2025 年 61 巻 4 号 p. 223-230
This study clarifies the changes in management characteristics of Community-Based Farming Corporations (CBFCs) due to population decline and village aging. To establish a food supply base when rural population declines, the government has promoted the accumulation of farmland to “bearers” such as CBFCs. Since 2010, the Hiroshima Prefecture has prioritized the establishment of CBFCs. More than ten years have passed since the program started, and problems have arisen in the sustainable management of CBFCs owing to the declining and aging population in the villages. This study conducts interviews with CBFCs in Hiroshima Prefecture. This study has two main findings. First, CBFCs began hiring employees for sustainable operations and changed their management structures. Second, decision-making was shared between managers and employees.
農村の人口減少が進む中,政府は2014年度から農業法人や認定農業者,集落営農等を担い手として位置づけ,重点的に担い手育成を進めている(細野・長命,2023).政府が「担い手」へ農地集積を進める中で,集落営農及び集落営農法人は,中山間地域を中心にその役割を果たしてきた(小川,2023).農林水産省(2024)「集落営農実態調査」によると,全国の集落営農法人数は2024年に5,748法人であり,2010年の2.8倍に増加している.
広島県は県土の73%が中山間地域であり,経営耕地面積の90%を占める(農林水産省,2020).1経営体当たりの耕地面積平均は1.3ha(全国平均3.1ha)と狭小であり,基幹的農業従事者に占める65歳以上の割合も84%(全国平均70%)と高い.
広島県は,「2020広島県農林水産業チャレンジプラン」(2015~2020年度)で重点的な設立支援を行った.2024年時点で264法人が設立・運営され,農地集積による集落機能の維持に務めてきた.
しかし,施策開始から10年以上が経過する中で,人口減少と担い手の高齢化が進み,集落営農法人の経営存続に問題が生じてきた.2020年8月~9月に広島県と共同で広島県内の集落ぐるみ型集落営農法人(以下「集落ぐるみ型法人」という.)を対象に経営状況に関するアンケート調査を実施した.調査の結果,現状の経営状況で法人経営や集落機能を「10年以上」維持できると回答した法人が25%を下回った.その結果,「5年未満」や「5年以上10年未満」と回答した法人が75%を越えた(表1参照).同様の調査を2010年と2013年にも実施しており,初回調査では50%を越えていた「10年以上」の割合が減少傾向にある.すなわち,多くの法人が現状の経営継続に対して不安を抱えていると考えられる1.
現在の経営状況で存続可能な年数
| 10年以上 | 5年以上10年未満 | 5年未満 | ||
|---|---|---|---|---|
| 2010年 | 55.5% | 37.3% | 7.3% | N=110 |
| 2013年 | 32.7% | 49.4% | 17.9% | N=162 |
| 2020年 | 22.7% | 50.0% | 27.3% | N=87 |
資料:筆者作成.
1)2010年及び2013年調査は,集落ぐるみ型法人と担い手中心型法人の両者が調査対象.
近年,集落営農に関する研究は,組織構造や法人化による効率化(安藤,2008;山本他,2010;小川,2023),および地域資源の活用による経営の多角化や内製化の効果(吉原他,1981;鈴木・角田,2016;長命・南石,2018)に関して蓄積されている.また,法人間連携に着目した研究も進展しつつある(田代,2019;品川,2020;楠本,2024;小迫他,2024).
しかしながら,集落営農法人の経営性格の変容を,財務面と経営管理面の双方から分析した研究は限られている.
本研究の目的は,人口減少や担い手の高齢化といった経営環境の変化に対応し,地縁型の集落営農法人から常時雇用や外部委託を通じて,企業的経営体へと変容しつつある集落ぐるみ型法人の「経営の仕組み」の変化を,財務面と経営管理面の両面から明らかにすることである.
広島県北部の集落ぐるみ型法人を事例として,業務の分業化,情報の可視化,人的資源管理の整備等の企業的要素の進展を分析するとともに,公益性や相互扶助といった集落営農の精神がどのように継続されているか,あるいはその維持が困難となっているのかについても検討する.
