農林業問題研究
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大会講演
食品小売企業の店舗戦略と社会インフラ機能の展望
木立 真直
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2026 年 62 巻 1 号 p. 23-30

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Abstract

This study examined the novel store strategies adopted by Japanese food retailers as social infrastructure in food desert areas. As Japan’s food retail market has been shrinking, food retailers are revising traditional chain store operations, seeking new store strategies. Two retailers, a convenience store chain and a consumer cooperative, were selected as case studies. They had significantly improved accessibility constraints for their consumers. Regarding availability, the convenience store adapted its assortment to meet local consumers’ needs and wants, and the co-op’s mobile retailing format strove to optimize itself through face-to-face communication with customers. Both retail formats succeeded in gaining customer support, resulting in sales above the break-even point and business continuity. Noteworthy is the fact that collaboration between various entities created retail innovation, and that they were trying to pursue a community-based approach for local sustainability.

1. 考察の対象

ここでの問いは,日本において買物困難者問題のより一層の深刻化が懸念される状況下で,食品小売業は,人々に食料を届けるラストマイルを担う社会インフラとしての機能を,いかにして果たしうるのであろうか,ということにある1

フードデザート(Food Deserts.以下,FDと略記)ないしフードアクセス(Food Access)2と表現される買物困難者問題に関する日本の既存研究は,地理学の立場からの総合的な考察(岩間,2013),統計的分析と消費者視点からの考察(薬師寺,2015高橋,2020)などがあるものの,流通論の視角から小売業の果たす機能に焦点を当てた考察は少ない.

本稿では,食品小売企業の経営戦略とくに出店の動向と店舗戦略転換の基調,そして過疎ないし人口減少地域における新たな小売店舗モデルの展開の実態とその意義について考察する.その際,流通ネットワークの視点から連携・協同的要素の拡張を確認しつつ,社会インフラ機能発揮の持続可能性について検討する.考察の順序は以下のようである.第1に,分析視角として,流通と地域との関連性,食の財としての特性,流通の編成原理についてあらかじめ確認する.第2に,世界的に先進国で広がるFD問題について,イギリスと日本との共通性と差異性を整理する.第3に,縮小・成熟化する日本の小売市場における食品小売企業の出店・店舗戦略についてケーススタディを行う.最後に,考察の結果をまとめつつ,地域づくりに向けた社会インフラとしての食品流通の課題を仮説的に提示する.

2. 分析視角―地域,食品の特性,編成原理―

(1) 流通と地域,暮らし

流通は,生産と消費を取り結ぶことを通して,本来的に社会インフラ的機能を果たす機構であるといってよい.社会的分業が深化し商品経済が全面化した現代経済では,流通とくに小売業には生産者が産出した商品を最終消費者に届ける上で不可欠の役割が求められるからである.

ここで取り上げるFD問題は,流通機能の不全性の地域的な発現形態といえる.その地域をいかに捉えるかは様々な視角や指標がある.例えば,行政単位の区分,商品・サービスの提供者側からみた商圏という距離や人口でとらえる区分などがあるが,とりわけ消費者にとっての地域とは「人間の生活領域」(岡田,2025)の範囲を意味する.その地域に立地し,地域住民の生活を支え,その生活の質を決定づけるもっとも重要な要素の1つが小売業なのである.かつて『80年代の流通産業ビジョン』(通産省,1984)は,「流通システムは,経済システムとしてばかりでなく社会システムとしても大きな役割を果たしている」と明記した.より最近では,『地域生活インフラを支える流通のあり方研究会報告書―地域社会とともに生きる流通』(経産省,2010)のタイトルからは,政府が流通とくに小売業が果たす,人々の暮らしを支える社会インフラとしての役割に大きな期待が寄せていることがわかる.

小売業は,元来,大規模化が難しい業種と考えられてきた.それは,最終消費者に直接,商品を販売する小売業者は消費の分散性・小規模性・個別性からの影響を強く受けるからである.こうした制約条件を乗り越える画期的な小売イノベーションがチェーンストア理論であった.調達を本部に集中する一方,消費者への販売を地域毎の店舗に分散することで,商圏の空間的限界と消費者の距離抵抗の制約を解決することを可能にした.とはいえ,マス・マーケティングの時代から消費の成熟化段階に移行すると,チェーン理論の有効性への疑問が生じるにいたっている.

