2020 年 2019 巻 23 号 p. 24-44
日本では、同一の不動産仲介業者が売り手と買い手の代理人になる兼任制度(いわゆる「両手取引」)による不動産取引が常態化しており、それが既存住宅市場を停滞させる一つの要因であるといった指摘が多く見受けられるが、それらは理論的な根拠に基づいて論じられてきたわけではない。本稿の目的は、兼任制度とクロス・エージェンシー(いわゆる「片手取引」)で、価格付けと取引確率にどのような違いが生じるのかを明示的に分析するための理論的基礎を提供することである。取引確率や社会的余剰の観点で評価すると、両制度の優劣が売り手の異質性の度合い(留保価格の分散)に応じて変化することが示される。また、兼任制度における提示価格は比較的高いが、兼任制度からクロス・エージェンシーへの変更が強制される制度の下では、提示価格が大幅に値引きされる可能性があることが理論的に示される。