2026 年 62 巻 1 号 p. 17-22
In Japan, problems related to access to groceries have been becoming increasingly severe. In particular, in hilly and mountainous regions, the number of stores selling groceries and daily necessities is extremely limited, and continued population decline has led to further store closures and withdrawals, resulting in a highly constrained shopping environment. Against this background, this study examines the current state of the shopping environment and residents’ perceptions in a hilly and mountainous region, focusing on Okuizumo Town in Shimane Prefecture. The results reaffirm that municipal efforts to improve the shopping environment constitute an essential living infrastructure that influences residents’ decisions to continue living in the area as well as their residential location choices. At the same time, the study reveals that a certain proportion of residents experience inconvenience and anxiety about the future due to the decline of nearby stores and the limited range of shopping options available.
先に成立した改正「食料・農業・農村基本法」では「食料安全保障」が新たな視点とされ,そこでは食料へのアクセスが重視されている.ここで食料へのアクセスとは,物理的にも社会的にも経済的にも入手可能な状態であって(FAO, 2001),すなわち食料安全保障の概念が国レベルでの量の概念から,地域や個人までを対象とした質の概念まで変化・拡大していることである.
農林水産省農林水産政策研究所では,2010年より日本全国を500 mメッシュ単位でカバーした食料品アクセスマップから食料品アクセス困難人口(以下,困難人口)を推計しており,我が国の食料品アクセス問題の定量化と可視化を行ってきた.2024年2月には『令和2年国勢調査』を反映した2020年食料品アクセスマップを作成・公表している.
あらためて,2020年食料品アクセスマップの定義を確認すると,店舗(食肉,鮮魚,青果小売店,食料品スーパー等,コンビニエンスストア,ドラッグストア)まで500 m以上,かつ自動車利用が困難な65歳以上高齢者であり,これらが困難人口として市町村あるいは都道府県別に集計されている.なお,2015年以前とは推計データの変更や店舗にドラッグストアが含まれないことなど,厳密には推計値が連続しないことに留意が必要である.
推計結果を概説すると,2020年の全国の困難人口は904.3万人,うち三大都市圏414.1万人,地方圏490.2万人と推計された(図1).困難人口の全高齢者に占める割合(以下,人口割合)は全国平均で25.6%,すなわち全高齢者のおよそ1/4が困難人口に相当する.このうち,75歳以上の困難人口は565.8万人,人口割合31%なので,75歳以上の3人に1人が困難人口と見なされる.2020年時点で高齢者のうち75歳以上割合は52%であり,困難人口の75歳以上割合は62.6%なので,困難人口が後期高齢者に偏っていることがわかる.

アクセス困難人口の推移(2005~2020年)
資料:農林水産政策研究所
長期的な動向をみると,2005年から2020年にかけて困難人口は全国で678万人から904万人に増加しているのに対し,人口割合は26.4%から25.6%とわずかに低下している.これは人口全体での高齢者化率の上昇,すなわち高齢者人口の増加が大きな要因となっていることが指摘できる.
ここで分析対象とする島根県奥出雲町を含む中山間地域の食料品アクセスについて確認しておく.もともと中山間地域においては食料品や日用品など買い物をする店舗は極めて限られているとともに,さらなる人口減少から閉店・撤退が続いている.すなわち,流通の視点からみても中山間地域における店舗の事業環境は厳しく小売マーケットは縮小傾向にあるといえる.
さらに,食料品アクセスマップの市町村別推計値より奥出雲町の困難人口を確認すると,2005年から2020年にかけて2,017人から1,547人に減少し,人口割合も37.2%から30.2%まで低下していることが示されている.しかし,これらは町全体の人口および高齢者人口そのものが減少している中で進行している現象であり,先の全国の動向とは大きく異なることに留意しなくてはならない.さらに,奥出雲町での2020年の困難人口75歳以上割合は73%と推計されており,後期高齢者により大きな負担となっていることが示されている.これらは中山間地域に共通する現象であり,まさに地域および個人の食料安全保障にかかわる問題といえる.これら問題の解決には,はじめに中山間地域の住民が日常的な買い物に対してどの様な店舗を利用し,買い物に対する意向や支援を希望するのかといった,詳細な実態把握が必要になる.