地域流通についての実態分析は少ならず存在する.だが,その多くは都市ないし都市郊外に成立する小売業とくに商業集積を研究対象とするものである3.他方,過疎地などの農魚村の商業・流通を取り上げた分析は少ない.FD問題の深刻化は,人口減少と高齢化が進行する地域における小売企業の存立状況を取り上げた分析を要請している.

(2) 財としての食品の特性

食品流通の社会インフラ機能は,まずは食品の財としての基本特性である必需財的性格に求められる.

この点に関連して,A・スミスをめぐる最近の山森(2024)の問題提起は示唆に富む.それは必要(ニーズ)と欲求(ウォンツ)の区分についての問いかけに始まり,Geuss(2018)の次の言説を引用する.「経済学者は,一つのカテゴリーだけで理論を組み立てたがる.選好,顕示選好のカテゴリーである.…人びとが欲しがるもの,それがすべてである.」と.ここでいう経済学とは新古典派のそれであり,「主流派の経済学の世界には,必要は存在しない」(山森,同上)決定的な欠陥があるとする4

現実には,食品という財が生命や健康の維持に必須な必需財であり,それが万人にとってのニーズに対応するものであることを否定する人はいないであろう.もっとも,その一方で,食が生活を豊かにしたいという消費者のウォンツに応える奢侈的要素を持つ財であることも明白である.食市場の成熟化に伴い,食のニーズ充足に加えてウォンツ充足という「必潤財」的性格に注目する必要性が高まりつつある.現代社会におけるFD問題を論じる際に,食の必需性と奢侈性という2つの価値を踏まえることが求められる.

(3) 流通システムの編成原理としての協同

生産と消費とを取り結ぶ取引連鎖である流通には,相互に取引を行う生産者・メーカー,卸売業者,小売業者,そして消費者,という主要なプレイヤーが登場する.流通研究の重要な関心事の1つは,これら取引主体間の関係性とその全体としての編成原理の理解にある.代表的な分析視角は,いずれの主体が流通チャネル全体のリーダーなのかを問うパワー関係に焦点を当てるものである.食品流通では,かつてのメーカー主導の流通から,近年では小売主導型流通へのシフトが徐々に生じてきたとされる(木立,2017).

いま1つに注目すべき潮流は,主体間の関係性をパワーという対立的な要素だけでなく,提携的な要素の広がりに着目するものである.その1つに,流通システムをマーケット,ヒエラルキー,ネットワークという3つの類型に区分し,新たな提携型のネットワークの展開に光を当てようとするスタンスがある(阿部,1993木立,19932013).このネットワークにおける重要な組織化の原理は協同である.

競争と協同は,そもそも二律背反の原理とみるべきものではない.例えば,商業集積である商店街は個別の各店舗・企業レベルでは相互に競争しつつも,集積としての全体のレベルでは相互の品揃えが補完的に位置づけられて協同の力が作用し,結果的に他地域の商業集積に対する競争優位性をもたらしている.今日的流通形態を捉えるとき,競争と協同という2つの要素を対立的にではなく,むしろ融合的に位置づけ分析を行うことが求められている.以下の考察では,協同原理に注目しつつFD問題解決に向けた小売企業の行動とその成果について考察したい.

3. 世界的に先進国で広がるフードデザート問題

(1) イギリスにおけるフードデザート問題

FD問題は1990年代にイギリスで顕在化し,その後,広く先進国で生じている社会問題として認識されていった.イギリスでのFDの一般的な定義は,「安価で栄養のある食品を入手することが明らかに困難な都市内の地域」である.具体的には,半径500 m圏内に食品小売店がない地域のことをいう.こうした地域に居住し,かつ自動車を利用できない住民とりわけ高齢者は,郊外の大型スーパーに出向くことができず,街角の零細店しか利用できない.その零細店では値段が高く,品揃えが加工食品に限られ生鮮青果物などはほとんど扱っていない.その結果,FD地区の住民は深刻な健康問題を抱えるにいたっている,と問題性が整理された.

