偏差 | サンプルサイズ |
|---|---|---|---|---|---|
| GI産品産地運営者の満足度(大変満足=4,やや満足=3,どちらでもない=2,やや不満=1) | 2.4310 | 4 | 1 | 0.9005 | 58 |
| 所在地域:関東(yes=1, no=0) | 0.0862 | 1 | 0 | 0.2831 | 58 |
| 7~8年前にGI登録(yes=1, no=0) | 0.2414 | 1 | 0 | 0.4317 | 58 |
| GI登録後の生産者数の変化(増加=3,変わらない=2,減少=1) | 1.9138 | 3 | 1 | 0.6565 | 58 |
| 回答者属性:公務員・社団法人(yes=1, no=0) | 0.2931 | 1 | 0 | 0.4592 | 58 |
| 売上に関する満足度(大変満足・やや満足=1,どちらともいえない・やや不満・大変不満=0) | 0.3793 | 1 | 0 | 0.4895 | 58 |
| 地域の認知度に関する満足度(大変満足=3,やや満足=2,どちらともいえない・やや不満・大変不満=1) | 1.8966 | 3 | 1 | 0.5831 | 58 |
| マスメディアを活用したGI産品のPR(yes=1, no=0) | 0.5345 | 1 | 0 | 0.5032 | 58 |
| 消費者に直接GI産品のPR(yes=1, no=0) | 0.6552 | 1 | 0 | 0.4795 | 58 |
| 輸出(yes=1, no=0) | 0.3103 | 1 | 0 | 0.4667 | 58 |
資料:アンケート調査結果による.
GI制度の満足度要因解析モデルの計測には,Stata18を用いた(eoprobitコマンド).計測結果は表4のとおりである.vifに関しては最小二乗法により算出し多重共線性の影響は見られず,分散不均一性についても,上記コマンドではその検定できないため,最小二乗法で検定(Breusch-Pagan検定)の結果,検出されなかった.また,厳密を期して表4ではロバスト推計の結果を示している.しかし,通常の推計結果と,有意水準はほとんど変わらない.モデル1とモデル2の関係に関して,売上満足度がGI制度の満足度を規定するという冒頭の作業仮説の妥当性を,統計的に確認できる.以下,各パラメータの解釈を行っていく.
GI制度の満足度要因解析モデルの計測結果(拡張順序プロビットモデル)
| モデル2:被説明変数:GI産品産地運営者の満足度(4段階) | ||||
| 説明変数 | パラメータ | Z値 | 有意水準 | vif |
| 所在地域:関東(yes=1, no=0) | 1.1900 | 2.21 | ** | 1.04 |
| 7~8年前にGI登録(yes=1, no=0) | 0.7185 | 1.96 | * | 1.08 |
| GI登録後の生産者数の変化(増加=3,変わらない=2,減少=1 ) | 0.5810 | 2.72 | *** | 1.01 |
| 回答者:公務員・社団法人(yes=1, no=0) | 0.4722 | 1.46 | ns | 1.07 |
| 売上に関する満足度(2段階) | 2.0420 | 4.01 | *** | 1.03 |
| モデル1:被説明変数:売上に関する満足度(2段階) | ||||
| 説明変数 | パラメータ | Z値 | 有意水準 | vif |
| 地域の認知度に関する満足度(3段階) | 1.1043 | 2.49 | ** | 1.09 |
| マスメディアを活用したGI産品のPR(yes=1, no=0) | 1.0669 | 2.60 | *** | 1.09 |
| 消費者に直接GI産品のPR(yes=1, no=0) | 1.1717 | 2.16 | ** | 1.08 |
| 輸出(yes=1, no=0) | −0.2157 | −0.53 | ns | 1.04 |
| 定数項 | −3.8017 | −4.83 | *** | ― |
| サンプル数=58,Wald カイ2乗値=39.88***,閾値1=0.8887,閾値2=2.3625,閾値3=3.9757 | ||||
資料:アンケート調査結果による.
1)***は1%,**は5%,*は10%の有意水準を,nsは有意ではないことを示す.
2)vifは,最小二乗法による計測結果から算出した値(参考値).
3)ロバスト推計を実施した.
まず,モデル1の「売上に関する満足度」規定モデルの計測結果を吟味する.「地域の認知度に関する満足度」は,5%で正に有意となっており,地域の認知度に関する満足度が高くなるほど,売上に関する満足度は高くなっている.この結果から,地域の認知度向上により,消費者の購買行動が促進され,売上げに関する満足度へ正の影響が生じると考えられる.「マスメディアを活用したPRの有無」は1%で正に有意となっており,GI産品のPRでは,マスメディアを活用することが,売上に関する満足度を高めている.この結果から,マスメディアの影響力や信頼度は高く,GIに関する一般認知度は低い点から,従来のマスメディアの活用はなおPR手段として有効といえる.
「消費者に直接PRする機会の有無」は,5%で正に有意となっており,GI産品のPRには,ポスター掲示やGIイベントへの出店,GIマークを載せた梱包資材の使用,小売店での説明など,消費者に対しての直接PRは,売上の満足度を高めている.これは,GI制度自体の認知度が低いことから,比較的能動的に情報を受け取るWeb上で発信するより,むしろ受動的に情報を受け取ることができるマスメディアによるPRの方が広範囲に及び有効であることが考えられる.なお,輸出の有無に関しては,有意な結果が得られなかったが,コントロール変数として計測結果に反映させた.
