2026 年 62 巻 2 号 p. 118-124
This study examines the emerging role of worker cooperatives in farm management under Japan’s Workers Cooperative Act (2022), focusing on the Tsukuba Workers Cooperative, established in 2025 by three rice farmers in Tsukuba City. Drawing on field interviews and internal documents, this study explores the cooperative’s organizational characteristics, management practices, and institutional context. The findings suggest that the worker cooperative model may offer a framework for collective farm management emphasizing member participation, equality in decision-making, and non-profit-oriented principles. At the same time, the case reveals several institutional and practical constraints, including complex administrative procedures, financing challenges, and restrictions imposed by the Agricultural Land Act. Rather than presenting definitive evidence, this study positions the Tsukuba case as an initial empirical reference for discussing the potential and limitations of worker cooperatives in the agricultural sector. Further comparative and longitudinal research will be needed to assess their long-term sustainability and broader applicability.
2022年に施行された「労働者協同組合法(以下:労協法)」は,地域社会における新しい協同的働き方を制度化した点で画期的な法律である.従来の企業経営が資本の論理を基礎とするのに対し,労働者協同組合は労働者自らが出資し,運営に参画し,労働の成果を共有する仕組みを採用する.この制度は,人口減少や地域の担い手不足,働き方の多様化といった社会構造の変化に対応するための「協同による地域再生モデル」として期待されている.
一方,労働者協同組合をめぐる研究動向を見ると,制度創設から日が浅いこともあり,最も多いのは法制度や運用実務を解説するものであり,登記,契約関係,会計処理,法人格の性質など,制度理解を目的としている.また,制度が目指す「多様な実践」を具体化した事例研究が進みつつある.清掃,保育,福祉,就労支援,まちづくりなどの分野で,地域社会との協働や包摂的な働き方の実践が報告されている.ただし,農業における活用を具体的に分析したものは,森他(2024)が見られるに過ぎない.
その中で,労働者協同組合をめぐる論点について注目すべき研究に以下がある.まず,多木(2024)は,組織法の観点から,労協法には行える事業の具体的制限や規律がほとんど存在しないため,どのような業種でも設立可能な「汎用的協同組合法」として会社法に近い柔軟性を持つ反面,事業ごとに既存の業法を個別に適用せねばならず,制度的整合性が課題となることを指摘する.また,松本(2024)は,労協法により労働契約の締結が義務付けられた結果,労働者の主体性・自発性が形式的な雇用関係の下で弱体化する危険があると論じている.そして,大高(2024)は,労協法を,市民立法として実現した希有な社会立法と位置付け,その法制化運動を整理するとともに,法の制度設計を「理念の後退」とみなすのではなく,既存の雇用法制の枠内に“協同”を接続する実践的妥協として肯定的に評価している.
本研究で取り上げるつくば労働者協同組合は,本法の下に2025年に設立された組織である.農業を通じた地域貢献と,地域資源の持続的活用を目的に,地元農家の3名が中心となって結成された.高齢化による耕作放棄地の増加が顕著となるなか,地域農業を「地域全体の共同事業」として再構築する取り組みである.本研究は,労協法の施行を背景に,非営利型の協同的経営体としての労働者協同組合が農業分野で果たしうる役割について,制度創設初期段階における実態を整理し,論点を提示する.特に,つくば労働者協同組合の事例を通じて,法制度上の位置づけ,経営的実態,地域社会との関係性を分析する.また,農事組合法人との比較を通じて,労働者協同組合による農業経営の持つ制度的独自性と課題を考察する.本稿の学術的貢献は,労働者協同組合法施行後の初期事例を通じて,労働者協同組合という法人形態が農業分野でどのような制度的意味と制約を持ちうるのかを,農事組合法人との制度比較および実態分析の両面から整理した点にある.
なお,本稿では,「協同」と「協働」という用語を区別して用いる.
「協同」は,労働者協同組合法に基づく法人制度および組織原理を指す概念である.すなわち,出資・経営参加・従事を一体化させた制度的枠組み,一人一票制や従事分量配当といった法制度上の原理を含む,組織の構造的特質を意味する.
