人類學雜誌
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85 巻, 4 号
選択された号の論文の7件中1~7を表示しています
  • 松本 秀雄
    1977 年85 巻4 号 p. 265-280
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    高い特異性と多様性を示す抗体としての働きをもつ免疫グロブリンは,また同時にメンデリズムに従う多数の抗原(遺伝標識)を担っている。このアロタイプは免疫グロブリンの構造研究のみならず,それが示す二重
    多型現象によって,人類遺伝学の領域においても特異な遺伝標識として役立っている。
    アジア地域および南米などの諸集団について,われわれの研究室において,今日までに得られた成績に基づいて,Gm パターンによる集団の特徴づけや,蒙古系集団の分化の過程などについて考察を加えた。
  • 岩本 光雄
    1977 年85 巻4 号 p. 281-291
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    西日本の乳歯期野生ニホンザル約80頭に関してえられた歯式ならびに多数項目にわたる生体計測値について報告した。年令(月令)は,大半の個体について推定せざるをえなかったが,推定誤差はおおむね±1.0月以内にとゞまるものとみることができる。自己資料に関する限り,性•出自群による違いは大きくなく,資料数が限られていることもあって,全資料を一括し,年令•歯式•生体計測値の相互間の関係を表示~図示した。歯牙の萌出年令はかなりの個体的変異を示す。完全乳歯列をもつサルについては,体重•坐高等の生体計測値を参考にして年令を推定するのが有効である。
  • 渡辺 仁
    1977 年85 巻4 号 p. 293-299
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    北方狩猟採集民の伝統的習慣の中には特定の狩猟獣に限ってその骨髄を食することを禁ずるタブー,いゝかえると獣骨破砕の禁忌が存在する。この事実は今迄若干の民族誌的報告書にしか記載されていないが,北方狩猟民に広く分布する特定狩猟獣の骨に対する儀礼祭祀との関連において重要と考えられる。狩猟採集民においては地域の南北を問わず,髄食とそのための獣骨破砕が一般共通の習性である点からみると,上述の禁忌は異例であり,それ故に考古学的にも検証が可能である。そこで獣骨破砕禁忌は,北方狩猟民の環境観を追究する手掛りの一つとして,民族学と先史学の両面から調査研究が必要である。
  • 溝口 優司
    1977 年85 巻4 号 p. 301-309
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    永久歯歯冠の大きさは,一般に遺伝的変異性が高いと言われているが,その遺伝的変異性の環境的変異性に対する相対的な大きさはまだ十分には確認されていない。これは,分析されるべき現象が実際にはかなり複雑であるということに起因する。
    双生児法による遺伝率の推定式として,HOLZINGERの式はあまりにも有名で,かつ,最も広く使われてきた式ではあるが,最近,遺伝率を推定するには全く不適当な式であることが指適された。これに代わって,現在最も解釈が容易でしかも双生児法における最も大きな問題である級内での共通の環境要因による分散を是正できる方法が提案されている。
    本研究の目的は,この新しい方法に基づいて,より正確に永久歯歯冠の近遠心径の遺伝率を,即ち,遺伝的変異性の環境的変異性に対する相対的な大きさを推定することにある。
    資料は東京大学医学部解剖学教室所蔵の双生児の全顎石膏模型266組である。
    結果として,上下顎の少なくとも中切歯から第1大臼歯までの歯冠近遠心径は,これまで言われてきたように,有意な遺伝分散を持っていることが確認された。しかし,さらに詳細に結果を検討したところ,男の上顎犬歯及び下顎第2小臼歯,そして女の上顎第1小臼歯,下顎側切歯,下顎第1小臼歯及び下顎第1大臼歯の各遺伝率が,他の歯のそれよりも比較的低いことが確かめられた。これらの歯は下顎の第2小臼歯を除けば,いずれもヒトの進化過程において比較的安定な歯であったと言われている。このような事実に対する1つの解釈として,次のようなことが考えられるかもしれない。すなわち,ヒトの進化過程で安定していたと言われる歯は,その過程においてずっと普遍的な遺伝子によって支配され続れてきた。それゆえに,現在も遺伝的変異性が小さいのであろう。本当にこれら一部の歯が,その進化過程で遺伝的により安定していたのであれば,それらが他の歯よりも種の存続性に対して果してきた役割はより大きかったであろうと想像することもできる。