消費者の立場からAccessibility,Availability,Affordabilityみると,「店舗が近所にない」に始まり,存在しても近所の店は生鮮食品を欠く「限定的品揃え」であり,さらに「値段が高い」という3つの問題を抱える.人々が健康と生命の維持と生活の豊かさという食の二面的な価値を入手する条件から排除されている.かりに店舗があってもGottlieb & Joshi(2010)が食の正義の観点から問題視したようにフードスワンプ(食の泥沼)であってはならない.本来,豊かであるはずの先進国においてFDの広がりという社会的排除が深刻化する状況への適切な対応が求められている.

イギリスでのFDの要因はどう理解されているのか.有力な見解では,スーパーの大型店重視の郊外出店により,都市内の中小零細店の淘汰が進んだことにあるとされる.真部(1997)によれば,1982年から92年の業態別店舗数の推移は,単独店と生協5,そして複数店経営のうち9店舗以下の小規模経営の店舗数が減少する一方,10店舗以上の複数店経営(米国での10店舗超のチェーンストアにほぼ該当)の店舗数の着実な増加であった.より詳しく店舗面積規模別にみると,約5,000m2の大型店業態であるスーパーストアの店舗数が1986年の457店から97年には2倍以上の1,102店に急増する中,同期間に零細な一般小売店の店舗数は約4割減少し,小売販売における大型店シェアが急速に高まった.

テスコに代表されるイギリスの大手スーパーは,1970年代後半,モータリゼーションの進行を踏まえ自家用車利用の消費者を主要な標的顧客として位置づけ始め,1980年代に入ると大型店の郊外展開を加速化させた.大型店化は,消費者に豊富な品揃えと店内買物の利便性向上のメリットを提供する反面,そのデメリットとして消費者の出向負担の増加,とくにモビリティの低い消費者の買物機会を奪うこととなった.大型店への集約化を通して小売店舗密度は次第に低下し,食品流通の毛細血管的機能が失われていったのである.

(2) 日本的フードデザートの特殊性

日本では2009年頃にFDが大きな社会問題として認識されるにいたった.とはいえ,イギリスのFD問題と日本のそれがまったく共通のものであるとはいえない(木立,2010).日本的FD問題の特殊性として指摘できるのは次の点である.第1に,イギリスではまずは都市部での現象に焦点が当てられたのに対し,日本では当初から都市,農村問わずすべての地域での現象として認識されたといってよい.第2により重要な点は,FD発生の要因についてである.日本でのFD発生要因は,イギリスのように小売企業の出店を含む強力なマーケティング戦略の展開を実行する小売企業のパワーの強大さよりも,むしろ小売企業のパワーの脆弱性,経営体力あるいは業態開発力の不足にあると考えられるのである.

その背後には日本経済社会が抱える特殊事情がある.1つに,日本経済の1990年代からの「失われた30年」の間に賃金は低迷し,消費者の購買力が大幅に低下し,これに伴い小売企業間における低価格競争が激化していった.いま1つに,日本が世界的にみて人口減少と高齢化の進行という点でもっとも先行している国であることである.将来的な見通しはどうか.日本における人口の長期的推移をみると,2050年予測で総人口が9,515万人,高齢化比率が39.6%となる.一方,イギリスとアメリカはいずれも同年まで人口増加が続き,そして高齢化比率は2割台にとどまるという.現在,高齢者を中心とする「命綱(ライフライン)」(杉田,2008)の危機は,渡辺(2010)が述べたように,今の若者にとって「明日は我が身」の問題となる事態が十分予想される.

4. 最近における食品小売企業の出店戦略の動向

(1) 食品小売企業の経営理念における顧客と地域

日本のFD問題が深刻化する中で,食品小売企業はいかなる店舗戦略を展開しつつあるのか.この店舗戦略とは,出店をはじめ無店舗も含めたさまざまな業態の修正を含めた広義で用いる.ここで店舗戦略の基礎となる最近の小売企業各社の経営理念・ミッションを確認しておきたい.

SCやGMS,SMなど多業態を経営するイオングループのそれは「お客さまを原点に平和を追求し,人間を尊重し,地域社会に貢献する」である.CVSのローソンは「マチのほっとステーション」,「私たちは“みんなと暮らすマチ”を幸せにします.」と謳っている.SMのヤオコーは「生活者の日常の消費生活をより豊かにすることによって地域文化の向上・発展に寄与する」と謳う.しばしば掲げられているキーワードは,消費者への価値提供を目指す顧客起点であり,あわせて地域への貢献である.

