人類學雜誌
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97 巻, 3 号
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  • 郡 象清
    1989 年 97 巻 3 号 p. 313-326
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    現代中国人男性について長骨長の計測に基づく身長推定のための回帰方程式を算出した。資料は江西,山東,雲南,貴州,安徽,河北,青海,吉林の各省および広西壮族自治区の中国人男性市民472名で,年齢は21歳から80歳までである (Table 1,2).身長は生前に直立位で,計測されたものである.浸解乾燥骨の計測は各省の解剖学研究室の技術者あるいは法医学者によってミリメートル単位で行われた.左右の長骨の長さは平均せず,それぞれ別個に取扱った.回帰方程式は個々の骨に基づくもののほか,複数の骨に基づくものも求めた(Table 2-17).今回得られた新しい方程式は,中国人骨格の身長推定法としても最も信頼できる方法を提供する.
    骨長と身長との相関は,下肢骨の方が上肢骨よりも高いことが明かとなった.したがって身長の推定にあたっては,下肢骨が得られない場合を除いて,上肢骨長は用いるべきでないと考えられる.下肢骨に基づく回帰方程式は,上肢骨によるそれに比べて推定の標準誤差が小さく,したがってより精度の高い身長推定値を与えるものと期待される.とくに,大腿骨と腓骨(あるいは脛骨)の長さの和に基づく身長推定は,個々の下肢骨による推定よりもなお一層精度が高い.
    次に,21歳から30歳までの中国人男性について求めた回帰方程式を,TROTTER によるアメリカ白人およびアメリカ黒人についての回帰方程式(Table 18)比較した.比較には右側の骨の長さによる身長推定式を用いた.Table 19および Fig. 1,2でも明らかなように,白人の推定式は一定の長骨長に対して他の2群のそれよりも高い身長を与える傾向がある.この傾向はとくに僥骨および尺骨に基づく身長推定式で著しく,腓骨のそれではもっとも弱い.大腿骨と腓骨の長さの和から推定される中国人男性の身長はアメリカ白人男性のそれとほぼ匹敵するが,アメリカ黒人のそれはかなり低い.上腕骨,尺骨,上腕骨十擁骨,上腕骨十尺骨を除くすべての骨について,中国人に関する推定式は黒人のそれよりも高い身長を与える.中国人と黒人の尺骨,上腕骨十澆骨,および上腕骨十尺骨に基づく回帰直線は,平均値付近で交差し,黒人の方程式の方が比較的短い骨に対してやや低い身長を与え,長い骨に対してやや高い身長を与える.
  • 埴原 恒彦
    1989 年 97 巻 3 号 p. 327-339
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ネグリトはフィリピン,マレー半島,アンダマン諸島に分布する採集狩猟民で低身長,暗褐色の皮膚,縮毛,等の外観的特徴を示すが,その人種的起源と分化に関しては長い間,人類学における論争の的であった。最近の人類遺伝学的研究によれば,ネグリトは東南アジアを起源とする集団で,その身体的特徴は熱帯降雨林という環境によってもたらされた適応の結果であるとされている(OMOTO,1984:尾本,1986,1987)。
    本研究では,文部省科学研究費(海外学術調査)「ネグリトの集団遺伝学的研究」(研究代表者,尾本恵市東京大学教授)によって,歯科医師酒井賢一郎博士により収集,作製されたルソン島中西部に分布するネグリト(アエタ)の全額石膏模型を使用,比較資料として現代日本人,アイヌ,フィリピン人,オーストラリア原住民,ピマーインディアン,アメリカ白人,アメリカ黒人のデータを用いた。
    歯冠計測値(第三大臼歯を除く歯冠近遠心径)に基づく分析の結果,歯全体の大きさに関してはネグリトは上記7集団中最も小さく,この点でアイヌとの類似性が認められた。一方,Q モード相関係数に基づく形態距離からネグリトはモンゴロイド人種のクラスターに含まれることが明かとなった。同様の結果は主成分分析によっても示され,さらに前歯(切歯,犬歯)と後歯(小臼歯,大臼歯)の相対的な大きさに関してはネグリトはオーストラリア原住民と同様の特徴を示すことが明らかにされた。しかし,アメリカ白人,アメリカ黒人との間には何ら類似性は認められなかった。
    非計測的歯冠形質についてはネグリトはアイヌと共にスンダ歯型を示し,B2距離(BALAKRISHNAN and SANGHVI, 1968)においても両者は強い類似性を示した。ここでもやはり,アメリカ白人,アメリカ黒人との類似性は認められなかった。
    以上の結果は,ネグリトが人種的にアジア起源であるという可能性を強く示唆しているものと思われる。TURNER (1979,1983,1987,1989)は縄文人,アイヌが後期更新世のプロトモンゴロイドに由来し,スンタランドがその放散中心であったと考えている。一方,OMOTO (1984),尾本(1986,1987)は後期更新世にスンダランドを舞台としてプロトオーストラロイドから進化したプロトマレーこそがネグリトの直接の祖先であるとし,さらに彼らとプロトモンゴロイドとの密接な関係を指摘している。これらの仮説を考慮すると今回の分析結果はネグリトとプロトモンゴロイドとの関係についてある程度の示唆を与え得るものと思われる。しかし,両者の関係はさらに,縄文時代人,太平洋民族等を含めた詳細な分析,検討が必要である。この意味において本研究がその一資料となれば幸いである。
