We analyzed the economic effects of a simple ensiling method in corn grain production. Two distinct analyses were conducted. First, break-even prices for corn grain production were compared between drying and simple ensiling methods on paddy-based farms in Ibaraki Prefecture. Second, based on production cost statistics, feed costs were compared by replacing compound feed and imported corn with corn grains stored via the simple ensiling method in dairy cattle rations. The results show that the simple ensiling method can reduce break-even price by approximately 5–15%. Furthermore, feed cost reductions were achieved even without increases in market price. Future research should focus on improving yield, enhancing storage methods, and clarifying the limitations of the distribution range.
日本の畜産において,飼料の多くは輸入に依存している.しかし近年では,国際情勢や気候変動の影響によって飼料価格が高騰するなど,畜産経営における飼料確保の不安定化と収益の悪化が懸念されている.また,改正食料・農業・農村基本法では「食料安全保障の確保」が規定されたことから,国産飼料の増産も重要な課題である.農林水産省においても令和12年までに飼料の自給率28%(農林水産省,2025a)とすることを目標としている.他方,水田輪作を行う場合には大豆等他作物について収量,品質,作業性の向上のために生産方式の改善が求められる.以上示した課題への対応策の一つとなるのが水田における子実トウモロコシの生産である.子実トウモロコシについては,飼料用トウモロコシが年間1,133万t(農林水産省,2025a)輸入されていることから高い需要が見込まれる.また,省力的に生産可能な作物である他,栽培により土壌の排水性が向上することから他の輪作作物の栽培に好影響を与えうる.実際,令和元年には443 haであった作付面積が令和6年には2,809 haまで拡大し,国内生産量は17,009 tとなっている(農林水産省,2025b).以上より,子実トウモロコシに関する経営分野の研究を深めることは日本の水田作経営の改善への貢献のみならず,畜産経営の改善及び飼料の自給率の向上等,日本の畜産業が抱える課題解決の一助となるものと考える.
子実用トウモロコシ及び子実トウモロコシに関する経営分野の既往研究1は,荒木(2019)や幸田他(2021),宮路他(2020),鵜川(2022:pp. 121–138),杉戸他(2022),森岡他(2020)が挙げられる.以上示した既往研究では,いずれにおいても子実トウモロコシの収支及び生産における課題が明らかにされている.また,荒木(2019),幸田他(2021),宮路他(2020)では,これらに加え次のことを明らかにしている.荒木(2019)では子実トウモロコシの導入理由が省力的作物であること及び他の水田作物に比べ奨励金が低額であるが故に収益性が低いこと,幸田他(2021)では堆肥利用による費用削減効果,宮路他(2020)では調製過程におけるフレコンラップ法の費用と課題が明らかにされている.その一方で先に挙げた既往研究については,以下の3点の不明点がある.1点目として,実際の収支の結果が明らかにされているが,収量水準や破砕の有無といった子実トウモロコシの生産状況を想定の下,損失が発生しない条件については検討されていない.2点目として,子実トウモロコシ生産では調製・貯蔵の過程における乾燥の有無で2通りの体系に大別され,乾燥調製については生産費が高額となることが指摘されている(森岡他,2020).このため,無乾燥調製技術の導入は生産費削減が期待できる.しかし,この調製費用の分析については宮路他(2020)で行われているものの,無乾燥調製と乾燥調製について体系別に生産費の比較を行っている研究は見当たらず,無乾燥調製技術導入による費用削減効果は明らかにされていない.3点目として,販売や出荷については調製・貯蔵の方法にかかわらず,十分な分析が行われているとは言い難い.
そこで,本研究では,無乾燥調製技術導入による費用削減効果及び無乾燥調製された子実トウモロコシの販売・出荷について検討し,無乾燥調製導入の経済性及び課題について明らかにすることを目的とする.
本研究においては,2節で示した目的の通り,無乾燥調製技術導入による費用削減効果及び無乾燥調製された子実トウモロコシの販売・出荷の2点について検討を行う.このため,それぞれの検討を行うにあたり対象と方法について本節において説明する.なお,本研究は,個別事例の検討であること及び対象とする簡易貯蔵技術は実証試験段階の技術であるため,本検討結果については,一般化が制約される点に留意する必要がある.
