人類學雜誌
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下顎第2乳臼歯におけるいわゆる第7咬頭について
埴原 和郎南舘 忠義
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1965 年 73 巻 1 号 p. 9-19

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抄録
いわゆる第7咬頭は下顎大臼歯の歯冠舌側縁上, metaconid と entoconid との間に出現する小結節で,日本人の下顎第1大臼歯では5.68%に出現する(鈴木•酒井,'56)。この結節は最初 SELENKA(1898)が orang-utan の下顎大臼歯に発見し, tuberculum accessorium mediale internum と名づけたものである。永久大臼歯における第7咬頭ではその出現率に人種差のあることが知られているが,第2乳臼歯に関しては出現率の高いにもかかわらず従来ほとんど報告されていない。筆者らはこの形質について数人種の資料をえたので,本篇では乳歯における第7咬頭について報告する。
使用した標本は日本人, American Indian(Pima 族), Alaska Eskimo,米白人,米黒人および日米混血児を含む全顎硬石膏模型および小児頭骨である(Tab.1)。第7咬頭の分類には乳歯標準模型の D9(Fig.1, HANIHARA,'61参照)をもちい4段階にわけた。段階0は第7咬頭の存在しないものであり,存在する場合にはその発達程度によって1(弱),2(中),3(強)の3段階に分類した。結果を要約すれば次の通りである。
1.下顎第2乳臼歯における第7咬頭の出現頻度は下顎永久大臼歯よりずつと高いが,その発達の程度は一般に永久歯よりかなり弱い(Tab.3)。
2.鈴木•酒井によると,永久歯の第7咬頭は metaconid および entoconid から分離したものがそれぞれ約半數をしあるが,第2乳臼歯ではすべて metaconid から分離したものと考えられる。
3.いずれの人種においても第7咬頭の出現率に有意の性差はみとめられない(Tab.2)。
4.第7咬頭の頻度は Mongoloid に属する日本人, American Indian および Eskimo に高く,米白人および米黒人では低い。前3者と後2者との間には,どのような組み合わせにおいても高度の有意差がみられるのに対し, Mongoloid 同志の間にはまったく有意差がなく,また米白人と米黒人との差は,これらと Mongoloid との差よりはるかに少ない(Tabs.3,4)。
5.第7咬頭と他のいくつかの歯冠形質の出現に関する相関をみると,protostylid, deflecting wrinkle および歯冠近遠心径と第7咬頭との間には有意相関が存在する。しかし第6咬頭,歯冠頬舌径および歯冠 modulus との間に相関はみられない。このことから,第7咬頭を生ぜしめる要因は, protostylid や deflecting wrinkle のそれと何らかの関係をもっていると考えることができる。またこれらの形質がともに古い化石霊長類や化石人類に多く存在している点を考えると,いずれも原始的特徴とみなしうると思われる。また第7咬頭はその位置からみて,当然歯冠の近遠心径に影響を及ぼすであろうことが理解される(Tab.5)。
6.日米混血児とその両親の属する人種との比較,ならびに同一個体における左右差から第7咬頭の遺伝学的分析をおこなうと,この形質は99.7%の高い浸透率をもち,単純優性に遺伝する可能性が強い(Tabs.6,7)。
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