2022 年 2 巻 3 号 論文ID: SC-2022-27
本研究では,日本語母音の単独発話と母音に撥音が後続した音節の発話実験を行い,音響分析と超音波撮像による調音運動の観察を行った.音響分析では,撥音に先行する母音のフォルマントを計測し,母語話者と比較したところ,学習者の/a,i,o/は日本語母語話者と分布が類似していたが,/u,e/では母語話者と大きく異なり,学習者は母音に撥音が後続したとき,母音単独発話時と異なる音響的特徴を示した.調音運動の観察でも,/a,i,o/は日本語母語者とほぼ同様の舌の形状となっていたが,/u/は頭子音によって,舌が前寄りになったり,奥寄りになったりすることが示された./e/については,舌が奥寄りになることが観察された.中国語母語話者の発音では,母音発話時に舌の形状が変化する様子も伺えた.日本語上級者でもこのような誤りが生じ,修正しにくい母語干渉であると言えると考えられ,学習者は,日本語母音の「安定性」を保つことが難しいことが示されたと考えられる.