続いて,「GI産品産地運営者の満足度」モデルの計測結果(モデル2)を吟味する.立地変数で,「関東地方」は5%で正に有意となっており,関東地方の産品は,GI制度の満足度を高めることがわかる.これは大消費地の関東地方は,販売機会に恵まれているため,GI制度の満足度が高くなると考えられる.
「7~8年前にGI制度に登録」は5%で正に有意となっており,GIが施行して比較的早い時期(7~8年前)に登録した産品ほどGI制度の満足度が高くなる.これは,GI制度に登録してから年数が経つほど,同制度を活用する経験効果が高まることで,GI制度への満足度が上がると考えられる.
「GI登録後の生産者数の変化」は,1%で正に有意となっており,生産者が増加している産品ほどGI制度の満足度が高いことが分かる.これは,生産者数が増加している産品ほど生産体制が量的にも安定し,販売活動にも注力できるため,よりGI制度を活用した持続的な取り組みが可能になり,結果的にGI制度の満足度が高くなると考えられる.最後に,「売上に関する満足度」は1%で正に有意となっており,予想どおり売上満足度が向上するほどGI制度の満足度も上がることが分かる.
なお,回答者の属性に関しては,有意ではなくGI制度の満足度への影響はみられないが,コントロール変数として計測結果に反映させた.
最後に,表5より限界効果について吟味しておきたい.モデル1では,限界効果で最も大きく有意な変数は,消費者への直接GI産品のPRで0.3497,次いでマスメディアを活用したGI産品のPRが0.3011,地域の認知度への満足度0.2719の順で,いずれも正で1%有意であった.このことから,これらのマーケティング努力の有効性が示されている.
限界効果
| モデル2:被説明変数:GI産品産地運営者の満足度(4段階) | 限界効果 | |||
| 説明変数 | 1 | 2 | 3 | 4 |
| 所在地域:関東(yes=1, no=0) | −0.2275** | −0.1014 | 0.1697* | 0.1592** |
| 7~8年前にGI登録(yes=1, no=0) | −0.1373** | −0.0612 | 0.1024* | 0.0961* |
| GI登録後の生産者数の変化(増加=3,変わらない=2,減少=1) | −0.1110** | −0.0495** | 0.8283** | 0.0777*** |
| 回答者:公務員・社団法人(yes=1, no=0) | −0.0903 | −0.0402 | 0.0673 | 0.0632 |
| 売上に関する満足度(2段階) | −0.2852*** | −0.3334*** | 0.2824*** | 0.3362** |
| モデル1:被説明変数:売上に関する満足度(2段階) | 限界効果 | |||
| 説明変数 | ||||
| 地域の認知度に関する満足度(3段階) | 0.2719*** | ― | ― | ― |
| マスメディアを活用したGI産品のPR(yes=1, no=0) | 0.3011*** | ― | ― | ― |
| 消費者に直接GI産品のPR(yes=1, no=0) | 0.3497*** | ― | ― | ― |
| 輸出(yes=1, no=0) | −0.0468 | ― | ― | ― |
| サンプル数=58 | ||||
資料:アンケート調査結果による.
1)***は1%,**は5%,*は10%の有意水準を示す.
モデル2では,被説明変数の4段階ごとにその値が示されている.いずれの変数の限界効果にも共通するのは,マイナスからプラスへとGI制度の満足度の低いレベルから高くなるに従い変化している点である.
限界効果の値が最も大きく有意(1%)であるのは,売上満足度で,低い値の場合はGI制度への満足度はマイナスであっても,売上満足度が高くなるほど,プラスに値が大きく作用していることが判明する.次に大きな限界効果を示しているのは,立地要因で,これも負から正への変化がみられる.次に限界効果が大きい立地要因も,GI制度満足度が低い段階と高い段階で負から正へと同様なパタンをみせている.
この点は,GI登録の時期や生産者数の変化についても,同様である.
以上から,売上満足度,大消費地への近さや経験効果,そして生産者数の増加がGI制度への満足度を高める要因であることを確認できる.以上,二つの満足度に関する仮説について,検証された.
本研究では,我が国GI制度について実証的評価を行うため,GI産品産地の運営者へのアンケート調査結果から得られたデータを基に,運営者の満足度を評価した.計測モデルの結果から,満足度は産地一様ではなく,その規定要因として,売上満足度といった経済的要因に加え,関東地方の産品,認証登録時期,PRの手段としてマスメディアの活用などが有効な要因として判明した.また,聞き取り調査の結果も含めて,GIフェアへの出店や他業界との連携を実施し,消費者に直接PRなどがGI制度の満足度を高めていることが考察された.他方で,アンケート調査の自由記述欄から,GI制度の一般認知度の低さを指摘するコメントが多数寄せられたことから,政策当局および関係団体はPR活動の充実,イベントの開催など,様々な手法で産品の積極的な活動を促すような働きかけや支援が今後とも重要と考える.3節の聞き取り調査結果にもあるように,GI産品登録はあくまでスタートであり,GI登録後に認知度や売上を上げるための活動や利益を生むビジネス戦略を継続的に実践すること,そして生産量の維持や生産者の仲間を増やすことなどの継続的努力は産地持続性にとり重要といえる.
最後に,本研究では,産品ジャンルごとに回収率に差があったため,産品ジャンル別の満足度は分析できなかったこと,さらに「満足度」は主観的なデータであり,経営成果や非経済的効果および間接効果などの分析や産地内の生産者への調査は行えなかったので,これらの点は今後の課題としたい.
本研究には,科学研究費補助金(Kakenhi)No. 24K03189およびNo. 25K15710を受けた.