Anthropological Science (Japanese Series)
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原著論文
東北地方にアイヌの足跡を辿る: 発掘人骨頭蓋の計測的・非計測的研究
川久保 善智澤田 純明百々 幸雄
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2009 年 117 巻 2 号 p. 65-87

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抄録

南東北(宮城・福島・山形)由来の古墳時代人・古代人と北東北(青森・岩手・秋田)由来の江戸時代人の頭蓋について,計測的分析と形態小変異の分析を行い,これら東北地方の古人骨に,縄文人やアイヌの形態的特徴が,どの程度遺残しているかを調べた。比較資料として,東日本縄文人,北海道アイヌ,関東の古墳時代人と江戸時代人,それに北部九州の古墳時代人と江戸時代人の頭蓋を用いた。計測的分析では,顔面平坦度計測を含めた18項目の頭蓋計測値を用い,マハラノビスの距離(D2)にもとづいた分析と線形判別分析を試みた。頭蓋形態小変異については,観察者間誤差が少なく,日本列島集団の類別に有効であることが知られている6項目に絞って,スミスの距離(MMD)にもとづく分析を行った。D2でもMMDでも,縄文人に最も近いのは北海道アイヌであったが,東北地方の古墳時代人(計測的分析では古代人も含む)がこれに次いでおり,古墳時代でも江戸時代でも,九州→関東→東北→北海道アイヌまたは東日本縄文人という,明瞭な地理的勾配が観察された。同様の地理的勾配は,判別分析においても確かめられた。このような地理的勾配から判断すると,今回研究の対象にすることができなかった北東北の古墳時代人は,南東北の古墳時代人よりも,さらに縄文・アイヌ群に近接するであろうと推測された。もし彼らが古代の文献に出てくる蝦夷(エミシ)に相当する人々であったとしても,東北地方の古代日本人(和人)と縄文・アイヌ集団の身体的特徴の違いは連続的であったと思われるので,古代蝦夷がアイヌであるか日本人であるかという“蝦夷の人種論争”は,あまり意味がある議論とは思われなかった。

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© 2009 日本人類学会
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