2023 年 17 巻 1 号 p. 1-14
【緒言】本邦における実臨床下でのHybrid Closed Loop(以下HCLと略す)を搭載したミニメド770Gの、有用性に関する情報は乏しい。
【方法】インスリンポンプ治療中で、Sensor Augmented PumpやContinuous Glucose Monitoringを使用し、ミニメド770Gを導入した1型糖尿病患者を対象に、導入前後での、特にTime in Range(以下TIRと略す)やインスリン使用量の変化を検討した。
【結果】37名が解析対象。年齢は平均22.8歳。導入前と導入3か月後の比較では、HbA1cは7.51%から7.08%と有意に低下し、TIRは60.4%から69.6%へ有意に増加した。総インスリン投与量に占める基礎インスリン量の割合(以下Basal%と略す)は導入前32.3%、導入後37.0%と増加傾向を認めたが、層別解析で、Basal%が増加していた群は、減少群と比して導入前のBasal%が有意に低かった。Auto mode計算効果値が導入前の効果値よりも100以上小さい症例が4例あった。
【結論】HCL導入後、HbA1cやTIRは改善した。Basal%は全体に増加傾向であった。特に低年齢層で、計算効果値と元の効果値が乖離して、HCLによる低血糖リスクが示唆された。
Introduction: MiniMed 770G is a new insulin pump equipped with Hybrid Closed Loop (HCL). Its clinical impact on the actual clinical user in Japanese adolescents is still unclear.
Material and methods: We compared glucose profiles, including HbA1c, Time in Range (TIR), and insulin dose in patients with established type 1 diabetes mellitus who had already used Continuous Glucose Monitoring before the HCL introduction.
Results: Results: Thirty-seven participants were included in the analysis. The median age was 15 years (Median values are used below). Before and three months after HCL introduction, HbA1c significantly decreased from 7.51% to 7.08%, and TIR significantly increased from 60.4% to 69.6%, respectively. Basal insulin as a percentage of total daily insulin dose (Basal%) showed an increasing trend from 32.3% to 37.0%. The stratified analysis revealed that the group with increased Basal% had a significantly lower Basal% before HCL introduction than the group with decreased Basal%. Younger age group showed a significant insulin sensitivity discrepancy of more than 100 between the calculated and the default setting before HCL introduction.
Conclusion: HbA1c and TIR improved after HCL introduction, and the basal% showed an increasing trend. Insulin sensitivity of some younger age group deviated after the HCL introduction, suggesting a risk of hypoglycemia due to HCL.
1型糖尿病症例における血糖変動は日ごとに大きく、低血糖や高血糖を避けて良好なコントロールを達成できる症例は多くない1)。治療目標を達成すべく種々のデバイスの開発と導入による支援が行われており、特にインスリンポンプ(Continuous Subcutaneous Insulin Infusion:以下CSIIと略す)と持続皮下グルコースセンサー(Continuous Glucose Monitoring:以下CGMと略す)を連動させ、インスリン投与量の調整を自動化する試みが進んでいる。CGMデータに準拠してインスリン投与量を完全に制御するシステムであるClosed Loopに対し、現時点で使用されている、食事や高血糖補正時に必要なボーラスインスリンを使用者が操作し投与する必要があるものは、Hybrid Closed Loop(以下HCLと略す)と呼ばれている。
