現在新しい学習指導要領の改訂作業が進んでいる。このようなときに,現行の学習指導要領の問題点を総括することは,次期学習指導要領を考えていく上で重要である。現行の指導要領においては,理科に当てる時数が少ないために「DNA」などを学ぶことなく終わったり,生物Iを履修してもその中に含まれない「進化」や「代謝」「生態」などは,生物IIを履修しないと学べない。かつて行われていた「生物IA」(ヒトの生物学)という科目は,ヒトを対象に総合的に見る幅広いカリキュラムであった。そのような科目が定着しなかったのは,そのアプローチが中途半端であったこと,入試において重要視されなかったことなどがあげられる。しかし,ヒトである自分自身を知ることは生徒の興味を引かせ,そこを入り口に生物の多様性・普遍性の意義を理解する上で重要である。またこの地球や生き物の歴史の中でのヒトの立ち位置を認識することが可能である。今後実施される学習指導要領においても,ヒトの生物学を進展させる意義は変わらない。そのためには,人類学の成果の教材化が不可欠である。