調査は,島根県南東部に位置する奥出雲町で実施した.奥出雲町は鳥取県および広島県と県境を接する中山間地域である.町域の約8割を山林が占め,農業や林業,畜産を中心とした一次産業が基幹産業となっている.奥出雲町は,松江市からは約43 kmの距離にあり,面積368.01km2,人口10,928人,高齢化率は46.5%(令和7年3月31日時点)である.
町内にはスーパーマーケットやドラッグストア,コンビニエンスストア,地域商店が存在するものの,高齢化の進行やJA委託店舗の閉店により,買い物環境は過渡期にあり,悪化しつつある.このような中,住民の買い物環境に対する不安感が高まっており,自治体による対応策への注目も高まっている.こうした状況を受け,自治体では移動販売車の貸与をはじめとした支援策を講じている.
(2) 使用したデータ奥出雲町と農林水産省農林水産政策研究所が共同で実施した「奥出雲町の買い物環境に関するアンケート調査」で得られたデータを用いた.本調査は,2024年12月20日~2025年1月20日,中山間地域における買い物環境の実態を把握するとともに,住民が理想と考える食料品調達手段を明らかにすることを目的に,奥出雲町内の全自治体加入世帯約3,400戸に実施した.調査は郵送で配布・回収を行い,質問紙にQRコードを掲載することで,インターネットによる回答も可能とした.また「家庭内で主に食料品の買い物や調理を担当している方」が回答するように依頼した.調査内容は,日常における食料品および日用品の調達方法や調達先,各調達先における購入品目(食料品・日用品)に加え,回答者が必要と考える買い物環境,ならびにおおまかな居住地域や個人属性(年齢,性別等)に関する情報である.なお,本研究は農林水産省農林水産政策研究所の倫理審査の承認を得た後に実施された.
調査票は,郵送によるものが1,050件,Webによるものが151件であり,合計回収数は1,201件であった.このうち,判読不能な回答や無回答の調査票を除外し,700件を分析対象とした.回答者の属性は表1の通りである.「家庭内で主に食料品の買い物や調理を担当している方」が回答するように指示したことから,回答者の半数以上が女性,また半数以上が60歳代と70歳代を占める.なお,買い物する際の主な交通手段は「車(自分で運転)」が9割を占め,次いで「車(同居/別居家族・知人の車に同乗)」と続き,対象地域では買い物には自動車が必須であることがわかる.
回答者の属性(%)
| n = 700 | |||||
|---|---|---|---|---|---|
| 性別 | 男性 | 32.9 | 世帯員数 | 1人 | 14.9 |
| 女性 | 67.1 | 2人 | 33.6 | ||
| 3~4人 | 35.3 | ||||
| 年代 | 30歳代以下 | 1.7 | 5~6人 | 13.0 | |
| 40歳代 | 8.4 | 7人以上 | 3.3 | ||
| 50歳代 | 16.1 | ||||
| 60歳代 | 34.4 | 買い物する際の主な交通手段 | 車(自分で運転) | 90.9 | |
| 70歳代 | 30.0 | 車(同居家族や知人・別居親族の車に同乗) | 6.9 | ||
| 80歳代以上 | 9.3 | 徒歩 | 1.0 | ||
| バス | 1.0 | ||||
| その他 | 1.0 | ||||
まず,買い物環境に対する意識として食料品や日用品の買い物環境が対象地域に住み続けるためにどの程度重要かを把握した(表2).回答者の9割以上が,対象地域に住み続ける上で買い物環境が重要であると認識していることが明らかとなった.このことから,自治体による買い物環境の整備は,住民の居住継続や居住地選択に影響を与える重要な要素であるといえる.
