農林業問題研究
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個別報告論文
農産加工事業者の経営意識分析
―京都府中丹地域のブランド認定事業者への調査結果を中心に―
張 明軍
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2025 年 61 巻 4 号 p. 205-213

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Abstract

This study analyzes management perceptions, needs, and support for market expansion among brand-certified agricultural product processors in the Chutan region of Kyoto Prefecture, Japan. Although brand-certified businesses enhance their competitiveness through improved quality and trust, many still face challenges in expanding sales channels and marketing due to limited resources. A questionnaire survey was conducted in 2024 with 24 certified local food processors to examine their business awareness, sales strategies, and attitudes toward technology adoption. The results reveal that the respondents—local processors who have obtained brand certification—expressed a strong sense of pride in their certified products and contribution to the regional community, but also indicated the underutilization of digital marketing and online sales. The study emphasizes the need for adopting digital technology, community collaboration, and educational programs to support sustainable growth and market differentiation.

1. はじめに

六次産業化の取り組みが農業・地域経済の発展においてますます重要となる中,総務省(2019)の報告によれば,六次産業化事業者の多くは「技術・ノウハウの習得・向上」および「販路開拓・集客」といった課題に対し,自らの努力で対応しようとしているものの,行政機関やその他の外部支援を十分に活用できていない現状が示されている.この点に関連し,所(2015)は,事業者側のマーケティング思考の欠如を指摘し,その結果として販売先の確保が六次産業化における主要な障害となると述べている.また,大西他(2022)は,農業者が直面する経営課題に対する支援策として,商談会の開催やバイヤーを対象とした産地商談ツアーが効果的であると指摘している.さらに,青木(2017)は,複線的な取引先を長期的に確保するためには,多様な主体間で形成される関係性に基づくマーケティングや,他企業との価値共創を可能にするプラットフォームの構築が有効であると述べている.

以上から,六次産業化事業者は,販路開拓や技術・ノウハウの習得を課題と認識しているものの,自己努力に依存しており,行政等の外部支援を十分に活用できていない現状が明らかになった.したがって,マーケティング支援や商談会の開催,さらに事業者間協働による価値共創型プラットフォームなど,事業者が実際に活用可能で具体的な支援策の提供が必要であると考えられる.

一方,地域ブランドの視点からは,経済産業省(2005)が「地域の事業者が協力し,統一したブランドを用いて,当該地域と何らかの(自然的,歴史的,風土的,文化的,社会的等)関連性を有する特定の商品生産または役務の提供を行う取り組み」と定義している.さらに,農林水産省(2008)は,地域ブランド化の推進により,農林水産業の活性化や豊かな消費生活の実現が期待されると述べている.地域ブランドの信頼性と価値を向上させるため,多様な認証制度が活用されており,これらは消費者の選択基準として機能し,地域ブランドの確立および持続的な発展に寄与するとされる.加えて,金子(2018)は,認定された事業者が商品開発からデザイン,販路開拓,海外進出まで総合的な支援を受ける一方で,生産・出荷,中間流通,小売・外食,消費の各段階における課題に対して,行政が一貫した地域ブランド化の支援体制を構築する必要性を指摘している.さらに,斎藤(2010)は,地域ブランドへの中小零細企業の参加は,当該ブランドの品質管理水準と自社ブランドの評価水準によって左右され,地域ブランドに参加する企業を増やすためには,ブランド自体の品質管理水準を向上させることが必要であると示唆している.しかし,松原(2008)は,行政による認証制度に関して,事業者側の販売戦略や品質・名称管理の取り組みが不十分であるという課題を指摘している.また,日本政策投資銀行(2015)は,地域資源のブランディングを目的とした自治体独自の認証制度の多くが,品質そのものを担保する制度ではなく,結果として商品の付加価値向上や販売単価の増加に結びつく例は依然として少ないと述べている.行政による認証制度には課題もあり,その有効性には慎重な検討が必要であることが示唆される.

