2026 年 62 巻 2 号 p. 78-85
Knowledge, including subjective knowledge, objective knowledge, and product-related experience, plays a crucial role in consumer decision-making. However, the relationship between these types of knowledge and organic food purchases has not yet been thoroughly investigated. This study examines the role of knowledge in organic vegetable consumption in Japan using structural equation modeling. The results show that subjective knowledge is the strongest predictor of organic vegetable consumption, whereas objective knowledge has only a limited indirect effect mediated through subjective knowledge. Product-related experience is positively associated with both types of knowledge and directly correlated with organic vegetable consumption, suggesting its dual role as a driver of both knowledge formation and purchases. These findings highlight that enhancing subjective knowledge and offering experiential opportunities, such as farm visits and hands-on learning, may be more effective than simply providing objective information in stimulating consumer demand for organic food and supporting the transition to organic farming.
農業による環境負荷の低減は喫緊の課題であり,持続可能な生産方法として有機農業が国際的に注目されている.日本では,農林水産省が中長期的な政策方針として「みどりの食料システム戦略」を策定し,2050年までに耕地面積に占める有機農業の取組面積の割合を25%(約100万ha)に拡大する数値目標を掲げている(農林水産省,2021).しかし,国内における有機農業への移行は依然として緩やかであり,2023年度末における有機農業の取組面積は耕地面積全体の約0.8%(約3.5万ha)に留まる(農林水産省,2025).
胡(2020)は,有機農業の普及が停滞する主な要因の1つとして,国内需要の不足を指摘している.実際,国内の消費者における有機食品の1人当たり年間消費額は,諸外国と比して低い水準にある(Willer et al., 2025).有機食品に対する消費者の需要は,その市場の形成と拡大において潜在的な推進力となる(Li et al., 2021).したがって,有機農業への転換を促進するためには,有機食品に対する消費者の購買行動を規定する要因への理解が不可欠である(Hansmann et al., 2020).しかしながら,現状日本における有機食品の消費者に関する研究は限定的であり(川崎,2023),さらなる学術的知見の蓄積が必要である(Talwar et al., 2021).
商品に対する知識は,消費者の意思決定において重要な要因である(Brucks, 1985).先行研究では,消費者が合理的に有機食品を選択するためには十分な知識を有することが必要であるとされている(Mesías Díaz et al., 2012).Brucks(1985)によれば,消費者の知識は主観的知識(subjective knowledge)と客観的知識(objective knowledge),(商品関連)経験(product-related experience)の3つに概念的に区別される.ここで,主観的知識は消費者の知識の程度に対する自己評価,客観的知識は消費者が実際に記憶している情報量として定義される(Brucks, 1985; Park et al., 1994).また,経験は,広告への接触や情報探索,販売員とのやり取りなど,様々な要素を含む包括的な概念である(Alba and Hutchinson, 1987).しかし,有機食品消費に関する多くの研究は,消費者の知識を一次元的な概念として扱っており,こうした分類を考慮した分析は限られる(Fatha and Ayoubi, 2023).また,管見の限りでは,これらの知識の構成概念を区別した数少ない研究においても,主観的知識と客観的知識のみを区別するに留まり,経験の蓄積と有機食品消費の関係性を分析したものは存在しない.
そこで,本研究では,有機食品に関する知識を主観的知識,客観的知識および経験という3つの次元に分類し,それらが有機食品消費に与える影響を検討する.具体的には,構造方程式モデリング(structural equation modeling: SEM)の適用により,消費者の有機食品に対する購買行動がどのように知識によって規定されているのかを分析する.なお,本研究の分析対象は,国内で最も広く消費されている有機食品のカテゴリーである生鮮野菜とする(農林水産省,2024).
数多くの研究が知識を一次元的な変数として扱ってきたが,主観的知識と客観的知識は明確に異なる概念であり,両者を区別することの重要性が指摘されている(Aertsens et al., 2011).ただし,個人の知識に対する自己評価は,実際に個人が記憶する情報量に影響を受けると想定される(Radecki and Jaccard, 1995).両者の関連性を検証したほとんどの研究は,これらの概念間に中程度の相関があると報告している(Garrido-Castro et al., 2025).
