2026 年 62 巻 3 号 p. 138-145
Consumer acceptance is an important factor in expanding the application of sewage-sludge fertilizer. This study investigates consumer acceptance of the agricultural use of sewage-sludge fertilizer and purchase intention for products grown using it. Based on data from an online survey of 1,860 consumers nationwide, we employed a generalized ordered logit model for analysis. The findings reveal that public awareness of sewage-sludge fertilizer is markedly lower than that of conventional fertilizers and is frequently associated with negative perceptions. Crucially, higher consumer acceptance of its agricultural use significantly strengthens the purchase intention for the resulting agricultural products. We conclude that initiatives aimed at enhancing consumer acceptance are important for the widespread dissemination of sewage-sludge fertilizer.
我が国は主な化学肥料原料である尿素,リン酸アンモニウム,塩化カリウムをほぼ全量輸入によって賄っており,肥料価格は,化学肥料原料の国際価格や運送費の影響を大きく受ける構造となっている(農林水産省,2025a).この輸入依存の構造から脱却するため,農林水産省は2030年までに家畜排せつ物由来堆肥・下水汚泥肥料の使用量を倍増し,肥料使用量に占める国内資源利用割合を40%(リンベース)へ引き上げることを掲げている(農林水産省,2025a).これらの国内資源のうち,家畜排せつ物は,発生量の81.3%(2024年)が堆肥等として農業利用されている(農林水産省,2025b).その一方,下水汚泥の農業利用は14.7%(2023年)に留まっており,拡大の余地を残している(国土交通省,2025a).
ところで,下水汚泥の肥料利用(特に,コンポスト化)を阻害する要因の一つに「重金属等も含めた下水道へのネガティブイメージ」が挙げられる(国土交通省,2025b).このイメージは,農業生産者の利用意向を下げるだけでなく(龍神・加藤,2025),下水汚泥肥料を使用して栽培された農産物に対する消費者の評価をも低めることに繋がっている(森嶋,2025).このように,下水汚泥肥料の普及拡大を考える上では,生産者サイドへのアプローチだけでなく,消費者が下水汚泥肥料の使用を受容できるかについても考慮する必要がある.そこで,本研究では消費者の意識と購買意思に着目した分析を通じて,消費サイドから下水汚泥肥料の普及戦略を検討する.
下水汚泥肥料に関する既往研究として,16か国20大学の学生・教職員を対象としたアンケート調査を実施したSimha et al.(2021)は,人尿由来の肥料を用いて栽培された食品の喫食意向は平均59%であるが,国によって14%~80%と大きな幅があることを示した.また,人尿由来肥料・牛糞の農業利用,尿のリサイクルを受容する者は,喫食意向が高いことを指摘した.欧州7か国を対象としたLienert and Larsen(2010)は,人尿由来肥料で栽培された食品の購買意思は平均して68%であること,受容度と相関する個人属性は肥料の使途によって異なることを明らかにした.Segrè Cohen et al.(2020a)は,米国民を対象とした人尿由来の肥料に関するリスクコミュニケーション手法を検証し,文章と比較して動画が最も効果的であること,年齢が高いほどその効果が高まることを指摘した.これらの他に米国(Segrè Cohen et al., 2020b),フランス(Stenger, 2000)を対象とした研究が見られる.
我が国の消費者を対象とした研究は次の通りである.Pickering et al.(2024)は,イングランドと日本の比較分析から,日本人はイングランド人と比較して人し尿由来肥料を用い生産された農産物を食べることに対する受容割合が高く(日本:イングランド=37%:31%),農産物の健康被害に対する危惧も小さいことを示した.また,いずれの用途についても共通して女性の受容度が低いことを指摘した.また,森嶋(2025)では,下水汚泥肥料を用いて栽培された農産物に対する価格を価格感度測定法によって評価し,有機質肥料・化学肥料を利用した場合と比較して,低い価格評価を下していることを解明した.
以上の下水汚泥肥料の社会的な受容に関する研究を整理すると,国によって受容度合いが異なるが,多くの事例で共通して性別,年齢といった個人属性が関係していることが指摘されている.ただし,日本を対象とした研究は限られており,特に,下水汚泥肥料の用途の違いによる受容度の差異の検討や,肥料に対するイメージといった点が十分に明らかになっていない.また,消費者サイドからの普及を推し進めるためには,消費者が下水汚泥肥料の農業利用を受容し,購買に至らなければならない.しかし,先行研究では,購買意思と,個人属性,肥料自体に対する受容度等との関係は十分検証できていない.そこで,本研究では肥料の用途やイメージなどの解明に加え,下水汚泥肥料を用いて栽培した農産物の購買意思を定量的に評価し,下水汚泥肥料の利用拡大に向けた消費者サイドからの普及戦略を検討することを目的としたい.
