2025 年 61 巻 4 号 p. 214-222
Farmers in semi-arable semi-pastoral regions of Inner Mongolia, who traditionally practiced mixed crop-livestock farming, are increasingly specializing in either the crop or livestock sector. This study examines the relationship between specialization and agricultural income, using data from 207 households collected through a farm management survey conducted in a village in Tongliao City. Our regression analyses showed a U-shaped relationship between the weight of the livestock sector in mixed crop-livestock management and agricultural income. A similar relationship was observed between the weight of the livestock sector and agricultural income per working hour. These findings suggest that the agricultural structure in the study area depends not just on farm size but also on the specialization of mixed crop-livestock farming.
中国内モンゴル自治区(以下,内モンゴル)の東部に広がる半農半牧地域は,典型的な牧畜業地帯であると同時に,重要な穀物生産地帯でもある(杜・松下,2010).当地域では耕畜複合経営が主に営まれており,自給飼料を含めた耕種生産部門,畜産部門と放牧地利用部門との3つから構成され,資源循環の視点から強く結びついていた(杜・松下,2011).しかし近年,環境保護政策と農業振興政策の実施,生産技術の進歩,経済成長に伴う消費の変化などを受け,農業生産構造や農家の経営構造も変化している.
当地域では,「休牧・禁牧」政策の導入と市場経済の浸透により,放牧から舎飼いへの転換が進み,舎飼いに適した繫殖牛経営が発展した.自営耕地のある繁殖牛経営は,自給用の飼料作物を生産し,飼養規模を拡大させた(韓他,2008;宝音図他,2021).他方,油糧種作物,野菜,果物など単価の高い換金作物が導入され,これらの作物を導入した農家の農業所得が上昇した(巴达拉夫,2020).また,土地利用型作物に特化した大規模農家は公務員並みの所得を実現している(山本・趙,2019).以上,先行研究では,半農半牧地域における耕畜複合経営は,舎飼いを導入し耕地を飼料生産に多く配分することで畜産への比重を高める方向と,収益性の高い作物を導入し耕種への比重を高める方向の両極に展開していることが指摘されている.
内モンゴルは中国全土の中でも所得格差の大きい省であり(Yuan et al., 2025),さらに,農業所得が農家所得の80%以上を占める農家の割合が77.5%にのぼる(暁,2022).長命・呉(2011)は,2000年と2007年の地域(旗)レベルの統計資料を用いて農牧民所得の規定要因を分析している.この期間に所得の向上と格差の拡大が同時に進んだこと,半農半牧区では,トウモロコシの自給生産と畜産経営が結びついた旗で所得が上昇していた.この研究は,耕畜複合経営の変化が所得格差につながっていることを示唆しているが,地域間の比較であり,農村内の所得格差には言及していない.暁(2022)は,経営面積規模の観点から農家の階層分化を議論し,本研究と同じ通遼市ホルチン左翼後旗で行った農家調査から,経営面積規模と牛飼養頭数が自給飼料生産を通して密接に結びついていることを示した.
これらの研究は,換金作物の導入による耕種への特化と農村内の所得格差や階層との関係を明らかにしていない.耕地と牧草地が交錯し畜産と耕種の両者に適した地域では,畜産や耕種への特化を含めた耕畜複合経営の形態は,地域の自然条件や経済条件に規定されるのではなく,経営内部で決定されると考えられる.畜産もしくは耕種への特化が農村内の農業所得の格差に結び付いているのであれば,農家の階層に経営規模だけでなく複合経営形態の選択という観点を取り入れていく必要があろう.そこで,本研究では,舎飼いと耕地での飼料生産を基盤にした畜産規模の拡大と換金作物の導入が同時に進んだ半農半牧地域の一村を対象に,耕畜複合経営の各部門への特化度と農業所得の関係を統計的に分析し,農業所得の格差に貢献しているかを明らかにする.
