本論文は、賃金格差に対するソーティングの効果を測定するものである。まず、日本における個票データを用いて、賃金関数を推定することで、各労働者固有のスキルを推定する。その結果、大都市圏居住の労働者は、非大都市圏居住の労働者よりも平均で9.68%高いスキルを持つことが示されたさらに、移住によるソーティングの効果を測定するため、移住が存在しない(労働者が出身地に留まる)仮想状況を想定し、その下での労働者の地域間スキル格差を計測した結果、スキル格差は5.56%となることが分かった。これは、移住が賃金格差を22.0%拡大させていることに対応する。これらの結果から、出身地による格差と移住行動の両方が賃金格差にとって重要であるということが言える。さらに本論文では、移住によるソーティングの様相が、労働者属性によって異なることも分かった。
日本では、同一の不動産仲介業者が売り手と買い手の代理人になる兼任制度(いわゆる「両手取引」)による不動産取引が常態化しており、それが既存住宅市場を停滞させる一つの要因であるといった指摘が多く見受けられるが、それらは理論的な根拠に基づいて論じられてきたわけではない。本稿の目的は、兼任制度とクロス・エージェンシー(いわゆる「片手取引」)で、価格付けと取引確率にどのような違いが生じるのかを明示的に分析するための理論的基礎を提供することである。取引確率や社会的余剰の観点で評価すると、両制度の優劣が売り手の異質性の度合い(留保価格の分散)に応じて変化することが示される。また、兼任制度における提示価格は比較的高いが、兼任制度からクロス・エージェンシーへの変更が強制される制度の下では、提示価格が大幅に値引きされる可能性があることが理論的に示される。
本研究では、オーストラリアのニュー・サウス・ウェールズ州のガソリン小売市場の価格データの実証分析を行い、エッジワース・サイクル(EC)と呼ばれる小売価格の循環的変動の周期に影響を与えるものが何かを分析した。検証の結果、(A)人口あたりの店舗数が多い地域ほどECの周期が長くなる傾向があることが示された。次に(A)の発生機構を説明するため、地域ごとの店舗の価格決定様式を推定した。その結果、(B1)人口あたりの店舗数が多い地域ほど、「地域の平均価格」よりも「州の平均価格」を価格決定の際に店舗が重視しやすいことと、(B2)「州の平均価格」を店舗が重視する地域ほどECの周期が長くなりやすいことが示された。更に、(B1)、(B2)により(A)が説明されうることを示した。
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