抄録
実験ノートは、日々の研究、実験の記録であるとともに、研究の誠実さの根拠および不正疑惑に対する反論のエビデンスという側面を持つ。従来の紙の実験ノートから電子ラボノートへの切り替えが進みつつある現在、導入にあたって研究者とともに考えるべき課題が大きく2つある。一つはELNを「研究の誠実さの根拠および不正疑惑に対する反論のエビデンス」と捉えるために必要な研究データ管理の考え方である。そこで大切なのは、研究公正という視点である。ただし、本邦においては、研究倫理Research ethicsと研究公正Researchintegrityという2つのコトバが明確な定義なく使われている印象がある。両者は似て非なるものである。もう一点は、ELN導入に際しては前段階での準備がかなり必要であるということである。多くの機関や研究者は「ELNを導入したら研究データ管理が楽になる」と考えがちであるが、実際には事前に多くの検討事項があり、その負荷は決して小さくない。事前にプロジェクト全体を把握し、それを管理できる体制を構築することは、プロセス管理の整備に他ならない。そしてプロセス管理された環境であるからこそ、そこの蓄積されたデータ/メタデータは研究の誠実さの根底となるのである。