人類學雜誌
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シロテテナガザルの上腕二頭筋における筋線維型の分布について
木村 忠直猪口 清一郎
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1985 年 93 巻 3 号 p. 371-380

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抄録
類人猿の懸垂行動への適応形態に関する分析は,筋骨格系における肉眼解剖学的な比較研究によるものが多くなされているが,筋収縮の最小単位である筋線維細胞の組織化学的な観点からの接近は,今だ試みられていない。そこで本研究では,シロテテナガザル (Hylobates lar)雌雄各一頭における上腕二頭筋の極性にそった筋腹横断面の筋線維細胞を Sudan Black B の染色法によって,機能性を異にする三タイプの筋線維細胞を分類し,その分布頻度や局在性より,シロテテナガザルにおける上腕二頭筋の機能形態的な内容を追求した。 Scanning 法によって算出した筋線維数は4648細胞(雌雄の平均値)で,そのうち持続的な緊張性収縮を示すタイプIの赤筋線維が全体の41.1%で最も分布頻度が高かった。特に内側の上腕二頭筋溝近位に移行するに伴って比率が高くなる傾向を示した。これに対し,瞬発力に富み相動性収縮を示すタイプIIの白筋線維は28.3%で,皮膚側の浅層部において分布頻度が高かった。次いで,わずかの差でタイプIとIIの両形質を兼そなえているタイプIIIの中間筋線維は26.7%となり,筋の極性にそって均等な分布頻度を示し局在性は認められなかった。以上の筋線維構成の結果より,シロテテナガザルにおける上腕二頭筋は,持続的な緊張性収縮 (tonic contraction)を示す赤筋型の傾向を有している骨格筋であり,懸垂行動への機能形態的な適応性が示唆された。
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