先述のとおり,広島県は狭小な農地と担い手の高齢化が顕著に進行し,中山間地域に特有の経営課題が顕在化している地域である.同地域の集落ぐるみ型法人の経営変容を明らかにすることは,他の中山間地域における同様の法人の持続的経営に向けた課題解決に資する,実践的知見を提供するものとなる.
広島県北部の安芸高田市および北広島町の一部を担当地域とするJAひろしま広島北部地域本部(以下「JA広島北部」という.)は,管内の集落営農法人連絡協議会の事務局を務め,43法人が加盟する.JA広島北部は組合員経営体の事務負担軽減,経営改善,およびJAとの関係強化を目的に,web農業簿記を活用した経理支援を行っており,27法人の経理支援業務を受託している.
本研究では財務面の分析を行うため,財務データの入手が可能な27法人の中から,設立後5年以上が経過し,経営性格の変容が推測される集落ぐるみ型の5法人を研究対象として選定した(表2参照).
調査対象法人一覧表
| 法人名 | 法人格 | 設立年 | 代表理事 | 農地面積 | 主要品目・事業 | |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 世代 | 就任 | |||||
| A | 農事組合法人 | 2003年 | 60代 | 2014年 | 29ha | 水稲・育苗販売・小麦・大豆・テンペの製造及び販売 |
| B | 農事組合法人 | 2019年 | 60代 | 2019年 | 39ha | 水稲・小麦・大豆・キャベツ・ミニトマト・白ネギ |
| C | 農事組合法人 | 2002年 | 60代 | 2023年 | 35ha | 水稲・作業受託 |
| D | 農事組合法人 | 2008年 | 50代 | 2022年 | 27ha | 水稲 |
| E | 農事組合法人 | 2003年 | 60代 | 2024年 | 47ha | 水稲・小麦・ミニトマト・白ネギ・野菜を道の駅で販売 |
資料:筆者作成.
1)テンペは大豆加工品.
本研究の分析手法として,2つの視点を設定した.
1つ目は複数年の経営成績に基づき,研究対象法人の経営の成長性を評価するものである.法人外部からの常時雇用の導入や外部への作業委託等を取り入れた経営形態への変容が,法人経営の持続性に及ぼす影響を明らかにすることを目的とする.評価指標には,直近5期分の経営成績(経常利益−従事分量配当+減価償却費)の平均値を5期分の初年度値と比較した比率を用いた.なお,集落ぐるみ型法人の経営成績算出にあたっては,従事分量配当制度に配慮する必要がある.
2つ目は,2020年3月以降の新型コロナウイルス感染症(以下「コロナ禍」という.)の食料消費への影響が2022年まで継続したという前提(農林水産省,2023)に基づくものである.コロナ禍の影響を受ける前の2019年産を基準とし,2019年産から2023年産までの経営成績の平均値と比較することで,研究対象法人の経営成績の成長性または安定性を分析した.
分析の結果,A・C・D・Eの法人は,経営成績が安定的に成長していることが確認された(表3参照).
調査対象法人の経営成績の推移(単位:千円)
| 法人名 | 2023年 | 2022年 | 2021年 | 2020年 | 2019年 | 平均 | 平均/2019年 | 判定 |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| A | 5,126 | 9,315 | 6,711 | 7,214 | 3,664 | 6,406 | 1.7 | ○ |
| B | 5,631 | 5,024 | 5,969 | 13,860 | ― | 6,097 | ― | 不能 |
| C | 11,224 | 7,264 | 3,538 | 6,398 | 6,348 | 6,954 | 1.1 | ○ |
| D | 6,518 | 3,961 | 6,298 | 9,756 | 5,528 | 6,412 | 1.2 | ○ |
| E | 18,384 | 4,300 | 5,084 | 5,286 | 4,905 | 7,592 | 1.5 | ○ |
資料:筆者作成.