これまでの既存研究から,六次産業化事業者の課題としてマーケティング思考の欠如や販路開拓の困難さが指摘されている一方で,地域ブランドの活用が支援策の一つとして注目され,認証制度の課題を提起されている.しかし,地域ブランド化の取り組みを推進する際に重要となるのは,単に行政や外部機関による支援を提供するだけでなく,事業者自身が課題を認識し,自ら積極的に解決しようとする意欲や経営意識(内発的動機づけ)を高めることである.既存研究は制度的・政策的な観点から課題を分析し,事業者側の外発的動機づけ(外部からの支援やインセンティブによる動機づけ)に関するアプローチが中心となっている.一方で,内発的動機づけ(事業者自身の経営意識や内面的な意欲に基づく動機づけ),つまり農産加工事業者,特に認定事業者の経営意識に基づく支援策に関する知見は十分ではない.具体的には,事業者がどのような経営課題を認識し,どのような支援を必要としているかについての実証的な研究は限られている.

こうした背景に加えて,近年のAI(Artificial Intelligence人工知能)技術の進展により,農業生産において革新が進んでいる.Monteiro and Barata(2021)は,AIが農作物の生産効率化に大きく貢献している一方で,持続可能な消費を含む「拡張アグリフードサプライチェーン」への応用は未だ限定的であると指摘している.Assimakopoulos et al.(2024)は,AIが生産から流通までの農業バリューチェーン全体を革新し,収量・価格予測によるリスク管理の強化や物流最適化を通じたフードロス削減・収益向上の可能性を示している.農業生産におけるAI技術の有効性が実証されつつあり,その応用範囲は農産加工品の開発,製造,販売戦略など,サプライチェーン全体へ拡大が期待できる.例えば,AIによる需要予測を活用した新商品開発,品質管理システムを用いた製造工程の最適化,購買データ分析に基づくパーソナライズマーケティングなどが挙げられる.

こうしたAI技術の活用は,生産性の向上のみならず,事業者が経営課題を自律的に解決するための自己効力感を高め,主体的な問題解決を促進する効果が期待できる.本研究では,DeepSeekやChatGPTなどのAIツールの習熟が,事業者の内発的モチベーションを向上させ,外部支援への依存から脱却し,自律的な経営課題解決能力の醸成につながる可能性があるという仮説的視点を提示する.つまり,AI技術の習得を通じて事業者が新たな経営手法を学び,市場開拓や事業展開に対する意欲を高めている傾向が見られるかを探索的に検討する.

以上を踏まえ,本研究では農産加工事業者が直面する経営課題に焦点を当て,①事業者の経営実態と意識,②行政支援の利用状況とニーズ,③AI技術の導入意欲と期待の3つの観点から調査を行う.そして,その結果を基に,六次産業化のさらなる発展に向けた政策的・実務的支援のあり方を提言することを目的とする.

2. 研究方法

(1) 調査対象

本研究では,「京都中丹いちおし商品」に選定された農産加工品を提供する36の事業者を研究対象とする.「京都中丹いちおし商品」は,京都府中丹広域振興局が農商工連携の推進や地域活性化を目的に認定したブランドであり,京都府中丹地域(福知山市・綾部市・舞鶴市)の海,森,里に育まれた原料を使用した加工品が対象となる.

本認定制度では,認定事業者に対し以下のような行政支援が提供される.①販路開拓支援:商談会やバイヤー向けの産地ツアーの実施,ECサイトでの販売促進.②イベント出展支援:京都府主催の地域振興イベントや百貨店催事への優先的な出展機会の提供.③広報支援:京都府中丹広域振興局のウェブサイトやパンフレットを通じたPR,メディア掲載の支援.④ブランディング支援:商品パッケージデザインの改善,認定ロゴの活用によるブランド価値の向上.

「京都中丹いちおし商品」の認定は2018年から開始され,2025年3月時点で83点の加工品が認定されている.認定事業者数は40であり,長年にわたる販売活動や支援の実績を積み重ねている.しかし,これらの支援策が事業者の経営課題解決にどの程度貢献しているか,また事業者がどのような追加支援を必要としているのかについては十分に検討されていない.本研究では,認定事業者の経営意識や支援の活用状況を分析することで,農産加工品の発展に向けた実効的な支援策を検討する.

(2) 調査方法

2023年12月と2024年1月,2回にかけて2023年11月時点の36の事業者に調査票を郵送し,アンケート調査を実施した.各回2週間の回答期間を設け,調査票は事業者の製造規模と販売状況,市場拡大,認定後の効果,将来の展望,人工知能導入に関する意向を測る質問で構成した.計24の事業者からの回答を得て,回収率は約66.7%である.