2025年2月に(株)マクロミルの保有するモニターに対してオンライン調査を実施した.調査は20歳以上の成人男女を対象とし,年齢10歳階級男女別の回答数が均等になるように1,860名の回答を得た.ただし,60歳以上は一つの階級とみなしている.調査項目として,年齢,性別,居住地等の基礎的な属性に加え,生鮮食品の調達先や,肥料の認知度・印象,肥料用途別の受容度,下水汚泥肥料を用いて栽培した農産物に対する購買意思等を設定した.分析には,普段生鮮農産物を購入しないと回答した100名を除外した1,760名を用いる.なお,本研究では下水汚泥肥料の説明を回答者に提供していない.
(2)順序ロジットモデル本研究では,下水汚泥肥料によって栽培された農産物に対する購買意思を4段階で尋ねている.このような順序のある尺度を被説明変数として分析に適したモデルとして順序選択モデルが挙げられる.以下では,Winkelmann and Boes(2009)を参考にモデルの簡単な説明をする.
被説明変数
| (1) |
ただし,
| (2) |
ただし,
| (3) |
これらの関係から,累積分布関数
| (4) |
ここで,誤差項
式(4)は閾値に関わらず
| (5) |
となる.ただし
これを一般化順序ロジットモデルと呼び,本研究では順序ロジットモデルと併せて分析する.なお,分析には統計ソフトウェアStataNow 19.5のologit,gologit2を用いた.
回答者属性は表1に示す通りである.年齢10歳階級男女別に均等割付を行ったが,前述のデータクリーニングを行ったため,分析に用いるデータは性別,年齢について厳密には均等になっていない.居住地については令和2年国勢調査の20歳以上の人口分布と極端な違いはない.その他,園芸経験や日常の農産物購入先については表2を参照されたい.
回答者属性
| 項目 | 回答者数 | 割合 | |
|---|---|---|---|
| 性別 | 男性 | 868 | 49.3% |
| 女性 | 892 | 50.7% | |
| 年齢 | 20~39 | 682 | 38.8% |
| 40~59 | 709 | 40.3% | |
| 60~ | 369 | 21.0% | |
| 居住地 | 北海道・東北 | 214 | 12.2% |
| 関東 | 606 | 34.4% | |
| 中部 | 302 | 17.2% | |
| 近畿 | 327 | 18.6% | |
| 中国・四国 | 143 | 8.1% | |
| 九州・沖縄 | 168 | 9.5% |
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)「割合」はサンプルサイズに対する割合を示す.
園芸経験・生鮮農産物購入先
| 項目 | 回答者数 | 割合 |
|---|---|---|
| 園芸経験 | ||
| 10年以上 | 229 | 13.0% |
| 6~9年 | 54 | 3.1% |
| 4~5年 | 110 | 6.3% |
| 2~3年 | 163 | 9.3% |
| 1年以内 | 193 | 11.0% |
| 経験なし | 1,011 | 57.4% |
| 生鮮農産物購入先 | ||
| スーパーマーケット | 1,577 | 89.6% |
| 農産物直売所 | 499 | 28.4% |
| 生協(店舗を含む) | 304 | 17.3% |
| ドラッグストア | 304 | 17.3% |
| ディスカウントストア | 209 | 11.9% |
| 生産者直売 | 200 | 11.4% |
| 専門店(米屋・八百屋) | 191 | 10.9% |
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)「園芸経験」は「自身で花や野菜などの植物を育てた経験」についてのサンプルサイズに対する割合を指す.
2)「生鮮農産物購入先」は「普段の生鮮農産物購入先上位3つ」に選択されたサンプルサイズに対する割合を示す.
各種肥料に対する知識について表3に示す7段階で尋ねた.下水汚泥肥料に対する回答を見ると,68.6%が「初めて聞いた」を選択しており,下水汚泥肥料は一般に浸透しているとは言い難い.7段階の評価をそれぞれ1~7 ptに変換し,便宜的に化学肥料,牛ふん堆肥,下水汚泥肥料の各平均値を算出すると,2.76,2.62,1.61となり,下水汚泥肥料の認知度は他の肥料と比較して有意に低い結果となった.
