女性学年報
Online ISSN : 2434-3870
Print ISSN : 0389-5203
日本の左派とフェミニストの中にある新自由主義認識の問題点
家族賃金・能力主義・個人単位化などの概念の多義性と資本主義認識を中心に
遠山 日出也
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ジャーナル オープンアクセス

2020 年 41 巻 p. 23-40

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抄録

家族賃金・年功制、能力主義、競争原理、均等法、個人単位化といった概念・制度・政策には、いずれも複数の意味や方向性があり、それらの背後には複数の社会的な力(新自由主義の力、フェミニズムの力など)が存在している。しかし、日本の左派やフェミニストは、しばしば、こうした複数の意味や方向性、背後にある力を十分区別できなかった。そのために、新自由主義に対する評価が甘くなったり、フェミニズム運動の意義を十分評価できなくなったりした。以上のことと表裏一体の問題として、左派やフェミニストが、しばしば資本主義と家父長制とを統一的に把握していないという問題がある。また、「前近代」「近代」といった歴史的段階だけに注目して、それぞれの社会内部の矛盾やマイノリティの視点を軽視することも、以上のような問題と結びついている。「近代家族」概念にも複数の意味が存在しており、その真の乗り越えは、新自由主義によってではなく、公共領域と家内領域の分離をより高い段階で統一する方向性を有するさまざまな闘いによってのみ可能になる。新自由主義に対抗するためには、今後、家族賃金や能力主義といった概念の複数性についてさらに丁寧に論じていくことが必要である。

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© 2020 日本女性学研究会『女性学年報』編集委員会
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