これに対して「協働」は,実際の農作業,機械利用,意思決定,地域との関係形成など,具体的な実践過程において現れる共同的行為を指す.協働は制度の有無にかかわらず成立しうる実践概念である.
本稿は,制度原理としての「協同」と,実践形態としての「協働」との関係に着目し,両者がどのように接続されているのかを検討する.
労協法は2022年10月1日に施行された.同法は,「協同労働」の理念を持つ団体のうち,同法の要件を満たす団体を「労働者協同組合」として法人格を与えると共に,その設立,管理等の必要事項を定める法律である.労働者協同組合を通じた「協同労働」という働き方が広がっていく意義として,協同労働研究会(2024)は,地域課題の解決,多様な人材が活躍できる機会の創出,主体的な働き方を通じた生きがいや働きがいの獲得などを挙げている.
厚生労働省は,労働者協同組合の全国的な設立状況を定期的に公表している.厚生労働省(2025b)によれば,2025年10月1日時点で,労協法に基づき全国36都道府県で計168法人が設立されている.そのうち,企業組合やNPO法人など既存組織からの組織変更による設立が42法人(企業組合27法人,NPO法人15法人),新規設立が126法人である.また,非営利性を徹底した組織として都道府県知事の認定を受けた特定労働者協同組合は13法人となっている.
設立地域は北海道から沖縄まで広く分布し,事業分野は介護・子育て支援・清掃・建設・食品製造など多岐にわたる.なかには農業関連事業に取り組む組合も複数確認されている.厚生労働省(2025b)の中で,活動内容として農業を挙げているものを表1に整理した.資料の中で農業(加工や農作業も含む)を事業内容としているものが7組合,その他に資料中には記載がないものの,訪問調査の結果,農業生産の実態がある旨確認したもの(森他,2024)と合わせ8組合が確認できる.
農業関連の取り組みがある労働者協同組合(2025年10月1日時点)
| 名称 | 所在地 | 主な事業 | 設立形態 | 筆者らによる訪問歴 |
|---|---|---|---|---|
| つくば労働者協同組合 | 茨城県つくば市 | 農産物の生産,販売 | 新規 | 有 |
| 檜原村労働者協同組合 | 東京都檜原村 | 農産物の生産等 | 新規 | 有 |
| 労働者協同組合パンプアップせきかわ | 新潟県関川村 | 農産物加工・販売 | 新規 | 有 |
| 志士苺労働者協同組合 | 福井県福井市 | 農産物の生産等 | 新規 | 有 |
| 労働者協同組合上田 | 長野県上田市 | 営繕,菜園,人材育成 | 新規 | 有 |
| アメニティ工房労働者協同組合 | 愛知県阿久比町 | 農産物の共同生産・加工・販売 | 新規 | 有 |
| 労働者協同組合グリーンクルー | 兵庫県神戸市 | 植栽管理,農作業 | 新規 | 未 |
| 労働者協同組合ワーカーズコープ山口1) | 山口県光市 | 障害児支援,緑化事業・剪定,施設運営 | 組織変更 | 有 |
資料:厚生労働省「労働者協同組合の設立状況」(令和7年10月1日時点)及び筆者による整理.
1)出典には農業関連の記載はないが,筆者らによる訪問調査の結果,農業生産の実態を確認した.
労働者協同組合制度の成立背景には,少子高齢化や人口減少の進行に伴う地域課題の多様化がある.厚生労働省(2025a)は,その狙いについて次のように解説している.子ども支援,高齢者福祉,障害者支援,生活困窮者支援などの課題に対しては,NPO法人,企業組合,あるいは任意団体などが活動してきたが,それぞれに制度的な制約が存在した.例えば,NPO法人は出資を受けることができず,企業組合は営利法人として扱われるため公益的活動に不向きであり,任意団体は法人格を持たないため契約上の不便を抱える.こうした中で,地域課題の解決と雇用創出を両立しうる柔軟な法人形態として,労働者協同組合の制度化が求められたのである.