なお,後述のとおり,対象村では換金作物としてラッカセイが導入されている.ラッカセイは中国で生産される主要油糧種作物の1つであり,国内で需要が急増している.内モンゴルは油糧種作物の主産地であり,ヒマワリ,ナノハナ,ラッカセイが主に生産されているが,東部の半農半牧地域ではラッカセイが多い(内蒙古自治区統計局編,2021).
調査村のあるホルチン左翼後旗は内モンゴル半農半牧地域における旗の1つであり,耕地に恵まれており,耕種と畜産が盛んな地域である(暁,2018).当旗は東に耕種生産が盛んな吉林省,遼寧省に接しており,これらの省から新技術や作物が導入されている.本研究の調査村であるT村は,旗中心部から100 kmほど東に位置している.2021年の村民委員会の調査によると,T村の農家数は330戸である.離農世帯が42戸あり,村内で農業経営を行っている世帯は288戸である.総人口は1,292人,村の総面積は4,333ha,うち耕地面積は1,800 haであり,そのうち,ラッカセイ作付面積は980ha,トウモロコシ作付面積は780ha(子実取りと青刈りサイレージ用を含む),その他の作物作付面積は25 haである.耕地のなかで粘度土壌が半分弱を占めており,砂地が半分強を占める.ラッカセイは砂地土壌に適し,作付面積は総耕地面積の約4割を占めている.牧草地面積は900 haであるが,禁牧政策により,放牧用や採草用としても利用されていない.
(2) 調査村の土地利用変化著者らが行った村民委員会への聞き取り調査2021年8~9月に実施)をもとに,調査村の土地利用の変化を概観する.調査村では,1980年代から耕種専業経営と耕畜複合経営が行われていたが,耕地が牧草地より広く,耕種が中心であり畜産規模は相対的に小さかった.家畜及び耕地の請負が実施されたことで,個別農家の意思により,農業経営形態の転換が可能となった.耕地分配の調整は3回行われた.1980年代末の「請負制度」導入時には,家畜は農家戸別で請け負うこととなったが,耕種は5戸1組になり,耕地を開墾し共同経営をしていた.1985年に第一回の耕地分配が実施された.1996年ごろより,家族人数に応じて,1人当たり8畝1の請負耕地が30年間固定で分配され,余った耕地については,1世帯当たり15畝の経営権が分配された.その後,2018年に,村政府は経営権のみを与えた15畝の耕地を回収し,1996年以降に戸籍を取得した村民に分配し,請負耕地面積を増やし,一人当たり13~16畝に調整・分配したうえで,請負地を明確に確定した「土地請負権確定書」を農家に与えた.
調査村では,主にトウモロコシ(自家消費・販売が中心,一部を自給飼料仕向け)やアワなどが作付されていたが,1998年から2001年にかけて,隣接する吉林省の農家がT村で耕地を借り入れ,ラッカセイの作付を開始したことが契機となり,農家は2001年から徐々にラッカセイを導入し,2006年にはその作付面積はトウモロコシの作付面積を上回る状況となった.これは,ラッカセイの販売価格がトウモロコシより高く,さらにラッカセイの栽培は砂漠化が進む耕地に適していたためである.2010年に「三農政策」の一環として土地整備事業が実施された.T村では過去,土壌改良などの基盤整備がほとんど行なわれてこなかったが,本事業による灌漑設備(計1,000 haの耕地に74本の井戸を設置)の整備はラッカセイの単収と収益性の向上に大きく貢献した.本研究の調査において,調査村でラッカセイに適した耕地の需要が高まり,地代も上昇していることが確認された.畜産部門では,肉用牛繫殖経営が中心であり,放牧地の禁牧が実施されている現在,畜産の飼料基盤は,飼料用作物の栽培,その他作物の茎と残渣の利用など耕地に依存し,不足分は外部から購入している.濃厚飼料の給餌も重視される集約的な繫殖経営になっている.村委員会への調査によると,2013年「休牧政策」が始まった時点で村の飼養牛頭数が1,300頭だったが,本調査時点でその数が4,700頭に達していた.これは,牛価格の高騰も主因になっている.畜産部門の収入は主に肉用牛素牛の販売収入であり,牛糞は耕種部門(トウモロコシのみ)の肥料に使用されている.
