The purpose of this study was to construct a concept of engagement among officers of management organizations responsible for common agricultural resources. Semi-structured interviews were conducted with five young officers. Statements considered relevant to engagement were categorized into behavioral, emotional, cognitive, and social dimensions. The results indicate that engagement in resource management involved, on the behavioral side, maintaining an attitude of participating in activities as much as possible while also attempting to improve work methods and related practices. On the emotional side, it involved positively valuing newly formed connections and interactions with farmers, maintaining interest in the management system, and taking pride in one’s role as an officer. Cognitively, it included recognizing the significance of the organization and its activities while striving to understand the management system. The social dimension entailed showing respect for predecessors who had sustained the community while also maintaining a desire to contribute personally.
地域資源,なかでもため池・水路といった水利施設や農道など「競合性があるが他人の使用を排除することは困難な資源(櫻井,1999)」を意味する農村共有資源は,集落を基盤とした地域組織(以下,資源管理組織)によって,自治的に管理されてきた.しかし,農業の衰退や少子高齢化に伴い,管理に関わる人材が不足しており,適正に管理することが難しくなっている.
資源管理に関わる人材の確保・育成に関する研究は,農家の減少を背景に,非農家の参加を促す要因の解明など,人材の量的側面に主たる関心が向けられてきた1.一方,人材の質的側面に着目した研究は限定的である.
質的側面については,知識の継承に着目した研究が一定程度蓄積されている.農村共有資源の適正管理には,地域で蓄積されてきた固有の知識が不可欠であるが,集落機能の低下に伴い,こうした知識は急速に失われつつある.その理由として深町・星野(2006)は,知識を伝達する場としての機能を有する管理作業への参加者が少ないことや世代間でのコミュニケーションが少なく口頭での知識共有の機会が失われていることなどを挙げている.
地域固有の知識は一度失われると再蓄積が困難なため,それをいかに継承していくか,という視点から研究が蓄積されてきた.深町・星野(2006)や星野・深町(2014)は,ため池管理における知識の継承実態や継承されづらい知識の特性を明らかにしている.継承にあたっては,暗黙的に継承されてきた知識の形式知化に向けた研究が蓄積されている(例えば,遠藤他,2017;栗田,2018).また,暗黙知の継承の場である共同作業の実施形態に着目した研究もみられつつある(柴崎他,2020).
しかし,管理人材の育成にあたっては知識のみならず,当事者の心理的側面にも着目する必要がある.現場をみると,資源管理組織の役員は多くの場合押し付け合いで決定されており,自ら進んで従事するケースは少ない.なかには,強いストレスを感じつつ従事するなど,心理的な負担を抱える者も少なくない2.また,知識を継承するにあたっても,その知識を継承すべき・したいと当事者が感じるかなど,当事者の姿勢が重要となる.
組織心理学や教育心理学の分野では,エンゲージメントという概念が注目されている.エンゲージメントとは,いきいきと積極的に仕事や学習に取り組んでいる際の心理状態を意味する.資源管理の文脈においても,エンゲージメントという側面から組織づくりや共同作業のあり方を検討する意義は大きいと考える.これらを背景に,本研究では農村共有資源に着目して地域資源管理におけるエンゲージメント概念の構築を目的とした.
エンゲージメントは,組織心理学や教育心理学,社会学,経営学など,様々な分野で議論が蓄積されており,分析対象は従業員や学生をはじめ,市民など様々みられる3.本節では,主に教育心理学で蓄積されてきた知見を整理するとともに,本研究が捉える射程を整理する.
教育・学習分野では,学習者の主体的,積極的な学びの動機づけという観点から,エンゲージメントに注目が集まっている.鹿毛(2013)は,エンゲージメントを「意欲的」な心理状態として整理するとともに,よりマクロな「動機づけ」という観点からエンゲージメントを位置づけている.具体的には,動機づけの安定性に関わる3つの水準のうち,状態レベル(その場,その時に応じて現れ,時間経過とともに現在進行形で変化する水準)の動機づけとして位置づけており,理論統合を一層進める必要性を指摘している(鹿毛,2018).