高嶋(2020)は,企業経営において「ミッションが戦略の上位に位置」と主張する.とはいえ,実際には中短期的には売上目標,営業利益,ROEなどの数値目標とミッションが矛盾することは常態である.もっとも近年,一時蔓延した株主至上主義を見直し,従業員や取引先,顧客,そして地域や環境などの多様な価値を重視するマルチステークホルダー論の考えが広がりをみせる.Schneider(2018)は,株式会社は本来的に協同の一形態であると述べている.従業員や取引先,顧客などの多様なステークホルダーを視野に入れた経営体への志向性の高まりは軽視できない.実際に,顧客志向や地域貢献という社会インフラ機能の遂行を経営理念に掲げる小売企業は,FD問題の解決に向けて,いかなる店舗戦略を模索しているか,次にみてみよう.

(2) 最近における食品小売企業の出店の減速傾向

今日,日本の食品小売市場においては,伝統的な零細専門店のほか,GMS,SM,生協,CVS,百貨店,DS,DgSが展開し,さらにこれらの店舗業態に対し無店舗業態としてECや宅配が成長し,さらに非固定型の店舗といえる移動販売車など,きわめて多様な業態が併存している.また,店舗規模別には,大型店が躍進してきたものの,小型店業態が決して衰退してきたわけではなく,とくに最近,小型店を積極的に展開する動きもみられる.とはいえ,巨大な売上高を誇る大規模小売企業に共通する特徴が多店舗チェーン業態である点は明白である.

今日の小売市場を牽引するチェーン小売企業における基本的成長モデルは,総売上高の構成要素の2つである既存店売上高の引上げか出店による総店舗数の増加の双方ないしいずれかの追求にある.通常,既存店売上高の上乗せは商圏の購買力や業態のライフサイクルなどの外部条件から強く制約される.これに対し,出店は資金力などの内部条件を満たせば,相対的には実行可能性の高い選択肢となる.小売企業では,経営計画で設定された売上・利益目標を前提に出店計画を策定し,開発部門により出店行動が実行されることになる6

直近の国内市場における日本の食品小売企業による出店動向はどのようか.多くの小売企業でスクラップ&ビルドが一般的であり,各社の店舗数は前年比で微増ないし横ばいで推移している.例外として,食品の低価格販売により消費者の支持を獲得するDgSやDSの積極的な出店やМ&Aが続いているものの,食品小売業全体での出店状況は低迷基調にある.その長期的要因として,前述した食品市場の縮小と成熟化,それによる食品小売業の収益性の低下があり,短期的な要因としては,建築費や家賃などの出店コストの高騰と人手確保の困難化がある.

(3) 優等地の消滅と過疎地モデルへの挑戦

縮小・成熟化する食品小売市場において,従来型の売上高至上主義の小売出店行動は次のような負のループをもたらしている.「売上至上主義→出店加速化→店舗過剰→店舗間競合激化→売上減」の悪循環である.売上の増加を目指す成長重視の小売企業がこぞって購買力の高い優良商圏への出店に邁進注力することで,優等地での適正数を超える多数の競合企業が限られた顧客の獲得をめぐる競争をより一層,熾烈化させる.当初,ブルーオーシャンであった優等地は,店舗過剰と競争激化によりレッドオーシャンの劣等地化し,結果的に小売企業にとっての出店適地・余地は益々,限られる状況が進行しつつある.

こうした状況下で,小売企業の出店戦略にはいくつかの変化が生まれている.1つは店舗の標準化の追求から個店重視への転換であり,2つは効率性・生産性の高い大型店一辺倒から小型店の展開を模索する動きである.3つは人口や人流の多い優等地出店から,劣等地・過疎地でも存立しうるための低密度商圏対応型モデルへの挑戦がみられる.以下,その具体的なケースを紹介する.