一方,B法人は2019年の経営成績が存在しないため,コロナ禍前との比較による成長性の評価は行えなかった.以上から,B法人を除く研究対象法人は,安定的な経営環境下にあると推測される.
(3) 財務面・経営管理面分析集落営農法人の健全性を財務指標に基づいて評価する研究は少なくない(竹山,2007;広島県,2008;大室他,2010).しかし,中小企業の内部要因および外部要因と,貸借対照表・損益計算書の2軸から経営破綻の要因を類型化した研究(許斐,2005)や,企業の多角化の度合による成長性と収益性を比較した研究(吉原他,1981)はみられるものの,定性的な経営管理面から集落ぐるみ型法人を評価する研究の蓄積は少ない.
先行研究における財務指標を用いた健全性分析を踏まえ,本研究では財務面について決算データに基づく分析を行う(表4参照).
財務面及び経営管理面の分析基準
| 分析項目 | 分析項目 | 分析基準 | |
|---|---|---|---|
| 財務面 | 安全性 | 当座比率増加率 | 2023年/平均値で算出.▲200%以上:1点,▲200%未満:2点,100%:3点,200%未満:4点,200%以上:5点. |
| 安全性 | 自己資本率 | ▲15.6未満:1点,▲15.6以上5.8未満:2点,5.8以上16.5未満:3点,16.5以上37.8未満:4点,37.8以上:5点. | |
| 生産性 | 労働分配率 | 75以上または30未満:1点,30以上45未満または60以上75未満:3点,45以上60未満:5点. | |
| 収益性 | 総資本回転率 | 0.4未満:1点,0.4以上0.9未満:2点,0.9以上1.1未満:3点,1.1以上1.6未満:4点,1.6以上:5点. | |
| 経営管理面 | 経営 | 複合化・多角化 | 水稲+5品目以上:3点,水稲+3品目~4品目:5点,水稲+1品目~2品目:3点,水稲のみ:1点. |
| 経営 | 基幹作業の内製化 | 委託作業数(項目数)4以上:1点,3:2点,2:3点,1:4点,全て内製化:5点. | |
| 組織管理 | 作業指示の体系化 | 朝礼・ミーティング実施:1点,SNSやホワイトボード活用:1点,週間作業計画:1点,月間作業計画:1点,年間作業計画:1点の合計値. | |
| 組織管理 | 役員会等の開催 | 代表が専決:1点,不定期開催:2点,家族の集合で代替:3点,繁忙期のみ定期開催:4点,定期的に開催:5点. | |
| 組織管理 | 後継者の有無 | 後継者×+合意×+時期×:1点,後継者△+合意×+時期×:2点,後継者〇+合意×+時期×:3点,後継者〇+合意〇+時期×:4点,後継者〇+合意〇+時期〇:5点. | |
| 組織管理 | 主要従事者の増減 | 減少または変動が大きい:1点,一定で全員が65才以上:2点,一定で65才以上が50%以上:3点,一定で64才以下が50%以上:4点,増加:5点. | |
| 組織管理 | JAの経営支援頻度 | 年に1回以下:1点,半年に1回:2点,2~3ヶ月に1回:3点,毎月:4点,連絡協議会役員は1点加算. |
大室他(2010)は稲作部門の財務指標について標準値を中心に5段階の評価尺度を設定している.自己資本比率については標準値を11.11とし,これを基準値3として評価し,総資本回転率については中規模法人2における標準値21.02を基準値3として5段階評価を行っている.
竹山(2007)は島根県内の集落営農法人の財務データに基づき標準指標値を設定しており,労働分配率については45~60%を適正範囲とした.この労働分配率は標準値が望ましい値であることから,当該範囲を評価尺度の5として設定している.当座比率の増加率については,増減のない100%を基準値3として5段階評価を行った.