本邦でも、HCL機能を搭載したMedtronic社のミニメド770G(以下770Gと略す)が2022年1月から使用可能となった。このシステムは、Auto mode使用中はHCLとして動作し、CGMの値に基づき、5分ごとに計算された基礎インスリンが自動投与される一方で、食事や高血糖補正のためのボーラスインスリンは使用者自身が投与しなくてはならない。自動投与されるインスリン量を決定する因子の一つであるインスリン効果値は、1日総インスリン投与量(Total Insulin Daily Dose:以下TDDと略す)から自動計算される。HCLは登場して間もないため、実臨床における効用や問題点についてはまだ未解明な部分が多い。特に、アルゴリズムによって設定されたインスリン投与量が、本邦における多様な患者へも適応されうるのか、検証が必要である。
海外の知見では、770Gの前シリーズであり同じHCL機能を有する670Gを使用した報告があり、その中では総インスリン投与量に占める基礎インスリンの割合(以下Basal%と略す)が減少し、血糖管理指標であるTime in Range (TIR)が改善した報告が複数ある2-4)。一方、同報告内で指摘された問題点として、アラートが頻回に鳴る、血糖較正頻度が多いといった煩雑さによるAuto mode離脱率の高さが挙げられる。670Gから770Gへとシステムのバージョンアップに伴い、適応年齢が広がり、Bluetooth接続が可能になったこと、センサーグルコース値が50mg/dL以下の低グルコースアラームが追加されたこと、そして精度と信頼性向上のため追加の較正を要求するシステムが追加されたことが変更点とされる。その変更点をもって、日本の実臨床における実際のAuto modeの使用率や離脱率がどの程度で、血糖管理指標にどの程度影響を持つかは、エビデンスが不足しているのが実情である。
そこで、HCL導入後のAuto modeの使用率や離脱率、HCL導入前後でのインスリン使用量、血糖管理指標の変化について、特にBasal%やTIRの変化に焦点を当て、当科通院中の1型糖尿病患者のデータを後方視的に解析した。
【対象】選択基準は、大阪公立大学医学部附属病院小児科に通院中の既知の1型糖尿病患者のうちCSII治療歴およびSensor Augmented Pump・CGM治療歴が6か月以上あり、2022年1月から7月にミニメド770Gを導入されAuto modeを使用・継続している者。除外基準は、導入後3か月以上経過を追えていない者、SGLT-2阻害薬など経口血糖降下薬内服中の者、心不全・腎不全・肝不全や重症感染症といった重篤な合併症を持つ者や妊婦。対象者のCareLink®、LibreLink®、Clarity®およびカルテ記載のデータを集積した。1型糖尿病の診断は1999年WHOの診断基準に準拠している5)。インスリン投与量の調整について、770G Auto mode開始までの基礎インスリンは、食後3-4時間後や夜間の血糖変動を観察しながら、Basal%が30-40%となることを参考に調整し、効果値は、基礎インスリン量が適切に調整された後、目標血糖値を100mg/dLとして、高血糖補正3-4時間後の血糖値が70-180mg/dLに収まるように調整した。糖質/インスリン比は、少なくとも3日以上連続して食後3-4時間後の血糖値が食前と比べて変動しないことを目標に調整した。以上の調整は、いずれも主治医および使用管理者の意見を踏まえて1-2か月ごとの定期受診で決定した。
【研究デザイン】単施設後ろ向きコホート研究。
【評価項目】主要評価項目はHCL導入前と比較した、HCL導入後1-2か月、および3-4か月後の外来診察時に収集したCareLink®データから得たTIRの変化とした。副次評価項目は、同じくHCL導入前と比較した、HCL導入後1-2か月、および3-4か月後の外来診察時に収集したHbA1cや低血糖・高血糖の発生頻度、CareLink®データから得たAuto modeの使用率、センサーグルコース値の変動、インスリン使用量、そして較正回数を含むAuto mode使用率に関連する要因とした。Post-hoc解析として、計算効果値と設定効果値の相関関係と、相関がない外れ値を取る症例についての要因検討を行った。TIRはCareLink上でグルコース値70-180mg/dLを満たす総集計時間中の割合とし、同様にTime above Range(以下TARと略す)は180mg/dL以上を、Time below Range(以下TBRと略す)は70mg/dL以下を満たす時間の割合とした。770G Auto modeがTDDを基に計算したインスリン効果値を計算効果値と定義し、1800/TDDで計上した6)。この時に用いたTDDはCareLinkで過去1か月のデータを集積した際に表記されるTDD値を用いた。770G Auto mode導入前に設定していた数値を設定効果値と定義し、朝は5-8時、昼は11-13時、間食は14-16時、夕食は17-21時、眠前は22-24時の数値を採用した。
【統計解析】全ての統計解析にSTATA/SE 17.0 (Stata Corporation, College Station, TX)を使用した。カテゴリー変数は%で、連続変数はTable1を平均値と標準偏差で、Table2以降は四分位で表記した。各因子の相関関係の検討には、Spearman順位和検定を用いた。また、2群間の連続数比較にはpaired t-testを、カテゴリー変数の比較にはχ二乗検定を行った。HCL導入前と導入後1か月後、および導入前と導入後3か月後の各種パラメーターの比較は、Dunnett検定を行った。P<0.05を統計学的有意差ありと判断した。本研究の実施にあたって、大阪公立大学倫理委員会の承認を得ている(承認番号第2022-092号,承認日2022年9月16日)。