(3) 農家経営2021年の8月から9月にかけて著者の1人の指示のもと,内モンゴル財経大学の大学院生が調査村で農業経営を行う全ての農家を訪問し,調査表を用いたヒアリング調査を実施した.214世帯から回答を得て,2020年度の農業経営データを収集した.うち,163世帯が耕畜複合経営(複合経営),51世帯が耕種専業経営(耕種経営)を行っている.調査時点で複合経営が太宗を占めている.耕種経営51世帯のうち25戸は兼業農家に分類される.以下では,特殊性がある農家2を除き,複合経営156世帯と耕種経営51世帯,計207世帯のデータを用いる.
207世帯のうち,子実取りトウモロコシの作付農家は200世帯あり,総作付面積は511 haである.サイレージ用トウモロコシの作付農家は107世帯で,作付面積は122 haである.ラッカセイ作付農家は155世帯,総作付面積は757 haである.調査村では耕種農作業の委託が進んでいる.特に,トウモロコシの作付では,耕地の耕耘,作付と収穫を委託しており,省力化が進んでいる.他方,ラッカセイの作付と収穫作業の委託率は総作付面積の17%に過ぎない.農薬の散布,雑草除去,土寄せ作業等は家族農業労働力により行われている.特に農薬散布と土寄せ作業を頻繁に行う必要があるため,トウモロコシに比べて労働投入量が大きい.畜産部門では,獣医サービスが広く普及しており,牛の病気治療や人工授精も村や近隣村に常駐する獣医に委託されている.農家は高度な畜産技術を自ら習得しなくても畜産経営を維持できる状況にある.また,飼料給与と牛舎の清掃など日々の作業が必要であり,飼養牛頭数に伴い労働時間も増加し,省力化は難しい.
表1は,調査農家の経営概要及び経営成果(所得に関する指標)に関する集計結果を複合経営と耕種経営に分けて示したものである.世帯主の年齢は複合経営で若干低く,家族人数は有意に多い.複合経営の請負耕地面積は耕種経営よりも有意に大きく,経営耕地面積ではその差がさらに広がっている.一方,表中には示していないが,耕種経営農家の約半数は他産業の臨時職などに就業している兼業農家である.耕種経営農家の多くは,農業経営規模を拡大する意思のないことが調査でも確認された.
農業経営概況及び経営成果
| 経営形態別 | 複合経営 (156世帯) |
耕種経営 (51世帯) |
全体 (207世帯) |
p値2) | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 項目 | 平均 | SD | 平均 | SD | 平均 | SD | |
| 世帯主の年齢(歳) | 45.99 | 8.69 | 48.65 | 9.60 | 46.64 | 8.97 | 0.06 |
| 家族人数(人) | 3.75 | 1.16 | 3.12 | 1.05 | 3.59 | 1.16 | <0.01 |
| 世帯主の教育水準1) | 1.55 | 0.68 | 1.51 | 0.70 | 1.54 | 0.69 | 0.62 |
| 家族労働者数(人) | 2.06 | 0.49 | 2.02 | 0.51 | 2.05 | 0.50 | 0.58 |
| 請負耕地面積(畝) | 69 | 24 | 58 | 21 | 66 | 23 | 0.01 |
| 経営耕地面積(畝) | 114 | 40 | 65 | 24 | 102 | 43 | <0.01 |
| 繫殖牛頭数(頭) | 17 | 8 | 0 | 0 | 17 | 8 | ― |
| 子実取りトウモロコシ作付面積(畝) | 38 | 25 | 35 | 29 | 37 | 26 | 0.50 |
| サイレージ作付面積(畝) | 12 | 11 | 0 | 0 | 12 | 11 | ― |
| ラッカセイ作付面積(畝) | 63 | 44 | 30 | 31 | 55 | 43 | <0.01 |