(3) 分析方法

①事業者の作業人数,売上,生産コスト,販売市場とルート,情報発信の手段,市場拡大に関する意識及び取組の実行度合い,いちおし商品認定後の効果,製造・販売におけるニーズ,人工知能の導入に対する意欲について,単純集計を行う.

②アンケート調査の結果について,SPSS Statistics 29 を用いて,市場拡大に関する意識及び取組の実行度合い,いちおし商品認定後の効果,製造・販売におけるニーズ,人工知能の導入に対する意欲を測る回答の信頼性分析を行った.各項目間の関係を検討するため,Pearson の相関分析,回帰分析を実施した.

3. 分析結果

(1) 経営実態

事業者の経営実態を表1のように示す.表1から,農産加工品を提供する事業者の経営実態について以下の結果が示された.

表1.

加工事業者の経営実態1)

番号 経営形態 業種 商品種類 主な販売 ルート 主な情発信手段 作業人数 60代以上割合 年間売上(万円) コスト(万円)
1 自治会 地域活動 漬物 直売所 11 100% 28
2 福祉法人 福祉 惣菜 イベント会場 イベント展示 13 23% 40
3 個人事業 農業 惣菜 小売店 イベント展示 2 50% 70 65
4 会社 農業 調味料 直売所 5 20% 60 70
5 会社 農業 味噌 直売所 イベント展示 1 0% 56 39
6 会社 農業 麵類 直売所 25 76% 22 36
7 会社 飲食業 惣菜 小売店 店舗展示 1 0% 52 140
8 個人事業 農業 惣菜 直売所 SNS 3 67% 220 200
9 個人事業 食品加工 菓子類 ネット販売 ECサイト 3 33% 100 80
10 自治会 地域活動 菓子類 直売所 4 50%
11 会社 農業 調味料 直売所・ネット販売 ECサイト 1 0% 10 100
12 会社 飲食業 菓子類 小売店 イベント展示・ECサイト 3 67% 52
13 自治会 地域活動 漬物 直売所・学校 17 100% 98 98
14 会社 飲食業 味噌 直売所 イベント展示 2 50% 15 8
15 会社 農業 麺類 小売店・直売所 商談会参加 6 50% 2,702 2246
16 会社 農業 菓子類 直売所 口コミ 6 50% 100
17 福祉法人 福祉 菓子類 イベント会場 SNS・イベント展示 4.5 22% 120 84
18 会社 農業 麵類 直売所 イベント展示 1 0% 200 160
19 会社 加工食品 調味料 直売所・ネット販売 口コミ・店舗展示 5 40% 1,000 650
20 会社 農業 菓子類 卸売業者・小売店 店舗展示・ECサイト 28 68% 5,000 1400
21 自治会 地域活動 漬物 直売所 イベント・店舗展示 17 94% 340 323
22 自治会 地域活動 菓子類 直売所・イベント会場 イベント展示 13 69% 305 202
23 会社 サービス業 惣菜 直売所 店舗展示 1 100% 1,161
24 会社 飲食業 菓子類 小売店 店舗展示

1)一部の事業者は農産加工品の製造・販売を主な事業活動としておらず,副次的な事業として位置づけている.

まず,事業者の経営形態としては,自治会,福祉法人,個人事業主,会社組織など多様であるが,特に個人事業主と小規模な会社が多い.提供する農産加工品は,菓子類,惣菜,調味料,漬物などであり,販売先は直売所,小売店,イベント会場が中心で,インターネット販売(ECサイト)を利用する事業者は一部に限られる.また,情報発信手段としては,イベント展示や店舗展示など直接的な対面型の手法を多くの事業者が採用している.次に,年間売上を見ると,全体の約半数の事業者の年間売上が100万円未満で,一部の事業者は他の事業を中心として運営し,農産加工品の製造販売を主な事業活動として位置付けていないことが分かる.さらに,運営規模としては作業人数が1~5名程度の事業者が大半を占める.特に,作業人数が1名の事業者も複数存在するなど,小規模な体制で運営されている.加えて,作業者の高齢化が進み,60代以上の作業者が半数以上を占める事業者も多く,中には60代以上が100%の事業者も見られた.最後に,年間売上と経営コストを比較すると,利益率が低く,一部事業者では赤字経営に陥っていることも明らかになった.