各種肥料に対する知識の項目別回答者数
| 1.初めて聞いた | 2.名前を聞いたことはある | 3.少しは知っている | 4.ある程度は知っている | 5.それなりに詳しい | 6.かなり詳しい | 7.とても詳しい | 平均 | |
|---|---|---|---|---|---|---|---|---|
| 化学肥料 | 98 (5.6%) |
805 (45.7%) |
429 (24.4%) |
317 (18.0%) |
78 (4.4%) |
18 (1.0%) |
15 (0.9%) |
2.76 |
| 牛ふん堆肥 | 283 (16.1%) |
672 (38.2%) |
389 (22.1%) |
311 (17.7%) |
66 (3.8%) |
21 (1.2%) |
18 (1.0%) |
2.62 |
| 下水汚泥肥料 | 1208 (68.6%) |
263 (14.9%) |
130 (7.4%) |
116 (6.6%) |
24 (1.4%) |
11 (0.6%) |
8 (0.5%) |
1.61 |
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)各肥料の認知度についてFriedman検定(p<0.05)を実施の上,Nemenyi検定で各ペアを事後比較した結果,全ての群間に有意差が確認された(p<0.05).
2)括弧内の数値はサンプルサイズに対する割合を示す.
次いで,この三種類の肥料に対して消費者が持つイメージをSD法(Semantic Differential Method)によって測定した.評価項目は図1に示す10個の形容詞対とした.主な結果を見ると,下水汚泥肥料は他の肥料と比較して,「汚い」,「嫌い」,「不安」といった印象を抱く傾向が見られる.下水汚泥肥料の知識をもつ者がほとんどいない中で,このような印象を抱かせている要因は,「下水」や「汚泥」という語句のイメージであると説明できる.実際,下水汚泥肥料を「少しは知っている」以上と回答した知識有の印象は,全体平均と比較すると良い傾向にあることが見て取れる.

各種肥料に対する印象
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)「下水汚泥肥料(知識有)」は下水汚泥肥料について「少しは知っている」以上を選択した者の平均値.
ところで,肥料は食用の農産物を栽培するためだけに利用されるのではなく,非食用の花木や家畜飼料を栽培する際にも利用されている.そこで,用途の違いによって各種肥料の受容度合いが変わるかを確認する.ここではSegrè Cohen et al.(2020b)を参考に,非食用(花や芝生など非食用の植物を栽培するため),飼料用(家畜の餌とする植物を栽培するため),庭木用(自宅の周りに植えている草や木などに使用するため),食用(米や野菜など人々が食べる作物を栽培するため)の4つの用途別に受容の程度を7件法で尋ねた.結果は表4の通りである.ここでは下水汚泥肥料に関連する項目を中心に結果を見る.下水汚泥肥料の用途別の受容度は高い順に,非食用,飼料用,庭木用,食用となった.食用が他の用途と比較して受容度が低いことは,摂食を回避したい意思の表れであると解釈ができる.その一方で,食料生産を目的としない庭木用の利用が,家畜を介した間接的摂食である飼料用としての利用よりも受容されない結果となった.この理由として,下水汚泥肥料に対する汚い,嫌いといった負のイメージがあり,自身の普段の居住空間周辺に置きたくない,自身が扱いたくないという考えが,摂食を回避したい意思を上回ったことが一因にあると推察される.なお,下水汚泥肥料については非食用を除いて中立評価である4より小さく,全体として使用を許容しない傾向にある.また,他の2種類の肥料と比較しても,どの用途においても受容度が最低となった.
用途別の肥料の受容度
| 化学肥料 | 牛ふん堆肥 | 下水汚泥肥料 | ||
|---|---|---|---|---|
| 非食用 | 平均 | |||
| 標準偏差 | (1.28) | (1.29) | (1.31) | |
| 飼料用 | 平均 | |||
| 標準偏差 | (1.28) | (1.27) | (1.28) | |
| 庭木用 | 平均 | |||
| 標準偏差 | (1.31) | (1.40) | (1.34) | |
| 食用 | 平均 | |||
| 標準偏差 | (1.36) | (1.43) | (1.32) |
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)肥料×用途別の使用について「まったく同意しない」「ほぼ同意しない」「やや同意しない」「どちらでもない」「やや同意する」「ほぼ同意する」「非常に同意する」の7段階で尋ねている.「平均」はこれらの7段階の評価を1~7ptに変換して算出したものである.