これらの知識の形成には,一般に過去の経験が大きく関与する.多くの研究では,経験が主観的知識と客観的知識の規定要因として位置づけられている(Garrido-Castro et al., 2025).特に,Park et al.(1994)では,経験が消費者による知識の自己評価において重要な役割を果たすことが指摘されている.ただし,有機食品消費と知識の構成要素との関連性を検討した研究では,こうした経験の影響を十分に考慮していない.以上を踏まえ,本研究では,有機野菜消費の文脈においても,経験が各知識を規定すると仮定する.
消費者が有機食品を合理的に選択するためには,有機食品に関する知識が不可欠である(Mesías Díaz et al., 2012).数多くの研究が消費者の知識と有機食品消費との関係性を検証しており,一般に知識が有機食品の購買頻度や支払意思額に正の影響を与えることを報告している(Li et al., 2021; Mesías Díaz et al., 2012; Pieniak et al., 2010).ただし,一部の研究では,客観的知識と有機食品消費との関連性が比較的弱く,態度や主観的知識を媒介した間接的な影響のみが確認されている(Pieniak et al., 2010; Van Loo et al., 2013).また,各知識の影響を比較した研究では,一般に主観的知識の方が有機食品消費の予測因子として優れていることが示唆されており(Aertsens et al., 2011; Pieniak et al., 2010),客観的知識が有機食品に対する購買行動に与える影響は限定的である可能性がある.
消費者が商品に関連して蓄積した経験は,その商品に対する親近感(familiarity)を形成している(Alba and Hutchinson, 1987).例えば,有機食品の購買を通じて醸成された親近感は,消費者の有機食品に対する評価を高める要因となることが示唆されている(Mesías Díaz et al., 2012).また,Kitano and Mitsunari(2023)は,酪農に関する包括的な経験の蓄積が倫理的な乳製品の購買を促進することを示している.これらの知見を踏まえ,本研究では,農業に関する経験が有機野菜消費に正の影響を与えると想定する.
消費者の人口統計学的属性は,有機食品に対する購買行動の規定要因として最も関心が向けられてきた(日田・田中,2024).ただし,先行研究の結果は一貫しておらず,両者の関連性は比較的弱いことが示唆されている(Botonaki et al., 2006; Janssen, 2018).また,人口統計学的要因は,消費者の知識水準にも影響を与える可能性がある(Aertsens et al., 2011; Briz and Ward, 2009; Fatha and Ayoubi, 2023; Kitano and Mitsunari, 2023).これらの知見を総合すると,人口統計学的属性は知識と有機食品消費の双方に影響を与えうる潜在的な交絡要因と考えられる.そこで,本研究では,「性別」,「年齢」および「教育水準」を統制変数としてモデルに含める.
以上を踏まえ,本研究にて検証する仮説モデルを図1に示す.統制変数からのパスを除き,各パスの係数には正の符号を予想する.

仮説モデルの概要
本研究のアンケート調査は,国内のWeb調査会社である株式会社インテージに委託し,2024年11月13日から15日に実施した.回収数635のうち,有効回答数は613であった1.母集団として日本全国の生鮮野菜購入世帯を想定し,調査対象者は20歳から69歳の男女とした.加えて,世帯の購買行動の代表性を考慮し,回答者を家庭内で食品の購買を50%以上担当する世帯員に限定した.
本研究では,知識として「主観的知識」,「客観的知識」および「経験」を測定した.主観的知識の測定にはPieniak et al.(2010)の尺度を採用し,各項目は回答者から7段階のLikert尺度により評価された.また,客観的知識の測定においては,研究対象となる商品のカテゴリーに応じて客観的かつ個別の尺度を作成することが一般的である(Garrido-Castro et al., 2025).そこで,本研究では,客観的知識に関する項目を先行研究や科学的知見に基づき設計し(Aertsens et al., 2011; Pieniak et al., 2010),二項選択法の質問により測定した.加えて,経験については,Kitano and Mitsunari(2023)のアプローチと同様に,包括的に農業に関する経験を含む項目を設計し,二項選択法の質問により測定した.なお,表1には,客観的知識および経験の測定に用いた具体的な項目を示している.
