女性学年報
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20世紀前半の日本における薙刀教育の女性化
ベレック クロエ
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キーワード: 女子教育, 薙刀, 体育史
ジャーナル オープンアクセス

2020 年 41 巻 p. 63-86

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抄録

薙刀(なぎなた)とは、本来長い柄の先に反り返った長い刃をつけた武器である。20世紀半ばまでは学校教育制度外における武術流派の道場で、男性のみならず女性にも薙刀の稽古が続行されたが、1910年に師範学校の女子生徒を対象に課外活動として認められた薙刀は、やがて高等女学校・女子実業学校へと広がった。それは、第二次世界大戦の終結後、GHQの指令により学校での武道教育が廃止されるまで続いた。
 20世紀前半に女子教育の領域で普及した薙刀は、ジェンダーに関する新たな問題を提起している。薙刀は、相手を攻撃し、戦うための武器である。「武器」・「攻撃」・「戦う」という言葉で表現されることは、社会的には「男性らしい」と見なされているものである。にもかかわらず、薙刀は女子教育においていかなる理由で採用されたのだろうか。そして、学校教育では、社会や文化における男や女に対する期待と規範が教えられ、体育の教育も「女らしい」「男らしい」という期待に沿いながら行われている。そこで本論文では、20世紀前半の日本の薙刀教育において、「女性らしさ」に対する社会の期待の変化がどのように示されていたかを明らかにする。
 当時の女子生徒向けの薙刀教本では、女性らしい健康な身体に備わった女性の優美さと、薙刀との関連性がよく指摘され、薙刀教育は女子の「女性らしさ」を育成しなければならないとされた。そして、薙刀教本では、薙刀と関係がある女性の例をよく取り上げることで、女子教育と薙刀の歴史的関係を強調し、女子向け教育として薙刀を正当化するとともに、薙刀を女性らしいものにした。
 20世紀前半において学校教育に導入された武道の中では、薙刀だけが女子のみを対象とするものであった。薙刀を女子教育に採用することによって、女子の武道は男子の武道と差異化された。薙刀は女子武道を代表するものとされ、それによって男子との相違が強調されたのである。このように、薙刀を女子のみの武道として設定することによって、薙刀は女性化されたのであった。

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© 2020 日本女性学研究会『女性学年報』編集委員会
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