また,厚生労働省(2025a)は,当制度の導入により,地域の住民や多様な労働者が主体的に事業を立ち上げることが可能となったとする.設立要件は3人以上の発起人を必要とするのみであり,登記により法人格を取得できる「準則主義」を採用している.この点で,行政庁の認可や認証を必要とする企業組合やNPO法人に比べ,設立が容易となっている.また,出資額にかかわらず,すべての組合員に一人一票の議決権が与えられ,意思決定の平等性が担保される.さらに,出資額に応じた配当ではなく,組合事業への従事分量に応じた分配を行う非営利原則が採用されている点にも特徴がある.
(3)労働者協同組合と他の企業形態との比較表2は,労協法に基づく労働者協同組合と,農協法に基づく農事組合法人を中心に,その法的性格と制度上の差異を示したものである.両者はともに「協同の理念」を基盤としつつも,立法目的,構成員の範囲,議決権や剰余金の配分などにおいて異なる性格を有している.
労働者協同組合の法的性格(他企業形態との比較)
| 農事組合法人 | 労働者協同組合 | NPO法人 | 合同会社 | 株式会社 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 目的事業 | 農業経営または農作業の共同化,施設の共同利用 | 労働者が協同して行う事業(派遣事業を除く) | 特定非営利活動(20分野) | 営利を目的とする事業 | 営利を目的とする事業 |
| 構成員資格 | 組合員(原則として農民) | 組合員(出資+従事) | 正会員・賛助会員 | 社員(出資者) | 株主 |
| 設立要件 | 3人以上の農業者+認可 | 3人以上の発起人 | 10人以上+認証(都道府県) | 1人以上で設立可能 | 1人以上で設立可能 |
| 議決権 | 原則1人1票 | 1人1票 | 1人1票 | 定款による | 出資数に比例 |
| 主な法的根拠 | 農協法 | 労働者協同組合法 | 特定非営利活動促進法 | 会社法 | 会社法 |
| 配当・剰余金処理 | 利益は組合員に分配 | 従事分量配当 | 配当不可 | 出資比率に応じて配当 | 出資比率に応じて配当 |
| 組織的特徴 | 営農協同 | 地域協働・共助 | 市民公益団体 | 営利企業 | 営利企業 |
資料:厚生労働省(2025a)を元に筆者整理.
まず,目的および事業範囲について,労協法第3条は,組合員が出資・意見の反映および従事といった基本原理に従い,事業が行われることを通じて,「持続可能な活力ある地域社会の実現に資すること」を目的として掲げており,福祉・教育・地域振興など幅広い事業分野を対象としている.一方,農事組合法人は「農業生産の協業による共同の利益増進」を目的とし,主に農業の共同経営や農作業の共同化など,農業生産に限定された活動を行う点で性格を異にする.
次に,構成員資格および設立要件について,労協法第6条は「組合員は定款で定める個人」とし,同法第22条では「3人以上の発起人により設立」できるとする.これに対し,農事組合法人は「農業を営む個人(農民)」を構成員とすることを原則とし,「3人以上の農民による設立」を要件としており,両者はいずれも少人数での協同的設立を認めている.ただし,労働者協同組合は総組合員数の5分の4以上の組合員が,組合の行う事業に従事しなければならないと定めている点で,より労働参加を重視する構造となっている.なお,農事組合法人では,組合員の3分の2以上が農民であること,員外利用は分量ベースで5分の1までと定められている.
議決権の原則については,労協法第11条により「1人1票の原則」,農事組合法人も「1人1票制」を採用している.両者とも資本によらない平等な意思決定を制度的に保障している.
剰余金の配分に関しては,労協法第76条が「配当を行う前に,準備金として剰余金の10分の1以上を積み立てること」などを求めるとともに,主たる配分は「従事分量に応じて行う」とされる(同条第2項).これは,労働の貢献度を基準とする再分配原理を明示したものである.これに対して,農事組合法人では,利用分量・従事分量・出資など,当該組合法人の事情に応じた配当方法を,柔軟に定めることとなっており,経済的貢献度を反映する構造を持つ.