(2) 事業者の経営意識

2および表3に示した各構成概念のα値は,質問項目の信頼性(内的整合性)を示すCronbachのα係数である.一般的に,α係数が0.7以上であれば信頼性が十分であると判断され,本研究で使用した項目群は十分な信頼性を持つことが確認された.

表2.

事業者の経営意識調査結果(1)

構成概念α 質問項目 有効回答 平均値 回答(1~5)%
1 2 3 4 5
市場拡大意向0.884 1.新市場への農産品展開に興味. 22 4.14 0.0 4.2 25.0 16.7 45.8 1そう思わない~5そう思う
2.特定ニーズに合わせた市場拡大戦略検討. 23 4.04 0.0 8.3 12.5 41.7 33.3
3.新販売ルート開拓希望. 24 4.17 0.0 8.3 12.5 33.3 45.8
4.加工品の付加価値向上と売上増. 23 4.17 0.0 12.5 4.2 33.3 45.8
5.競争力と安定収入の確保. 22 4.27 0.0 4.2 16.7 20.8 50.0
6.海外輸出や訪日客購入で市場拡大. 22 3.18 25.0 4.2 25.0 4.2 33.3
市場拡大実行度合0.796 1.市場拡大のための資源確保. 23 2.48 16.7 33.3 29.2 16.7 0.0
2.農産加工品の市場動向と消費者ニーズ把握. 23 3.00 4.2 12.5 62.5 12.5 4.2
3.デジタルマーケティングによる露出増. 24 2.92 20.8 20.8 12.5 37.5 8.3
4.地元市場への参加で地域と連携. 23 3.48 4.2 4.2 37.5 41.7 8.3
5.食品店・レストランとのパートナーシップ構築. 23 2.78 20.8 16.7 25.0 29.2 4.2
6.商品差別化による競争優位性の強化. 24 3.92 4.2 4.2 25.0 29.2 37.5
7.新味やバリエーションで消費者ニーズに対応. 24 2.92 25.0 16.7 20.8 16.7 20.8
8.安全性と品質のアピールと証明取得. 23 3.17 16.7 12.5 20.8 29.2 16.7
9.購入者からのフィードバック収集. 23 2.22 37.5 16.7 29.2 8.3 4.2
10.生産能力の販路拡大への調整. 23 2.96 16.7 16.7 33.3 12.5 16.7
表3.

加工事業者の経営意識調査結果(2)

構成概念α 質問項目 有効回答 平均値 回答(1~5)%
1 2 3 4 5
いちおし商品認定効果0.818 1.ブランド認知と品質信頼の向上. 24 3.63 4.2 0.0 33.3 54.2 8.3 1そう思わない~5そう思う
2.消費者信頼増で売上アップ. 24 3.38 4.2 16.7 29.2 37.5 12.5
3.地域農産品の評価でイメージ向上. 24 3.42 8.3 8.3 29.2 41.7 12.5
4.地元コミュニティとの関係強化. 24 3.33 12.5 12.5 29.2 20.8 25.0
5.公的認定でモチベーション向上. 23 3.57 4.2 16.7 16.7 37.5 20.8
6.関連団体との協力促進. 23 2.65 20.8 8.3 50.0 16.7 0.0
7.認定増でも独自性・価値維持. 24 3.96 4.2 12.5 8.3 33.3 41.7
AI活用意向0.882 1.新製品デザイン生成と既存製品改良にAI利用. 24 3.42 8.3 20.8 16.7 29.2 25.0
2.AIでターゲット顧客理解を深化. 24 3.42 8.3 20.8 20.8 20.8 29.2
3.生産効率向上とコスト削減にAI活用. 24 2.71 12.5 29.2 41.7 8.3 8.3
4.AI会話機能で24時間カスタマーサービス改善. 24 3.25 8.3 20.8 25.0 29.2 16.7
5.広告の最適化とメッセージ配信にAI利用. 24 3.29 4.2 20.8 29.2 33.3 12.5
6.市場分析と最適価格設定にAI活用. 24 3.96 4.2 12.5 8.3 33.3 41.7
ニーズ期待0.931 1.市場動向と消費者嗜好の情報収集希望. 23 4.17 0.0 12.5 12.5 20.8 54.2
2.新商品開発や市場拡大の経済支援要望. 23 4.17 0.0 4.2 16.7 37.5 41.7
3.生産効率と品質向上を目指す. 24 3.35 4.2 12.5 29.2 45.8 4.2
4.ネット販売とデジタルマーケティング強化. 23 3.26 12.5 12.5 33.3 12.5 25.0
5.国内外新市場への進出検討. 23 3.39 12.5 4.2 20.8 50.0 8.3
6.地元や他事業者との共同マーケティング志向. 24 3.78 0.0 12.5 20.8 37.5 25.0
7.農産加工品マーケティングの学習意欲. 24 3.78 4.2 8.3 16.7 41.7 25.0
8.認定後の事業支援拡大を希望する. 23 3.33 4.2 12.5 45.8 20.8 16.7
9.「京都中丹いちおし商品」認定プロセス簡素化 23 3.35 8.3 8.3 29.2 41.7 8.3
10.審査会からの直接的なアプローチ希望. 23 3.33 8.3 25.0 16.7 25.0 25.0