客観的知識と経験の測定項目
| 項目 | Mean |
|---|---|
| 客観的知識 | |
| 有機農業においては,化学的に合成された肥料および農薬の使用が原則として禁じられている | 0.41 |
| 有機農業において,遺伝子組み換え技術の使用は禁じられている | 0.45 |
| 慣行農業と比較すると,有機農業における環境負荷(単位面積あたり)は一般に小さいとされる | 0.29 |
| 慣行農業と比較すると,有機農業による収量(単位面積あたり)は一般に減少する | 0.37 |
| 慣行農業と比較すると,有機農業では労働時間(単位面積あたり)が一般に増加する | 0.37 |
| 小売店において,有機野菜は標準的な野菜より高い価格(平均で約1.4~1.8倍程度)で販売されていることが多い | 0.53 |
| 有機農産物の安全性や健康への影響については,現状十分に解明されていない | 0.23 |
| 有機JASマークが付いていない農産物に対して,「有機」や「オーガニック」といった表示を行うことはできない | 0.23 |
| 経験 | |
| 農場を訪問したことがある | 0.24 |
| 田植え(種まき)や稲刈り,野菜の収穫などの農業体験に参加したことがある | 0.43 |
| 直売所やファーマーズマーケットを訪れ,農産物を購入したことがある | 0.69 |
| インターネット販売や通販により,農家から直接農産物を購入したことがある | 0.17 |
| 農村に宿泊し,滞在中にその地域の食事や体験などを楽しんだことがある | 0.10 |
| 家庭菜園や市民農園で農産物を育てたことがある | 0.39 |
| 農業に関するイベントに参加したことがある | 0.17 |
| 農業に関する教育(授業や講演など)を受けたことがある | 0.21 |
1)客観的知識の項目では「知っていた」,経験の項目では「ある」と回答した場合に1,それ以外を0とするダミー変数として定義した.
客観的知識と経験については,主成分分析により次元を削減し,総合点を算出した.第一主成分はそれぞれ分散の48.5%および39.0%を説明し,全ての項目と同程度で正の相関が確認された.そこで,第一主成分得点を回答者の客観的知識と経験の総合的指標と解釈し,各潜在変数の観測変数として用いた.
また,「有機野菜消費」については,先行研究の設計と同様に(Aertsens et al., 2011; Pieniak et al., 2010; Van Loo et al., 2013),生鮮野菜の購買頻度に占める有機野菜の割合として測定した2.具体的には,有機野菜の購買頻度を生鮮野菜の購買頻度で除すことで,有機野菜消費の観測変数を算出した.
表2に,サンプルの記述統計量を示す.回答者の平均年齢は約46.8歳であり,国内平均の約46.1歳に近い値となっている(総務省,2025).平均世帯年収は約557万円であり,国内平均の約536万円と概ね一致している(厚生労働省,2025).世帯員数の平均は約2.29人であり,これも国内平均の約2.20人と同等の水準である(厚生労働省,2025).女性の割合は約61%と国内の平均より高いが,これは回答者を家庭内で主に食品の購入を担当する世帯員に限定したためである.教育水準について,最終学歴が大学卒業以上である割合は約43%となっており,国内平均の約31%をやや上回っている(総務省,2022).生鮮野菜と有機野菜の年間購買日数の平均は,それぞれ約119.6日と約39.4日であった.
記述統計
| Mean | SD | |
|---|---|---|
| 性別:女性であれば1,男性であれば0 | 0.61 | 0.49 |
| 年齢(歳) | 46.82 | 13.23 |
| 世帯年収(万円) | 556.69 | 373.03 |
| 世帯員数(人) | 2.29 | 1.24 |
| 教育水準:最終学歴が大学卒業以上であれば1,それ以外は0 | 0.43 | 0.50 |
| 生鮮野菜の購買頻度(日/年) | 119.60 | 75.56 |
| 有機野菜の購買頻度(日/年) | 39.43 | 61.27 |
測定モデルの妥当性と信頼性を検証するため,ロバスト最尤法による確認的因子分析(confirmatory factor analysis: CFA)を実施した.表3には,CFAの推定結果を示している.適合度指標は,χ2(6) = 40.3,CFI = 0.976,TLI = 0.939,RMSEA = 0.092,SRMR = 0.031となっており,許容可能な水準である.構成要素に対する各項目の因子負荷量は,全て1%水準で有意かつ0.7以上の値を示しており,十分な水準である(Hair et al., 2018).また,AVE(average variance extracted)は0.5を超えており,適切に収束していると判断する(Hair et al., 2018).加えて,信頼性の指標となるCR(composite reliability)は0.7を超えており,良好な水準といえる(Hair et al., 2018).