選択基準に該当し、かつ、除外規定に該当しない37人を解析対象とした。Table1に背景情報とHCL導入後1か月後、3か月後のデータを示す。女性が多く、年齢は平均で22.8歳、4歳から83歳に分布していた。HbA1cは導入前7.51%に比して、導入1か月後は7.33%で有意差はないが、3か月後には7.08%と有意に低下していた。Auto mode使用率(Auto mode使用時間/総時間)は1か月後71.5%、3か月後74.4%であり、期間中にAuto modeからManual modeへ離脱する症例は認めなかった。CareLink®に表示される平均センサーグルコース値は導入前167.3mg/dLから、1か月後148.2mg/dL、3か月後152.0mg/dLといずれも有意に低下していた。較正頻度は、導入前1日あたり2.6回と比較して、1日あたり1か月後には3.6回、3か月後には3.4回といずれも有意に増加していた。また、TIRは導入前60.4%と比べ1か月後68.8%、3か月後69.6%といずれも有意に増加し、TARは導入前34.9%から1か月後26.6%、3か月後26.6%と有意に減少していた。TBRは有意差を認めなかった。インスリン投与量について、TDDは有意差がないが、Basal%は導入前32.3%から1か月後36.1%、3か月後37.0%と増加傾向であった。
次に、Basal%について、HCL導入後増加群と減少群で層別解析を行った (Table2)。Basal%が減少した群は、増加した群と比較して、女性の割合が高く、HCL導入前のBasal%が有意に高いことが分かった。年齢、HbA1cや較正回数などとは関連がなかった。
計算効果値と、設定効果値についての相関関係をTable3に示す。時間帯を問わず、いずれも全体に良好な相関を認めるが、図に示すように一部乖離している症例を認めた (Figure)。効果値が100mg/dL/Unit以上乖離する症例を層別解析したところ、乖離がある群では無い群に比べて年齢が有意に低かった (Table4)。個々の参加者を検討すると、年齢は4歳、6歳、7歳、11歳で、HbA1cは6.6-7.5%、TDDは年齢が低い順に12、14、24、37Unit/日であった。血清Cペプチド、Basal%には有意差を認めなかった。HCL導入前の効果値は200-350mg/dL/Unitと高値であった。また、カルテ記載からは低血糖時に補食をしても血糖上昇を認めない(3人)、補正ボーラスが多く入り、低血糖となる(2人)、夜間3時に血糖上昇後急下降し、低グルコースアラートで起こされる(1人)という報告を認めた。観察期間中、重症低血糖や糖尿病性ケトアシドーシスを含む重篤な合併症は認めなかった。
N=37 | Pre HCL | After 1 month | After 3 months | P-value | |
Pre vs 1 month | Pre vs 3 month | ||||
Sex | Male 11, Female 26 | - | - | ||
Age (yr) | 22.8±18.6 | - | - | ||
Duration (yr) | 14.5±12.9 | - | - | ||
Treatment before HCL introduction | SAP+ 31 (PLGM 25) SAP- 6 |
- | - | - | - |
HbA1c (%) | 7.51±0.66 | 7.33±0.59 | 7.08±0.48 | 0.318 | 0.004* |
Severe hypoglycemia | 0 | 0 | 0 | - | - |
Diabetic ketoacidosis | 0 | 0 | 0 | - | - |
CareLink data | |||||
TDD(Units) | 30.9±12.4 | 31.9±11.2 | 32.0 ±11.1 | 0.906 | 0.885 |
Basal/TDD (%) | 32.3±10.0 | 36.1±8.19 | 37.0±9.0 | 0.135 | 0.055 |
Automode using rate(%) | - | 71.5±21.3 | 74.4±27.3 | - | - |
Sensor glucose (mg/dL) | 167.3±21.9 | 148.2±18.2 | 152.0±17.4 | <0.001* | 0.003* |
Change frequency of insulin infusion set (days) | 4.6±2.5 | 3.9±1.3 | 4.2±1.6 | 0.310 | 0.602 |
Calibration frequency (/day) | 2.6±1.2 | 3.6±1.3 | 3.4±1.4 | 0.002* | 0.016* |
TIR (%) | 60.4±11.4 | 68.8±8.62 | 69.6±10.2 | 0.001* | <0.001* |
TAR (%) | 34.9±12.6 | 26.6±9.12 | 26.6±10.5 | 0.002* | 0.002* |
TBR (%) | 3.81±3.76 | 4.68±3.05 | 4.1±3.3 | 0.443 | 0.885 |
Data are presented as mean ± SD for continuous measures.