(2)費用削減効果検討についての対象・方法 1) 対象となる経営体と調製技術の概要本研究においては,乾燥調製に加えて無乾燥調製の一種である簡易貯蔵を導入した生産法人である茨城県筑西市の農家(以下X法人)を対象とする.このX法人が水田において子実トウモロコシの生産を開始したきっかけは,輪作体系の中で大豆の連作障害による単収の低迷やアサガオ類の雑草が蔓延することが問題になっていたためで土壌改善とトウモロコシに適用される除草剤でのアサガオ類の駆除を目的とし,2016年より生産を開始した.播種は4月と6月に行っている.また,かつては麦類の生産を行っていたがカラスムギの防除が困難であるため,生産を中止した.2020年~2023年までの X法人の作付面積と子実トウモロコシの単収については,表1の通り推移している.X法人では子実トウモロコシの作付面積の拡大の他,単収も増加しているが,この理由は,4月播種の時期を従来の下旬から上旬に繰り上げたこと,化成肥料オール14の増肥,収穫機械について汎用ヘッダ(リールヘッダ)からコーン専用のヘッダ(コーンヘッダ)への変更といった栽培・収穫体系の改良によるものである.現行,収穫物の大部分は調製・貯蔵について乾燥調製で処理されており,この乾燥した子実トウモロコシを粗選別と袋詰めを行い出荷する.袋詰めを行う理由は,小規模の養鶏業者がフレキシブルコンテナによる搬入を望まないためである.ただし,今後は作業の効率化と生産費低減のために乾燥と粗選別のみを行いフレキシブルコンテナのままで出荷する.他方で,簡易貯蔵による調製については農研機構畜産研究部門が開発した調製・貯蔵方法で,収穫と同時に耐候性フレキシブルコンテナとプラスチックシート内袋で子実トウモロコシを未破砕・未乾燥で密封し,サイレージ発酵を促進する.保管場所は屋外で,防草シート上に遮光ネットと防鳥ネットをかぶせて保管する.この方法は,今後普及が期待できる実証段階の技術であることに加え,フレコンラップ法(宮路他,2020)と同様の無乾燥調製であるが,フレコンの荷姿のまま取り扱い可能であることから水田農家が取り組みやすい技術である.このため,X法人においても,今後の採用が検討されている.しかしながら,簡易貯蔵により調製された子実トウモロコシは以下2点の利用上の留意点を有する.1点目として,含水率が高く,密封が損なわれると短期間で品質が劣化しやすい.このことから,内袋に穴が開いて空気にさらされることを防止することの他,開封後は速やかに利用するなど品質管理について注意が必要になる.2点目として,輸入圧ペントウモロコシの代替の場合は搾乳牛への給与量が上昇するにつれ軟便傾向が増えるとの報告があるため(農研機構,2025a),この点についても注意が必要となる.
作付面積(ha)・子実トウモロコシ単収(kg/10 a)
| 年度 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
|---|---|---|---|---|---|
| 子実トウモロコシ | 4月播種 | 1.60 | 1.66 | 2.44 | 8.59 |
| 6月播種 | 2.00 | 4.00 | 3.38 | 2.91 | |
| 水稲 | 30.00 | 30.00 | 28.00 | 30.00 | |
| 大豆 | 15.00 | 12.00 | 12.00 | 11.85 | |
| 大麦 | 8.00 | 0.00 | 0.00 | 0.00 | |
| 小麦 | 7.00 | 13.00 | 12.00 | 0.00 | |
| 総面積 | 63.60 | 60.66 | 57.82 | 53.35 | |
| 単収 | 500 | 771 | 773 | 698 | |
資料:X法人へのヒアリング及び当該法人より収集した帳票類を参考に著者作成.
1)単収についてはその年の総収量を子実トウモロコシの総面積で除したのち,10 aあたりに換算した数値.