経営管理面の評価指標は,研究対象法人の代表者または会計担当役員へのヒアリング調査で得られた意見をもとに設定した.定性面の複合化・多角化については,吉原他(1981)の指摘する「中程度の多角化が最も成長性と収益性が高く,過度な多角化は収益性を低下させる」知見に基づき評価尺度を設定した.基幹作業の内製化については,多くの対象者が水稲における育苗や乾燥・調整作業の内製化が生産性向上につながると回答したことを踏まえ,評価項目を設定した.その選択肢は,育苗,荒起こし,田植え,防除,草刈り・水管理,稲刈り,乾燥・調整の7作業である.組織管理に関しては,作業の指示や情報共有,経営者の意思決定,後継者の確保等,企業的かつ持続可能な経営の仕組みに関する観点を取り上げた.
また,JAの経営支援についても評価した.先述のとおり,JA広島北部は管内の集落営農法人連絡協議会の事務局を務め,法人の事務負担軽減や経営改善等に関与している.そこで,JAの支援が法人の外部環境把握にどの程度寄与しているかという視点から,関係性を評価項目に加えた.
なお,ヒアリング調査は2022年6月~9月と2024年5月~7月に実施した.これは,コロナ禍が研究対象法人の経営に何らかの影響を及ぼし,経営性格に変容が生じた可能性を考慮し,コロナ禍にあたる2022年と,回復期にあたる2024年を比較することで,変化を考察することを目的としたものである.
ヒアリング結果は,先述の分析枠組みに基づいて採点し,財務面と経営管理面の2軸から定量的に考察するとともに,法人へのヒアリング内容を基に定性面からの分析も行う(表4参照).
(4) ヒアリング項目先述したヒアリング項目は以下のとおりである.①適切な労働分配率:労働分配率,集落還元額,②複合化・多角化:事業の品目数とその内容,③作業の内製化率:育苗,荒起こし,田植え,防除,草刈り・水管理,稲刈り,乾燥・調整(いずれも土地利用型作物を対象),④作業指示の体系化:作業計画の作成・指示者の有無,指示の伝達方法,⑤役員会等の開催:世代別役員数,開催頻度,議事内容,⑥法人後継者の存在:後継者の有無,本人の同意の有無,後継者の年齢.
2022年調査と2024年調査における財務面および経営管理面の数値を偏差値化し,比較可能な形式で可視化した(図1参照).

財務面及び経営管理面の散布図
資料:筆者作成
図中の45度線は,財務面と経営管理面の評価が一致する場合を示す基準線である.この線より上方に位置する法人は,財務的指標に比べて経営管理面の評価が相対的に高いことを意味し,下方に位置する法人はその逆を示す.また,法人に付された矢印は2022年から2024年にかけての評価の変化を示している.2024年調査の結果からは,法人が2つのグループに類型化される傾向が見られた.以下,それぞれのグループの特徴を考察する.
(2) 2024年調査で第2象限となったグループ最初に,2024年調査において経営管理面の数値が高く,45度線の左上に位置する第2象限付近に分類された3法人(A・C・E)について,2022年調査時からの経営上の変化を整理する(表5参照).これら3法人は,2022年調査の前後に常時雇用の導入や移住者集団への草刈り業務の委託を開始したことで,従来の集落ぐるみ型法人から経営性格が変容した.この経営性格の変容が経営管理面にもたらした変化について,整理し考察する.
