2025 年 46 巻 p. 68-93
中国における売買春/セックスワークに関しては、1990年代後半以降、欧米や中国でさまざまな新たな研究が生まれている。本稿はまず、それらの研究が明らかにした成果を紹介する。具体的には、中華民国期と中華人民共和国初期における売買春廃止政策の帰結、現在の中国におけるセックスワーカーの状態、売買春やその「組織」を取り締まる法律の問題点、セックスワーカーの連帯とささやかな抵抗、男性/トランスジェンダーセックスワーカーの状況などを紹介する。
これらの研究は、現在の日本にも以下のような点を示唆している。現在のセックスワーク就労の多くは特定の条件下におけるその人の選択の結果なので、売買春やその業者の処罰によっては簡単には減らず、むしろセックスワーカーの状態が悪化する。また、かりにセックスワークをなくしたとしても、必ずしも良い結果にはならない。法律上の文言とは異なる国家の論理を見なければならない。廃止主義は、そのセックスワーカー観にも一面的・抑圧的な面がある。セックスワークとその中での搾取や暴力とを区別し、それらをなくしていく活動が必要であるが、売買春処罰はそれを妨げる。セックスワーカーに対する抑圧と他の労働者や女性に対する抑圧とは関連しているので、一方への抑圧が強化されれば、もう一方への抑圧も強まる。国際的な「人身売買反対」運動の一部にある、売買春をすべて「人身売買」として捉える潮流の活動には、問題がある。また、買春者については、その具体的行動に関する研究や働きかけも必要である。そして、セックスワーク問題に関しても、インターセクショナルな視点が必要である。