2)「平均」の上付き文字は用途ごとの肥料別受容度(横向)を,下付き文字は肥料ごとの用途別受容度(縦向)の検定結果を示しており,異なる文字間においてはp<0.05で有意差があることを意味する.なお,検定はFriedman検定を実施の上,Nemenyi検定で各ペアを事後比較している.
最後に,下水汚泥肥料を用いて栽培された農産物の購買意思について見る(表5).この際,下水汚泥を肥料として栽培された農産物と,その愛称である「じゅんかん育ち」ブランドの農産物1の両方に対する購買意思を4段階で尋ねた.まず,肥料名をそのまま提示した場合,普段の支払いと比較して「安い金額であっても購入するつもりはない」(以下,「購入しない」)が選択された割合は37.4%と最も多く,「安い金額の場合のみ,購入するつもりはある」(以下,「安ければ購入」)が僅差で36.9%となった.「同程度の金額の場合のみ購入するつもりはある」(以下,「同額で購入」)は23.8%,「高くても購入するつもりはある」(以下,「高くても購入」)は僅かに1.9%となった.一方,愛称である「じゅんかん育ち」ブランドの農産物として提示した場合は,「購入しない」を選択した回答者が18.8%となったほか,「同額で購入する」が42.8%で最頻値となった.イメージの良い愛称を使用することで,消費者の購買意思は改善する可能性がある.ただし,同一設問で「じゅんかん育ち」と「下水汚泥肥料を用いた農産物」への購買意思を尋ねており,回答者は両者を比較して評価した可能性があることに注意が必要である.
各農産物に対する購買意思
| 項目 | 下水汚泥肥料 | じゅんかん育ち | ||
|---|---|---|---|---|
| 回答数 | 割合 | 回答数 | 割合 | |
| 1.購入しない | 659 | 37.4% | 330 | 18.8% |
| 2.安ければ購入 | 649 | 36.9% | 609 | 34.6% |
| 3.同額で購入 | 419 | 23.8% | 754 | 42.8% |
| 4.高くても購入 | 33 | 1.9% | 67 | 3.8% |
| 平均 | 1.94 | 2.32 | ||
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)「割合」はサンプルサイズに対する割合を示す.
下水汚泥肥料を用いて栽培された農産物に対する購買意思を被説明変数とした順序ロジットモデルを分析する.ただし,「高くても購入」は回答割合が小さいため,「同額で購入」と合算して「同額以上で購入」とした.ここでの購買意思とは,普段の支払金額と比較した際の購買意思を示したものであり,支払意思額(WTP)の区間を表している.つまり,普段の支払金額を
分析に用いる変数は表6の通りである.先行研究において購買意思との関係が確認されている性別や年齢の他に,下水汚泥の肥料利用が活発な地域では,居住者が日頃の農産物調達や周囲の口コミなどで下水汚泥肥料やそれを用いた農産物に接触する機会が高まり,その結果としてWTPが向上すると仮定し,「肥料リサイクル率」を採用した.他に,家庭菜園などの園芸を通じて獲得される栽培・植物生育に関する知識,日ごろの農業・生産者との距離感や農産物消費のこだわりが下水汚泥肥料や農業への正しい理解を促進し,WTPの上昇につながると仮定し,「園芸経験」,「日常的な直売所利用」を含めた.また,下水汚泥肥料に関する知識は,肥料の名称から受ける悪印象を緩和し,購買行動に繋がると想定されるため,「下水汚泥肥料の知識」を加えた.最後に,下水汚泥肥料の受容度が高ければ,それに合わせてWTPも増加すると考えられるため,受容度が最も高いと考えられる「食用OK」とそれに次ぐ受容度を示す「食用以外OK」の2つの変数を追加した2.
