人類學雜誌
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中国人男性の長骨に基づく身長推定および米白人•米黒人との比較
郡 象清
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1989 年 97 巻 3 号 p. 313-326

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抄録
現代中国人男性について長骨長の計測に基づく身長推定のための回帰方程式を算出した。資料は江西,山東,雲南,貴州,安徽,河北,青海,吉林の各省および広西壮族自治区の中国人男性市民472名で,年齢は21歳から80歳までである (Table 1,2).身長は生前に直立位で,計測されたものである.浸解乾燥骨の計測は各省の解剖学研究室の技術者あるいは法医学者によってミリメートル単位で行われた.左右の長骨の長さは平均せず,それぞれ別個に取扱った.回帰方程式は個々の骨に基づくもののほか,複数の骨に基づくものも求めた(Table 2-17).今回得られた新しい方程式は,中国人骨格の身長推定法としても最も信頼できる方法を提供する.
骨長と身長との相関は,下肢骨の方が上肢骨よりも高いことが明かとなった.したがって身長の推定にあたっては,下肢骨が得られない場合を除いて,上肢骨長は用いるべきでないと考えられる.下肢骨に基づく回帰方程式は,上肢骨によるそれに比べて推定の標準誤差が小さく,したがってより精度の高い身長推定値を与えるものと期待される.とくに,大腿骨と腓骨(あるいは脛骨)の長さの和に基づく身長推定は,個々の下肢骨による推定よりもなお一層精度が高い.
次に,21歳から30歳までの中国人男性について求めた回帰方程式を,TROTTER によるアメリカ白人およびアメリカ黒人についての回帰方程式(Table 18)比較した.比較には右側の骨の長さによる身長推定式を用いた.Table 19および Fig. 1,2でも明らかなように,白人の推定式は一定の長骨長に対して他の2群のそれよりも高い身長を与える傾向がある.この傾向はとくに僥骨および尺骨に基づく身長推定式で著しく,腓骨のそれではもっとも弱い.大腿骨と腓骨の長さの和から推定される中国人男性の身長はアメリカ白人男性のそれとほぼ匹敵するが,アメリカ黒人のそれはかなり低い.上腕骨,尺骨,上腕骨十擁骨,上腕骨十尺骨を除くすべての骨について,中国人に関する推定式は黒人のそれよりも高い身長を与える.中国人と黒人の尺骨,上腕骨十澆骨,および上腕骨十尺骨に基づく回帰直線は,平均値付近で交差し,黒人の方程式の方が比較的短い骨に対してやや低い身長を与え,長い骨に対してやや高い身長を与える.
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