乾燥・簡易貯槽の両調製につき体系別の10 a当たり生産費を明らかにする.そのうえで,各生産費から補助金を差し引いた金額で,出荷・販売する場合に生産において損失の発生しない最小値である収支均衡価格を単収・生産体系別に算出し,価格を比較する.収支均衡価格の補助金については,戦略作物助成35,000円/10 a,農業高収益化推進助成10,000円/10 aとする.また,生産費については,飼料用トウモロコシの場合,加工せずに丸粒のまま利用すると商品価値が低下する(石田他,1997)ことから,破砕する場合としない場合に分けて費用を算出する.この破砕の費用については表2に示す.この他,単収についてであるが,収穫時の収量が800kg/10 a以上となることが目標とされている(農研機構,2025b)他,関東地方の他の事例では,新技術を積極的に導入している法人において単収が800kg/10 a以上となるケース(農研機構,2025a)も確認されている.このこと及びX法人の単収から,関東地方における子実トウモロコシの単収は,子実トウモロコシに特段力を入れて生産を行う事例で目標となる800kg/10 aが達成され,通常の水田農家が子実トウモロコシを導入する事例は700kg/10 a弱から750kg/10 a強の範疇に入ると考えられる.このため,目標の収量である800kg/10 aから50kg/10 a単位で減らして水準を設定し,800kg/10 a・750kg/10 a・700kg/10 a・650kg/10 aの4水準を単収の水準とする.
破砕費用(単位:円/kg)
| 費目 | 費用 |
|---|---|
| 労働費 | 2.6 |
| 減価償却費 | 1.4 |
| その他 | 1.2 |
| 総計 | 5.2 |
資料:農研機構畜産研究部門による破砕の実証実験より生産費を算出.
1)単収については含水率15%の原物収量での数値.
2)小数第2位を四捨五入.
現状,子実トウモロコシの利用は極めて限定的であることから,出荷・販売先については,新規での利用が多数であることが予想される.このため,どの程度収益を確保出来るかは不透明であり,水田農家は多額の収益の確保より,最低限損失を出さずに,出荷・販売先に経済的な利点を提示することを初期の出荷・販売戦略では目標とすべきと考えられる.具体的な戦略については,水田農家が収支均衡価格で畜産農家に出荷・販売するとき,現在利用している飼料を子実トウモロコシで代替することにより飼料費が削減可能であることの提示を目標とする.このことは,次の場合に成立する.それは,子実トウモロコシを用いた飼料(以下代替飼料)の費用でその費用のうち子実トウモロコシ部分を収支均衡価格とした費用と既存の飼料(以下既存飼料)に係る費用を比較したときに,代替飼料の費用が既存飼料の費用未満となる場合である.この場合,水田農家は子実トウモロコシの生産によって損失が発生せず,尚且つ畜産農家に対して飼料費の削減を提示することが可能となる.本節においては,この条件について検討する.以下順に対象とする畜種・飼料,取引方法,代替飼料及び既存飼料の費用を詳説し,検討方法を示す.
2) 畜種・飼料検討対象については,畜種は搾乳牛(酪農)とする.また,既存飼料は配合飼料と輸入圧ペントウモロコシ(乾燥トウモロコシ)とする.代替飼料は,品質につき同等の畜産物の生産が可能なものとして,配合飼料についてはその10%を,輸入圧ペントウモロコシについてはその25%を無乾燥子実トウモロコシで代替したものとする.なお,代替飼料の設計については,配合飼料のものは,農研機構(2025a:p. 131)を,輸入圧ペントウモロコシのものは,農研機構(2025a:p. 130)の他に青木他(2016),多田他(2019)を参考とした.
3) 取引方法無乾燥調製された子実トウモロコシは籾米サイレージと同様に耕畜連携を基盤にした地域内での相対取引が一般的であり,少なくとも現状の関東地方において,乾燥調製した飼料用米のように農協への委託等の流通における第三者の介在2は確認されておらず,今後もその兆候は見られない.このことから,トウモロコシの運搬等について第三者の介在はないものする.このため,分析に際し,運送費等の第三者が業務に関わることで生じる費用は今回計上しない.
4) 代替飼料の費用簡易貯蔵の収支均衡価格をPsimple,配合飼料,輸入圧ペントウモロコシの費用についてはそれぞれ,Cmix,Ccornと置く.本中節の小節2の通り,配合飼料はその10%,乾燥トウモロコシはその25%を無乾燥子実トウモロコシで代替するため,代替飼料の費用について配合飼料,輸入圧ペントウモロコシを代替した場合をそれぞれAmix,Acornと置くと以下の(1),(2)式で表すことが出来る.
| (1) |
| (2) |
なお,丸粒だと未消化のまま排泄されてしまいやすく,破砕が前提(農研機構,2025a:p. 129)となるため,収支均衡価格は,破砕が行われた場合の価格(後述の表8の「破砕有」の列)を対象とする.