5. 大手小売企業による過疎地店舗展開への挑戦

(1) 大手CVSによる地域共生店舗の展開

日本の食品小売市場においてCVSは,1970年代以降,200m2強の小型の標準店モデルの多店舗化をFC方式により進めてきた.最大手企業では2万店を超える店舗網を基盤に総売上高5兆円強を達成し,食品小売販売額で日本最大の組織に成長を遂げた.しかし,CVSの店舗数は2021年約5万6千店舗でピークを迎え,業態飽和化の様相を呈する.こうした中,過疎地への出店を模索する動きがみられる.近年,人口減少地域での「地域共生コンビニ」展開に注力しているのがローソンである7

2023年8月には人口がピーク時からほぼ半減した北海道稚内市に出店し,その後,北海道厚真町や秋田,山梨,長野,和歌山,鳥取,大分などの過疎地での出店を続けている.出店の経緯は様々である.地域の唯一のスーパーの撤退に伴う自治体から要請と土地提供などの支援があっての出店,閉店したAコープ店の跡地を活用しJA系企業との連携による出店,また複数店オーナーによる店舗拡大と出身地域の活性化のためのこだわりの取組もある.いずれも,何らかの地域主体との協同が組み込まれている.

同社は,過疎地での事業継続の出発点は,損益分分岐点を超える売上高の達成にある.例えば稚内市の店舗では,出店後の客単価や日販は全国平均を上回っているという.消費者の支持を獲得する上での基本は,第1に生鮮食品や地場産品あるいは冷凍食品などの顧客の要望に応える品揃えの充実である.第2に,ATM,チケットの発券,充実したイートインでの憩いの場の提供など付加的サービスの提供による差別化である.あるいは,継承した資産と地域住民の要望に応じてミニスーパー化という業態転換を行ったケースもある.

過疎地店舗では,売上対策と同時にコストダウンのためのバックシステムの見直しも不可欠となる.稚内市内の店舗では240 km離れた旭川市にある流通センターから商品供給を受けるため,物流費負担が重くならざるをえない.店舗の在庫スペースを標準店の3倍に拡張することで,配送頻度の引下げと物流費の軽減を実現した.

同社の過疎地店舗の成功要因は何か.同じ立地は2つと存在しない.この前提に立ち,同社は約20年前から過疎地モデル開発の試行錯誤を繰り返し,この経験に基づく暗黙知の蓄積を行ってきた.あわせて重要な契機は2022年のエリアカンパニー制の導入という組織体制の見直しにある.本部からエリア本部に店舗開発権限が移譲され,中央集権的なヒエラルキー型の標準店戦略から,より現場・地域に密着した店舗戦略の展開が実行可能になり,地元企業・事業者や地方自治体との連携・協同の領域が拡大することとなった.

(2) 大手CVSの山村地域での出店

次は,山梨県道志村に2025年6月6日に出店したローソン店舗のケースである.営業時間は午前6時から午後10時,店舗面積224.52m2,駐車場21台である.その特長として,1つにローソンの標準的な品揃えに加え道志村の特産品を取扱っており,2つに店内では道志村の観光スポットやイベント等を紹介する地域広報の拠点機能を果たしている.

地域の買い物状況は,約40年前には20軒ほどあった個人経営商店は現在,3軒にまで減少し,17時頃に閉店する.10年ほど前に1店舗あったCVSは後継者難で閉店した.その結果,住民は食料品や日用雑貨を購入するには,車で40分以上かけて隣の都留市のスーパーに出かけなければならない,きわめて劣悪なフードアクセス条件に置かれていた.まさにCVSは「村民の悲願」だったのである.

ローソン道志店の開店は,こうした住民の強い要望を受けて村主導で進められた.村が店舗と敷地を用意し,村全額出資の株式会社どうしがフランチャイズ契約を締結した.もっとも,誘致には,障害があった.原則の24時間営業では,村内での深夜の買物需要が無く,人手の確保難が予想された.転機は人手不足を背景とする大手CVSの「脱24時間営業」への戦略転換であり,2025年1月ようやくローソンとの合意に至り,6月の出店が実現した.1億円を超える総事業費に一定の公的支援がなされたのはCVSの開店による派生効果として村内への移住・定住の促進が期待されたからである.