| ラッカセイ作付面積比率 | 0.52 | 0.28 | 0.45 | 0.41 | 0.51 | 0.32 | 0.28 |
| 家族労働者年間労働時間(時間) | 2,846 | 746 | 928 | 551 | 2,373 | 1,085 | <0.01 |
| 耕種部門における年間労働時間(時間) | 1,309 | 552 | 928 | 551 | 1,215 | 575 | <0.01 |
| 農業経営費(元) | 122,407 | 51,643 | 45,481 | 19,787 | 103,454 | 56,620 | <0.01 |
| 1畝当たりの耕種経営費(元/畝) | 642 | 153 | 722 | 225 | 662 | 176 | <0.01 |
| 1頭牛当たりの畜産経営費(元/頭) | 1,441 | 537 | 0 | 0 | 1,441 | 537 | ― |
| 畜産投入比率 | 0.38 | 0.12 | 0 | 0 | 0.29 | 0.19 | ― |
| 農業所得(元/世帯) | 109,992 | 57,924 | 48,773 | 24,131 | 94,909 | 58,009 | <0.01 |
| 耕種所得(元/世帯) | 93,134 | 41,234 | 48,773 | 24,131 | 82,205 | 42,283 | <0.01 |
| 家族労働者1人当たり農業所得(元/人) | 55,445 | 30,263 | 24,120 | 11,664 | 47,728 | 30,087 | <0.01 |
| 労働時間当たり農業所得(元/時間) | 39 | 19 | 61 | 30 | 44 | 24 | <0.01 |
資料:農家聴き取り調査データを用いて筆者作成.
1)教育水準については,小学校卒業=1,中学校卒業=2,高校卒業=3である.
2)連続変数については,等分散検定(Levene検定)の結果,等分散が棄却されなかったため,2標本t検定(Studentのt検定)を検定したp値.帰無仮説は,複合経営と耕種専業経営の母平均は等しい.非連続変数(世帯主の教育水準)については,Mann-Whitney U 検定を用いて中央値の差を検定したp値である.
3)耕種経営において,畜産部門に関する指数はゼロであるため,経営形態別に検定は行わず,p値欄には「―」と表記する.
家族労働者の年間農業労働時間にも有意な差が確認される.耕種経営農家の平均労働時間は928時間であるが,複合経営では2,846時間である.その内訳は,耕種部門が1,309時間,畜産部門が1,537時間になっている.
本稿では,農業経営費を以下のように耕種と畜産の部門別に把握した.耕種部門の経営費3は,種子,農薬,肥料などの物財費,借入耕地の地代,雇用労働費,機械作業の委託費,耕種用農業機械減価償却費,耕種農業機械用ガソリン代,耕種部門に利用された借入金の支払い利子で構成される.畜産部門の経営費には,購入飼料費(粗飼料と濃厚飼料),牛舎減価償却費,畜産部門に利用された借入金の支払い利子に加え,自給飼料(サイレージ,農作物の茎とトウモロコシの実の自給量)を販売価格で換算し経営費に計上した.この操作により,飼料の自給状況に関わらず,両部門の比重を投入面から把握することができる.部門別の経営費を合算することで農業経営費が得られる.表1の畜産投入比率は,農業経営費に占める畜産経営費を表している.耕種部門の粗収益は,農作物の販売収入及び畜産経営費に計上した自給飼料費で構成される.畜産部門の粗収益には,家畜(主に子牛)の販売収入を計上した.両者を足すことで農業粗収益となる.以上の手続きより,それぞれの部門別粗収益から経営費を差し引くことで部門別の農業所得が,農業粗収益から農業経営費を差し引くことで農業所得が計算される.家族労働者人数で農業所得を割り家族労働者1人当たり農業所得を,家族労働者年間労働時間で農業所得を割り労働時間当たり農業所得を計算した.
