AUDIOLOGY JAPAN
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60 巻, 3 号
June
選択された号の論文の5件中1~5を表示しています
総説
  • 「補聴器に関する JIS の改正について」
    松平 登志正
    2017 年 60 巻 3 号 p. 159-167
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/11/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 補聴器の日本工業規格 (JIS C 5512) のこれまでの改正の経緯と2015年に改正された現行 JIS の概要について述べた。これまでの改正では, 補聴器の技術的進歩を反映し, 対応する国際規格 (IEC 60118など) の制定・改正に準拠する形で, 用語, 性能, 構造, 性能試験, 表示にわたり内容の追加, 削除, 変更が行われてきた。2015年の改正では, 特性測定用音響カプラが 2cm³ カプラに改められ, 補聴器の性能の代表値が 1000Hz, 1600Hz, 2500Hzの「高周波数平均値」に変更され, 「利得調整の規準の設定」の定義が変更され, 自動利得調整器付き補聴器の特性の測定が追加された。また新たに, 補聴器及び補聴器システムの基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項を定めた規格 (JIS T 0601-2-66) と信号処理機能を有する補聴器の特性を測定する方法を規定した規格 (JIS C 5516) が制定された。

原著
  • 下倉 良太, 細井 裕司, 西村 忠己, 齋藤 修, 北原 糺
    2017 年 60 巻 3 号 p. 168-176
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/11/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 外耳道閉鎖症のように既存補聴器が使えない症例に対し, 我々は軟骨伝導補聴器の開発を行っている。軟骨伝導とは, 耳軟骨の振動を介した音聴取であり, 従来の気導や骨導とは異なる第三の音伝導経路と言える。そこで我々は, 外耳道閉鎖症難聴者を中心に臨床研究を行い, その中で補聴器使用中 (1~3ヶ月) の聞こえ, 快適性, 日常性を評価する質問紙調査 (VAS 法と五件法) を行った。聞こえに関しては, 9人の被験者の VAS 平均が78点 (最大値100点) となり, 高い評価が確認された。また埋込み型骨導補聴器 (BAHA) 装用歴のある2名の被験者のうち, 1 名は軟骨伝導補聴器の聞こえに満足していた。五件法では, 両耳聴効果による音の方向感が確認できた。快適性・日常性に関しては, VAS 法, 五件法共に被験者の評価が分かれたが, 快適に長時間装用し続けられるという点で概ね一致した。

  • 佐々木 美奈, 間 三千夫, 中原 啓, 宝上 竜也, 硲田 猛真, 河野 淳, 久々江 隆行
    2017 年 60 巻 3 号 p. 177-183
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/11/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 早期に人工内耳を装用することが高度難聴児の言語・学習能力に有効であることは諸家によって報告されているが, 人工内耳装用下での聴覚補償の状態と言語・学習能力との関係を検討したものは少ない。そこで人工内耳装用児に WISC-IV 知能検査を実施し, その結果と聴取成績の関係を検討した。対象は当科で経過観察中の人工内耳装用児のうち12名。聴取成績は装用閾値, 語音検査, 雑音下での聴取能検査で評価した。全般的知能 (FSIQ) と装用開始月齢の間に有意な相関はなく, FSIQ が平均の範囲 (FSIQ : 90-109) から外れたのは12名中 6 名であった。そのうち 3 名は言語理解指標 (VCI) と知覚推理指標 (PRI) の成績に有意差がみられた。VCI が PRI より有意に低かった 2 名は FSIQ も平均の範囲を下回っていた。この 2 名は聴覚補償の状態が不良であり, 聴覚補償の状態が知能検査の結果に大きな影響を与えていることが示唆された。

  • 前川 明日彩, 大石 直樹, 浅野 和海, 鈴木 法臣, 小島 敬史, 齊藤 秀行, 佐藤 美奈子, 小川 郁
    2017 年 60 巻 3 号 p. 184-189
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/11/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 1~6 歳の全ての年齢で滲出性中耳炎 (Otitis Media with Effusion, 以下 OME) 罹患の有無を確認できた60名 (男29名, 女31名) の口蓋裂児を対象とし, 裂型, 年齢の 2 つの要素を用いて, OME 罹患率との関係について検討を行った。さらに, 鼻咽腔閉鎖機能 (velopharyngeal closure function, 以下 VPC) 検査を 4~6 歳の全ての年齢で実施できた48名 (男21名, 女27名) の口蓋裂児を対象に, VPC と罹患率との関係についても調査を行った。口蓋裂児の OME 罹患率は 1 歳時から高率に認められ, 年齢と共に減少傾向が認められた。口蓋裂単独群と唇顎口蓋裂群の二群に分けた際も, 両群共に同様の傾向がみられた。6 歳時のみ, 唇顎口蓋裂児に比し, 口蓋裂単独児で統計学的に有意に罹患率が低いという結果が得られた。この結果より, 口蓋裂単独児は唇顎口蓋裂児に比し, 成長に伴い OME に罹患しづらくなると考えられた。発声時の VPC と OME 罹患率の間には関連性はみられなかった。

  • 三瀬 和代
    2017 年 60 巻 3 号 p. 190-198
    発行日: 2017/06/30
    公開日: 2017/11/11
    ジャーナル フリー

    要旨: 末梢からの感覚入力の変化は中枢神経系の再編成を引き起こすことが明らかになっている。補聴器による末梢からの十分な聴覚刺激によって, 低下した聴覚機能に変化が認められるかを明らかにするために, 当院で補聴器装用訓練を行った89例 (168耳) を対象に, 補聴器装用前後での裸耳における語音弁別能の変化を検討した。聴力に変化は認めないが, 装用前と比べて語音弁別能が10%以上改善した症例が, 装用 3 ヵ月後で34.5%, 装用 6 ヵ月後で37.3%に認められた。また, 語音弁別能の変化量は装用前の語音弁別能と負の相関を認め, 語音弁別能がより低い症例の方が装用後の語音弁別能の改善が大きい傾向が見られた。一方, 語音弁別能の変化量は聴力レベル, 年齢とは関係を認めなかった。今回の検討で対象の一部に認められた語音弁別能の改善は聴覚の順応効果 (auditory acclimatization effect) であり, これは補聴器装用による聴覚系の可塑性を示唆すると考えられた。

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