ローソン道志店の強みと弱み,課題は何か.その強みは,1つに,近隣には競合店が無く,顧客としての地域住民の強い支持があることである.2つに,地域が日本有数のキャンプ場エリアであり,かつ首都圏と山中湖とを結ぶ国道413号はバイクや自転車の多数のツーリング者が多数訪れ,域外者需要が見込まれる.3つに,株式会社どうしは道の駅,道志の湯という複数事業を行い,とくに小売経営ノウハウの蓄積があった点である.多方,弱みと課題としては,1つに,品揃え戦略として今後,スーパーの代替機能を備えるために生鮮品の取扱品目の増加を目指しているものの,地域の小規模農家の産品を品揃えに加えることは決して容易ではない.2つに,冬場の営業成績の確保である.最終的には,経営全体として,いかにして採算を維持,安定化させ,サステナブルな店舗にするのかが問われている.

(3) 大手生協における移動販売事業の展開

日本の食品小売市場において生協は消費者に対し食品を供給する組織として軽視できない位置を占めている.大手生協の1つであるコープさっぽろは,宅配事業で北海道の人口の7割強に達する組合員を組織化し,店舗事業では100店を超える店舗網を展開している.2010年には,買物困難者対策として店舗を起点とする移動販売事業を開始した.2024年度末時点で97台が稼働し,域内137市町村をカバーしている8

同生協による移動販売事業は次のような特徴をもつ.1つに,トラックの荷台コンテナで商品販売を行う通常のオープンタイプの車両に対し,同生協で顧客が車内で購入するクローズタイプ方式となっている.これは冬に雪が降る寒冷地という地域性からの必然的な改善であった.さらに,最新型の車両では,顧客サービスの更なる強化のため,地元金融機関と連携しATMを搭載する車両を投入している.いま1つに,現在に全国的に広がりをみせる移動スーパー事業.とくし丸が運営会社・スーパー・販売パートナーによる連携型となっているのとは異なり,すべて生協の自前で運営されている.とはいえ,同生協内での移動販売車,店舗,地区本部,本部という生協組織全体の連携を通して,事業の企画・運営・支援の体制が構築されている.

移動販売の1日のオペレーションは,朝の店舗での生鮮品や日配品を中心とするピッキングと車内売場での陳列作業に始まり,10時頃から移動販売を開始する.1台の車両が片道半径50キロ圏内,移動時間で1時間から1時間半の範囲を巡回し,1日に15~20か所に停車し販売活動を行い,1日1台あたりの利用者は平均して30~40人である.17時頃までに店舗に帰還し,生鮮・日配品の残品を店舗に戻すなどの後片付けを行い,18時頃に業務を終える.これら業務のすべてを基本1人の担当者が担う.もっとも移動販売中の遅延などのトラブル発生時は,地区本部担当が速やかに後方から支援する体制が整備されている.

こうした移動販売事業の成果として,第1に,店舗が消費者の住居付近まで移動することで,消費者の食へのアクセスの制約をほぼ全面的に解消している.第2に,車内では鮮魚・精肉・青果・惣菜・加工品・日用品をカバーする1,000 SKUを超える品揃えし,消費者に多様な商品選択の機会を提供する.そのSKUはCVSでの約2,000の約半分であるものの,対面方式による顧客との密なコミュニケーションを通して,品揃えにおける消費者ニーズ・ウォンツとの適合化が追求されている.朝の店舗での商品ピッキング・品揃え形成は,50名を超えない特定化された顧客一人一人を想起しながら,ドライバーの判断により行われるからである.さらに,例えば,「来週は孫が来るから,××をいくつ」といった事前予約やケース単位などの大量の予約注文にも,現代の御用聞きとして柔軟に対応している.

第3に,事業採算を維持しつつ,価格設定は特売を除きすべて店舗と同一となっている.通常の移動スーパーで一般的な店頭価格へのいわば運賃分の上乗せは行われていない.第4に,戸建ては自宅玄関まで,集合住宅ではエレベータまでの運搬の手伝いが可能な限り臨機応変に行われている.こうしてドライバー・販売員のスタッフは,顧客との密接なコミュニケーションを図りながら,顧客との信頼関係を築いている.第5に,アクセス問題の解決に有効ないま1つの業態である宅配と比較しての絶対的な優位性がある.消費者に店舗というリアルの場で商品を直にみて選択できる自由度と楽しみという買物体験の価値が提供されていることにある.