2024年調査での第2象限グループ
| 法人 | 2022年 | 2024年 | 経営性格の変容 | 経営の仕組みの変化 |
|---|---|---|---|---|
| A | 財務面 | 財務面 | コロナ禍で50代男性の勤務先が倒産し,2022年後半にほぼ専業となる.妻も経理事務を担当し,夫婦で勤務.代表理事も勤務先を退職し,ほぼ専業となる. | 常勤体制が実現し,組合員への呼びかけが容易になる.春に事業計画書を全戸に配布し,組合員との情報共有に努める.適期作業が可能となり生産性向上. |
| 66.0 | 45.1 | |||
| 経営管理 | 経営管理 | |||
| 37.0 | 53.7 | |||
| C | 財務面 | 財務面 | 20代~30代の10人ほどの町内の移住者集団に草刈りを作業委託.移住者集団のリーダー30代男性が土地建物を購入し組合員として加入. | 移住者集団との関係強化に向けて,地域活動への呼びかけや資格取得補助を検討.乾燥・調整を委託していた組合員の規模縮小で,組合が乾燥機を購入. |
| 52.1 | 48.6 | |||
| 経営管理 | 経営管理 | |||
| 33.3 | 53.7 | |||
| E | 財務面 | 財務面 | 40代男性組合員1人を常時雇用していたが,2021年に野菜担当として新たに1人雇用. | 水稲と園芸の担当制の導入.将来の役員候補として役員会へも参加.集落内から現役世代の常時雇用者の拡大に向けて施設野菜への取り組みを開始. |
| 45.1 | 34.7 | |||
| 経営管理 | 経営管理 | |||
| 70.4 | 64.8 |
資料:筆者作成
A法人はすべての組合員およびその家族が,年に1回以上農作業に出役する制度を維持している,典型的な集落ぐるみ型法人である.この制度を支える仕組みとして,県農業改良普及員OBが水稲・麦・大豆のブロックローテーションや,大豆の販路対策として発行食品「テンペ味噌」の製造・販売を含む年間計画を策定し,役員が中心となって事業計画書の訪問配布や電話による作業依頼を継続してきた.
しかし,役員は専従ではないため,事務所に常駐する体制を構築できなかった.その後,コロナ禍による不況もあり,2022年後半からは代表理事と男性1人が専業に近い形で関わる仕組みが構築された.常駐体制が実現し,常に事務所に人員がいることで組合員への連絡が容易になり,組織的な情報共有および伝達が可能となった.その結果,組合員の適期作業が促進され,生産性が向上した.代表理事は,組合員向け通信の定期配布や農作業参加の呼びかけが,法人と組合員およびその家族との関係を保つうえで重要だと認識し,継続している.
専従者2人の雇用により財務評価は一時的に低下したものの,組織的な運営体制の実現は経営管理面で高く評価される結果となった.
2) C法人C法人は水稲専業で安定した経営を続けてきたが,組合員の高齢化が課題であった.2023年には60代の代表理事に交代し,その代表理事を中心に年間作業計画を策定し,スケジュールに沿った経営を行う.
そうした中,近隣に移住した20代~30代の約10人で構成されるグループとの間に,草刈り業務の委託関係が構築された.また,2024年には同グループの30代リーダーが農地と建物を購入し,新たに組合員として加入した.法人は移住者グループに対し,草刈りに加えて農作業の委託を要望しており,リーダーへの地域事業参加の呼びかけや,農業機械の講習会開催,免許取得支援制度などの取り組みを検討している.
財務面では,法人内での草刈り委託単価よりもグループへの委託単価が割高であり,委託費が上昇している.また,水稲の乾燥・調整を委託していた大型農家でもあった組合員が高齢により規模縮小したため,2024年に乾燥機を購入した.その結果,財務評価はやや低下したものの,移住者への草刈り委託によって組合員の負担が軽減され,経営管理面での評価は向上した.
3) E法人E法人は,農作業従事者の高齢化が進む中,40代男性組合員1人を水稲担当として常時雇用していた.
しかし,組合員の世代交代が困難な状況にあったことから,コロナ禍の2021年に施設園芸担当として地域在住の30代男性を常時雇用するに至った.
両名とも地域在住であり,将来の役員候補として毎月の役員会に出席し,法人の経営状況の把握および情報共有に努めている.また,理事には水稲,園芸,機械,総務等の担当制を導入し,組織的な法人経営体制の確立を図っている.
将来の担い手確保に向けて2030年をめどに,園芸用施設の設備投資が計画されており,週休2日制や固定給制度の導入によって職場環境の改善も進められている.E法人の集落は,昭和時代から子供神楽が盛んであり,成人後も地域内でのつながりが強いことが特徴である.法人主催の収穫祭や神楽支援の定期的な開催を通じて,地域社会との関係性を重視した取り組みを継続している.