HCL=Hybrid Closed Loop, TDD=Total insulin Daily Dose, TIR=Time in Range, TAR=Time above Range, TBR=Time below Range.
SAP=Sensor Augmented Pump, PLGM= Predictive Low Glucose Management.
“SAP+” meaned that the participants used SAP system before HCL introduction.
“SAP-” participants used before HCL introduction as: Freestyle Libre 5, DexcomG6 1.
*P<0.05
Increased | Decreased | P-value | |
N=29 | N=8 | ||
Sex | Male 11,Female 18 | Male 0,Female 8 | 0.038* |
Age (yr) | 12.0 (9.0-36.0) | 30.5 (11.0-41.0) | 0.44 |
HbA1c (%) | 7.3 (6.9-7.9) | 7.2 (6.8-7.5) | 0.38 |
Sensor glucose (mg/dL) | 149.0(144.0-160.0) | 144.5(138.5-156.5) | 0.6834 |
TDD (Units) | 30.9 (25.7-42.2) | 31.1 (20.1-38.9) | 0.52 |
Change frequency of insulin infusion set (days) | 4.2 (3.5-4.8) | 3.6 (3.3-3.7) | 0.6996 |
Calibration frequency (/day) | 3.9 (2.9-4.6) | 3.1 (2.6-3.7) | 0.20 |
Basal/TDD before HCL introduction (%) | 30 (25-36) | 43 (36-47) | 0.0017* |
Absolute basal difference (Units/day) | 7.13 (5.62) | 13.4 (16.2) | 0.4634 |
Data are presented as median (IQR) for continuous measures.
TDD=Total insulin Daily Dose, HCL=Hybrid Closed Loop.
*P<0.05
Correlation Coefficient | 1 month | 3 months |
Morning | 0.711 (0.503-0.841) | 0.719 (0.507-0.849) |
Lunch | 0.704 (0.492-0.837) | 0.730 (0.524-0.855) |
Snack | 0.666 (0.436-0.814) | 0.694 (0.469-0.834) |
Dinner | 0.736 (0.540-0.856) | 0.746 (0.549-0.864) |
Midnight | 0.720 (0.516-0.846) | 0.611 (0.349-0.785) |
Data are presented as median (IQR) for continuous measures.
Calculated insulin sensitivity: 1800/Total insulin Daily Dose.
Default insulin sensitivity: The values were those before the introduction of the 770G; 5am-8am for morning, 11am-1 pm for lunch, 2pm-4pm for snack, 5pm-9pm for dinner, and 10pm-12pm for midnight.
No discrepancy | Existing discrepancy | P-value | |
N=33 | N=4 | ||
Sex | Male 9, Female 24 | Male 2, Female 2 | 0.35 |
Age (yr) | 24.8 (10.0-39.0) | 6.5 (5.0-9.0) | 0.013* |
Duration of Type 1 diabetes (yr) | 9.0 (6.0-26.0) | 4.0 (3.5-5.5) | 0.056 |
HbA1c (%) | 7.3 (6.9-7.9) | 7.0 (6.8-7.3) | 0.33 |
Glucose (mg/dL) | 147.0 (144.0-160.0) | 151.5 (143.5-157.5) | 0.61 |
Serum C-peptide (ng/mL) | 0 (0-0.04) | 0 (0-0.015) | 0.434 |
C-peptide negative cases (%) | 10 | 0 | 0.529 |
TIR (%) | 71.0 (66.0-75.0) | 64.0 (59.5-69.0) | 0.12 |
TAR (%) | 24.0 (20.0-32.0) | 29.0 (24.0-34.0) | 0.39 |
TBR (%) | 3.0 (3.0-6.0) | 6.5 (4.5-9.0) | 0.090 |
TDD (Units) | 31.5 (26.4-42.2) | 19.3 (13.1-30.8) | 0.063 |
Basal/TDD (%) | 37.0 (33.0-41.0) | 35.0 (28.5-40.5) | 0.69 |
Calibration frequency (/day) | 3.4 (2.8-4.4) | 4.3 (3.2-4.9) | 0.41 |
Calculated insulin sensitivity (mg/dL/Unit) | 57.1 (42.7-68.2) | 100.6 (61.0-138.8) | 0.063 |
Insulin sensitivity before HCL introduction | |||
Morning (mg/dL/Unit) | 60 (50-100) | 125 (90-175) | 0.037* |
Lunch (mg/dL/Unit) | 60 (50-100) | 165 (115-215) | 0.011* |
Snack (mg/dL/Unit) | 60 (50-100) | 165 (115-240) | 0.015* |
Dinner (mg/dL/Unit) | 60 (45-100) | 175 (125-225) | 0.007* |
Midnight (mg/dL/Unit) | 80 (70-100) | 265 (225-315) | 0.001* |
Data are presented as median (IQR) for continuous measures and n (%) for categorical standards.