学習という文脈において,エンゲージメントは次の3つの側面から捉えたものが多くみられる(鹿毛,2013).①行動的側面(どの程度,課題に注意を向け努力し粘り強く取り組んでいるか),②感情的側面(どの程度,興味や楽しさといったポジティブな感情を伴って取り組んでいるか),③認知的側面(ものごとを深く理解しようとしたり,ハイレベルの技能を身につけようという意図を持ち,自分の活動についてきちんと計画し,モニターし,自己評価するような問題解決プロセスとして取り組んでいるか).それに加え,④社会的側面(人との関わりを積極的に求め,協力し助け合う姿勢を活発に示している状態(Svalberg, 2009))を加えた研究もみられる4.
資源管理分野においても,組織運営や管理方法など様々な学習の場面が想定されるため,上記理論も部分的に適用可能と考える.また,自治・平等原理(永田,1988)が作用するため池管理においては,他者との助け合いや協力が不可欠であるため,社会的な側面を含めて捉えることが望ましいと考える.
以上をもとに,本稿では,エンゲージメントを資源管理作業に意欲的に関与している心理的な状態としたうえで,行動的・感情的・認知的・社会的側面から捉えることとした.
(2)調査・分析の方法対象者の選定にあたって2点に留意した.1つ目は,役員の年齢層である.管理人材を育成していくにあたっては,若手に着目する意義が大きい.2つ目は,活動への参加態度である.若手役員のなかでも比較的活動に意欲的に参加している者を選定した.
調査対象地域は兵庫県南西部に位置する東播磨地域とした.当該地域では行政主導のもと,ため池の管理・活用に関する取組が先駆的に展開されてきた.また,筆者らは当該地域において実践的研究を進めてきた経緯から,多様なネットワークを有している5.以上の理由により,調査対象者へのアクセスが可能であると判断した.対象者の探索にあたっては,当該地域の管理組織代表者に事前ヒアリングを実施し,先述の条件に該当する者の有無について確認した.その際,意欲的である具体のイメージを共有するため,活動への参加率が高い者や,地域資源管理の今後のあり方に関して一定の見解を有する者といった例を示した.結果,2つの組織(A土地改良区,B水利組合)の役員,計5名が選定された.
調査方法は,組織単位でのグループインタビューかつ半構造化インタビューであり,2023年8~10月に実施した.質問項目は,属性,エンゲージメント,資源管理組織と他の地域組織との関連がある.管理組織の役員は,他の地域組織の役員を兼務する場合が多いため,資源管理の側面のみを独立的に把握することは適切ではないと考えた.そこで,資源管理組織に加え,自治会や営農組合など集落機能を担う諸組織との関連を検討するため,各組織の管轄範囲や特徴を整理した.
エンゲージメントに関しては,先述した4つの側面について尋ねた.行動的側面は,役員としての活動の参加状況や継続的に取り組んでいること,管理作業に対して工夫していること,感情的側面は,役員として従事するなかで興味・関心を持ったことや楽しみややりがいを感じたことを尋ねた.認知的側面は,組織の意義や目的,熟達を目指していること,努力していること,社会的側面は,役員を引き受けた理由,地域や農業に対する思い,他者への協力的な姿勢や助け合いについて尋ねた.得られた発言から,エンゲージメントに関わると考えられる発言を4つの側面ごとにカテゴリー化した.その際,エンゲージメントが高い状態だけでなく,低い状態であると考えられる発言も含めてカテゴリー化した.
