北方狩猟採集民の伝統的習慣の中には特定の狩猟獣に限ってその骨髄を食することを禁ずるタブー,いゝかえると獣骨破砕の禁忌が存在する。この事実は今迄若干の民族誌的報告書にしか記載されていないが,北方狩猟民に広く分布する特定狩猟獣の骨に対する儀礼祭祀との関連において重要と考えられる。狩猟採集民においては地域の南北を問わず,髄食とそのための獣骨破砕が一般共通の習性である点からみると,上述の禁忌は異例であり,それ故に考古学的にも検証が可能である。そこで獣骨破砕禁忌は,北方狩猟民の環境観を追究する手掛りの一つとして,民族学と先史学の両面から調査研究が必要である。