同生協による移動販売事業は,店舗を中心とする商圏の約7割をカバーするエリアで前述のように1日1台あたり平均30~40人の利用者を確保し,同生協全体としての年間利用者はのべ9万人に達する.利用者の客単価は店舗でのそれよりも高く,平均日販は損益分岐点を上回る水準を実現している.その結果,移動販売事業は事業単独で採算を確保しつつ,買い物困難者にとってのフードアクセス問題を解決している.もちろん課題はある.高齢化の更なる進行に伴い,利用者が減少傾向にあるルートも少なくない.エリアでの顧客層の動向に応じて巡回パターンやルートの見直し,さらには個人宅から施設への停車地点の変更などが行われている.長期的には,住民の居住地などの地域づくり全体的な方向性に応じて食品供給機能の維持と強化をいかに実現していくのか検討課題となる.

6. 社会インフラ機能強化に向けた食流通の課題

食の社会インフラとしての流通機能の強化,とくにFD地域の買物困難問題の解消に向けた課題を,ここでケースとして取り上げた食品小売企業の取組みの意義を再確認しつつ,整理してみたい.

CVSと生協のいずれの取組みも,小売機能の視点からいえば,第1に消費者にとってのアクセス可能性(Accessibility)を大幅あるいはほぼ全面的に解決している.第2に入手可能性(Availability)・商品の選択性についても,とくに移動販売での限定的な品揃えであっても,対面のコミュニケーションを通じて品揃えのローカルな消費者のニーズとウォンツへの適合化が図られている.かつて加藤(2009)が,不特定多数の消費者を相手とする広域型商業と異なる,顔の見える関係性に依存する近隣型商業の優れた機能が発揮されている.こうして品揃えのローカル化,対面によるワンツーワンのコミュニケーションと高サービスの追求により,顧客の支持を獲得して損益分岐点を超える売上を達成し事業の継続性を確保している.

事業展開における協同の要素についてはどうか.CVSの事例では,本部,地区本部,SV,加盟店での連携的機能分担が進められ,とくに地域や店舗ベースの現場力を基礎とするボトムアップ型の様々な顧客価値の改善にむけた取組みが図られている.生協の移動販売では,顧客へのサービスの最大化に向けて生協本部による事業革新を基本に,地区本部,店舗,そして移動販売担当者の協同により顧客への価値提供がなされている.いずれのケースも,事業理念の実現が競争による進化よりも,むしろ協同によって目指されている.

より広く地域づくりへの貢献の観点からはどうか.農村社会問題研究者である小田切は地域づくりの必須の要素として内発性,総合性・多様性,革新性を挙げている(小田切,2014).ここでみた取組みは,出店にはじまり,品揃え面や調達においても担当者の創意工夫による個店戦略が重視され,その結果として地域密着型の実質化が追求されている.外部あるいは本部の経営資源を利用しながら,地域や現場力を最大限活用する地域の内発性と多様性を重視した戦略である.

今後,買物困難地域で小売企業が事業性と社会性の両立を持続的に実現するには,多様な地域主体との協同の深化が不可欠である.1つに,消費者である住民が地域に存立する店舗を自らの店舗として位置づけ優先的な購買利用を行うこと,2つに,店舗独自のローカル調達が品揃えの差別化にとどまらず,地場生産者・企業にとっての重要な販路として位置づけられ,地域産業の活性化に貢献することである.3つに,長期的には,過疎化・高齢化への多様な対策に取り組む地方自治体との連携は必須であり,人口維持や地域のコンパクト化などを含めた地域づくり政策との整合性が求められる.より長いスパンで,食のサプライチェーンが自然力を活用する農林産業を起点とすることから,人と人とのネットワーク型流通にとどまらず,人と自然との循環を踏まえたエコシステム型の連携としての展望されねばならない.

1  本稿は,木立(2026)をベースに,CVSの最新の取組み事例を加えて,加筆・修正を行ったものである.その論旨に修正はない.

2  フードデザートという用語が生まれたイギリスでも,最近ではフードアクセスという用語を用いるようになっているが(Dawson et al., 2008),ここでは地域という視点での疑似的表現としての有効性からFDという用語を用いる.

3  日本の多くの流通研究や消費研究は,都市のそれを対象としており,同様の傾向は海外のジェイコブスやフロリダによる研究にも当てはまる.

4  食料を典型とする必需財の価格形成は,平均原理で論じることができず,限界原理の適用が必要であることは,木立(2025)で論じた通りである.