5) 既存飼料の費用既存飼料の費用については搾乳牛に給与された配合飼料及び輸入圧ペントウモロコシの畜産物生産費統計(農林水産省,2016–2025)を基に算出した2014年~2023年までの費用(円/kg)の変動範囲を対象とする.この範囲について次の処理を行う.上記の費用は名目費用であるため,農業物価統計(2020年基準)・農業生産資材・類別月別年次別価格指数(農林水産省,2024)を用いて,2023年度を100.0とする農業生産資材総合・飼料の価格指数によるデフレートを行い,飼料費の実質費用3とする.なお,本来の農業物価統計は,2020年を100.0とする価格指数であるが,本研究では 収支均衡価格について2023年度の生産費と補助金を基礎として算出していることから,2023年度を100.0として価格指数を換算した.
配合飼料と輸入圧ペントウモロコシの名目・実質の各費用について表3に示す.表3より実質費用については,両飼料ともに2022年以降高騰している事が分かる.このことに鑑み,範囲について水準を設定する.設定内容は,2014年~2021年の間に実質費用が推移した範囲(45.8≤Cmix≤55.7,33.0≤Ccorn≤39.0)を高騰前の水準,2022年の費用以上の範囲(74.3≤Cmix,61.3≤Ccorn)を高騰した水準とする.
既存飼料の費用推移(名目費用・実質費用,単位:円/kg)
| 年度 | 2014 | 2015 | 2016 | 2017 | 2018 | 2019 | 2020 | 2021 | 2022 | 2023 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 名目 | Cmix | 53.3 | 48.4 | 59.9 | 57.8 | 59.9 | 60.4 | 60.2 | 68.8 | 78.4 | 84.2 |
| Ccorn | 40.9 | 41.2 | 37.4 | 41.6 | 41.6 | 38.3 | 38.2 | 48.6 | 64.7 | 64.3 | |
| 実質 | Cmix | 49.8 | 45.8 | 52.8 | 50.6 | 54.6 | 55.7 | 55.2 | 54.6 | 74.3 | 84.2 |
| Ccorn | 38.2 | 39.0 | 33.0 | 36.5 | 37.9 | 35.3 | 35.0 | 38.6 | 61.3 | 64.3 | |
資料:農林水産省(2016–2025)の牛乳生産費・流通飼料及び牧草の使用数量と価額(搾乳牛通年換算1頭当たり)の配合飼料,とうもろこしの関東東山地方のデータ及び農林水産省(2024)の農業生産資材・類別月別年次別価格指数(2020年=100)・価格指数の農業生産資材総合・飼料より著者作成.
1)2023年を100とした農業生産資材総合・飼料の価格指数により,名目費用をデフレートして実質費用を算出.
2)飼料用トウモロコシの自給率は0%であることから,「とうもろこし」のデータは輸入品のデータとみなす.
飼料費削減の提示が可能な条件は,本中節の小節1の通り,代替飼料の費用が既存飼料の費用未満である場合のため,以下の(3)式で示すことが出来る.
| (3) |
これは,以下の(4)式と同意である.
| (4) |
既存飼料の費用である前の小節で設定した水準との比較で(4)式が成立するには,少なくとも水準以下に収支均衡価格が位置することが条件となる.このため,収支均衡価格が位置する水準を検討する.
X法人における2023年度の面積当たりの子実トウモロコシの生産費4について簡易貯蔵による調製を採用した体系を表4に示す.同様に,乾燥調製についても表5に示す.3.(2)1)の通り,乾燥体系については現行の袋詰めを行う場合と今後導入予定の袋詰めを行わない場合があるため,2通りの生産費を算出する.なお,表4,5及び注釈の数値については,10 a当たりの費用は各数値の小数第1位を,kg当たりの費用は各数値の小数第3位を四捨五入した数値である.対象は4月播種とする.この面積当たりの子実トウモロコシの生産費より単収当たりの生産費を算出する.3.(2)2)の通り,単収については,800kg/10 a・750kg/10 a・700kg/10 a・650kg/10 aと設定する.体系別に表6,7に示す.