農業経営費,農業所得ともに両経営間で有意差がある.複合経営の平均農業所得は109,992元4,家族労働者1人当たり平均農業所得は55,445元,労働時間当たり平均農業所得は39元である.一方,耕種経営の平均農業所得は48,773元,家族労働者1人当たり平均農業所得は24,120元,労働時間当たり平均農業所得は61元である.複合経営の農業所得と家族労働者1人当たり農業所得は平均で耕種経営の2倍程度大きい.しかし,労働時間当たり平均農業所得はむしろ耕種経営が高くなっている.トウモロコシの作業委託率が高く,畜産に比べ労働投入時間が少ないことがその主な理由である.当村の耕種専業農家は複合経営に比べて特殊な性格をもっている可能性が示唆された.なお,家族労働者1人当たり平均農業所得が内モンゴル農村部の1人当たり非農業所得を含む可処分所得水準(16,567元,2020年)よりも顕著に高い水準にある.
(2) 特化度指標によるグループ別の経営概況・成果複合経営と耕種経営間の比較に続き,ここでは,複合経営の畜産部門への特化度により複合経営をグループ分けすることで複合経営内の比較を行う.ここで,畜産部門への特化度には,農業経営費に占める畜産経営費の比率である畜産投入比率を用いた.部門別の粗収益や所得により複合経営の程度を把握することも検討したが,本稿の目的は,複合経営の程度と成果指標である農業所得との間の関係性を把握することにある.このため,投入面である経営費により複合経営の程度を測ることにした.
次節では,特化度を連続変数として扱い,回帰分析によって農業所得との関係性を詳細に検証する.ここでは,複合経営の程度による農業経営の違いを全体的に観察するために,特化度により複合経営を3グループに分類する.畜産投入比率の第一分位値は0.31,中央値は0.38,第三分位値は0.44であった.そこでまず,畜産投入比率30%未満の複合経営農家を耕種部門への特化度が高いグループAとした.畜産投入比率の最大値が0.81であったことから,畜産に特化したグループの基準として第三分位値である0.44は低いと判断し,0.50以上を基準とした.畜産投入比率が0.30以上0.50未満の複合経営を耕種と畜産を中程度で組み合わせているグループBとし,畜産投入比率が0.50以上を畜産部門への特化度の高いグループCとして区分した.
表2に,経営概況(耕地面積,作物別栽培面積),農業経営費,農業所得についてグループ間で比較した結果を整理した.主な結果は以下に要約される.
グループ別農業経営の状況
| 項目 | グループA (38世帯) |
グループB (97世帯) |
グループC (21世帯) |
p値2) | |||
|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 平均 | SD | 平均 | SD | 平均 | SD | ||
| 世帯主の年齢(歳) | 44.05 | 8.35 | 46.48 | 8.76 | 47.19 | 8.80 | 0.27 |
| 家族人数(人) | 4.03 | 1.13 | 3.68 | 1.20 | 3.57 | 0.93 | 0.22 |
| 世帯主の教育水準1) | 1.50 | 0.65 | 1.61 | 0.70 | 1.38 | 0.7 | 0.34 |
| 家族労働者数(人) | 2.08 | 0.36 | 2.07 | 0.53 | 2.00 | 0.55 | 0.80 |
| 請負耕地面積(畝) | 70 | 26 | 67 | 22 | 73 | 28 | 0.49 |
| 経営耕地面積(畝) | 136 | 48 | 109 | 35 | 96 | 34 | <0.01 |
| 繫殖牛頭数(頭) | 12 | 6 | 17 | 8 | 23 | 8 | <0.01 |
| 子実取りトウモロコシ作付面積(畝) | 27 | 16 | 36 | 22 | 66 | 29 | <0.01 |
| サイレージ作付面積(畝) | 8 | 8 | 12 | 9 | 19 | 21 | <0.01 |
| ラッカセイ作付面積(畝) | 99 | 43 | 60 | 34 | 10 | 21 | <0.01 |
| ラッカセイ作付面積比率 | 0.71 | 0.18 | 0.54 | 0.23 | 0.10 | 0.20 | <0.01 |
