抄録
高度回遊性魚種(例えば鮪、鰹、カジキ等)は1970年代後半以降の各国200海里施行以来、その回遊位置に応じて無主物と国有物という人工的な2つの法的特性を持たされている。これは、これらの魚種が各国200海里内で遊泳している間はその国の管轄権が及び、それ以外では誰の物でもないと言うことなのである。現在のところ魚一匹毎に国旗を付けて所有権の所在を明らかにする技術もない。たとえそれが出来たとしても、魚は人間が勝手に引いた海図上の境界線などに関係なくその環境に適した海域のどこでも回遊する。そこで、各国漁業が持続的な漁獲を続けていく為には必然的に多国間協力による国際管理の必要性が出てくるわけである。ところで、「もの」を経済学で扱う場合、普通、私的財及び公共財という尺度で考える。海洋資源の1つである魚の場合、海中で遊泳している間は多くの場合が無主物であるが、一旦漁獲されるとその漁獲物としての魚は私有物、すなわち私的財となる。高度回遊性魚種であるミナミマグロもこのような性格を有している。この魚種は地理的にオーストラリア(西岸・南岸の沿岸・沖合を回遊)を中心とすると、西は南アフリカ沿岸・沖合から東は南米沖まで大回遊しており、これまで主に日本とオーストラリアによって漁獲されてきている。ミナミマグロは日本のマグロ刺身市場の中でも最も高値がつく最高級魚であるが、関係者以外には実際のところこれがどんな魚でどこでどのように漁獲されているのか、また、その舞台裏でどのような多国間による資源管理の歴史的変遷があるのかなどあまりしられていない。本稿では主に日本・オーストラリア・ニュージーランドが関係するこのミナミマグロに焦点を当て、まず同資源の資源・生物的要因、各国の漁業実態、三国者協議の変遷について概観する。また、国際公有財という大前提のもとでの三ヶ国によるいわゆる私的財の多国間管理の変遷について経済視点からの分析をし、日本・オーストラリア・ニュージーランドによるミナミマグロ国際漁業管理について若干の考察を加えている。