TIR=Time in Range, TAR=Time above Range, TBR=Time below Range, TDD= Total insulin Daily Dose, HCL=Hybrid Closed Loop.
C-peptide negative cases: Serum C-peptide <0.3 ng/mL.
Calculated insulin sensitivity: 1800/TDD.
Insulin sensitivity before HCL introduction: The values were those before the introduction of the 770G; 5am-8am for morning, 11am-1 pm for lunch, 2pm-4pm for snack, 5pm-9pm for dinner, and 10pm-12pm for midnight.
*P<0.05
Figure. The discrepancy between calculated and default insulin sensitivity before HCL introduction
The insulin sensitivity before Hybrid Closed Loop(HCL) introduction and insulin sensitivity, calculated as 1800 divided by the total insulin daily dose after HCL introduction, showed significant linear correlations. Figure (A) was the plots after one month, and Figure (B) was after three months. The points indicated by black arrows are cases with large deviations of more than 100 mg/dL/Unit in insulin sensitivity. The corresponding cases were identical at 1 and 3 months.
本研究において、HCL導入によるHbA1cやTIRといった血糖管理指標の改善がおよそ3-4か月にわたって続くことが示された。また、Basal%は全体的には増加するが、導入前に高い症例では減少する可能性があること、またHCL導入前に設定していた効果値と770Gのアルゴリズムにより計算された効果値に有意な乖離がある症例では、重症化はしないが、低血糖を引き起こしている可能性が示唆された。
HCL導入により、TIR・TARの改善が見られた一方、TBRは有意差を認めなかった。今回使用した770Gの前機種であり、同じアルゴリズムのHCL機能を有する670GでのReal worldでのデータをまとめたUsohらによる報告においても、本検討と同様の傾向であった7)。これは、多くの症例がHCL導入前から640Gのスマートガード機能(低血糖予測停止・自動停止機能)を使用し、低血糖が軽減されていた影響などでそもそものTBRが低く、更なる減少には至らなかったことが一因として考えられる。一方で高血糖については、770GにおけるAuto modeによる基礎インスリンの増量が高血糖の発生を抑制することでTARが減少できたものと推察される。また、640Gのスマートガードでは、低血糖予想時にアラートとともにインスリン注入が中断されるが、設定下限値+20mg/dLとなるまでは注入が再開されないため、それが糖質摂取による血糖上昇と重なることにより起こると考えられるリバウンド高血糖が報告されていた8)。一方、770GのAuto modeでは、インスリン注入が停止された後も、血糖の上昇を感知すると比較的速やかに微量から再開されるため、低血糖後のリバウンド高血糖がスマートガードよりも起こりにくく、TARが改善した理由の一つであると考えられる。なお、CGMは機種ごとに若干、計測特性が異なるので、異なる機種間でのTIR/TAR/TBRの経時的な変化を評価する際には慎重な解釈を要する。
