抄録
石器の接合資料とは,同一の石核から製作された石器同士が接合され,隣接する石器間の位置や姿勢を復元した資料のことである.接合資料の作成は,通常1 つの遺跡から出土した資料群を母集団として行われるが,その中に母岩を復元するために必要な全ての石器が含まれるとは限らない.しかしながら復元のために,出土したすべての石器を対象として組み立てを試行することは難しい.そのため,組み立てをいつ終了するか,すなわち,組み立てにおける終了条件の決定が非常に困難である.また,一般に接合資料作成は試行錯誤を伴う手作業で行われるため,作業者の負担が大きい.従来,計算機を用いて石器の剥離面を抽出し,剥離面同士のマッチングを行うことによって接合資料を作成する手法が提案されている.しかし,従来手法は,複数の石器剥離面が合併し,ひとつの剥離面を構成するような複雑な剥離面に対して探索が困難である.また,探索対象となる全ての石器剥離面に総当りでマッチングを行わなければならないため,探索に非常に時間がかかり,大量の石器に適用することが困難である.そこで,本研究では複数の石器剥離面で構成される複雑な剥離面に対して,隣接する石器を探索できる高速な剥離面探索手法を提案する.本手法では,石器を計測した計測点群から自動的に剥離面上の点群を抽出し,特徴量を計算する.次に,計算した特徴量を用いて,接合する石器の剥離面同士をマッチングして,隣接する剥離面候補を高速に探索する.その後,候補となる剥離面から適切な石器を選出し,姿勢最適化手法を用いて接合する.最後に,接合した2つの石器剥離面と隣接する剥離面を解析して,複数剥離面をひとつの剥離面に併合することで,複雑な剥離面に対しても石器接合資料作成を自動化できることを検証する.