さらに,制度的地位の違いも重要である.農事組合法人は「農地所有適格法人」として明確に位置づけられており,農地の所有・貸借に関して法的資格を有する.これに対し,労働者協同組合は現行の農地法上その資格を持たず,農地を借り受ける際には個人名義または中間管理機構等を介した契約が必要である.この点は,農業分野における労働者協同組合の制度的制約として重要な課題である.
以上のように,労働者協同組合は労働者の主体的参画と社会的包摂を制度的に保障する点で新しい協同組織の形を提示しているが,農事組合法人が有する農地利用資格や補助金制度との整合を図ることが,今後の農業分野での展開における鍵となる.
本研究では,以上を踏まえ,つくば労働者協同組合の事例分析を行う.次節の記述は,2025年7月に対面で実施した聞き取り調査(その後の補足調査含む)および提供された内部資料に基づく.
つくば労働者協同組合は,茨城県つくば市の水田地帯において2025年1月に設立された.発起人は同一集落内の稲作農家3戸3名である.概要は表3にまとめた.
つくば労働者協同組合の経営概況
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 設立年月 | 2025年1月 |
| 所在地 | 茨城県つくば市 |
| 理念 | 「農業を足がかりとして地域に貢献し,地域の活性化につなげる」 |
| 組合員数 | 3名(同一集落の稲作農家.先輩後輩関係)+監事1名 |
| 主な事業 | 稲作(主作目:水稲),農産物の販売,休耕地・耕作放棄地の再生 |
| 経営面積 | 約7.5ha(一部を除き,農地中間管理機構を通じて借入) 2024年までの60–70 aから大きく増加 |
| 販売先 | JAおよび米卸業者への販売(33,000円~36,000円/俵). 年間売上約1,300万円. |
| 資金構成 | 出資金:1人10万円(積立).初期資金は組合員からの借入. |
| 機械設備 | トラクター等は個人所有を持ち寄り利用. |
資料:聞き取り調査および提供資料による.
つくば労働者協同組合の設立に至る過程は,大きく三つの段階に整理できる.
第一に,協同の萌芽段階である.組合員となるA・B・Cの3名は,同一集落内で稲作を営む兼業農家であり,遅くとも2022年頃から,農繁期の労働補完や機械の融通など,非公式な協力関係を形成していた.この段階では,法人化を前提としたものではなく,個々の経営を維持するための相互補完的な協働にとどまっていた.
第二に,構造的転機である.2023年に地域の中心的担い手農家1戸が離農し,その管理農地の受け皿が急遽必要となった.これにより,A氏を中心に耕作面積が急速に拡大し,個別経営の枠内では労働力・作業計画・機械利用の調整が困難となった.この段階で,従来の緩やかな協力関係は,継続的かつ制度的な枠組みを必要とする状況へと移行した.
第三に,法人格選択の段階である.組織化にあたり,農事組合法人の設立も選択肢として検討されたが,①出資額に依存しない一人一票の意思決定原則,②従事分量に応じた分配原則,③非営利性を明確に打ち出せる点が,三名の意向と整合的であったことから,労働者協同組合を選択したとされる.とりわけ,将来的に地域住民の参画や多様な働き方を受け入れる可能性を視野に入れた場合,労働者協同組合法の柔軟性が適合的であると判断された.また,労働者協同組合は事業範囲が農業に限定されないため,将来的に福祉や地域支援など農業以外の事業へ展開する可能性を視野に入れた場合にも制度的な柔軟性が高いと認識されていた.
以上より,本事例における法人設立は,長期的な協働関係の蓄積の上に,担い手離農という急激な環境変化が重なった結果として具体化したものである.組合員への聞き取りによれば,担い手農家の離農がなかった場合には法人設立には至らなかった可能性が高く,離農による農地管理の必要性が法人化の直接的契機となったと整理できる.