| 家族労働者年間労働時間(時間) | 2,771 | 724 | 2,859 | 770 | 2,922 | 690 | 0.73 |
| 耕種部門での年間労働時間(時間) | 1,388 | 545 | 1,331 | 576 | 1,063 | 382 | 0.08 |
| 農業経営費(元) | 136,345 | 53,498 | 117,347 | 49,668 | 120,559 | 55,108 | 0.15 |
| 1畝当たりの耕種経営費(元/畝) | 742 | 166 | 633 | 119 | 502 | 154 | <0.01 |
| 1頭牛当たりの畜産経営費(元/頭) | 1,538 | 660 | 1,403 | 514 | 1,445 | 365 | 0.42 |
| 畜産投入比率 | 0.25 | 0.50 | 0.39 | 0.50 | 0.59 | 0.70 | <0.01 |
| 農業所得(元/世帯) | 124,433 | 51,215 | 105,200 | 55,323 | 106,000 | 77,033 | 0.21 |
| 耕種所得(元/世帯) | 117,874 | 51,166 | 88,194 | 33,872 | 71,189 | 32,250 | <0.01 |
| 家族労働者1人当たり農業所得(元/人) | 61,487 | 26,539 | 53,019 | 28,957 | 55,724 | 40,892 | 0.34 |
| 労働時間当たりの農業所得(元/時間) | 47 | 21 | 37 | 17 | 35 | 23 | 0.02 |
資料:農家聴き取り調査データを用いて筆者作成.
1)教育水準については,小学校卒業=1,中学校卒業=2,高校卒業=3である.
2)等分散検定(Levene検定)の結果,等分散が棄却されなかったため,3グループ間の平均値は等しいという帰無仮説を分散分析(ANOVA)により検定した結果のp値を示している.
第一に,3グループ間で請負耕地面積の有意差はみられないが,経営耕地面積については有意差が存在する.畜産投入比率が高いグループほど,経営耕地面積が小さい.その反対に,繁殖牛頭数では畜産投入比率が高いグループほど頭数が多くなっている.第二に,作付構成について,畜産投入比率が低いほど,ラッカセイ作付面積が経営耕地面積に占める割合が高い.逆に,畜産投入比率が高いほど自給飼料にも用いられるトウモロコシ作付面積割合(子実取りとサイレージ用を含む)が高い.耕種に特化している複合経営においてラッカセイ栽培の比重が大きい.先の請負・経営耕地面積についての結果と合わせると,耕地借入れにより経営面積規模の拡大が図られ,借入耕地においてラッカセイが積極的に栽培されていることが示唆される.以上から,畜産経営費が農業経営費に占める比率は,各部門に特化する経営体の特性を反映していると考えらえれる.
第三に,家族労働者年間労働時間に有意差はないが,畜産投入比率が高い経営で耕種部門の年間労働時間が少ない傾向が確認された.第四に,耕種の特化度が高いグループAの平均農業所得は他グループと比べ高いが,3グループ間に有意差はない.家族労働者1人当たり農業所得も同様に有意差はないが,労働時間当たりの農業所得では有意差があり,グループAの平均値が最も大きい.畜産と比べ,耕種では機械作業の委託など家族労働力の節約が可能であるため,耕種に特化した農家で労働時間当たりの農業所得が高くなっていると考えられる.
前節の分析では,畜産への特化度により複合経営を分類した結果,経営耕地面積,繁殖牛頭数,作付構成などに有意な差が確認されたが,経営成果である農業所得については,労働者時間当たり農業所得のみ有意差が確認された.本節では,複合経営における耕畜各部門への特化度と農業所得の関係性について回帰分析を用いてさらに詳細に分析したい.
被説明変数には,世帯農業所得,家族労働者1人当たり農業所得,労働時間当たり農業所得を用いる.本分析で注目する説明変数は,畜産への特化度を表す畜産投入比率である.畜産投入比率(0~1)を連続変数として説明変数に用い,被説明変数との非線形の関係を検証するため,その二乗項も導入する.畜産投入比率は農家の選択変数であり,内生性の問題が生じる.操作変数法の適用が望ましいが,1村のサンプルから畜産投入比率のみを外生的に変動させる観察可能な変数を見つけることはできなかった.このため,農業所得と畜産投入比率に関係し得る変数をコントロール変数に用いた重回帰分析を行う.