奥出雲町に住み続けるための買い物環境の重要度(%)
| n = 700 | |
|---|---|
| 大いに重要 | 59.3 |
| 重要 | 32.1 |
| 少し重要 | 5.9 |
| どちらも言えない | 1.9 |
| あまり重要でない | 0.7 |
| 重要でない | 0.0 |
| 全く重要でない | 0.1 |
次に,食料品や日用品の買い物に不便を感じている人の割合をみると,「不便を感じる」19%,または「少し不便を感じる」40%をあわせると約6割の回答者が買い物環境に不便さを感じていることがわかる(表3).住民の居住継続や居住地選択に影響を与える重要な要素である買い物環境について,自治体による維持・強化が求められているにもかかわらず,一定数の住民が不便を感じている現状が示された.
買い物環境への不便意識(%)
| n = 700 | |
|---|---|
| 不便を感じる | 18.7 |
| 少し不便を感じる | 40.4 |
| あまり不便を感じない | 32.3 |
| 不便を感じない | 8.6 |
もっとも,食料品の買い物における不便や苦労の認識は,店舗までの距離や多様な店舗の有無,店舗内における品揃えや品質に加え,個人の身体的・認知的能力など,複数の要因が複雑に影響しているため,その解釈には慎重さを要する.しかしながら,中山間地域である奥出雲町では,回答者の2人に1人以上が買い物に不便や苦労を感じていることが確認された.
そこで次に,回答者が具体的にどのような点に不便を感じているのかを整理した結果を表4に示す.表4に示した「将来の買い物環境が不安」~「商品の容量が大きく買ったものが余る」の14項目について「そう思う」~「そう思わない」の5段階で回答してもらった.その結果,「将来の買い物環境が不安」「食品の価格が高い」「近所に店がない」といった項目が,不安や不便を感じる要因として上位を占めた.これらの結果から,回答者は近隣店舗の減少や選択肢の限られた買い物環境を不便に感じているとともに,今後さらに買い物環境が悪化するのではないかという将来的な不安を抱いている状況がうかがえる.
(2) 現在の買い物先と今後住民に求められる買い物先続いて,現在の食料品や日用品の主な買い物先について1番から3番まで自由記入で回答を求め,そのすべての買い物先の地図に示したものが図2である.奥出雲町内を中心としながらも,隣接する雲南市とともに,40 km以上離れた出雲市や松江市の店舗を利用している状況がうかがえる.このうち買い物先の上位10店舗の集計結果を表5に示す.表5に示した主な買い物先の回答結果をみると,1番目の買い物先(店舗1)では上位5位までを奥出雲町内に立地する店舗が占めており,住民が日常的な買い物において町内店舗を主に利用している状況が確認された.これに対し,2番目および3番目の買い物先(店舗2,店舗3)では,ドラッグストアやホームセンターといった業態が上位にみられ,食料品に加えて日用品や生活必需品を補完的に調達している実態がうかがえる.このうち,奥出雲町内にある5店舗での品目別購入割合を示したものが図3である.いずれの品目でも店舗1が30%前後を占めているが,店舗2や店舗3も一定の割合であるとともに,店舗4では飲料・酒類や日用品・雑貨類で高い割合となっている.以上のことから,住民は基本的な食料品および日用品については奥出雲町内で入手する形態を主としつつ,必要に応じて複数の業態・店舗を組み合わせて買い物を行っていると考えられる.

食料品と日用品の主な買い物先

町内店舗・品目別購入割合(コメ・その他除く)
次に,食料品や日用品を購入する際に,自宅近隣に整備してほしいを考える店舗について回答を求めた.前項の結果から,回答者は近隣店舗の減少や選択肢の限られた買い物環境に不便を感じているとともに,今後さらに買い物環境が悪化するのではないかという将来的な不安を抱いている状況が確認されている.このため,住民が今後どのような買い物環境を求めているのか,その意向を把握した.