「市場拡大意向」は,自社の農産加工品の市場を広げるための意欲を示す.表2の「市場拡大意向」の回答からは,「加工品の付加価値向上と売上増」(平均値4.17,肯定的回答79.1%),「競争力と安定収入の確保」(平均値4.27,肯定的回答70.8%)への意識が特に高い.また,「海外輸出や訪日客購入で市場拡大」(平均値3.18,肯定的回答37.5%)も一定の関心が認められたが,全体的には意識のばらつきが見られる.

一方,「市場拡大実行度合い」は,自社の農産加工品の市場を広げるためにどれだけの取り組みが実施されているかを示すものである.表2の回答を見ると,「市場拡大のための資源確保」(平均値2.48,肯定的回答16.7%)など,多くの項目で実行度は相対的に低い傾向にある.一方,「商品差別化による競争優位性の強化」(平均値3.92,肯定的回答66.7%)については高い実行度が確認された.

「いちおし商品認定効果」は,自社が製造する農産加工品が「京都中丹いちおし商品」として認定を受けたことによる,知名度の増加や売上の向上などの効果を指す.表3から,「ブランド認知と品質信頼の向上」(平均値3.63,肯定的回答62.5%),「消費者信頼性増で売上アップ」(平均値3.38,肯定的回答50.0%),「地域農産品の評価でイメージ向上」(平均値3.42,肯定的回答54.2%)など,一定の効果が認識されている.しかし,「関連団体との協力促進」(平均値2.65,肯定的回答16.7%)に関しては効果を実感している事業者は少ない.

「AI活用意向」は,農産加工品の製造・流通・販売等におけるAI技術の導入に対する関心や意欲を示す.表3から,全体的に平均値が2点台後半から3点前半と控えめである一方で,「市場分析と最適価格設定にAI活用」(平均値3.96,肯定的回答75.0%),「新製品デザイン生成と既存製品改良にAI利用」(平均値3.42,肯定的回答54.2%)に対しては比較的高い関心が見られた.

最後に,「ニーズ・期待」は,行政など外部支援主体に対する事業者の期待を測る指標である.表3の結果から,「市場動向と消費者嗜好の情報収集希望」(平均値4.17,肯定的回答75.0%),「新商品開発や市場拡大の経済支援要望」(平均値4.17,肯定的回答79.2%)など,幅広い支援に対する強い期待が明らかとなった.

以上の結果から,農産加工事業者は市場拡大への強い意欲を持ちながらも,実行に向けた体制や資源の不足によって具体的な行動に結びついていない傾向が確認された.また,AI活用や行政支援への関心も一定程度存在し,今後の支援策においてこれらの要素を取り入れる必要性が示唆された.

(3) 各構成概念の相関関係

構成概念間の関係性を明確にするため,相関分析(Pearsonの積率相関係数)を実施した.結果は表4の通りである.統計的に有意な正の相関が確認された組み合わせは以下の通りである.

表4.

