人類學雜誌
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縄文早期若年者の扁平脛骨について
森本 岩太郎
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1971 年 79 巻 4 号 p. 367-374

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抄録

愛媛県上黒岩岩陰遺跡出土の,縄文早期中葉に属する12~14歳の若年者1体の脛骨は,扁平度が強く,VALLOIS 法による脛指数は54.7を示した.これに対し,日本各地で得られた縄文後•晩期の同年齢者6体の脛指数の平均は77.7であり,扁平脛骨は1例もみられない.一般に扁平脛骨は思春期以後に発現する形質とされているので,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期人が後•晩期人よりやや早熟の傾向をもつことを物語るものとして注目される.
この上黒岩の若年者の扁平脛骨では,骨幹の周径に対する横断面積の比率が,縄文後•晩期若年者の脛骨に比べて小さく,骨質の不足がうかがわれる.若年者の場合だけでなく,上黒岩岩陰の縄文早期に属する成人7体の脛骨も,各地で得られた縄文後•晩期の成人113体に比べると,骨幹が細い.脛骨骨幹横断形の変異が,下肢運動に対する脛骨の栄養学的•構築学的反応の表われであるとするならば,上黒岩岩陰の若年者の扁平脛骨は,縄文早期の生活条件が後•晩期に比べていっそうきびしかったことを反映するもののように思われ,興味深い.

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