要旨: 末梢からの感覚入力の変化は中枢神経系の再編成を引き起こすことが明らかになっている。補聴器による末梢からの十分な聴覚刺激によって, 低下した聴覚機能に変化が認められるかを明らかにするために, 当院で補聴器装用訓練を行った89例 (168耳) を対象に, 補聴器装用前後での裸耳における語音弁別能の変化を検討した。聴力に変化は認めないが, 装用前と比べて語音弁別能が10%以上改善した症例が, 装用 3 ヵ月後で34.5%, 装用 6 ヵ月後で37.3%に認められた。また, 語音弁別能の変化量は装用前の語音弁別能と負の相関を認め, 語音弁別能がより低い症例の方が装用後の語音弁別能の改善が大きい傾向が見られた。一方, 語音弁別能の変化量は聴力レベル, 年齢とは関係を認めなかった。今回の検討で対象の一部に認められた語音弁別能の改善は聴覚の順応効果 (auditory acclimatization effect) であり, これは補聴器装用による聴覚系の可塑性を示唆すると考えられた。