構成概念間の相関関係

構成概念 相関 構成概念 相関係数 p
市場拡大意向 <--> 市場拡大実行度合い 0.363 0.081
<--> いちおし商品認定効果 0.231 0.278
<--> ニーズ・期待 0.828 0.000***
<--> AI活用意向 0.391 0.059
市場拡大実行度合い <--> いちおし商品認定効果 0.446 0.035*
<--> ニーズ・期待 0.326 0.120
<--> AI活用意向 −0.084 0.697
いちおし商品認定効果 <--> ニーズ・期待 0.356 0.087
<--> AI活用意向 −0.099 0.646
ニーズ・期待 <--> AI活用意向 0.431 0.041*

*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001

「市場拡大意向」と「ニーズ・期待」(r=0.828, p<0.001);「市場拡大実行度合い」と「いちおし商品認定効果」(r=0.446, p<0.05);「ニーズ・期待」と「AI活用意向」(r=0.431, p<0.05).

次に,構成概念間の影響関係を明確にするために回帰分析を実施した.その結果は表5に示した通りである.各分析の結果は以下の通りである.

表5.

回帰分析結果

独立変数 従属変数 β 調整済みR2 p
市場拡大意向 ニーズ・期待 0.722 0.671 0.000***
市場拡大実行度合い いちおし商品認定効果 0.471 0.162 0.029*
ニーズ・期待 AI活用意向 0.617 0.149 0.035*

*p<0.05;**p<0.01;***p<0.001

①「ニーズ・期待」に対して「市場拡大意向」が強い正の影響を与えていることが明らかになった(β=0.722,調整済みR2=0.671,p<0.001).

②「いちおし商品認定効果」に対して「市場拡大実行度合い」が有意な正の影響を与えている(β=0.471,調整済みR2=0.162,p=0.029).

③「AI活用意向」に対して「ニーズ・期待」が有意な正の影響を及ぼしていることが示された(β=0.617,調整済みR2=0.149,p=0.035).

4. 考察

(1) 経営規模

まず,個人事業主や小規模な会社では,経営規模の小ささから販路開拓や情報発信の能力が限定され,その結果,地域イベントや直売所,小売店など対面型販売に依存していることが表1からも確認できる.さらに,表2に示された「新販売ルート開拓希望」(平均値4.17,肯定的回答率79.1%)からも明らかなように,多くの事業者は新たな販路を模索しており,今後,事業規模拡大や経営安定化を目指すためには,インターネット販売を含む新規販路開拓やマーケティングの強化に向けた支援が必要である.

また,表1で年間売上が100万円未満の事業者が約半数を占めていること,さらに経営形態として「福祉法人」や「自治会」も存在することから,これらの事業者は農産加工事業を副業または兼業的に位置付けていると考えられる.このような経営形態では,農産加工事業への資金や人材投入が限られるため,収益性の改善が困難となり,業務負担の増大を招きやすい.加えて,表1に示された通り,作業者の高齢化が進み,60代以上が半数以上を占める事業者が多く見られる.特に60代以上が100%を占める事業者も存在しており,後継者不足や体力的制約による長期的な経営持続性への課題が浮き彫りとなっている.これらの事業者の経営を持続可能なものとするためには,業務効率化やコスト削減,外部支援の積極的な活用が求められる.さらに,事業者の利益率が低く赤字経営の事例が存在することから,生産性,コスト管理,販売戦略に課題があることが確認された.売上に比べてコストが高い要因としては,製造工程の非効率性,販路開拓の限定性,あるいは加工品の付加価値が消費者に十分訴求されていないことが挙げられる.こうした課題を解決するためには,行政や関係機関による経営管理ノウハウや技術支援,AI技術の導入を通じた業務改善やマーケティング戦略の強化が効果的である.

(2) 経営意識

農産加工事業者の経営意識における課題として,①販路開拓意欲に対する具体的な取り組みの遅れ,②認定ブランド制度の活用促進,③AI導入への負担軽減と支援強化が求められることが明確となった.