分析に用いた変数
| 変数名 | 説明 |
|---|---|
| 購買意思 | 順序:下水汚泥を用いて栽培された農産物について,普段の支払いと比較して,「(安くても)購入しない」=1,「安ければ購入」=2,「同額以上で購入」=3 |
| 性別 | ダミー:女性=1,男性=0 |
| 若年 | ダミー:20~30代=1,その他=0 |
| 高齢 | ダミー:60代以上=1,その他=0 |
| 肥料リサイクル率 | 連続:居住する都道府県における下水汚泥の肥料リサイクル率(国土交通省,2025b) |
| 園芸経験 | 順序:10年以上=6, 6~9年=5, 4~5年=4, 2~3年=3, 1年以内=2, 経験なし=1 |
| 日常的な直売所利用 | ダミー:日常の生鮮農産物購入先上位3つに農産物直売所,生産者直売の何れかを選択した場合=1,それ以外=0 |
| 下水汚泥肥料の知識 | ダミー:「初めて聞いた」または「名前を聞いたことはある」を選択した場合=0,それ以外=1 |
| 食用以外OK | ダミー:食用以外で非食用,飼料用,庭木用のいずれか1つでも下水汚泥肥料の使用に賛同(「やや同意する以上」)=1,それ以外=0 |
| 食用OK | ダミー:食用での下水汚泥肥料の使用に賛同(「やや同意する」以上)=1,それ以外=0 |
資料:筆者作成.
なお,「食用以外OK」「食用OK」は購買決定の直前に位置する心理的側面を反映した変数と考えられる.そこで,媒介による他の説明変数の効果の過小評価を防ぐため,これら2つの変数を除いたモデル1と,全ての変数を含めたモデル2の両方を推定した.また,Brant検定およびWald検定を実施したところ,下水汚泥肥料の受容度を示す「食用以外OK」および「食用OK」の各説明変数で平行性の仮定が棄却された(p<0.05).従って,これらの2つの変数についてのみ共通パラメータ制約を緩和した一般化順序ロジットモデルをモデル3として設定した.
結果は表7に示すとおりである.まず,モデル1,2,3の結果を概観すると,有意となったパラメータについて正負の方向には違いがない.また,モデル1と比較しモデル2,3では係数値が減少していることから,「食用以外OK」および「食用OK」の2変数が,他の説明変数の効果の一部を捉えている可能性が示唆される.
各モデルの推定結果
| 変数 | モデル1 | モデル2 | モデル3 | |||
|---|---|---|---|---|---|---|
| 係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | 係数 | 標準誤差 | |
| 性別:女性 | −0.115 | 0.090 | −0.038 | 0.092 | −0.035 | 0.093 |
| 年齢:若年(20–30代) | −0.067 | 0.099 | −0.037 | 0.101 | −0.042 | 0.102 |
| 年齢:高齢(60代以上) | −0.170 | 0.126 | −0.115 | 0.126 | −0.114 | 0.126 |
| 肥料リサイクル率 | −0.193 | 0.216 | −0.361 | 0.222 | −0.368 | 0.224 |
| 園芸経験 | 0.084*** | 0.027 | 0.067** | 0.028 | 0.066** | 0.028 |
| 日常的な直売所利用 | 0.400*** | 0.101 | 0.448*** | 0.103 | 0.449*** | 0.102 |
| 下水汚泥肥料の知識 | 0.697*** | 0.128 | 0.513*** | 0.132 | 0.521*** | 0.133 |
| 食用以外OK | 0.461*** | 0.105 | ||||
| 食用以外OK 1|2 | 0.641*** | 0.125 | ||||
| 食用以外OK 2|3 | 0.180 | 0.139 | ||||
| 食用OK | 1.582*** | 0.135 | ||||
| 食用OK 1|2 | 1.945*** | 0.218 | ||||
| 食用OK 2|3 | 1.374*** | 0.153 | ||||
| Wald χ2 | 89.275 | 223.600 | 223.641 | |||
| Pseudo R2 | 0.024 | 0.060 | 0.064 | |||
| Log pseudolikelihood | −1863.617 | −1795.277 | −1787.613 | |||
| AIC | 3745.233 | 3612.555 | 3601.225 | |||
| BIC | 3794.491 | 3672.758 | 3672.375 | |||
資料:アンケート調査を元に筆者作成.
1)全てのモデルにおいてサンプルサイズは1,760で,ワルド検定の結果は統計的に有意であった(p<0.01).
2)***,**,*は,それぞれ1%,5%,10%で有意であることを示している.なお,標準誤差はロバスト標準誤差である.
3)多重共線性の検証のためモデル2の変数を用いたOLSモデルよりVIFを算出した結果,最大値は1.24であった.
4)モデル3の末尾に付した「1|2」はカテゴリー1「購入しない」と2「安ければ購入」を分ける閾値に対応するパラメータ,「2|3」はカテゴリー2「安ければ購入」と3「同額以上で購入」の閾値に対応するパラメータを示している.