2023年度簡易貯蔵生産費(単位:円/10 a)
| 作業 | 費目 | 生産費 | |
|---|---|---|---|
| 簡易貯蔵 | 労働費 | α | |
| 減価償却費 | 446 | ||
| 資材費 | β | ||
| その他 | γ | ||
| 合計 | 446+α+β+γ | ||
| 栽培 | 労働費 | 4,540 | |
| 減価償却費 | 施設 | 536 | |
| 機械 | 15,747 | ||
| 資材費 | 22,505 | ||
| その他 | 28,875 | ||
| 合計 | 72,204 | ||
| 総計 | 72,650+α+β+γ | ||
資料:ヒアリング及び収集した帳票類を参考に作成.
1)労働費は1500円/hで1名の労働として計算し,0.69円/kgを簡易貯蔵の労働費とし,αとする.
2)簡易貯蔵の資材費は,耐候性フレキシブルコンテナ,プラスチックシート内袋,遮光ネット,防鳥ネット,防草シート,フレコンバックスタンドの費用である.このうち耐候性フレキシブルコンテナとプラスチックシート内袋の費用は収量につき費用が変動し,それぞれ3.38円/kgと0.59円/kgである.簡易貯蔵の資材費はβとする.
3)簡易貯蔵のその他は,フォークリフトの修繕費156円/10 aとその燃料費の0.43円/kgとなり,γとする.
2023年度乾燥調製生産費(単位:円/10 a)
| 作業 | 費目 | 生産費 |
|---|---|---|
| 粗選別・ 袋詰め |
労働費 | δ(δ') |
| 減価償却費 | 789(270) | |
| 資材費 | ε | |
| その他 | ζ | |
| 合計 | 789+δ+ε+ζ (270+δ'+ζ) |
|
| 乾燥 | 労働費 | η |
| 減価償却費 | 2,022 | |
| 資材費 | θ | |
| その他 | ι | |
| 合計 | 2,022+κ | |
| 栽培 | 72,204 | |
| 総計 | 75,015+δ+ε+ζ+κ (74,497+δ'+ζ+κ) |
|
資料:ヒアリング及び収集した帳票類を参考に作成.
1)カッコ内は,袋詰めを行わなかった場合の費用.
2)労働費は1500円/hで,粗選別と袋詰めの両方を行う場合のみ2名,その他の作業は1名の労働として計算する.粗選別・袋詰めについては袋詰めの有無でそれぞれの労働費は3.30,1.65円/kgで,乾燥については0.44円/kgとなり,各労働費をδ,δ',ηとする.
3)資材費は,粗選別・袋詰めについては,袋詰めがある場合は袋の費用が2.27円/kgで,ない場合は費用が生じない.乾燥についてはフレキシブルコンテナの費用が2.38円/kgである.各資材費をε,θとする.
4)その他は粗選別・袋詰めでは修繕費の276(95)円/10 aと電気代0.08円/kg,乾燥では修繕費322円/10 a,乾燥機に係る灯油代の1.14円/kgと電気代の0.17円/kg,フォークリフトの燃料費0.28円/kgである.各その他をζ,ιとする.
5)κ=η+θ+ιとする.
簡易貯蔵体系収量別生産費(単位:円/kg)
| 単収 | 生産費 |
|---|---|
| 650 | 118.4 |
| 700 | 110.3 |
| 750 | 103.3 |
| 800 | 97.2 |
1)単収については含水率15%の原物収量での数値.
2)小数第2位を四捨五入.
乾燥体系収量別生産費(単位:円/kg)
| 袋詰め 単収 |
有 | 無 |
|---|---|---|
| 650 | 126.4 | 121.4 |
| 700 | 118.1 | 113.2 |
| 750 | 110.9 | 106.1 |
| 800 | 104.6 | 99.8 |
1)単収については含水率15%の原物収量での数値.
2)小数第2位を四捨五入.
収支均衡価格については,3.(2)2)の通り,破砕費用の加算の有無で場合分けをして算出する.結果については表8,表9に示す.以上の結果より,乾燥調製と簡易貯蔵の収支均衡価格について単収と破砕の有無が同一の場合を比較すると,簡易貯蔵の導入により約15.4~5.3%の低下となる.