5  生協の発祥の地であるイギリスで生協は現在も一定のシェアを確保している.なお,ここでは,本来,協同組合として資本主義的経営体とは異なる生協も小売企業に含めている.

6  出店には直営とFCがあるが,ここでは紙幅の制約から論じない.国内小売市場が狭隘化する状況下では,海外出店が有望な選択肢として浮上する.だが,人材力,資金力,情報力などの経営資源の制約から,海外出店は一部の大手にかぎられる.小売業はドメスティックな産業だということができる.

7  実態については,『激流』2024年12月,『日経МJ』2025年5月21日号,『「日経グローカル』No. 513,2025年8月,p. 5,を参照.

8  コープさっぽろ『SDGs BOOK COOP SAPPORO』2025年5月,コープさっぽろ『コープの移動販売 おかませ便 カケル』2021年を参照.

引用文献
  •  阿部 真也監(1993)『現代の消費と流通』ミネルヴァ書房.
  •  岩間 信之編(2013)『改定新版 フードデザート問題』農林統計協会.
  •  岡田 知弘(2025)「地域づくりと地域内再投資力」藤田武弘・他編『地域に学ぶひとづくり』筑波書房:18–32.
  •  小田切 徳美(2014)『農山村は消滅しない』岩波書店.
  •  加藤  司(2009)「都市の発展と地域商業」加藤司・石原武正編『地域商業の競争構造』中央経済社:1–30.
  •  木立 真直(1993)「小売機能の展開と産直機能の評価」阿部真也監『同上書』:76–90.
  •  木立 真直(2010)「フードデザート問題と地域再生の展望」『生活協同組合研究』416:5–13.
  •  木立 真直(2013)「ネットワークとしての流通と関係性の拡張―流通マイオピアからの脱却に向けて―」木立真直・斎藤雅通編『製配販をめぐる対抗と協調―サプライチェーン統合の現段階―』白桃書房:22–41.
  •  木立 真直(2017)「小売サプライチェーン論」木立真直・他編『流通経済の動態と理論展開』同文舘:170–188.
  •  木立 真直(2025)「価格転嫁問題から価格・取引・分配の公正さへ」佐久間英俊・木立真直編著『中央大学企業研究所研究叢書 グローバル競争の進展と流通・都市の変容』中央大学出版部:123–151.
  •  木立 真直(2026)「食の社会インフラとしての流通」河田賢一・金度渕・堂野崎衛編著『流通・マーケティングの新地平』筑波書房:242–258.
  •  杉田 聡(2008)『買物難民―もうひとつの高齢者問題―』大月書店.
  •  高嶋 克義(2020)「小売企業戦略」高嶋克義・高橋郁夫『小売経営論』有斐閣:155–174.
  •  高橋 克也編(2020)『食料品アクセス問題と食料消費,健康・栄養』筑波書房.
  •  真部 和義(1997)「今日のイギリスの小売商業構造の変遷」『関西大学商学論集』41(5·6):331–355.
  •  山森 亮(2024)『忘れられたアダム・スミス―経済学は必要をどのように扱ってきたか―』勁草書房.
  •  薬師寺 哲郎(2015)『超高齢社会における食料品アクセス問題:買い物難民,買い物弱者,フードデザート問題の解決に向けて』ハーベスト社.
  •  渡辺 達朗(2010)「日本型フードデザート(食の砂漠)―急がれる「買物不便地域」への対応策―」『流通情報』No. 483:2–3.
  •  Dawson,  J., et al. (2008) Accessing Healthy Food availability and price of a healthy food basket in Scotland, Journal of Marketing Management 24(9): 893–913.
  •  Geuss,  R. (2018) Utopian thought between words and action: Seminar with Raymond Geuss, Philosophy and Society, Institute for Philosophy and Social Theory: Belgrade.
  •  Gottlieb,  R. and  A.  Joshi (2010) Food Justice, The MIT Press.
  •  Schneider  N. (2018) Everything for Everyone: The Radical Tradition That Is Shaping the Next Economy, Bold Type Books.(ネイサン・シュナイダー著/槻谷真紀約(2020)『ネクスト・シェア―ポスト資本主義を生み出す「協同」プラットフォーム―』東洋経済新報社.)
 
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