コントロール変数として,まず,農家のライフサイクルを代表する世帯主の年齢と家族人数を用いる.人的資本として世帯主の教育水準を用いる.教育水準は中学校卒業を1,それ以外を0とするダミー変数,高校卒業を1,それ以外を0とするダミー変数で表した.経営資源の賦存を表す変数として,請負耕地面積と家族労働者数を用いる.家族労働者数の内生性が疑われるが,複合経営と耕種経営間の比較や複合経営内のグループ間比較において有意差はない.一方,1人当たり農業所得や時間当たり所得に影響し得るため,コントロール変数に含めた.
前節での分析から耕種経営と複合経営が異なる性格を持つことが示唆される.さらに,調査村においてラッカセイの導入は耕種への特化に向かう重要な契機となると考えられる.このため,耕種経営を1,複合経営を0とする耕種経営ダミー,ラッカセイ作付農家を1,それ以外を0とするラッカセイ作付ダミーを導入する.これらの変数も内生性を持つが,本分析で着目する畜産投入比率に対し先決性を持つと考えられるため,コントロール変数として利用可能であると判断した.
(2) 分析結果と考察表3に回帰分析の結果を示す.すべての所得指標(世帯農業所得,家族労働者1人当たり所得,労働時間当たり所得)に対し,畜産投入比率の一次項は負に有意,二乗項は正に有意であった.畜産投入比率と農業所得の間にU字型の関係性が示唆される.畜産投入比率に対して農業所得が最も低くなる水準は,世帯農業所得で0.41,家族労働者当たり所得で0.40,労働時間当たり所得で0.47であり,いずれも村内における畜産投入比率の第三分位値(0.44)付近に位置している.畜産投入比率が中間的な農家は,農業所得に加え時間当たりの農業所得も最も低い水準に留まっており,労働生産性も特化度により格差が生じていると考えられる.
農業所得関連指標についての回帰分析結果
| 世帯農業所得 (元/世帯) |
家族労働者当たり農業所得 (元/人) |
労働時間当たり農業所得 (元/時間) |
||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | |
| 定数項 | 104161.9** | 40527.1 | 99394.0*** | 20863.2 | 83.8*** | 18.3 |
| 畜産投入比率 | −485371.7*** | 144957.3 | −232126.2*** | 74623.5 | −181.2*** | 65.4 |
| 畜産投入比率の二乗 | 586025.3*** | 171667.8 | 288892.9*** | 88373.9 | 192.4*** | 77.4 |
| 耕種ダミー | −139091.8*** | 30952.7 | −67361.3*** | 15934.4 | −13.0 | 14.0 |
| 経営主の年齢 | −3.8 | 410.5 | −59.2 | 211.3 | −0.2 | 0.2 |
| 中学校卒業ダミー | 8524.3 | 7603.2 | 4963.4 | 3914.1 | 1.7 | 3.4 |
| 高校卒業ダミー | 37252.2*** | 10646.1 | 16445.6*** | 5480.6 | 8.9 | 4.8 |
| 家族人数 | 2546.5 | 3600.8 | 99.5 | 1853.7 | −1.3 | 1.6 |
| 家族労働者数 | 9803.9 | 7193.5 | −17556.5*** | 3703.2 | −10.2*** | 3.2 |
| 請負耕地面積 | 619.1*** | 160.9 | 339.9*** | 82.8 | 0.3*** | 0.1 |
| ラッカセイ栽培ダミー | 23500.0*** | 9011.8 | 13016.6*** | 4639.2 | 7.0 | 4.1 |
| 修正済み決定係数 | 0.38 | 0.39 | 0.29 | |||
観測値=207世帯.
1)***,**は,それぞれ1%,5%水準で有意である.