つくば市は都市近郊型農業が盛んな地域であるが,農家の高齢化や後継者不足,土地の細分化が急速に進行している.市内の農業就業者のうち65歳以上が6割を超え,2010年代後半以降,耕作放棄地の拡大が顕著となった.農業を継続できない高齢農家が増える一方,土地への愛着が強く,地権者が農地の状況を見回る文化が根強く残るという地域性がある.このような文脈のもと,つくば労働者協同組合は「農業を足がかりとして地域に貢献し,地域の活性化につなげる」ことを理念に掲げ,休耕地の再生,次世代農業人材の育成,地域コミュニティの維持を目的として活動を開始した.すなわち,地域での信頼関係や「土地への愛着」が設立の動機となり,「農業経営よりも地域貢献を目的とする」という理念が形成された上で労働者協同組合が設立されたと言える.
(2)設立形態の選択と行政支援既述の通り,設立にあたっては,農事組合法人や株式会社形態も検討されたが,営利性を排し,構成員の平等性を重視する労協法による法人形態が採用された.会社形態への抵抗感が地域住民の間に存在し,「金儲けのための法人化」と誤解される懸念があったことも理由である.労働者協同組合という非営利法人の枠組みを用いることで,地域社会からの信頼と,「雇う・雇われる」という関係を排除し,全員が平等な立場で意思決定を行う「フラットな共同関係」が理念的基盤となり,参加意識を確保することができた.また,主たる事業目的が必ずしも農業ではなく,「農業を足がかりとした地域貢献,地域活性化」であったことで,農事組合法人ではなく労働者協同組合を選択することにつながった.
つくば市が労協法制度の普及に取り組んでいたことも重要である.2024年度には,市が主催する「労働者協同組合設立セミナー」が開催され,制度や会計実務の紹介が行われた.さらに,設立後2年以内の組合を対象に経費の半額(上限60万円)を助成する「労働者協同組合運営補助金」制度が創設され,制度的・財政的支援が整備された.このような行政支援の存在が,農業分野での新たな組織形態の成立を後押しした.
なお,支援制度についてつくば市の担当者は,「行政だけでできることは限られており,市民とともに地域社会をつくる」ことを基本理念として掲げている.労働者協同組合を地域づくりのパートナーと位置づけ,伴走型支援を重視している.
(3)組織構成と経営実態つくば労働者協同組合は前述のA氏・B氏・C氏の組合員3名と1名の監事からなる.組合員はいずれも農家出身で,退職後に地域農業に関わるなどしている.意思決定は全員一致制を原則とし,代表理事(C氏)の権限は最小限に留められている.運営理念は「フラットな関係性」であり,労使関係を排した協働的な意思決定を特徴としている.
経営耕地面積は7.5 haで,一部を除き,農地中間管理機構を通じて賃借した水田である.2023年の耕作面積60 aから,担い手農家の離農をきっかけに大幅に拡大した.離農した担い手は水田17 haを耕作していたため1,離農後の引き受け手の1つとしてつくば労働者協同組合が約7 haを借り受けることとなった.主作目は水稲で,単収は10 a当たり約5.8俵程度である.生産した米は主としてJAおよび米卸業者を通じて販売されている.直近年度の販売価格は,つくば市豊里農協への出荷が玄米60 kg当たり33,000円,米卸業者への販売が同36,000円である.販売数量は約380俵であり,年間売上額は1,300万円程度となっている.経費を差し引くと1人あたり所得は100万円前後となる.
機械設備は組合員が保有していたものを持ち寄り,共有化によって初期投資を最小限に抑制している.生産工程における作業分担は,機械操作,苗管理,乾燥調整・出荷などを三者で分担し,互いの得意分野を活かす体制を築いている.今後は機械使用時間に応じたコスト分担制度を導入し,透明性の高い共同経営を目指している.また,1人あたり10万円の出資金は積立金として保持し,運転資金は組合員からの借入で賄っている.収益の季節的偏在を補うための事業多角化も今後の課題である.