1) 販路開拓

販売面では,市場拡大意向が強い(全体平均値4.00)にもかかわらず,市場拡大の実行度合い(全体平均値3.09)は意向よりも低い水準にとどまっている.表2および表3から,事業者は市場拡大のための具体的な資源確保(平均値2.48)や,市場動向把握(平均値3.00)において課題を抱えていることがわかった.また,デジタルマーケティング(平均値2.92)やパートナーシップ構築(平均値2.78)について,実際には十分に実行されていないことが示された.先行研究(所,2015大西他,2022)においても,マーケティング思考の不足や販路開拓の難しさが農産加工事業者の大きな課題と指摘されていたが,本研究でも市場拡大意向(全体平均値4.00)に対して実際の実行度(全体平均値3.09)が低いという具体的な課題が明らかとなった.特に資源確保(平均値2.48)や市場動向把握(平均値3.00)の面で困難を感じていることから,マーケティング支援やオンライン販売等に関する具体的なサポートが求められることが確認された.これは,青木(2017)が指摘した「事業者間協働によるプラットフォーム構築」の必要性を更に補強する具体的根拠となった.

2) 認定制度の活用

事業者の認定制度に対する意識からは,認定後のブランド認知や売上向上に一定の効果があると認識されている.しかし,認定取得後の経済的メリットを実感している事業者は限定的である.経済産業省(2005)および農林水産省(2008)は,地域ブランド認定が農産品の信頼性と価値向上に寄与すると指摘しているが,本研究で示した点は日本政策投資銀行(2015)が指摘した「認証制度自体が必ずしも付加価値向上に結びついていない」という課題が改めて裏付けられた.したがって,本研究は認定制度の実効性を高めるための具体的な販売促進支援の重要性を示し,先行研究の議論を前進させた.

3) AIの可能性

AI技術の応用に関して,Monteiro and Barata(2021)Assimakopoulos et al.(2024)が指摘したように,農産加工品分野においてもAIの活用可能性が大きい.本研究の結果でも,AI技術の活用意欲は,市場分析や価額設定(平均値3.96)において比較的高い水準を示したが,生産効率化やコスト削減(平均値2.71)では導入意欲が低かった.特に高齢化が進む事業者にとっては,導入コストや技術習得の難しさがAI活用の障害になっていると考えられる.これは,AI活用の課題を具体的に示した新たな知見であり,高齢者向けに使いやすいAIシステム開発の必要性を提言する重要な成果となった.

(3) 事業者の意識と行動

回帰分析を実施した結果(表5)から,事業者の意識と行動の関連性について,「市場拡大意向」は「ニーズ・期待」に非常に強い正の影響を与えていることが確認され,市場拡大に対する事業者の意欲が高いほど,行政や外部機関への支援ニーズが高まる傾向が明らかとなった.さらに「市場拡大実行度合い」が「いちおし商品認定効果」に正の影響を与えており,市場拡大に向けた取り組みが認定制度の効果をより実感させる要因となることが明らかとなった.最後に,「ニーズ・期待」が「AI活用意向」に対して正の影響を与えることも確認され,外部支援やマーケティング支援への強い期待がAI技術の活用意欲を高める可能性が示唆された.

以上の分析結果から,事業者の経営意識が経営行動や支援ニーズと関連していることを実証的に確認できた.特に,「市場拡大」に関する意識が行動や支援への期待と結びついていることは,農産加工事業者に対する支援策の検討において,意識改革や教育プログラムの重要性を示唆するものである.また,AI技術導入に関しても,外部支援への期待が積極的な活用意向につながる傾向があることが明らかとなった.

5. おわりに

本研究では,京都中丹地域におけるブランド認定事業者を対象に,六次産業化推進に向けた農産加工事業者の経営実態と経営意識,支援ニーズを分析した.分析の結果,事業者は販路開拓や市場拡大への意欲を持っているが,実際の取組みは十分でないことが明らかとなった.これらの課題に対して,本研究は行政や地域機関による具体的な支援策や,意識改革と技術的教育プログラムの必要性を提案した.さらに,AI技術に対する事業者の期待や活用意欲を明らかにし,外部支援ニーズが高い事業者ほどAI導入に積極的であることを実証した.

本研究の学術的意義として,農産加工事業者の経営意識が経営行動や支援ニーズに与える影響を実証的に検証し,それらの関係性を明らかにした点にある.分析の結果,市場拡大に対する意欲が高い事業者ほど,行政や外部機関からの支援を必要としている傾向が確認された.また,支援への期待が高い事業者はAI技術の活用に対しても積極的な姿勢を示していることが明らかとなった.一方で,本研究は製造技術に直接焦点を当てなかったため,今後の研究では加工品そのものの製造技術支援策やその効果に関する実証分析を進める必要がある.

引用文献
 
© 2025 地域農林経済学会
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