Basal%は、既報と異なり、HCL導入後全体的には増加傾向にあった。しかし、一部にHCL導入後にBasal%が減少した症例を認め、それらの症例群の導入前Basal%は、増加した群のそれと比べると高かった。本検討の導入前Basal%は全体で32.3%であったが、Kurodaらは、絶食管理下に観測した日本人の適切なBasal%は27.3%程度と報告しており9)、小児症例をまとめたHashimotoらは35%程度としている10)。一方、Basal%が減少したという670Gを使用した欧州の報告では、導入前Basal%が思春期で49%、成人で54%と、本報告より高値であった3)。この設定は、欧米のガイドラインに従った結果であると推測されるが11)、本来必要なBasal%より過剰であるという指摘がある12)。従って、今回の検討では、HCL導入前にBasal%が本来必要な量より過剰に設定されていた一部の症例においては、HCL導入後に適正な量にBasal%が修正されたために、減少したと推察される。また、HCLでは本来必要であった「ボーラスの不足分」や「高血糖補正分」がBasalインスリンの増量により補われるため、HCL導入前にBasal%が適切に設定されていた症例では、それにより見かけ上Basal%が増加したと推察される。
今回、計算効果値と設定効果値が乖離する例において、Auto modeの使用が低血糖リスクとなりうることが示唆された。計算効果値と設定効果値の乖離は特に低年齢者において認め、Auto modeで使用される計算効果値が、Auto mode導入前の効果値より著しく低い場合、過剰な血糖補正がかかる可能性が考えられる。1型糖尿病の超速効型インスリンを用いた効果値の計算は、現行のInternational Society for Pediatric and Adolescent Diabetesのガイドラインによれば1800ルール、すなわち1800/TDDでインスリン効果値を設定するよう指南されており、HCLでもこのルールが採用されている6,13)。しかし、適切な効果値の設定については議論があり、少なくとも成人において1500ルールから2800ルールまで様々な報告がある12)。Hanasらが思春期前の小児患者41人を対象とした観察研究においては、夜間は1800の倍、3600/TDDが妥当な効果値であることを示しており、日中も2000/TDD以上となるとのことであった14)。それを踏まえて、4-6歳児の効果値はインスリン感受性が高いために100-150mg/dL/Unitから始めるのが妥当であるとのコンセンサスがある15)。過去に当科から報告した乳幼児1型糖尿病症例群では、効果値を調整すると最終的に500-1000mg/dL/Unitとなっており、成人患者と比べて著しく高い設定になる可能性もある16)。特に夜間の効果値が小児症例で高値になる生理学的機序は不明確である。しかし、一般に小児症例は思春期を除き体重に比してインスリン感受性が高いこと17)、効果値には日内差があること18)、TDDが少なくごく少量のインスリンで血糖変動があるため夜間低血糖予防のために効果値を高く設定する傾向があることの関与が考えられる。今回は重症低血糖の報告はなかったが、特に導入前の設定効果値が1800ルールで計算するよりも高い症例では、Auto modeの使用が低血糖のリスクとなる可能性を考え、注視していく必要があるだろう。
本研究は、本邦初の、1型糖尿病患者に対するHCL導入前後での血糖管理指標やインスリン治療内容を比較検討したコホート研究であるが、いくつかの限界点を持つ。一つは、後ろ向きコホート研究であり、因果関係の証明が難しいこと。次に、本研究の対象群がHbA1c7%台と、比較的血糖管理が良好であり、コントロール不良の症例においても同様の結果が得られるかは明らかではないこと。最後に、本報告はHCL導入後1-3か月程度の短期的な結果であり、長期に使用した際に同様の傾向が得られるか、あるいはAuto mode使用率が維持されるかは明らかにされていない点である。それらを踏まえ、今後さらに対象を広げた長期的な観察が必要である。
HCL導入後から約3か月にわたり、HbA1cやTIR、TARの改善を認めた。HCL導入前に比べ全体にBasal%は増加傾向であった。低年齢でHCL導入前に設定効果値が高値であることは、計算効果値との乖離に伴うAuto mode使用中の血糖過剰補正・低血糖発生のリスクとなりうることが示唆された。
本論文の要旨は第21回日本先進糖尿病治療・1型糖尿病研究会(2022年10月、神戸)において発表した。
本論文の執筆にあたりご指導いただきました独立行政法人国立病院機構大阪医療センター糖尿病内科科長加藤研先生、神田内科クリニック川嶋聡先生に感謝申し上げます。また、診療に従事いただきました大阪公立大学医学部附属病院小児科病棟および外来のスタッフ皆様に御礼申し上げます。