(3)調査対象地域の概要A土地改良区は稲美町A地区,B水利組合は加古川市B地区に位置づく.A地区は,印南野台地に位置し,数少ない自然河川沿いに形成された集落である.B地区は,加古川低地の沖積平野に隣接する小高い段丘に位置し,加古川水系の2級河川沿いに形成された集落である.地域類型ではA地区が平地農業地域,B地区が都市的地域に位置づく.地域の概要は表1の通りである.A地区は4つの農業集落,B地区は1つの農業集落で構成される.総人口や高齢化率,世帯数に大きな違いはみられないものの,総農家数(123戸,11戸)や農家率(56.7%,4.1%),耕地面積(146ha, 20ha)に大きな違いがみられる.
対象地域の概要
| A地区(4集落) | B地区(1集落) | |
|---|---|---|
| 総人口 | 846人 | 752人 |
| 高齢化率 | 39.3% | 39.0% |
| 世帯数 | 217世帯 | 267世帯 |
| 総農家数 (販売農家数) |
123戸 (37戸) |
11戸 (1戸) |
| 農家率 | 56.7% | 4.1% |
| 耕地面積 | 146ha | 20ha |
資料:農林水産省(2020)および総務省(2020)より筆者作成.
農村共有資源の賦存状況は以下の通りである.両地区とも耕地面積の大半が圃場整備済みであり,農業用パイプラインも整備されている.農業用水に関しては,河川を利用した灌漑もなされているが,河川流量が少ないため,ため池に多くを依存している.ため池は,A土地改良区は4つ,B水利組合は5つ管理しており,貯水量の平均は,それぞれ11,375m3,9,600m3となっている(ため池データベースより算出).また,水路はそれぞれ23.0km,2.6km,農道は10.7km,0.9 kmとなっている(農林水産省,2019).
集落機能ごとの組織とその管轄範囲を整理すると,A地区は4つの農業集落ごとに町内会,営農組合,水利組合が存在する.A地区にある4つの営農組合のうち,調査対象者が運営に関わる営農組合は法人化はなされておらず,任意組織としての特徴を有している.また,B地区の営農組織ほど農地の集積・集約化が進んでいる訳ではない.A土地改良区の受益農地は70 haであり,4つの集落に跨っている.A土地改良区の役員数は17名であり,70歳代が大半を占める.各水利組合は,A土地改良区の末端組織として位置づくとともに,A土地改良区とは異なる水系・ため池を用いた灌漑システムも有する.
B地区には,町内会,営農組織,B水利組合が存在し,組織ごとの管轄範囲に大きな差異はない.ただし,B地区の営農組織は,本店と支店で機能を分化させる,いわゆる二階建て方式が採択されており,B地区を含む計4集落に支店が設けられている.2015年に株式会社化されており,農地中間管理機構を活用した農地の集積・集約化が進められている.B水利組合の役員は集落から9名が選出され,70歳代が大半を占めている.
なお,両地区ともに多面的機能支払い制度の活動組織(以下,多面的組織)を設立している.A地区はA土地改良区,B地区はB水利組合が推進母体となっており,各資源管理組織の役員は多面的組織の役員も兼任している.
(2)調査対象者の概要表2は,対象者の属性の他,役員を務める資源管理組織と役員従事年数をまとめたものである.
対象者の概要
| 属性 | 役員を務める資源管理組織(役員従事年数) | |||
|---|---|---|---|---|
| 年齢 | 職業 | |||
| A地区 | A-1氏 | 62 | 建設業 | 土地改良区(7) 水利組合(3) |
| A-2氏 | 57 | 製造業 | 土地改良区(3) | |
| B地区 | B-1氏 | 57 | 行政職 | 水利組合(2) |
| B-2氏 | 58 | 製造業 | 水利組合(3) | |
| B-3氏 | 59 | 電気工事業 | 水利組合(4) | |
資料:インタビューより筆者作成.
年齢は,A-1氏を除き全員が50歳代後半となっている.職業はいずれも兼業農家であり,建設業,や製造業,行政職,電気工事業などに従事している.