  • 松村 秋芳, 岡田 守彦
    1989 年 97 巻 3 号 p. 341-351
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ヒトの骨強度,骨密度については従来多くしらべられているが,遺伝的要因や生活環境要因による個体差が大きいので,運動負荷や栄養条件が骨に及ぼす影響を厳密にしらべることはむづかしい。そこで成長期の実験動物を用いて1日当たりの運動負荷の量と食餌摂取量の違いが骨強度,骨密度に及ぼす影響をしらべた。
    SD系雄ラット40匹を摂食量と強制走行運動負荷の量の組み合わせにより,(I)普通食一非運動群,(II)普通食一中等度運動群,(III)制限食一非運動群,(IV)制限食一中等度運動群,(V)自由食一非運動群,(VI)普通食一強運動群の6群に分けて21日令から110日令まで餌育した。普通食群(I, II, VI)と制限食群(III,IV)では給餌時間帯を1日2回合計2時間に設定し,この給餌時間帯に普通食群は自由に摂食を行なわせ,制限食群には普通食群が摂取した重量の約60%を摂食させた。自由食群(V)は常時自由に摂食させた。運動負荷はストレスが少ないと考えられる新式トレッドミルを用いて中等度運動群(II, IV)には1日20分,最高速度約40m/分の強制走行運動負荷を与えた。強運動群には10分間のインターバルをおいて同様の負荷を1日に2回与えた。動物の飼育は12時間おきの明暗サイクルの下で行ない,運動負荷と摂食の時間帯を一定にして自発運動量や摂食量による個体差が少なくなるように配慮した。動物の最終体重は,同じ摂食条件の群の間で有意差は認められなかった。右側大腿骨は3点曲げ試験により,骨幹中央部前面に矢状方向の荷重を加えて極限荷重量を測定し,極限曲げモーメント(骨全体としての曲げに対する強度)を計算した。さらに破断部を接着復元後に切断して,その横断面の写真から計測した断面特性値と曲げモーメントにより,極限曲げ応力(曲げモーメントからサイズ要因を除いたもの)を算出した。また,大腿骨骨幹部の試料を用いて単位体積あたりの灰分重量の測定を行なった。その結果つぎのような事柄が明らかになった。
    1)摂食量の制限は曲げモーメントに対して有意の負の効果を及ぼしたが,曲げ応力と灰分重量に明確な効果を及ぼさなかった。
    2)中等度の運動負荷は曲げモーメントには一定の効果を及ぼさなかったが,摂食量にかかわらず,曲げ応力と灰分重量を増加させる傾向を示した。
    3)過大な運動負荷量は曲げ応力と灰分重量に顕著な負の効果を及ぼした。すなわち,1日当たりの運動量が約2倍に増加することによって,効果の逆転が認められた。
  • 小片 保, 加藤 克知, 六反 田篤
    1989 年 97 巻 3 号 p. 353-372
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    富山県氷見市泊洞穴出土の下顎骨を欠く頭蓋と肋骨片からなる人骨(以下,泊洞人)はそのフッ素含量が完新世前期から更新世末期に比定される(松浦,1985)。この人骨は20歳代前半の男性のものと推定される。頭蓋は全体的に小型である。脳頭蓋の特徴は短•高頭,顔面頭蓋のそれは低•広上顔である。更新世末期から現代に至る各時代人集団との形態学的比較分析によれば,泊洞人頭蓋の全体的な特徴は縄文時代人に,特に上顔面部などは早•前期の縄文時代人に近似する。このことからその所属年代は少なくとも縄文時代,多分その前半にまで遡れるものと考えられる。しかし,さらに更新世末期まで遡れるか否かは現時点では言及できない。
  • 河内 まき子
    1989 年 97 巻 3 号 p. 373-388
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    足部形状の個人差を明らかにするため,男女各152名について計測された右足の生体計測項目21項目の主成分分析を行なった。この結果抽出された形の因子を代表するような示数を考案し,これを用いてクラスター分析を行い,足型の分類を試みた。この結果,男女とも1)足軸の位置,2)ボール部の足軸に対する傾き,3)ボール部の幅,4)甲の高さ,の4つの形の因子が抽出された。クラスター分析の結果,男女とも4人以上から成るクラスターが7つできた。人数が最も多いクラスターを標準型とすると,標準型に入るのは男子で42%,女子では35%である。また,女子は男子よりも個人差が大きいようであり,男子では足の幅が広いタイプ(31%)が,女子では甲の高いタイプ(37%)がかなり多い。現代日本人の足部形状の個人差は,履物による足の変形の影響をふくんだものなので,履物の影響を受けない状態ではどのような個人差があるのかを明らかにするためには,靴を履かない集団の調査が必要である。
  • 山本 美代子
    1989 年 97 巻 3 号 p. 389-392