固定給制度の導入など労働環境の改善により,財務評価は一時的に低下したものの,後継者育成に向けた制度設計の進展が経営管理面で高く評価されている.
(3) 2024年調査で第4象限となったグループ次に,2024年調査において経営管理面の数値が低く,45度線の右下に位置する第4象限付近に分類された2法人(B・D)について,2022年調査時からの経営上の変化を整理する(表6参照).
2024年調査での第4象限グループ
| 法人 | 2022年 | 2024年 | 経営性格の変化 | 経営の仕組みの変化 |
|---|---|---|---|---|
| B | 財務面 | 財務面 | ミニトマトやキャベツ等の園芸品目は口コミで集まった30代以上の女性が,アルバイトとして20人程度が働き,草刈りは役員の息子の友人や同僚10人程度が参画する仕組みを構築. | 役員は6人体制だが,経営に携わるのは代表と副代表の2人.水稲業務は2人が中心に進めるが,現役世代を巻き込むために園芸品目を導入. |
| 48.6 | 59.1 | |||
| 経営管理 | 経営管理 | |||
| 25.9 | 37.0 | |||
| D | 財務面 | 財務面 | 50代専従者の代表理事の役員報酬を90万増額.役場,商工会,JA等のOBで地域の名士でもある理事5人と組合員3人体制で水稲栽培の専業. | 各役員が現役時代の知識を活用して事業計画を策定し,水稲専業の安定経営に努めており,事務作業も丁寧にこなし,毎日のミーティングも開催. |
| 59.1 | 62.5 | |||
| 経営管理 | 経営管理 | |||
| 40.7 | 40.7 |
資料:筆者作成
B法人は副代表の高いコミュニケーション能力により,ミニトマトやキャベツ等の園芸品目に関して.近隣から30代を中心とする約20人のアルバイトが口コミを通じて集まり,応募が継続するなど人材面で高い評価を得ている.また,草刈りについては,副代表の息子の友人や同僚約10人が年間を通じて受託する体制が構築されている.
しかし,役員6人体制であるにもかかわらず,水稲は代表理事と副代表の2人のみが担当しており,法人として組織的な運営体制・経営の仕組みは依然として発展段階にある.そのため,経営管理面における評価は低いと推測される.
2) D法人D法人は50代の代表理事を除き,近隣の役場や商工会,JAなどのOBが中心となって水稲専業で安定経営に取り組む.代表理事は専業担い手として農作業に従事し,他の役員は現役時代の経験を活かして,正確な事務作業や日々のミーティングを欠かさず実施し,設備投資に対しても慎重な経営を行う.
集落内には,団体職員OBの60代2人が後継者として控えており,現役員の高齢化による退任を見据えた補充が計画されている.このため,現在の執行体制を維持したまま,法人の継続的な運営が可能な法人であると考えられる.
また,事務作業能力の高い役員への段階的な引継ぎ体制が構築されており,専業の代表理事に対しては,安定経営に基づく報酬が支払われている.大幅な設備投資は行わず,水稲専業の経営において,財務面では高い評価を得ている.
本研究の目的は,設立後5年以上が経過した集落ぐるみ型法人を対象に,人口減少や担い手の高齢化といった経営環境の変化に対応し,地縁型の集落営農法人から常時雇用や外部委託を通じて,企業的経営体へと変容しつつある法人の「経営の仕組み」の変化を,財務面及び経営管理面から明らかにすることであった.
分析では,経営の性格が変容した法人において,それに応じた経営管理の仕組みの整備状況を明らかにした.図1の第2象限に位置する3法人については,以下のような変化が見られた.
A法人は,代表理事と50代男性が専業従事者となり,組織的な経営体制を構築した.C法人は町内の移住者のグループのリーダーが組合員として加入し.関係構築を進めた.E法人は40代の組合員1人に加えて,30代の地域在住の男性を常時雇用することで人材基盤を拡充した.