役員の従事状況をみると,A-1,2氏は土地改良区の役員を務めており,それぞれ7,3年目を迎える.任期は共に残り1年となっている.その他,A-1氏は水利組合の役員(会計)を務めており3年目を迎える.B-1,2,3氏は水利組合の役員を務めており,それぞれ2,3,4年目を迎える.B地区では水利組合の役員の任期は定めていない.対象者はいずれも,ため池堤体や水路の草刈り,水路清掃,水利施設の点検・補修など,基礎的な資源管理作業への参加をベースとしつつ,理事会等の会議にも参加している.ただし,ため池の水位の調整や予算案の作成,土地改良事業の推進に関わる行政・企業等への相談・調整,政策動向の把握および対応,資料の作成・取りまとめなど水利活動や組織運営の根幹に関する作業は,三役を中心とする年配者の役員が担っている.
その他,全対象者とも営農組合の活動に関与しており,資源管理組織の役員を務める以前から役員ないし組合員として携わっている.なかでもA-1,2氏は15年以上携わっており,農作業のオペレーターや畦畔の草刈りの他,構成員間の合意形成を図りつつ,作付けや作業計画の調整,収支管理などのマネジメント業務にも携わるなど営農組合の中核的な人材として位置付けられる.一方,B-1,2,3氏は,8年程前に親から農地の所有権を譲り受けたことを契機に,営農組合の活動に関与するようになった.それ以前は農業への従事経験がほとんどなく,営農組合に対して「農地を管理してもらっている」という思いから,組合員になり作業に参加している.主な作業内容としては,農作業のオペレーターや畦畔の草刈りであり,A-1,2氏と比較してマネジメント業務への関与は限定的である.
(3)エンゲージメント表3は,エンゲージメントに関わると考えられる発言を4つの側面ごとにカテゴリー化したものである.以下,側面ごとに紹介していく.
行動的・感情的・認知的・社会的側面からみたエンゲージメントに関わる発言とカテゴリー
| 発言 | カテゴリー | ||
|---|---|---|---|
| 行動的側面 | (+)活動に参加できる際は参加するようにしている(A-1,2,B-1,2,3氏) | 可能な範囲での参加姿勢 | |
| (+)水管理においてマニュアルがある訳ではないので,試行錯誤している(B-3氏) | 管理方法に関する工夫 | ||
| 感情的側面 | (+)役員になったことで,新しいつながりができたことは良かった.特に,上の世代との繋がりができ,挨拶する人が増えた(A-1,2,B-1,2,3氏) | 新たなつながりに対する好意的評価 | 交流に対する好意的評価 |
| (+)営農組合での農作業を通した交流が楽しい.そこでの交流は生きがいの1つとなっている(A-1,2氏) | 農業を通じた交流に対する好意的評価 | ||
| (+)役員になって初めて知ったこと,興味深いことが多くある(A-1,2氏) | 資源管理の仕組みへの興味 | ||
| (+)みんな褒めてくれる訳ではないけど,やってくれてるってことはわかってくれてる.自分がやることで喜ばれる(B-2,3氏) | 営農基盤維持への貢献感 | ||
| 認知的側面 | (+)農業をするにあたって,土地改良区が重要であることを実感した(A-1,2氏) | 組織の存在意義の実感 | 組織・活動の意義の実感 |
| (−)なぜその活動に参加しないといけないのか納得できない場合は活動に参加しない時もある(A-1氏) | 活動内容の意義の実感 | ||
| (−)話がややこしくてよくわからない.難しい話は三役に任せておけばいい(A-1氏). | 組織運営を理解しようとする姿勢 | ||
| 社会的側面 | (+)身近な人がこれまで(役員を)担ってきたことを見てきた.そのため(役員を)頼まれたら引き受けるのが当たり前という認識でいた(A-1,2氏) | 営農基盤の維持に関する互酬的な志向 | |
| (+)農業をやっている以上,自分も営農基盤の維持にいくらか貢献するべきだと思う(A-1,2氏,B-1氏) | |||
| (−)誰かがやらないと仕方がない部分があるから,役員として活動している部分がある(A-1氏,B-1,2氏) | 参加しなければならない義務感 | ||
| (−)自分が活動に参加しないと,他の役員に迷惑がかかってしまうから参加している(B-1,2氏) | |||
資料:筆者作成.