簡易貯蔵収量別収支均衡価格(単位:円/kg)
| 単収 |
破砕有 | 破砕無 |
|---|---|---|
| 650 | 54.3 | 49.2 |
| 700 | 51.2 | 46.0 |
| 750 | 48.5 | 43.3 |
| 800 | 46.1 | 40.9 |
1)単収については含水率15%の原物収量での数値.
2)小数第2位を四捨五入.
乾燥体系収量別収支均衡価格(単位:円/kg)
| 単収 |
破砕有 | 破砕無 | ||
|---|---|---|---|---|
| 袋有 | 袋無 | 袋有 | 袋無 | |
| 650 | 62.4 | 57.4 | 57.2 | 52.2 |
| 700 | 59.0 | 54.1 | 53.8 | 48.9 |
| 750 | 56.1 | 51.2 | 50.9 | 46.1 |
| 800 | 53.5 | 48.7 | 48.4 | 43.6 |
1)単収については含水率15%の原物収量での数値.
2)小数第2位を四捨五入.
また,簡易貯蔵の収支均衡価格を配合飼料の費用と比較したときは,高騰前の水準でも(4)式が成立する場合があった.一方で,輸入圧ペントウモロコシと比較したときには,高騰した水準でのみ(4)式は成立した(表3,表8).
簡易貯蔵を導入する水田農家が畜産農家へ提示できる飼料費は次の通りとなる.まず,配合飼料を代替する場合,代替する配合飼料の市場価格の高騰がなくとも,飼料費削減を提示できる可能性がある.一方,輸入圧ペントウモロコシを代替する場合,飼料費削減の提示が可能となるのは市場価格が高騰している状況に限られる.従って,飼料費削減の提示については,配合飼料の代替と比較し,輸入圧ペントウモロコシの代替の場合には市場価格の変動の影響により提示機会が大幅に制限されると考えられる.また,輸入圧ペントウモロコシについては乾燥調製された子実トウモロコシによる代替も可能であるが,収支均衡価格は,乾燥調製に比べて簡易貯蔵の方が低額となる.このため,簡易貯蔵の導入により経済的な利点即ち費用削減の提示は行いやすい.一方で,3.(2)1)の通り,品質管理と搾乳牛への給与量に留意が必要で,酪農家がこれらの留意点を許容するかが要点になると考えられる.
(2)技術上の改善目標収支均衡価格と配合飼料の実質費用を比較する場合,単収800kg/10 aであると高騰前の水準下では2015年以外の年度で収支均衡価格が実質費用を下回る.一方で,単収が650kg/10 aであると2018年から2021年までの間で収支均衡価格が実質費用を下回る.以上より,既存飼料の市場価格の変動による影響を抑制し,より広範な期間で酪農家への飼料費削減を提示可能とするため,単収を増やすことが技術上の改善目標となる.また,3.(2)1)の通り,簡易貯蔵された子実トウモロコシは含水率が高く密封が損なわれたときの品質の劣化が早い.このため,乾燥調製に比べて,広域流通に不向きであり,地域内流通が主体となる.技術改良による流通の広域化は多くを望めないが,地域内流通において品質の維持をより長期且つ確実にする技術改善も目標となる.
今回,水田農家については,損失が発生しない最低条件即ち利潤を0として出荷・販売に関する検討を行った.しかし,利潤確保のためには,収支均衡価格より高額な価格での販売が必要となる.このため,酪農に限らず畜産農家の無乾燥調製された子実トウモロコシの需要と,それがある場合の畜産農家の支払意思額について分析し,水田農家の収益を高める出荷・販売先の検討を行う.また,水田農家が子実トウモロコシを生産する目的について,今回は導入経緯に触れるのみであったが,より詳細に経営上の位置づけを明確化し,収益目標を設定したうえで,必要な出荷・販売単価を検討する.この他,3.(1)の通り,本内容の一般化即ち適用条件の検討が必要となる.
本研究成果の一部は,農林水産省委託プロジェクト研究「畜産生産の現場に濃厚飼料を安定・低コストに供給できるシステムの開発(JPJ009818)」(令和3~7年)により得られたものである.