今後,自宅近隣に求める買い物環境について,60歳代以下と70歳以上の年代別に集計した結果を表6に示す.まず合計をみるとスーパーマーケット(59.6%)が最も支持され,次いでドラッグストア(10.3%),コンビニエンスストア(8.1%)と続いた.続いて年代別にみると,60歳代以下でもスーパーマーケット(59.1%),ドラッグストア(14.6%),コンビニエンスストア(8.5%)と続くものの,70歳代以上ではスーパーマーケット(60.4%)に次いで移動販売車(9.8%),コンビニエンスストア(7.6%),個人商店(6.5%)が求められており,60歳代以下とは異なる傾向がみられた.特に,60歳代以下ではスーパーマーケット(59.1%)に次いで,ドラッグストア(14.6%)が求められていたのに対し,70歳代以上ではドラッグストア(3.6%)の求める割合が低い傾向がみられた.以上の結果から,今後求められる買い物環境としては,年代を問わずスーパーマーケットが高い支持を得ていることが明らかとなった.一方で,スーパーマーケットに次ぐ選好には年代差がみられ,60歳代以下では,自家用車でのアクセスが可能であり,日用品に加えて近年では食料品など多様な商品を購入できるドラッグストアといった業態が支持される傾向にある.他方,70歳代以上では,自動車の運転が困難な高齢者でも利用可能な移動販売車などのチャネルが求められていることが示された.
今後,自宅近隣に整備して欲しい買い物環境(%)
| n=700 | |||
|---|---|---|---|
| 60歳代以下 (n = 425) |
70歳代以上 (n = 275) |
合計 | |
| スーパーマーケット | 59.1 | 60.4 | 59.6 |
| ドラッグストア | 14.6 | 3.6 | 10.3 |
| コンビニエンスストア | 8.5 | 7.6 | 8.1 |
| 移動販売車 | 4.9 | 9.8 | 6.9 |
| 個人商店 | 4.5 | 6.5 | 5.3 |
| ホームセンター | 2.6 | 5.8 | 3.9 |
| 宅配生協 | 2.6 | 5.5 | 3.7 |
| 道の駅・直売所 | 2.1 | 0.7 | 1.6 |
| その他 | 1.2 | 0.0 | 0.7 |
本稿では,中山間地域における食料品アクセス問題に焦点をあて,奥出雲町を対象として中山間地域における買い物環境の実態と住民意識を把握した.その結果,自治体による買い物環境の整備は,住民の居住継続や居住地選択に影響を与える重要な生活基盤であることが改めて確認された.一方で,近隣店舗の減少や選択肢の限られた買い物環境に対して,一定数の住民が不便や将来的な不安を抱えている現状も明らかとなった.
また,住民は基本的な食料品や日用品については町内での調達を基本としつつ,必要に応じて複数の業態や店舗を組み合わせることで日常生活を維持していることが示された.これは,買い物環境が単一の施設によって支えられているのではなく,複数のチャネルによる補完関係の上に成り立っていることを意味している.
さらに,今後求められる買い物環境については,年代を問わずスーパーマーケットが高い支持を得ている一方で,その次に選好されるチャネルには年代差がみられた.60歳代以下では,自家用車によるアクセスが可能で多様な商品を取り扱うドラッグストア等が支持される傾向にあるのに対し,70歳代以上では,自動車を運転できない高齢者でも利用可能な移動販売車といったチャネルへのニーズが高いことが示された.
これらの結果から,自治体による買い物環境の整備においては,単一の施策に依存するのではなく,住民の年代や移動手段,生活実態に応じて複数のチャネルを組み合わせた重層的な政策設計が求められると考えられる.
本稿に用いた調査データは,奥出雲町町民の皆様及び奥出雲町役場の多大なるご協力の下で得られた内容です.この場を借りて御礼申し上げます.