1)(+)はエンゲージメンが高い,(−)はエンゲージメントが低いと考えられる状態を意味する.
全対象者とも「活動に参加できる際は参加している」と発言していた.例えばA-1,2氏は,ため池堤体の草刈りや水路清掃,水利施設の点検作業や理事会・会議への出席,土地改良区と集落(居住ないし出身の農業集落)のパイプ役などを務めていた.これを「可能な範囲での参加姿勢」としてまとめた.
B-3氏は「水管理においてマニュアルがある訳ではないので,試行錯誤している」と発言していた.B地区では,河川から取水する際に汲み上げポンプを利用しており,ポンプにゴミが詰まらない様に当番制で清掃活動がなされている.しかし,ポンプの使用方法に関して先代役員から十分な引き継ぎがなされておらず,操作に苦慮する面もあった.B-3氏は仕事の関係上,電気系統の知識を有していたことから,試行錯誤を経て使用方法を習得していた.これを「管理方法に対する工夫」としてまとめた.
2) 感情的側面全対象者とも「新しいつながりができたことは良かった」と発言していた.例えばA地区では集落間での交流機会は祭りなどに限定されていたが,土地改良区の活動を通して集落を超えた知り合いができ,挨拶を気軽に交わす人が増えることを好意的に評価していた.またA-1氏は「役員はみんな人柄が良い」と振り返っており,良好な人間関係のなかで活動できていることを好意的に評価していた.これらを「新たなつながりに対する好意的評価」としてまとめた.
A-1,2氏は「営農組合での農作業を通した交流が生きがいの1つとなっている」と振り返っていた.両氏が営農組合での活動を続けている背景には,気心の知れた同年代の組合員との交流があり,営農活動を通した交流は生きがいとの1つとなっていた.営農活動そのものは資源管理作業とは異なるものの,後述するように,資源管理作業は独立して存在しているのではなく,営農活動と関連づけて認識していたため,資源管理におけるエンゲージメントに含むこととした.これを「農業を通じた交流に対する好意的評価」としてまとめた.
A-1,2氏は「役員になって初めて知ったこと,興味深いことが多くある」と振り返っていた.農村共有資源を誰がどのように管理してきたのか,その仕組みに対する興味を示していた.例えば,普段から利用している農業用パイプラインがいつどのように整備されたものであり,修繕・更新していく際に踏むべきプロセスなどについて興味を示していた.これを「資源管理の仕組みへの興味」としてまとめた.
B-2,3氏は「みんな褒めてくれる訳ではないけど,自分がやることで喜ばれる」と発言していた.水管理において農業者から苦情が寄せられる面もある一方,営農基盤の維持に向けて,役員(自身)がおこなっている活動を知っている農業者から好意的な評価があることに嬉しさを感じていた.このように,営農基盤の維持に対する主観的な貢献度合いを「営農基盤の維持への貢献感」としてまとめた.
3) 認知的側面A-1,2氏は「土地改良区が重要であることを実感した」と発言していた.両氏は役員に就任した際,営農活動のためには水利施設が必要不可欠であること,その維持管理のために土地改良区が存在することは理解していた.しかし,その実態までは理解しておらず,役員として活動に従事するなかで土地改良区という組織の存在意義を実感していた.これを「組織の存在意義の実感」としてまとめた.