家族労働者数は,家族労働者当たりの農業所得,労働時間当たりの農業所得に対して1%水準で負に有意であった.トウモロコシを中心に耕種は作業委託が進み,家族労働に余剰が生じている可能性がある.教育水準は,世帯及び家族労働者当たり農業所得とは正に有意であったが,時間当たりの農業所得とは有意に関係していない.教育水準により習得に差が生じる生産技術は用いられておらず,教育水準は世帯の豊かさを代理する変数となっている可能性がある.この背景には,耕種の外部委託や畜産部門における獣医サービスの普及などが考えられる.請負耕地面積は全ての農業所得指標と正に有意に相関している.貸借市場を通じて耕地の需給調整が行われているが完全ではなく,請負実施時の家族人数で固定された資源配分が現在の農業所得にも影響を与えている.
耕種・畜産の部門別所得を観察したところ,畜産所得が負である農家が多数存在した.これらの農家は,自給飼料の利用が経営面では非効率である可能性がある.前節の複合経営のグループごとに畜産所得が負の農家は,グループAに17世帯(0.44),グループBに33世帯(0.36),グループCに5世帯(0.24)存在した.耕種の比率が高い農家(グループA)は,畜産所得が負であったとしても,ラッカセイの栽培など耕種所得で補うことができる.しかし,畜産の比率の高いグループBでは,畜産所得が農業所得全体に占める重要性が高く,畜産部門で正の所得を達成できない農家の農業所得が低くなっていると考えられる.畜産規模が大きく畜産投入比率も高いグループCでは,畜産所得が負の農家の割合は減少している.現地調査の結果,牛飼養農家は自作飼料を全量自家利用しており,牛当たり飼料地に差があることから飼養規模拡大の余地が認められる.また,子牛価格に大差がなく品質格差も存在しないため,畜産所得を赤字から黒字に転換し農業所得を高めるには,資源を有効活用しつつ飼養規模を拡大する必要があると示唆される.
本研究は,舎飼いと耕地での飼料生産を基盤にした畜産規模の拡大と換金作物であるラッカセイの導入が同時に進んだ内モンゴル半農半牧地域の一村を対象に,耕畜複合経営の各部門への特化度と農業所得の関係を分析した.回帰分析の結果,耕種もしくは畜産への特化度の高い複合経営農家の所得が有意に高いことが示された.先行研究が示した耕種への特化と畜産への特化の2つの方向が村内に併存し得る.収益性の高いラッカセイの栽培と舎飼いと飼料生産により家畜規模の拡大が選択できる調査村では,耕種と畜産のいずれかに経営資源を集中し高い農業所得を達成している農家が存在する.暁(2022)が指摘した経営面積規模と畜産規模の結びつきは見られず,耕種特化度の高い複合経営農家の経営面積が大きい傾向にあった.半農半牧地域の農家の階層構造や階層分化,所得格差を理解するためには,複合経営内の耕種・畜産の比重にも着目する必要がある.回帰分析から,家族労働力が十分に利用されていないこと,労働生産性は教育水準に代表される人的資本よりも農地の賦存状況に依存していることが示された.トウモロコシと比べ労働集約的なラッカセイ栽培の拡大もしくは畜産の規模拡大により農業所得の上昇が期待される.しかし,ラッカセイに適した農地は限られており,また,自給飼料であるトウモロコシとの競合も生じている.農村内のさらなる構造変化と農地貸借市場の発展が必要とされるだろう.
本研究は経営費から各部門への特化度を把握した.しかし,飼養頭数やラッカセイ栽培面積など耕畜複合経営の内容が同じ農家間であっても,いずれかの部門の費用面での効率性の差により特化度が異なる恐れがある.耕畜複合経営のより適切な類型化や複合経営の形態を代表する指標の開発が求めれられる.技術的効率性や配分効率性など農家の生産性を詳細に把握し,生産性に影響する耕畜複合経営の特徴を明らかにすることが重要であろう.また,農家レベルのパネル・データを作成し,耕畜複合経営が変化する要因の特定および,それにより生じた費用や経営成果の変化を把握する研究も有用であろう.