確認的因子分析の推定結果
| 項目 | Loadings | AVE | CR | |
|---|---|---|---|---|
| 主観的知識 | 私は有機農産物についてかなり知っている | 0.88 | 0.71 | 0.88 |
| 身近な人の中で,私は有機農産物の「エキスパート」の1人である | 0.83 | |||
| 私は有機農産物の品質を判断する方法について詳しい | 0.82 | |||
| 客観的知識 | 第一主成分得点 | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
| 経験 | 第一主成分得点 | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
| 有機野菜消費 | 有機野菜の購買頻度/生鮮野菜の購買頻度 | 1.00 | 1.00 | 1.00 |
消費者の知識が有機野菜消費とどのように関連しているのかを分析するため,構造モデルを設計し,SEMによる検証を行った.SEMのパラメータは,Rのlavaanパッケージを用いてロバスト最尤法により推定した(Rosseel, 2012).モデルのパス図と推定結果は,図2に示されている.適合度指標を確認すると,χ2(15) = 60.1,CFI = 0.968,TLI = 0.930,RMSEA = 0.069,SRMR = 0.033となっており,モデルは良好に適合している(Hu and Bentler, 1999).

SEMの推定結果
1)*:p < 0.1,***:p < 0.01であり,係数は標準化されている.また,括弧内はロバスト標準誤差を示している.
2)統制変数に関する推定結果は省略している.
まず,パス係数の推定結果を確認する.主観的知識は,有機野菜消費に対して比較的強い正の影響を示した.客観的知識は,主観的知識に正の影響を与えていたが,その効果は限定的であった.また,客観的知識から有機野菜消費へのパスは有意ではなく,直接的な効果は確認されなかった.経験は,主観的知識と客観的知識の双方に正の影響を与えており,経験が両者の規定要因であることが示された.加えて,経験は有機野菜消費に対して直接的に正の影響を与えており,農業に関する経験の蓄積が有機野菜の購買割合を高めることを示唆している.
次に,知識の構成概念がそれぞれどの程度有機野菜消費に影響を与えているのかを分析するため,直接効果(direct effect),間接効果(indirect effect)および総合効果(total effect)を推定した(表4).有機野菜消費に対する総合効果では,主観的知識が最も強く正の影響を与えていた.続いて,経験が中程度の正の影響を示したものの,客観的知識に有意な影響は確認されなかった.一方,客観的知識から有機野菜消費への間接効果は正で有意であり,この効果は主観的知識により媒介されていた.また,主観的知識に対する経験の総合効果についても正で有意となった(Est. = 0.185,SE = 0.046,p < 0.01).この効果の大きさは,客観的知識からの直接効果を上回っており,経験の方が主観的知識の予測因子として優れていることを示唆している.
有機野菜消費に対する知識の効果
| 直接効果 | 間接効果 | 総合効果 | ||||
|---|---|---|---|---|---|---|
| Est. | SE | Est. | SE | Est. | SE | |
| 主観的知識 | 0.339*** | 0.040 | 0.339*** | 0.040 | ||
| 客観的知識 | 0.025 | 0.043 | 0.029* | 0.018 | 0.055 | 0.046 |
| 経験 | 0.147*** | 0.041 | 0.075*** | 0.025 | 0.222*** | 0.040 |
1)*:p < 0.1,***:p < 0.01であり,推定値は標準化されている.
最後に,統制変数の推定結果を確認する(表5).主観的知識に対しては,性別ダミーと年齢が負の影響を与えていた.すなわち,女性や高齢の消費者は,自身の有機農産物に関する知識に自信がない傾向にあることを示している.また,客観的知識に対しては,年齢と教育水準ダミーが正の影響を与えていた.年齢や教育水準が高いほど,過去に情報を得る機会が多かったと予測されるため,妥当な結果であるといえる.一方で,有機野菜消費に対しては,全ての統制変数に有意性が確認されなかった.
