人類學雜誌
Online ISSN : 1884-765X
Print ISSN : 0003-5505
ISSN-L : 0003-5505
イラク•ハムリン盆地出土人骨に見られたトレポネーマ症について
和田 洋池田 次郎鈴木 隆雄
著者情報
ジャーナル フリー

1987 年 95 巻 4 号 p. 443-456

詳細
抄録

この報告は,イラク•メソポタミア出土のイスラム期人骨に認められたトレポネーマ症 (endemic syphilis; 非性病性梅毒)と考えられる骨病変について記載している.また,世界におけるトレポネーマ症の分布と進化論的背景を概説し,イラク•メソポタミアでのトレポネーマ症の臨床的,骨学的病態,およびその古病理学的意義について考察している.
人骨は,イラクのハムリン盆地にあるテル•グッバから出土し,1例は壮年男性,他は熟年女性で,両者とも保存状態は良好である.これらの骨格の頭蓋,肩甲骨,肋骨,挽骨,尺骨,中手骨,大腿骨,脛骨,腓骨および中足骨がトレポネーマ症に罹患している.それらの病態は,肉眼的観察では変色し,多孔性の,あるいは単に不規則な凹凸の骨表面を,緻密質に及ぶ複雑な格子状の細溝を,全周に及ぶ,あるいは部分的な骨肥厚および骨変形を示すものと種々である.また,それらのレントゲン像は内•外膜性による緻密質の骨肥厚,骨髄腔の狭窄を裏付ている.
イラクにおけるトレポネーマ症の古病理学的記載は断片的なものしかなく,それゆえにこの病気の記載は,骨学的病態,メソポタミアにおける病気の流行,ひいてはこの病気の歴史を考察するうえでも必要である.

著者関連情報
© 日本人類学会
前の記事 次の記事
feedback
Top