A-1氏は「なぜ活動に参加しないといけないのか納得できない場合は参加しない時もある」と発言していた.土地改良区の活動範囲は4集落に及ぶが,A-1氏は自身の出身集落を「自分の地域」と認識している.土地改良区が新たな活動に着手し,その場所が「自分の地域」でない場合,「なぜ関係のない集落の活動に参加しないといけないのか」という思いを抱くこともある.例えば,A地区の多面的組織では,川沿いの堤防に芝桜を定植しており,役員も定植や草刈りへの参加が推奨されている.しかし,参加が要請されることに疑念を抱いていた.これを「活動内容の意義の実感」としてまとめた.
A-1氏は「話がややこしくてよくわからない.難しい話は三役に任せておけばいい」と発言していた.A土地改良区では,三役(理事長,副理事長,会計)を中心とした年配者が主導し,多面的機能向上に向けた取り組みや土地改良区における複式簿記の導入,女性役員の参画促進といった政策への対応,農業用パイプラインの全面更新に向けた協議がなされている.それらの推進に必要な作業,例えば土地改良事業の推進に関わる行政・企業等への相談や調整,補助金・助成金の申請・執行などといった作業は三役が担っている.A-1氏は,それらの「ややこしい話」に関する理解が及んでいない部分があるものの,組織運営の仕組みに対して積極的に理解しようという姿勢を保持している訳ではなかった.これらを「組織運営を理解しようとする姿勢」としてまとめた.
4) 社会的側面A-1,2氏は「身近な人がこれまで(役員を)担ってきたことを見てきた.(役員を)頼まれたら引き受けるのが当たり前」と発言していた.ここでいう身近な人とは営農組合の年配者であり,両氏は営農組合の年配者が土地改良区の役員に従事してきたことを間近でみてきた.そしてその先代役員から勧誘され,役員に就任していた.その際,断るという選択肢はなく,引き受けるのが当たり前という認識であった.また,A-1,2氏,B-1氏は「農業をやっている以上,自分も営農基盤の維持にいくらか貢献するべき」と発言していた.A-1氏は,先代が役員として尽力してきたことによって,自身が生きがいと感じる営農活動を通した交流が実施できていたと認識し,自身も営農基盤を維持していくために協力する姿勢を示していた.この背景には,営農基盤を維持してきた先人らに対する敬意や返報意識が存在している.そのためこれらを「営農基盤の維持に関する互酬的な志向」としてまとめた.
その一方で「誰かがやらないと仕方がない部分がある」「自分が活動に参加しないと,他者に迷惑がかかってしまうから参加している」という発言もみられた.A-1氏は役員を引き受けることが「当たり前」と認識する一方で,「できればやりたくない」というのが本心であり,仕方なく役員を引き受けた側面もあると発言していた.また,B-1,2氏は,他者に迷惑をかけないためにも,役員の活動に参加している側面があると語っていた.これらを「参加しなければならない義務感」としてまとめた.
以上,行動的・感情的・認知的・社会的側面から,エンゲージメントに関わると考えられる発言を取り上げカテゴリー化してきた.本節では,それらをまとめるとともに,農村共有資源の管理にけるエンゲージメント概念について考察を加える.
まず,調査を通して対象者が意欲的に活動に従事している状態が確認された.そのため,エンゲージメントという概念を通して資源管理を捉えることは有用であると考える.
本研究の結果から,エンゲージメントが高い状態とは以下のような状態であると考えられた.行動的側面では,可能な限り活動に参加する姿勢を保持するとともに作業方法などに対する工夫を試行している状態,感情的側面は,役員に従事するなかでできたつながりや農業者との交流を好意的に評価するとともに資源管理の仕組みに関心が高まっていること,そして営農基盤を支えているという主観的な貢献感が高まっている状態といえる.認知的側面は,管理組織や活動内容に対する意義を実感するとともに組織の運営方法を理解しようとする姿勢を保持している状態,社会的側面は,営農基盤を維持する行為を強い義務的行為として捉えるのではなく,先人や地域社会との相互関係のなかで位置付け,互酬的な志向として内面化されている状態といえる.
