人類學雜誌
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ニホンザル足部骨格の成長と種内アロメトリーの関係について
篠田 謙一
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1990 年 98 巻 1 号 p. 65-74

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抄録
ニホンザル152個体(♂R93,♀59)の足部骨格を交連状態で計測した.標本は,京都大学霊長類研究所所蔵のもので,成長途中のもの(83個体)と成体(69個体)の双方を含んでいる.足の長軸方向に21の計測項目を設定した.大きさの変化にともなう,この各部分のプロポーションの変化を明らかにするために多変量アロメトリーの手法を用いて解析することとした.成体群と発育途上群を分けて,それぞれのアロメトリー係数を導出し,両群の関係を明らかにした.
全体に対して中足骨が優成長すること,足根部の劣成長が指の劣成長よりも著しいことなどは両群に共通で,これらの傾向は大きさが増すことによって獲得されるプロポーションの変化であると結論できる.両者に異なった傾向がみられる項目間については,二変量のアロメトリーを計算して解析した.足根の前方部分と後方部分を比較すると成長期には後部が優成長を示すのに成体では逆に劣成長となる.これは足根骨の成長の様式が長軸方向に関して一様に行われてはいないことに原因があると推測され,多数の骨をまたぐ形で計測される項目の解釈の困難さをうかがわせた.また,第一中足骨と基節骨の関係も両群で逆転しているが,こちらは各個体のこれらの骨の成長率にバリエーションがあることに起因する相違であると思われた.他の指ではこのような変異はなく,母指のみに現れることは興味深い.
この様に成長途中のグループと成体の間には,大きさの変化に伴うプロポーションの変化の様式に差がみられる場合があり,一方から他方を類推することは危険である.
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