その結果,A法人とE法人では,業務に常態的に関与する人材が確保され,それに伴い人材を管理する新たな経営の仕組みが構築された.C法人においても,移住者グループのリーダーとの関係強化を目的とした交流や情報共有の仕組みが検討されていた.
一方で,こうした新たな仕組みの構築には,財務面への一定の負担が生じることも明らかとなった.
第4象限に位置するD法人は,農作業を50代の専従代表理事が中心となって担い,補助業務や事務手続きは60代以上の役員が担当することで,水稲専業による低コストかつ安定した経営を実現させている.理事はいずれも高齢であるが,退任後の理事候補が数年先まで内定しており,後継者の循環システムが構築されている.この仕組みによって地域内での世代交代を通じて農地と農業の継続的な保全がなされている.
B法人は,代表理事と副代表のコミュニケーション能力により,園芸および草刈りの作業を非正規の担い手が担当する体制が構築されている.
しかしながら,法人全体として組織的な運営体制は未整備であり,経営の仕組みは依然として発展段階にあると推測される.
「集落ぐるみで農地を守る」ために設立された集落ぐるみ型法人は,高齢化と担い手不足の進行で,経営性格を変容させていることが明らかとなった.
一方で,常時雇用の導入等の企業的な経営体制をとる法人は,それに伴い人材を管理する新たな経営の仕組みの構築が求められている.たとえば,A法人では専従者の雇用により,常態的に人員を配置できるようになり,組合員への連絡や情報共有が円滑化した.E法人では,担当制の基で営農技術を習得しつつ,役員候補として法人経営を学ぶ人材を獲得している.しかしながら,労務管理や役割分担の明確化など,組織マネジメントに関する新たな業務が発生している.C法人においても,移住者グループの活用に伴い,外部人材との関係維持や技術習得支援の仕組みづくりが検討されることとなった.
さらに,人件費などの財務面での負担増も指摘された.専従者雇用に伴う人件費支出や,委託費の上昇,施設・機械の導入コストは財務評価の一時的な低下につながっており,A法人やE法人ではその傾向が顕著であった.法人の持続的な経営を実現させるには,組織変容に対応した経営管理体制の整備とともに,人件費や設備投資を含む財政的基盤の強化が不可欠である.
しかし,近年の研究で明らかにされている集落ぐるみ型法人が持つ公益性や相互扶助の精神が失われたわけではない(北川,2012).先述したとおり,A法人は組合員向けの通信や農作業参加を通じて,法人と組合員との関係維持に努めている.また,C法人は組合員となった移住者を,雇用関係だけでなく地域の仲間として受け入れようとしている.E法人は,地域との関係維持に向けて収穫祭や神楽支援などの行事を定期的に開催している.
すなわち,経営体制の変容に伴い経営管理のあり方も変化する必要がある一方で,地域とのつながりを重視する集落ぐるみ型法人の理念は,今なお維持されていると考えられるのではないだろうか.
本研究により,人口減少や担い手の高齢化によって,集落ぐるみ型法人は地縁に基づく経営が困難となり,常時雇用の導入など企業的な経営形態へと変容していることが明らかとなった.これに伴い,法人の持続的経営には,財政的基盤の強化と企業的な経営管理体制の構築が必要である.一方で,地域との関係性を重視する公益性や相互扶助の精神はなお継承されていると考えられる.
(2) 残された課題本研究では,集落ぐるみ型法人が経営性格の変容に応じた経営の仕組みを構築していることを確認した.今後の課題として,こうした法人に内在する公益性や相互扶助の精神が将来にわたり継承されるかどうか,また,将来の後継者である組合員や従業員がその理念をどのように受け継ぎ,実践していくのかについて,さらなる検討が必要である.
本研究において,多くの貴重な助言をいただきました内藤重之先生と山本淳子先生に心より感謝申し上げます.