統制変数の推定結果
| Coef. | SE | |
|---|---|---|
| 主観的知識 | ||
| 性別 | −0.151*** | 0.042 |
| 年齢 | −0.203*** | 0.045 |
| 教育水準 | 0.037 | 0.043 |
| 客観的知識 | ||
| 性別 | −0.019 | 0.037 |
| 年齢 | 0.110*** | 0.036 |
| 教育水準 | 0.071* | 0.037 |
| 有機野菜消費 | ||
| 性別 | −0.060 | 0.040 |
| 年齢 | −0.063 | 0.041 |
| 教育水準 | 0.005 | 0.039 |
1)*:p < 0.1,***:p < 0.01であり,係数は標準化されている.
有機農業の普及が政策的に推進される一方で,国内の有機食品に対する需要は依然として不足する状況にある.既存の研究は,消費者の意思決定における知識の重要性を指摘しているが,知識と有機食品消費との関係性については限定的な理解しか得られていない.そこで,本研究では,有機野菜を対象として,消費者の知識が購買行動に与える影響をSEMにより包括的に検証した.
本研究の結果は,主観的知識が有機野菜消費の重要な規定要因であることを示している.一方で,客観的知識は,有機野菜消費に直接的な影響を与えておらず,主観的知識を媒介した間接的かつ限定的な影響しか有していない.この結果は,客観的知識より主観的知識の方が有機食品消費の予測因子として優れていることを示した先行研究を支持している(Aertsens et al., 2011; Pieniak et al., 2010).したがって,有機食品に対する需要を強化するためには,客観的知識の向上に加えて,主観的知識の形成を促進する施策についても検討する必要がある.
主観的知識に対しては,客観的知識と比較して経験がより強い影響を与えていた.Park et al.(1994)は,商品情報と比較して,記憶の中で経験は相対的にアクセスが容易であるため,消費者の主観的知識が経験に基づく傾向にあることを指摘している.本研究の結果も,消費者が自身の知識を評価するに際し,客観的知識よりも過去の経験に影響を受けている可能性を示唆している.また,経験は,主観的知識および客観的知識を媒介した間接的な効果に加えて,有機野菜消費に対して直接的に影響を与えていた.この結果は,経験が各知識の形成に寄与するのみならず,消費者の積極的な購買行動を促す要因であることを示している.以上を踏まえると,有機食品に対する需要の拡大に向けては,客観的な情報提供と比較して,農場訪問や体験学習など,消費者が農業に直接関与する機会の提供がより効果的である可能性がある.
最後に,本研究の限界について述べる.第一に,本研究では知識と購買行動との間の媒介変数が考慮されていない.本研究の結果に基づけば,知識は有機野菜消費に対して直接的な効果を有しているものの,両者の間には態度や購買意図といった媒介変数の存在が想定される(Janssen, 2018).両者の関係性をより深く理解するためには,それらの要因を踏まえたモデル設計が求められる.第二に,本研究で用いた変数の設計および測定については検討の余地がある.まず,本研究では客観的知識として消費者の記憶する情報量を測定しているが,消費者の購買決定には,商品の重要な側面に関する特定の知識の有無がより強く影響する可能性がある(Garrido-Castro et al., 2025).本研究の結果は,有機野菜消費に対する情報量の効果が限定的であることを示唆するが,どのような情報が有機野菜の購買に寄与するのかについてはさらなる分析が必要である.また,経験の測定については,包括的な農業に関する経験の有無に基づいており,有機農業に特有の要素に限定されていない.そのため,経験が有機野菜消費に与える効果は,有機農業に直接関連する経験の場合と比して過小に推定されている可能性がある.第三に,本分析が横断面データに基づくことや,その他の交絡要因が存在する可能性を考慮すると,推定結果の因果的解釈には限界がある.それゆえ,両者の厳密な因果関係については追加的な検証が不可欠である.これらの点は,今後の研究課題としたい.
本研究は,JSPS科研費(22K05848)およびJST次世代研究者挑戦的研究プログラム(JPMJSP2110)の支援を受けたものである.