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    江戸時代前~中期(17世紀)に属する東京都一橋高校遺跡出土未成人骨48個体の乳歯の異常について観察した。その結果,過剰歯が2例上顎前歯部に見られ,うち1例は逆生埋伏正中歯であった。癒合歯が2例および癒合歯のものと思われる歯槽が2例,いずれも下顎前歯部に見出された。先天性欠如は見られなかった。現代日本人と比較してみると,異常の好発部位は一致しているが,出現頻度はやや異なっているようである。
  • 足立 和隆, 大槻 文夫, 服部 昌男
    1989 年 97 巻 3 号 p. 393-405
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    著者らは,頭蓋の投影輪郭をフーリエ解析することによって,日本人頭蓋形態の時代差を検討してきた。頭蓋の対象となる投影輪郭は,正面観(Norma frontalis),後面観(Norma occipitalis),側面観(Norma lateralis),上面観(Norms verticalis),底面観(Norma basilaris)の5通りである。これらの輪郭を得るためには,古典的な方法として Dioptro-graph を利用することが考えられるが,この方法は手間と時間が非常にかかる。一方,高山は,35mm カメラで焦点距離800mm以上の超望遠レンズを用いれば,写真計測によっても高い精度で頭骨の輪郭が得られることを示した (高山,1980)。著者らも基本的にはこの方法にしたがって頭骨の撮影を行なったが,当初,頭骨を上記の5通りの位置に正確に固定するためにかなりの労力と時間を要した。そこで,本報告に紹介するような,回転式頭骨固定台(Rota-craniophor I)を製作し,利用したところ,ひとつの頭骨において上記5通りの撮影を行なうのに要する時間をかなり短縮することがでぎた。この固定台は回転可能な円盤の上に左右の耳孔を支えるための支柱[aural supPorting unit]が各1本,そして頭骨が水平の場合に眼窩下縁を支えるための支柱[Orbitale pointing unit (1)]が1本,さらに頭骨が垂直の場合に眼窩下縁を支える部品[Orbitale pointing unit (II)]が立った構造をしている。これらの支柱はレールの上を垂直な状態でスライドさせ,任意の位置で固定できるようになっている。耳孔にさしこむ支持棒(aural supPorting rod)および眼窩指示棒(Orbitale pointer)の高さも任意にかえられるが,一般的な頭骨を固定する場合,耳眼水平面が円盤の上,約17cmの位置にくるようにこられを固定するとよい。写真撮影にあたっては,頭骨固定台の円盤の回転軸と左右の耳孔にさしこむ支持棒(aural supporting rod)の中心軸との交点を撮影レンズの光軸が通るように両機材を設置する。頭骨の固定の際にはまず頭骨をカメラのほうに向け,耳孔を支える支柱を左右にスライドさせてナジオンが両画面中央にくるようにする。ここでは,正中矢状面をナジオンを通り,左右の耳孔にさしこむ支持棒の中心軸に垂直な平面と定義する。Orbitale pointing unit (I)で頭骨を水平に固定したら,円盤を回転させることによって,正面観,側面観,後面観の撮影を行な5。円盤は久リックによって90°。ごとに正確に固定される。次に Orbitale pointing unit (1)をはずし,頭骨を前に回転させて眼窩下縁を Orbitale pointing unit (II)で支える。この状態で上面観,そして円盤を180°回転させて底面観の撮影を行なう。撮影された頭骨は,ポリエチレンコートされた寸法精度の高い印面紙に正確に原寸大に焼き付けられ,これらの画像中から頭蓋の輪郭の座標を,ディジタイザーを利用してオソライソでパーソナルコソピュータに入力した。
  • John de VOS, Fachroel AZIZ
    1989 年 97 巻 3 号 p. 407-420
    発行日: 1989/07/31
    公開日: 2008/02/26
    ジャーナル フリー
    ピテカントロプスの発見で有名なデュボワの発掘が極めて大規模だったことは,記録が公けになっていないため一般にはほとんど知られていない.そこで,当時の現場監督によるデュボワ宛の報告の手紙や個々の記録資料を調べて,実態を明らかにした.
    デュボワは主としてソロ川の左岸を,のべ49ケ月間,毎日25~50人の作業員によって,2423m2を発掘した.後のセレンカの大発掘でさえ,この発掘の半分以下の規模である.
    ピテカントロプス I 号の発掘現場写真,それらの撮影地点•発掘現場•発見記念碑を同時に示す地図,発掘区計画図などの原資料をも豊富に掲載した.(馬場悠男訳,追加:Fig.8の左下部の Gedenkstein が記念碑の位置であり,現在は小さなトリニール博物館も建てられている.記念碑には,P.e.175 M. ONO.1891/93と書かれており,1891~93年の発掘で,ここから東北東へ175mの地点で,ピテカントロプスェレクトスが発見されたことを示している.)
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