一方で,活動内容の意義を認識できていない場合に参加姿勢が消極的になっていることや,資源管理体制の仕組みを積極的に理解しようとする姿勢が弱いこと,活動に参加しなければならないという義務感が働いている側面もみられた.これらの心理状態は,エンゲージメントが低い状態と捉えられる.
ただし,義務感を感じつつも活動の意義や貢献感を感じるといったように,エンゲージメントの高低に関わる状態は併存していた.このことから,個別の状態を取り上げてエンゲージメントを捉えるのではなく,複数の状態の組み合わせとして総合的に捉える必要があると考えられる.そのうえで,地域資源管理の分野からエンゲージメントを捉えるにあたって留意すべき点を3点挙げる.
1つ目は,エンゲージメントの変化である.エンゲージメントを動機づけという視点から捉えると,役員に就任した当初の動機は,先人からの勧誘によるものであり,「誰かがやらなければ仕方がない」といった外的制約に起因するものであった.そのため,内発的に動機づけられた訳ではなく,エンゲージメントも低い状態にあった.しかし,活動に従事する過程において,エンゲージメントが高い状態も垣間見れたことから,役員就任時と比較して,エンゲージメントは変化していることが推察される.この可変性は,教育・学習分野における知見と整合的であり,資源管理におけるエンゲージメントも状態レベルの動機づけとして理解することが適切であると考える.換言すると,役員就任後にエンゲージメントが高まるような環境の整備が重要であると考える.
2つ目は,エンゲージメントに影響を与える要因である.要因の解明は本研究の範疇を超えるため,深く言及することは避けるが,管理構造の違いが影響を与える可能性が考えられた.広域的な組織の場合,A-1氏が述べていたように「自分の集落ならまだしも,なぜ関係のない集落の活動に参加しないといけないのか」という疑念から活動内容に意義を見出しにくい側面もあることが考えられる.これは,地域アイデンティティや帰属意識が形成される対象と資源管理の対象範囲が一致していないという構造的なズレが作用していると考えられる.
3つ目は,資源管理組織や活動の意義の認識のあり方の多様性である.インタビュー対象者は,農業を通じた交流を生きがいの一部と感じており,農業と関連付けて資源管理組織やその活動に自身が従事する意義を見出していた.しかし,資源管理の目的は多様かつ多元的であることを踏まえると,どのような点に意義を見出すか,という認識のあり方も多様であると考えられる6.
本研究の目的は,農村共有資源の管理におけるエンゲージメント概念を明らかにすることにあった.2つの資源管理組織(土地改良区,水利組合)の若手役員,計5名に対してインタビュー調査をおこなった結果,エンゲージメント概念を通して資源管理を捉えることの有用性が明らかになった.また,エンゲージメントの内容や状態を4つの側面(行動的・感情的・認知的・社会的側面)から整理することができた.さらには,エンゲージメントの変化やそれに影響を与える要因についても言及した.これらの知見は,資源管理における人材育成において,心理的側面に着目した新たな概念の構築という点で学術的意義を有する.
一方,本研究には対象者の限定性という課題が残る.対象者は,平地農業・都市的地域において営農組合の活動に従事する兼業農家や農業従事の程度が比較的低い者である.エンゲージメントの様相は,自身・地域の営農状況や営農基盤,資源管理組織の運営状況や規模などによって異なる可能性も考えられるため,得られた知見は限定的であると捉える必要がある.こうした点を踏まえると,多様な地域条件・営農状況を考慮した比較研究を今後進めることが求められる.その際,大きな課題となるのがエンゲージメント概念の指標化である.本研究で整理した4つの側面およびカテゴリーをもとにした指標を作成し,エンゲージメントの実態把握やその変化のメカニズムの解明を通して,エンゲージメントを高める組織づくりに寄与することが望まれる.
本研究の調査実施にあたっては,(一社)ため池みらい研究所に多大な協力を頂いた.本研究はJSPS科研費JP24K17978の助成を受けたものである.