先行研究で指摘されている性別,年齢の違いによる購買意思の差異は見られなかった.これは,分析手法や変数の組合せの違いが影響していると見られる.また,下水汚泥の肥料リサイクル率との関係性も確認できず,地域のリサイクル率と居住者の購買意思には一貫した関連性が見られない結果となった.
園芸経験は,正に有意となった.家庭菜園などの園芸を通じて獲得される農業生産や植物の生育,肥料に関する知識が影響していると考えられる.また,日常的に生鮮農産物の購入先として直売所を利用する回答者も,係数が正に有意になった.農産物直売所や生産者直売を利用する者は,普段の農産物購買局面において特定の生産者や産地に関する様々な情報に触れており,農業生産活動に対する理解や信頼が醸成されているため,下水汚泥肥料を利用した農産物についてもWTPが高いと推察される.
下水汚泥肥料の知識をもつ者は,それ以外と比較して購買意思が高い.一定の知識を有することで,下水汚泥肥料の字面から連想される負のイメージを払拭し,WTPの低下を防いでいると考えられる.
下水汚泥肥料の受容度について見ると,食用以外OK,食用OKのいずれのパラメータも正に有意であり,使用を受容する者の購買意思は高い傾向にあることが分かる.ただし,モデル3からも分かる通り,両者の作用の強度や経路は若干異なる.食用以外OKは,「購入しない」と「安ければ購入」の閾値にのみ効果が確認された.つまり,食用以外の使用については受容できるレベルにあれば,WTPが正の値をとる可能性が高まるものの,普段の支払金額以上になるまでには至らない.一方で,食用まで受容できるレベルにあると,価格に関わらず購入するという購買意思の形成に寄与すると示唆される.
(4)考察以上を踏まえて,下水汚泥肥料の普及に向けた消費者サイドからの普及戦略について考察する.
順序ロジットモデルの結果から下水汚泥肥料の知識を有する者のWTPが高まる傾向が確認された.ただし,日常の生鮮農産物の購買局面を考えると,商品パッケージで説明できる内容は限られている.従って,下水汚泥肥料に関する詳細な説明を,商品の外観だけで提供することは難しいと予想される.8割強の回答者が下水汚泥肥料の知識を持ち合わせていない国内市場において,十分な説明もなく下水汚泥肥料を使用している旨を表示すると,却って図1のように「下水汚泥肥料」の字面から想起される悪印象のみを与えてしまう可能性すらあり,得策とは言えない.そこで,別の普及策を2つ提示したい.
一つに,購買意思が比較的高かった直売所利用者に対して,農産物直売所等でのイベントなどを開催し,その場で生産者や行政,肥料事業者,研究者といった関係者からの説明,対話の機会を設けることで,下水汚泥肥料に関する正しい知識を提供し,着実な購買に結びつけるという方策が考えられる.
二つに,下水汚泥肥料の使用に対する受容度を高めるために,一般市民に対して下水汚泥肥料を配布する策である.実際,下水汚泥肥料の先進事例である岩見沢市や神戸市,佐賀市などでは,普及のために市民へ無償で配布されたことがある3.こうした事業を通じて,肥料の使用に対する抵抗感を緩和し,食用作物への使用の受容を高める策が考えられる.
本研究では,消費者に対するアンケート調査を通じて,肥料の用途別受容度やイメージなどを解明した.また,これらと下水汚泥肥料の購買意思との関係を定量的に評価し,消費者サイドから下水汚泥肥料の普及拡大に向けた戦略を検討した.全体的な結果として,下水汚泥肥料の認知度は非常に低く,他の肥料と比較して負のイメージを抱かれやすく,受容度が低い傾向が確認された.また,こうした低い受容度が購買意思を低めることに繋がっていることが,順序ロジットモデルを用いた分析によって判明した.本研究全体の分析結果より,商品に直接説明を入れるのではなく,農産物直売所等での販促活動や,肥料の配布による受容度の向上などの取り組みが必要であると結論付けた.
ただし,本研究では下水汚泥肥料にまつわる情報を回答者に提示していない.こうした情報提供による消費者の意識変容を測定するには至らなかった.また,消費者がどのような理由で下水汚泥肥料を受容しているのか,その心理的な背景について詳細な分析ができていない.これらは今後の課題としたい.
本実証課題は農林水産省「下水汚泥資源の活用促進モデル実証(課題番号:下5F2コ)」(事業主体:農研機構)の支援により実施された.