2007 年 50 巻 6 号 p. 642-650
1999年に田中は人工内耳適応児の言語指導法として, 伝統的な聴能訓練をベースにした方法とは異なるトップダウン方式を提唱した。この方法は補聴器活用に併せて手話と指文字を言語指導に導入し, 言語の意味論レベルの機能の発達を促し, これをベースにトップダウン方式で脳内にことば (speech) の聴覚的辞書を作ることを目的としている。2004年4月以降この方式で指導し, 人工内耳を装用させて2年以上経過を観察してきた17例のうち, 15例は人工内耳装用によって手話コミュニケーションが聴覚口話に自然に移行または移行しつつある。残り2例は聴神経発育不全や slow learner などの問題が関係してまだ満足な成果が得られていないが, このような問題を除けば, これまでの成績は手指法は注意深く導入する限り, 聴覚口話の発達を妨げないことを示している。