(4)地域との連携つくば労働者協同組合の活動は,農地の維持管理を通じて地域との関係性を形成している点に特徴がある.休耕地や耕作放棄地の再生は,地域景観の維持や獣害防止,農地保全といった機能を持ち,地権者からの信頼を得ているとされる.組合員への聞き取りによれば,地権者が圃場の状況を定期的に見回るなど,農地に対する心理的な関与が継続しており,こうした関係性のもとで農地の賃借が行われている.
また,スマート農業技術の導入や研究機関との連携については,現時点では具体的な実施段階には至っていないものの,将来的な展開として検討がなされている.農業を媒介として地域内の関係主体との接点を広げていく構想が示されている点は,本事例の特徴の一つである.
さらに,地域住民や委託農地の所有者を農作業に参画させる構想も検討されている.ただし,アルバイト雇用や農福連携,地域住民の農作業参加などについては,現時点では具体的な実績はなく,将来的には業務委託などの形での実施が検討されている段階である.したがって,本事例における社会的包摂や地域協働の効果については,今後の実践の蓄積を通じて検証されるべき課題である.
以上より,つくば労働者協同組合は,農業を通じて地域との関係性を再編しようとする方向性を有していると整理できるが,その社会的意義の実質的な広がりや波及効果については,現段階では可能性を示唆するにとどまる.
(5)課題と今後の展望つくば労働者協同組合の運営課題として,第一に事務処理・会計手続きの煩雑さがある.つくば労働者協同組合がつくば市における初の労働者協同組合設立事例であったことに加え,農業分野における労働者協同組合は前例が少なく,税務署や行政との調整に時間を要した.第二に,農業関係の補助金制度が農事組合法人を対象とする場合が多く,労働者協同組合が補助対象外となるケースがある点も制度的制約である2.第三に,外部資金調達が難しく,当面は個人借入や内部留保に依存せざるを得ない.さらに,少人数による運営は意思決定を迅速にする反面,病気や事故などのリスクを伴う.
今後の展望としては,短期的には経営基盤の安定化と補助制度の活用を行いつつ,3年以内の事業安定化を目指すとともに,中期的には複数の労協によるネットワーク形成,長期的には農業を軸とした地域包括的協働体制の構築を目指している.
本研究は,2022 年施行の労働者協同組合法のもとで設立されたつくば労働者協同組合を事例として,農業分野における制度活用の実態と課題を整理した.聞き取り調査および提供資料に基づき,設立経緯,法人形態選択の背景,経営実態,制度的制約を検討した.
本事例は,地域の担い手不足や耕作放棄地の拡大といった課題に対し,少人数の組合員が平等な立場で協働しながら農地の維持管理に取り組む一形態を示している.ただし,その点自体は農事組合法人等の既存法人形態においても理論上は実現可能であり,労働者協同組合であることによる差異は,主として非営利性の徹底や意思決定の構造,制度上の柔軟性に求められる.
一方,農地法上の位置づけ,補助制度との適合性,資金調達の制約,事務負担など,制度的・実務的課題も確認された.とりわけ農地所有適格法人ではないことに起因する制約は,農業分野における労働者協同組合の展開において重要な制度的論点である.
また,地域連携や社会的包摂に関する取り組みについては,構想段階のものも含まれており,その実効性や持続可能性については今後の検証が必要である.本稿は,労働者協同組合による農業経営の可能性を確定的に示すものではなく,制度創設初期段階における探索的事例分析として位置づけられる.
今後は,他地域の事例との比較分析や経営収支の長期的推移の検証を通じて,労働者協同組合という法人形態が農業分野においていかなる条件のもとで持続可能となりうるのかを明らかにする必要がある.本稿は,その検討に向けた初期的整理として位置づけられる.とりわけ,農地制度との制度的整合性,経営収支の持続可能性,地域社会との協働関係の形成という三つの視点からの検証が,今後の重要な研究課題となる.