    もちろん,このような解釈には更に詳細に検討すべき点もあるであろうが,極めて興味深いものである。また,男女によって低い遺伝率を示す歯の組み合わせが異なるという結果も,今後さらに確かめられなければならない問題であろう。
  • 神島における多型性形質の分布
    豊増 翼, 片山 一道, 宮崎 時子, 松本 秀雄
    1977 年85 巻4 号 p. 311-323
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    三重県鳥羽市に属する離島地区は,泉熱流行やB型肝炎関連抗原(HBs抗原)の侵淫などから,疫学的,医生態学的に注目されてきた。報告者は日本各地における多型性形質分布に関する基礎的資料の充実をはかることに加え,HBs抗原の集積をヒト集団に働く選択要因と考え,この地区における多型性形質分布との関連を検討している。初報として,他島との遺伝的交流が僅少で,かつ近隣では稀発とされるHBs抗原亜型のみが検出されることで特徴的な,神島(人口約1,000)住民より得た血液試料を用い,観察した多型性形質の分布について報告し,同島住民の遺伝的特性について検討した。
    調べられた血液型(ABO,Rh-Hr),血清型(Hp,Tf,Gm,Km),血球酵素型(AcP,PGM,GPT,PGD,EsD,ADA,PHI,GOT,LDH,PGK,AK,PepA)の18形質のうち,PGK,AK,LDHおよびPepAシステム以外は多型性を示した。稀れな遺伝子R0,Rz(Rh-Hr式血液型),TfB,PHI8などの出現,ならびにGpt2とPGDC遺伝子の増加などは特異的であり,遺伝的浮動(ドリフト)の効果を示すとともに,祖先集団の遺伝的特性を物語るものと考えられた。近隣集団との比較,および本島の人口構成,婚姻構造などについては次報以下に検討される。
  • 森 明雄
    1977 年85 巻4 号 p. 325-345
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    餌付けされたニホンザルの群れ,高崎山A及びB群は,それぞれ約1000頭,300頭と群れサイズは非常に大きい。A群の群れサイズは自然群の10倍以上の大きさである。 A, B群のおとなのメス間で順位テストを行ない,おとなのメス間の順位関係を調べた。このテストで優劣関係が不明確であったり不安定である個体関係が多数見出され,また直線的順位関係が得られなかったので,テストでの各個体に対する勝率を計算し,勝率の大きい方から小さい方へ配列した勝率順位を各個体に与えた。優劣の不明確な個体関係の出現の特徴を調べたところ,優劣の不明確な個体関係がB群では勝率順位のより近い個体間で出現し,A群では勝率順位のかなり離れた個体間にも出現した。B群における優劣の不明確な個体関係は,順位落差の小ささに起因するものであり,より群れサイズの大きなA群では,優劣の不明確な個体関係は個体数の増大に伴なって生じた個体間の相互認知の不明確さに起因するものと推定された。A群では血縁関係のある個体間でも勝率順位はかなり離れているものが見られたが,このことは他の群れサイズの小さい群れで見られるメス間の血縁関係に基づく整然とした順位関係が成立していないことを示した。非常に大きな群れサイズを持つ高崎山の群れの社会構造は,通常のサイズの群れで明らかにされてきた個体関係の積み重ねだけでは解明できないことが示された。A群及びB群についての他にも2つの群れについて順位関係のデーターが得られたが,これらのデーターから,群れサイズの増大に伴ないおとなのメス間の優劣の不安定な個体関係が増加することが示され,特に群れサイズが100頭を越えると急速に不安定な優劣関係が多数出現するようになることが示された。これらのことから,これまでに報告されたニホンザルの群れの分裂過程における2つの異なった様相は,群れサイズの相異によることが明らかにされた。
  • Srisha PATEL
    1977 年85 巻4 号 p. 347-349
    発行日: 1977/11/15
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    インドのオリッサ州ガンジャム地区のチベット人亡命者299名のうち,わずか9名(2.9%)において glucose -6-phosphate dehydrogenase(G-6-PD.)欠乏がみられた。G-6-PD.欠乏の頻度は女性より男性で,成人より子供で高かったが,他の研究者の結果も参照すると,G-6-PD.欠乏の頻度に性差があるかどうかは不明である。
    赤血球の鎌状化を示す者の方が,示さない者に比較して G-6-PD.欠乏の頻度は高かった。
    チベット人の88.6%はヘモグロビン量が12g以下で,それが G-6-PD.欠乏者の88.8%を占めた。従って,正常者と G-6-PD.欠乏者の集団間にヘモグロビン量の有意な差は観察されなかった。
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